野球も株式会社も、そのルーツを辿ると、ヨーロッパで誕生しアメリカで発展して、日本にもたらされたものです。
野球のように欧米から輸入されたスポーツでは、やはり、本家本元のほうに分があります。逆に「柔道」のように日本で誕生したスポーツは、(近年のルール改正に苦しめられながらも)やはり本家本元の日本に分がありますね。
では、株式投資をするなら米国株でしょうか?それとも日本株でしょうか?今回はそれを客観的なデータで検証していきます。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
米国株と日本株に、大リーグと日本プロ野球並みの格差あり!?
対戦ルール
初めに対戦ルール説明をします。
今回は、米国株のバフェット銘柄に対して、業界No.1の日本株をぶつけていきます。競うのは過去5年の「株主資本利益率(ROE)平均値」です。
株主資本利益率(ROE)とは、株に投資することで、私たちがどれだけ利益を得られるか?をあらわす指標です。
<計算式>
株主資本利益率(ROE)=1株あたり利益÷1株あたり株主資本(純資産)
わかりにくいかもしれませんので、以下に具体例を挙げます。
- A社は100万円の株主資本を使って、年間20万円の利益を計上した→A社のROEは20%
- B社は100万円の株主資本を使って、年間5万円の利益を計上した→B社のROEは5%
B社よりもA社の株主になったほうが、圧倒的にお得です。同じ100万円という株主資本を使って、出せる利益が20万円か?5万円か?という選択なら、(その他の条件が同じであれば)投資家は前者を選択するでしょう。
高ROEの会社は、株主から提供された資本を効率的に使って、より多くの利益を出しています。ROEは自動車でいう「燃費の良さ」を示す指標だと言えます。燃費の良い自動車を購入する方が経済合理的なのです。
米国株バフェット銘柄と業界No.1日本企業の戦い
まず、バークシャー・ハサウェイのビッグ4銘柄と、それぞれが属している業種をリストアップしてみましょう。
- 【銀行】ウェルズ・ファーゴ
- 【飲料】コカ・コーラ
- 【IT】IBM
- 【クレジット】アメリカン・エキスプレス
そして、食品、銀行、飲料、電気機器、クレジットの各業界で、日本でナンバーワンの企業をぶつけていきます(出典:【関連】業界動向サーチ)。
- 【銀行】三菱UFJフィナンシャル・グループ
- 【飲料】サントリーHD
- 【IT】NTTデータ
- 【クレジット】イオンフィナンシャルサービス
では、いよいよ対決です!
Next: 業界No.1日本企業はバフェット銘柄にどこまで通用するのか?
業界No.1日本企業は、バフェット銘柄にどこまで通用するのか?
それでは早速、勝負していきましょう。
◆銀行業界◆
ウェルズ・ファーゴ vs. 三菱UFJフィナンシャル・グループ
<ウェルズ・ファーゴ>
株主資本利益率(ROE):
2011年 11%
2012年 11%
2013年 12%
2014年 12%
2015年 11%
→平均ROE=11%
<三菱UFJフィナンシャル・グループ>
株主資本利益率(ROE):
2011年 10%
2012年 7%
2013年 8%
2014年 7%
2015年 6%
→平均ROE=8%
ウェルズ・ファーゴの勝ちです。
【ここまでの対戦成績】0勝1敗
◆飲料業界◆
コカ・コーラ vs. サントリーHD
<コカ・コーラ>
株主資本利益率(ROE):
2011年 11%
2012年 11%
2013年 12%
2014年 12%
2015年 11%
→平均ROE=11%
<サントリーHD>
株主資本利益率(ROE):
2011年 11%
2012年 5%
2013年 15%
2014年 7%
2015年 1%
→平均ROE=8%
コカ・コーラの勝ちです。
【ここまでの対戦成績】0勝2敗
◆IT業界◆
IBM vs. NTTデータ
<IBM>
株主資本利益率(ROE):
2011年 77%
2012年 88%
2013年 71%
2014年 131%
2015年 92%
→平均ROE=92%
<NTTデータ>
株主資本利益率(ROE):
2011年 5%
2012年 7%
2013年 3%
2014年 4%
2015年 9%
→平均ROE=6%
IBMの勝ちです。
【ここまでの対戦成績】0勝3敗
◆クレジット業界◆
アメリカン・エキスプレス vs. イオンフィナンシャルサービス
<アメリカン・エキスプレス>
株主資本利益率(ROE):
2011年 25%
2012年 23%
2013年 27%
2014年 28%
2015年 24%
→平均ROE=25%
<イオンフィナンシャルサービス>
株主資本利益率(ROE):
2011年 -2%
2012年 6%
2013年 5%
2014年 7%
2015年 0%
→平均ROE=3%
IBMの勝ちです。
【最終対戦成績】0勝4敗
業界No.1の日本企業は、ただの1社もバフェット銘柄に勝てませんでした。
対戦結果のまとめ
日米4社、過去5年間ROEの平均値は次の通りです。
●バフェット銘柄4社
【銀行】ウェルズ・ファーゴ 11%
【飲料】コカ・コーラ 11%
【IT】IBM 92%
【クレジット】アメリカン・エキスプレス 25%
バフェット銘柄4社 過去5年単純平均値 34%
●日本業界最大手4社
【銀行】三菱UFJフィナンシャル・グループ 8%
【飲料】サントリーHD 8%
【IT】NTTデータ 6%
【クレジット】イオンフィナンシャルサービス 25%
日本業界最大手4社 過去5年単純平均値 6%
日本業界最大手4社のROE平均値はたったの6%です。バフェット銘柄4社のROE平均値は34%もあります。
今回取り上げたバフェット銘柄4社(通称、ビッグフォー)は、近年、業績が落ちつつあると言われています。その状況にも関わらず、日本の業界最大手企業はボロ負けしてしまいました。
Next: 「代打、トヨタ!」トヨタ自動車ならアメリカに勝てるのか?
トヨタ自動車だったら勝てるのか?<番外編>
日本で最も大きな会社はトヨタ自動車です。グローバル企業でもあり、日本を代表する企業と言えます。トヨタ自動車は自動車メーカーとして世界No.1の会社です。
番外編として、このトヨタ自動車が米国No.1の自動車メーカー、ゼネラル・モーターズに戦いを挑みます(さすがにトヨタだったら、米国株に勝てるのか!?)。
◆自動車業界◆
ゼネラル・モーターズ vs. トヨタ自動車
<ゼネラル・モーターズ>
株主資本利益率(ROE):
2011年 20%
2012年 12%
2013年 10%
2014年 8%
2015年 23%
→平均ROE=14%
<トヨタ自動車>
株主資本利益率(ROE):
2011年 1%
2012年 9%
2013年 16%
2014年 17%
2015年 17%
→平均ROE=12%
ゼネラル・モーターズの勝ちです。あのトヨタ自動車でも、わずかな差ですが勝てませんでした。
ゼネラル・モーターズに関する補足事項
少しフォローしておくと、トヨタ自動車は1949年に上場して以来、67年にわたって株主資本と利益を増やし続けています。長期投資の世界では、ゼネラル・モーターズよりもトヨタ自動車の方が格上になります。
2009年にゼネラル・モーターズは倒産して、米国政府に国有化されました。2013年に米国政府が保有する株式を全て売却し国有化が完了しました。
新生ゼネラル・モーターズは高ROEで推移していますが、まだ発足したばかりで、今後も高ROEを維持できるかどうかは不明です。
Next: 世界時価総額ランキングベスト10を独占、米国企業の強さの理由
世界時価総額ランキングのベスト1位から10位まで全て米国企業
ウォーレン・バフェットは2016年2月、バークシャーの株主宛ての手紙で、次のように述べていました。
「過去240年にわたり『米国売り』に賭けた投資をするのは間違いだった。今もその時期ではない」
米国企業の強さの秘密は、他国を圧倒する「ROEの高さ」にあります。それでは、なぜ米国企業のROEは高いのでしょうか。
元々、株式会社という仕組みは欧米で作られました。株主は「株式会社の持ち主」の略です。米国企業は、株主のためにより多くの利益を出すというルールで経営されています。
株式会社という仕組みを他国から導入された側は、どうしても見よう見まねになってしまいます。
そのため、日本では「会社は誰のものか?」という議論が起きるのです。日本の文化との整合性が合わないから議論になります。
株式会社は欧米(ヨーロッパ・アメリカ)で発展してきた仕組みです。歴史も文化も異なる国々が真似することができても、本家本元そのものにはなれません。
米国は株主資本主義と民主主義を1つのパッケージにして、他国に売り出しています。これをグローバルリズムと呼びます。
グローバルリズムを受け入れた側は、いわば相手方の土俵で戦うようなもので、もともと不利なのです。別に日本だけではなく、他国もそれは同じです。
コチラを見てください。このランキングは要チェックです!
驚くべきことに、世界時価総額ランキングでベスト1位から10位まで、全て「米国」の企業です。ベスト50位の中で、米国企業がなんと34社も占めています。こんな偶然、ありえるでしょうか?
いえ、これは偶然ではありません。「株主資本主義」という秩序を世界に展開している米国に分があるのです。
Next: それでも、日本の個人投資家には大きなチャンスがある!
それでも、日本の個人投資家には大きなチャンスがある!
2015年3月の実績で、米国、日本、欧州の平均ROEは次の通りです。
【米国】14.2%
【欧州】10.7%
【日本】8.3%
2015年以前の結果でも、やはり米国が圧倒的に高ROEを維持しています。歴史的に「米国>欧州>日本」の順でROEが高くなっているのです。
コチラの日米欧のROE推移グラフをご覧ください(出典:三井住友アセットマネジメント)。
※コチラの三井住友アセットマネジメントの資料[PDF]は必見です。6ページ程の説明資料になっていますが、初中級者向けに書かれていて、読みやすい資料になっています
さて、日本でも「ROE経営」が重視されるようになってきていますが、まだ道半ばという現状です。しかし、私たちは日本企業のROEが低いからと言って、必要以上に落ち込む必要はありません。
21世紀に入りインターネットが世界中に張り巡らされて、情報空間では国境がなくなってしまいました。今では家にいながらワンクリックで世界中の企業の株式を購入できます。
日本の野球選手が、4倍以上も高い平均年俸を得られる米国の球団に入団するのは簡単なことではありません。
しかし株式投資であれば、ワンクリックで(しかも入団テストもなしで)米国市場に参戦できて、誰でもメジャーリーガーになれます。
我が国では1996年から2001年にかけて、当時の橋本内閣が金融ビッグバンを推進して、世界中に投資できる環境を整備しました。フリー(自由)、フェア(公正)、グローバル(国際化)の3つを掲げて、東京市場をニューヨークやロンドンのような国際市場にしたのです。
お金の国境がなくなったので、個人でも法人でも自由に外貨や海外の株式を持てるようになりました。これは重大な変化でした。
投資先を、日本市場に限らず、世界中から探せる時代になったのです。
『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年8月28日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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