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ウォーレン・バフェット氏はウォルマートを見捨てたのか?=東条雅彦

バフェットが、世界最大の小売チェーンであるウォルマートの保有株数を27%も減少させています。彼はこのままウォルマートへの投資から撤退してしまうのでしょうか?結論を先に言うと、私は「現時点で完全撤退はしない」と見ています。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

ウォルマートへの投資から撤退するわけではない?賢人の狙いとは

バフェットの保有株数が27%も減少

バフェットの経営するバークシャー・ハサウェイは、4四半期毎に投資先企業の持ち株数を米国証券取引委員会(SEC)に報告しています。

この報告は2月、5月、8月、11月に行われて、毎回2ヵ月前の状況が明らかにされます。そのため、現時点で把握できるバークシャーの最新状況は、2016年6月末時点のものとなります。

前回の報告では、次の2点が注目されていました。

(1) アップル株の増加
981万株 → 1523万株 (55%の増加)
2016年9月2日時点の時価:14億ドル

(2) ウォルマート株の減少
5524万株 → 4023万株 (27%の減少)
2016年9月2日時点の時価:29億ドル

ロイターでは「米バークシャーがアップル株積み増し、ウォルマートは縮小」というタイトルで報じられていました。

【関連】バフェットの心変わり。なぜ賢人はIT企業への投資を決断したのか?=東条雅彦

この記事にもあるように、(1) のアップルへの投資については、ポートフォリオマネージャーのトッド・コームズ氏かテッド・ウェシュラー氏が担当しています。ウォルマートについては、ウォーレン・バフェットが担当しています。

現在のバークシャーは次のような体制になっています。

大型か小型の境目は現在、15億ドル付近にあって、アップルへの投資は小型投資としては最大の投資になっています。今後、さらにアップル株を買い増す場合は、バフェットの許可がないと難しいと思われます。

アップルの動向も気になるところですが、本稿では、バフェットが決断したウォルマート株の減少に焦点を当てたいと思います。

何を隠そう、バフェットはウォルマートの保有株数を去年から減らしています。

<バフェットのウォルマート保有株数推移>

2015年6月末 6,038万株

2015年9月末 5,619万株

2016年3月末 5,524万株
↓27%ダウン
2016年6月末 4,023万株

2015年9月末から保有株を減らして、2016年6月末にガクンと落としました。27%の減少幅はかなり大きいです。このまま完全撤退してしまうつもりなのでしょうか?

Next: 全業種中で売上高世界最大!ウォルマートの業績に不安はあるのか?



ウォルマートの業績に不安はあるのか?

ウォルマートはあまり馴染みのない企業かもしれませんが、日本では西友として展開しています。今から14年前の2002年に、西友はウォルマートの傘下に入りました。

西友は経営スタイルをウォルマート流に転換させ、「エブリディ・ロープライス(毎日×安い)」を掲げて営業しています。

日本のスーパーは定期的にセールを開催して、人を集める手法が主流なので、西友(ウォルマート)のコンセプトは他社とは異なります。

日本ではあまり目立っていませんが、ウォルマートは小売業で売上高、利益共に世界一の企業です。

さらに小売業に関わらず全業種の中で売上高が世界最大という、とてつもなく大きな企業となっています。

<ウォルマート 売上高の推移>

2012年1月 4465億ドル
2013年1月 4686億ドル
2014年1月 4762億ドル
2015年1月 4856億ドル
2016年1月 4821億ドル

過去5年で売上高が約8%上がっており、概ね上昇傾向です。日本円(1ドル=100円)で48兆円の売上高となるので、本当に巨大な企業だとイメージができるでしょう。

参考までに日本で第1位のイオンの売上高が8.1兆円、第2位のセブン&アイ・ホールディングスが6兆円です。ウォルマートはイオンの5倍以上の規模を誇ります。

事業は今でも拡大し続けており、バフェットが保有株数を減らした理由は見当たりません

ウォルマートのROEはどうなっているのか?

バフェットはROEを重視します。ROEとは

「1株あたり利益(EPS)÷1株あたり株主資本(BPS)」

で求められる指標です。

この指標は、株主の資金を使ってどのくらいの利益を上げられるか?を表しています。自動車でいう「燃費の良さ」だと思ってください。

12年前の2004年からのROEをチェックしてみましょう。

<ウォルマート EPS BPS ROE(2012~2016年)>

2004年1月 2.41ドル 11.67ドル 21%
2005年1月 2.63ドル 12.77ドル 21% ←バフェット初購入
2006年1月 2.92ドル 14.91ドル 20%
2007年1月 3.16ドル 16.26ドル 19%
2008年1月 3.42ドル 16.63ドル 21%
2009年1月 3.66ドル 18.69ドル 20%
2010年1月 4.07ドル 19.49ドル 21%
2011年1月 4.45ドル 20.86ドル 21%
2012年1月 4.54ドル 20.86ドル 22%
2013年1月 5.02ドル 23.04ドル 22%
2014年1月 4.86ドル 23.59ドル 21%
2015年1月 4.98ドル 25.21ドル 20%
2016年1月 4.58ドル 25.47ドル 18%

1株あたり利益(EPS)、1株あたり株主資本(BPS)が毎年、伸びています。ウォルマートはまさに「教科書的バフェット銘柄」です。

しかし、2016年1月のROEは珍しく2ポイント落としました。バフェットが投資を開始してから、初めての落ち込みです。

ただ、売上高、利益とも上昇しており、全体として大きく落ち込んだわけではありません。

Next: バフェットの真意は「2012年と2014年の行動修正」にある



バフェットは2012年と2014年のウォルマート買い増しを「修正」していた

まずコチラのグラフをご覧ください。

バフェットのウォルマート保有株数<推移>(東条作成)

ウォルマート株の保有数を棒グラフで表しています。2009年に一気に倍近くまで保有株を増やしました。2012年と2014年にも大きく買い増ししています。そして2015年9月末から減少に転じています。2016年6月末に5524万株から4023万株に大幅に減少させました。

それでは、先程のウォルマートのROEの推移と保有株数を重ね合わせてみます。

<ウォルマート ROE 保有株数>

2007年 19% 1,994万株
2008年 21% 1,994万株
2009年 20% 3,904万株
2010年 21% 3,904万株
2011年 21% 3,904万株
2012年 22% 4,671万株 ★大幅増加
2013年 22% 4,948万株 ★小幅増加
2014年 21% 6,039万株 ★大幅増加
2015年 20% 5,619万株 ☆小幅減少
2016年 18% 4,023万株 ☆大幅減少

2016年6月末にウォルマートの保有株数を27%も減らして、4023万株にしました。これは5年前の2011年の保有株数3,904万株とほぼ同じ水準です。

2012、2013、2014年の3年間は強気の姿勢で買い進めていました。

この買い進めた分を修正して、5年前の水準に戻したというのが、今回、ウォルマート株の投資を縮小させた真相だと思います(→強気の姿勢を修正した)。

ウォルマートのROEが2016年に20%から18%に下がりました。わずか2%の減少ですが、過去一度も発生しなかった現象です。これを見て、バフェットは強気の姿勢を修正してきました。

ウォルマートの投資から撤退しようとしているのではなく、2011年の状態に戻したと見るべきです。

Next: 「億万長者が生まれやすい」小売業をバフェットは手放さない



「億万長者が生まれやすい」小売業をバフェットは手放さない

1983年、バフェットは家具屋のネブラスカ・ファニチャー・マートを6000万ドルで買収しました。

会計の監査や在庫の調査をせずに、オーナーの老婦人の言い値に対して即払いで購入したという話は有名です。

バフェットは小売業のことを深く理解しています。

コチラは世界の上位億万長者のランキングサイト。さらに見やすくしたのがコチラです。

業種別で見ると、次のようになっています。

<業種別>

技術(IT)  34人
多様な業種 28人
小売    26人 ◎
製造業   21人
金融    20人
不動産   16人
食料と飲料 10人
メディア  10人
金属・鉱業 9人
エネルギー 8人
医療    7人
サービス  6人
電気通信  4人
衣服    1人

やはり第1位はイメージ通り、技術(IT)産業となります。第2位は様々な産業で富を生み出したということで、1つに特定できません。その次に、意外にも「小売」がランクインしています。

実質的に小売業は、世界で2番目に億万長者を輩出している業種なのです。

ウォルマートの創業者サム・ウォルトンから資産を引き継いだアリス・ウォルトンは、世界第18位の資産家としてランクインしています。

ウォーレン・バフェットも世界第3位に入っています(ちなみにジョージ・ソロスは28位です)。

億万長者を輩出しやすい業種というのは、うまく行けば「儲かりやすい業種」と言えます。今後、ウォルマートの業績は注意深く追っていく必要はありますが、このままバフェットは保有を継続していくはずです。

【関連】なぜバフェットとソロスの結論は「米国は中国に勝つ」で一致するのか=東条雅彦

【関連】勝ち組投資家が「メジャーリーグ=米国株式市場」を目指す当然の理由=東条雅彦

ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年9月4日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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