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不意打ちでも安心!? 「預金封鎖」に対抗して資産を守り抜く方法=東条雅彦

我が国には敗戦直後に預金封鎖を実施した「前科」があります。1990年代の日本で「資産課税」が検討されていたという噂もあるくらいで、歴史的にはさほど珍しいことではありません。

現在の日本で預金封鎖が行われる可能性は極めて低いと思いますが、ゼロとは言い切れません。預金封鎖は「不意打ち」でなければ効果がないため、政府側は突如、預金封鎖を宣言します。直近では2013年3月16日土曜日、キプロス政府が預金封鎖を発表しました。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

キプロスの預金封鎖に学ぶ、日本人が自分の預金を守り抜く方法

日本で「預金封鎖」はあり得るのか

日本で「預金封鎖」はあり得るのでしょうか。

かつて我が国では1946年に預金封鎖が実施され、世界でも稀に見る「預金封鎖の成功例」になっています。

預金封鎖は、資産課税を行うために実施されます。政府が借金を返せなくなって、いよいよピンチになると、国民の財産を政府に移管することで難を逃れようとします。財政再建の方法としてはとても強引ですが、効果は絶大です。

本稿では、前時代的でナンセンスに思える、この「預金封鎖」に関する情報をお届けします。意外にも預金封鎖は21世紀に入っても実施された例がたくさんあり、歴史的にはそれほど珍しいことではありません

直近では3年前の2013年3月にキプロスで預金封鎖が実施されました。

<預金封鎖実施例>

1933年3月4日 アメリカ
1946年2月16日 日本
1990年3月15日 ブラジル
2001年12月1日 アルゼンチン
2002年7月30日 ウルグアイ
2013年3月16日 キプロス

当時、日本のマスコミは大々的に報道せず、私たちはキプロスの預金封鎖に関して、何か漠然と怖いものであるというイメージしか持てずにいました。

具体的なイメージを持てば、変な恐怖感は和らぎ、万が一の場合も冷静に対処できるようになるはずです。

あれから3年以上が経過した今、歴史の教訓を学ぶ意味で、キプロスの当時の状況とその後の状況をお伝えして、預金封鎖の真実に迫りたいと思います。

なぜキプロスは預金封鎖に至ったのか?

キプロスは、地中海に浮かぶ人口約87万人の島国です。この国はオフショア金融センターとして、多大な預金を保有していました。特にロシア富裕層からの預金を多く預かっており、GDPの800%(17兆円超)ものお金が集まっていました。

キプロスのGDPは219億ドル(1ドル=100円換算で2兆1900億円)ほどで、日本の経済規模の0.4%です(日本の都道府県で言えば、高知県の経済規模とほぼ同等です)。

キプロスは、歴史的にギリシャと深い繋がりを持っています。そのため、キプロスの銀行はギリシャの国債を多く購入していました。

そのギリシャは、2010年頃から財政危機が表面化し始めます。2011年には格付会社ムーディーズは、すでに投機的等級にあったギリシャの格付けを、さらに3段階も引き下げました(「Caa1」⇒「Ca」)。

格付け「Ca」と言えば、最も低い「C」より一段階だけ上に位置するものの、ほぼデフォルトに陥っている状態を示します。

2012年3月にはギリシャ国債の値下がりで買い手がつかず、利回りが36.5%まで上昇しました。ギリシャ国債がほぼ紙屑になったことで、キプロスの銀行は大損害を受けてしまったのです。

運命の土曜日

2013年3月16日土曜日、キプロス政府は「預金封鎖」を発表します。国内の銀行業務およびオンライン取引を停止しました。この現代において、そんな前時代的なことができるのか?と世界中で衝撃が走りました。

タイムスケジュールは次の通りです。

<2012年6月25日>

欧州連合に緊急融資を要請。

<2013年3月15日>

ユーロ圏財務相会合で銀行預金への課税を条件とする100億ユーロのキプロス支援策を決定。

<2013年3月16日>

預金封鎖を発表。

<2013年3月19日>

キプロス議会は銀行預金への課税に関する法案を否決(賛成ゼロ、反対36、棄権19)。

<2013年3月25日>

アナスタシアディス大統領と欧州連合が交渉、支援条件で合意。

<2013年3月28日>

銀行が約2週間ぶりに営業を再開し、ユーロ圏で初の資本規制(預金引出制限など)。

重要な事実

このようにキプロス政府は、EUからの100億ユーロの支援が決まった3月15日の翌日に、預金封鎖を発表しました。

10万ユーロ以下の預金者には6.75%、10万ユーロ超の預金者には9.9%の預金税を課すのが当初案でした。少額利用者も含めて、国民全員に負担を求めようとしたのです。

しかし、3月19日の議会では賛成する議員は1人もおらず、36人が反対して、19人が棄権しています。国民を目の前にして、自分の首をかけて賛成できる議員は一人もいなかったのです。

Next: ブルドーザーで銀行突撃!キプロス国民の預金は結局どうなった?



キプロス国民の怒り爆発!ブルドーザーで銀行に突撃する強者も

キプロス国民は預金封鎖が発表された後、早朝からATMに並ぶも、もう預金の引き出しはできなくなっていました。これが、その際に表示された画面です。

ATMには「技術的な問題により、現在お取引できません」というエラーメッセージが表示されています。

これを知った国民は議会前でデモを行ったりして、大変な騒ぎになりました。怒りを我慢できず、ブルドーザーで銀行に突撃する強者も出てきました。

当初、キプロス政府は短期決戦で預金封鎖を解除する予定でしたが、法案がなかなかまとまらず、そのため国民は2週間も耐えなければいけませんでした。

最終的にキプロス国民の銀行預金はどうなったのか?

キプロスには大きな銀行が2つありました。国内第1位のキプロス銀行と、国内第2のライキ銀行(キプロス・ポピュラー銀行)です。

政府は経営が悪化していたライキ銀行を潰すことにしました。ライキ銀行の健全な資産を、キプロス銀行に移管することにしたのです。そして、ライキ銀行には大量の不良債権を残して倒産させました。

<最終的に決まった預金税の内容>

1)キプロス銀行の預金者
・10万ユーロ以下は全額保護する
・10万ユーロを超える分の47.5%をキプロス銀行の株券へ転換する。株式転換分以外のユーロ資産は没収とする(預金税を課税する)

2)ライキ銀行の預金者
・10万ユーロ以下は全額保護する→キプロス銀行へ移管した
・10万ユーロより多い預金は全額、没収する(100%の預金税を課税する)

この預金税は個人・法人問わず実施されました。

結局、キプロス銀行、ライキ銀行のどちらに預けていても、10万ユーロより多い通貨「ユーロ」は没収されました。

当初案は、10万ユーロ以下の預金者には6.75%、10万ユーロ超の預金者には9.9%の預金税を課すというもので、国民全体が広く浅くダメージを受ける内容でした。しかし、このような少額預金者も含めて課税する行為は、政治的には不可能でした。

そのため、広く浅くダメージを広げるのではなく、銀行を1つ閉鎖させて、富裕層に大きな負担を強いる方針に転換したのです。

そのため、キプロスの銀行に多くの資金を預けていたロシアの富裕層たちが、大ダメージを受けることになりました。

キプロス政府は預金税で合計42億ユーロを得て、EUとIMFから100億ユーロの支援を受けました。

この後、国内第2の銀行を失ったキプロスの経済はガタガタになっています。2007年より以前の失業率は概ね3%台(完全雇用)で推移していましたが、キプロス・ショック以降は失業率が一気に跳ね上がりました。

<キプロス 失業率の推移>

2007年 3.91%
2008年 3.67% ←リーマン・ショック
2009年 5.41%
2010年 6.27%
2011年 7.91%
2012年 11.88%
2013年 15.89% ←キプロス・ショック(預金封鎖&資産課税)
2014年 16.13%
2015年 15.32%
2016年 14.23%

<キプロス 名目GDPの推移(単位:10億ユーロ)>

2012年 19.47
2013年 18.07 ←キプロス・ショック(預金封鎖&資産課税)
2014年 17.39
2015年 17.42
2016年 17.82

キプロス経済は今もまだ完全には立ち直れていません。しかし、失業率は毎年1%ずつ改善されてきており、名目GDPも今年は前年比で2%上昇する見込みです。厳しい状況が続いているものの、最悪期からは脱出しつつあります。

Next: 明日は我が身、1990年代の日本でも「資産課税」が検討されていた



1990年代の日本でも「資産課税」が検討されていた

大前研一氏によると、1990年代の住専危機の際に、当時の大蔵省が「新円切り替え」による「資産課税」を実施する計画があったそうです。

幸い、旧紙幣100万円が新紙幣80万円にされる「新円切り替え」は実施されませんでした。ATMメーカーから事前に情報が漏れてしまったため、計画は未遂で終わったとのことです。

日本政府の債務残高対GDP比が100%に達したのが1996年です。その翌年の1997年に橋本内閣が財政構造改革法を成立させ、2003年までに赤字国債発行を削減しようとしていました。結局、その後も財政赤字は拡大し、2016年には債務残高対GDP比は249%を突破する予定です。

我が国では、債務の膨張スピードが経済の成長スピードよりも速くなっています。

経済が成長しているときは、税収もそのぶん伸びていきます。債務の膨張スピードよりも経済の成長スピードの方が速ければ財政は破綻しないのですが、日本では、

経済の成長スピード K (約0%)
債務の膨張スピード S (約4%)

「K<S」

この状態が20年以上、続いています。

債務の膨張にも「複利レバレッジ」がかかります。72の法則で「72÷4=18」となり、18年で債務は2倍になります。

K<S(0%<4%)の状態がこのまま続くと、債務残高対GDP比はどうなるか?

1980年 50%
↓18年後↓
1998年 121%
↓18年後↓
2016年 249%
↓18年後↓
2034年 498%

上記のように「K<S」が続けば、数列の発散により債務の膨張が止まらなくなり、18年毎に2倍のペースで増えていきます。

大蔵省の「新円切り替え未遂事件」が事実であるのなら、残念ながら我が国での「資産課税」の可能性を完全には否定できません(限りなく0%に近かったとしても、0%とは言い切れません)。

私たちがキプロスの預金封鎖から学べることは、「悲観的な予想を元に万全の準備をして、楽観的に対応する」ということです。この「危機管理の鉄則」に従った対策で、迎え撃つしかありません。

Next: 今日から始める預金封鎖対策。自分の預金を守り抜く方法とは?



「危機管理の鉄則」を知り、自分の預金を守り抜こう

キプロス国民は、銀行預金を引き出せずに困り果てました。このリスクをなくすには、手元に一定額の現金を持っておくのが有効です。

2週間から1カ月ぐらいを凌げる現金を持っていれば、キプロス国民のように困り果てるという事態にはなりません。

そして、多くの資産を持っている人は、そもそも余分なお金を「預金」という形で持たないことが有効な預金封鎖対策になります。

日銀のバランスシートを見ると、大半のお金が、借方(資産の部)に「国債」、貸方(負債)に「預金」として記載されています。

<日銀のバランスシート>

借方    貸方
国債    預金(日銀券)

複式簿記の基本は「等価交換」です。日銀は、日本国債と通貨「円」を等価交換することで、民間銀行に通貨「円」を供給しています。

銀行に多くのお金を預金することは、日本国債を保有することと何ら変わりません。

2018年に向かって、需給環境悪化により、国債は暴落するリスクが高くなっています。国債価格の下落は、等価交換している通貨「円」の価値下落を意味します。

そこで、次の2つの対策を実施しておけば、預金封鎖のリスクを大幅にヘッジできます。

<対策1>

通貨「円」のポジションを下げて、他の資産(株式・不動産・ゴールド等)のポジションを上げておく。

<対策2>

2週間~1カ月程度を凌ぐための現金を保有しておく。

これらの対策は危機管理の一環となります。

忘れてはならない「危機管理の鉄則」

「悲観的な予想を元に万全の準備をして、楽観的に対応する」

多くの場合、「楽観的な予想を元にたいした準備もせず、悲観的な対応に追われる」という逆パターンの行動になってしまいがちなので、気をつけましょう。

以上が、キプロスの預金封鎖から学べることです。

預金封鎖は「不意打ち」でなければ効果がないため、政府側は突如、預金封鎖を宣言します。この不意打ちを防ぐには、「危機管理の鉄則」で臨むのが賢明なのです。

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年8月21日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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