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なぜ「財源がないなら公務員給与を削れ!」は経済学的に誤りなのか?=三橋貴明

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年9月5日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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長期デフレによる「ルサンチマン」が溢れる日本社会の病理

2016/9/5号より

別に、今に始まった話ではないですが、長期デフレで「ルサンチマン」が溢れた日本社会では、何かといえば「他人を攻撃」しようとする傾向が見受けられます。

例えば、安倍政権が秋の臨時国会で補正予算を組み、経済対策を実施することが決まった途端、「財源は公務員給与を削って確保しろ!」と、まさにルサンチマン丸出しで公務員を攻撃するコメントや意見を幾つも見かけました。

あのね、今の日本は「デフレギャップ」を抱えているのです。デフレギャップとは、総需要の不足です。総需要とは、名目GDP、すなわち民間最終消費支出、政府最終消費支出、住宅投資、設備投資、公的固定資本形成、純輸出の合計なのです。公務員給与は「政府最終消費支出」の一部です。

総需要を拡大し、デフレギャップを埋めようとしている政権が、「需要の一部」である公務員給与を削ってどうするんですか? デフレ対策について、「誰かが追加的にお金を支出しなければなりません。こっちの予算をこっちに回す、予算の付け替えではダメです」と講演で解説しているのですが、そのままでございます。

ちなみに、三橋は公務員ではありませんし、公務員の親戚もいないので、公務員給与が高かろうが低かろうが、個人的にはどうでもいいです。

とはいえ、実際に公務員給与を削ると、間違いなく国内で消費や投資という「需要」が減ります。そのとき、公務員が買うのをやめたモノやサービスは、もしかしたら「貴方」が生産しているかもしれません。

その場合、今度は貴方の給与が減らされることになります。国民同士が足を引っ張り合い、総貧困化していくわけですね。

企業の内部留保に対する課税も、資産課税であり、端から筋が悪いことに加え、やはり「大企業ばかりが利益を貯め込んで」といったルサンチマンが背景にあるように思えます。

企業が内部留保(特に現預金)を貯め込んでいるのは問題ですが、何しろ我が国はデフレです。こんなデフレで儲からない国で、果敢な設備投資などできません。

更には、デフレが継続している限り、どうしても将来の「利益縮小」を想定してしまうため、人件費に給与を回すことにも逡巡してしまいます。問題は、とにかく「デフレ」なのです。

Next: 「誰かのせいにする」というマインドがデフレ脱却を妨げている



そういえば、日銀のマイナス金利政策関連でも、「銀行」に責任を押し付ける傾向が目立ちました。「日本の銀行が国内で貸し出しを増やさないから、デフレ脱却できないのだ。悪いのは銀行なので、懲罰的なマイナス金利は正しい」といった論調です。

現実の銀行の貸出態度判断DIは、バブル期並みに緩和されているのですが。さもなければ、長期金利がマイナスになるはずがないでしょ。

いずれにせよ、この種の「誰かのせいにする」というルサンチマン的なマインドが、我が国のデフレ脱却を妨げているように思います。一般の日本国民はもちろん、官僚や政治家、言論人にもその傾向がみられます。

やめましょうよ。デフレ期に他人の脚を引っ張ったところで、自分も転ばされるだけですよ。

他人を攻撃するのではなく、「日本国民、みんなで経済成長を成し遂げ、豊かになろう」。この当たり前の考え方を、国民一人一人が持つべきだと考えるのですが、いかがでしょうか?

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