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私がヘッジファンドマネジャーとして学んだ「少人数組織」運営の哲学=山本潤

わたしが属するヘッジファンドの業界は生き馬の目を抜く業界だ。毎日、成績で評価される。そのストレスから、心身ともに疲弊する日々だ。事実、毎年のように、ヘッジファンドは消滅する。

以前の会社では、最後まで残った運用チームは3つだけだった。10以上の運用チームが7年間の間に解雇となった。そう、ヘッジファンドは、成績が悪いと解約されてしまうのだ。だから、わたしたちのチーム6人において、10年以上、ヘッジファンドマネジャーを続けられたことは奇跡に近い。

この業界に関わらず、世間一般に、チーム運営は簡単ではない。なぜなら、人間関係が難しいからだ。人間関係は、些細なことですぐに壊れてしまう。わたしもチームの運営は試行錯誤の連続であったし、とくに、メンバー間の関係に苦慮してきた。この10年の組織運営において、「組織は、こうすれば上手くいくぞ!」という経験則を得た。その経験から、基本となる組織運営の哲学が生まれた。チーム運営に悩むリーダーの方々に、特に、読んでもらいたい。(『億の近道』山本潤)

「組織はこうすれば上手くいく」少人数チーム運営の大原則とは?

仕事をする人は例外がなくプラス貢献を組織にしている

仕事とは何だろうか?「しなくてはならないこと」であり、「業務である」ともいえよう。チーム運営のために基本となる原則は、「どんな仕事も必ずプラスをもたらす」ということだ。

仕事をする人は、全員がプラスの貢献を組織にしている。たまにはミスもあるだろう。例外的に、ひとつのミスから大きな損失を会社に対して与えてしまうこともあるだろう。また、自らのミスにより、同僚に思わぬ迷惑をかけてしまうこともあるだろう。しかし、長い月日を通して見るならば、すべての働く人々は組織にプラスの貢献をしていると考えてよい。

メンバーを見るときに、頼り甲斐のあるプラスの存在として見るように、リーダーは心がけることが重要だ。

組織を運営するための原則~仕事は加算で評価する

くどいようだが、仕事とはプラス行為の積み上げである。一時間ならば、一時間分のプラスを積み上げる。一ヶ月ならば、一ヶ月分のプラスを積み上げる。それを、リーダーが暖かく見守る。月給も年収も同じ考えだ。成功報酬もそうだ。マイナスの成功報酬はない。マイナスの時給がないのと同様だ。

組織を運営するための原則~精神的な猶予、時間的な猶予を与える

長い年月をかけなければ成せないような仕事が誰にとっても存在する。せっかく働くのだから、簡単なことばかりではなく、社員が、長期的に継続してひとつのことに取り組むのを応援する。もちろん、簡単な仕事というか、単純作業こそ、重要な仕事である。簡単な仕事を、生産的に働けば、プラスを組織にもたらすからだ。

事実、世の仕事のほとんどは単調なものである。だからこそ、メンバーには、簡単な仕事にも、簡単ではない仕事にもバランスよく、取り組ませたい。長期的に継続して専門性を高めていけば、その人は成長していく。長期にわたり成長する社員が長期にわたり、際立った業績を会社にもたらす。

メンバーには、ざっくり80%は簡単な仕事でも、残りの20%は長期的な課題に取り組んでほしいと思っている。簡単な仕事は、生産性を上げることで、付加価値は高まる。一方、難しい仕事は、専門性を深堀することで、キャパシティが整う。どちらも、経験が必要だ。そのために、時間的・精神的な余裕をメンバーに与える。

Next: 投資の現場で気づいた「他人を責めない」ことの驚くべき効果とは



基本原則~マイナス思考を排除する。他人を責めない

どんな組織にも様々な人間関係がある。プラスのはずの仕事が他人からマイナスの評価を受けてしまうことがある。遅刻してばかりの人がいれば、ちゃんと会社に来る人は不満を持つ。遊んでばかりに見えるような人がいれば、ランチに行く時間もなく集中して働いている人が不満を持つ。

他人と自分。他人と他人とをある尺度で比べるならば、優劣が人間の間につき、劣っている方が問題になる。劣っている方が、もっと頑張れば、もっと生産的に仕事をすれば、会社全体はもっとプラスになるのだ。これは、いわゆる、「マイナス思考」である。あいつはダメだ。もっと、ましなやつがほしい、と。

そういうマイナス思考を持つと、本来比べる必要のない事柄を比べる羽目になる。本来はいないはずの「出来損ない」な社員をわざわざクリエイトしてしまう。問題のないところで、あえて問題をつくってしまうのだ。

これは人の性なのかもしれない。嫉妬もあるだろう。平等意識もあるだろう。人は、自分を評価する一方で、他人のことは評価しないものだ。わたしたちは、感情あふれる動物でもある。なぜあいつだけが…という思いはどうしても持ってしまう。だが、他者が劣っていることが問題になるとき、必ず、チームのムードは悪くなる。悪いムードで働いても、つまらない。

だから、マイナス思考を乗り越えて、自身の矮小さを乗り越えてほしい。誰でも、自分に厳しく、他人に優しくできるはずだ。あるべき真の人格に一歩でも近づくようにと、各人が「プラス思考」をもってほしい。

(リーダーは結果責任を負うから、短期的成果に協力的ではないメンバーを叱咤激励することがあると思う。締め切り前に、プロジェクトの出来が悪くとも、そのことで、顧客や会社経営者に頭をさげるのもリーダーの役目である)

(リーダーはつらいものである。でも、リーダーがメンバーを責めないなら、不思議と、チームは一体になるものだ)

チームメンバー同士が尊敬する

仕事は、各人が、少しずつのプラスを持ち寄ることで成る。特に、運用は、各人が得意なことを持ち寄ることで成り立つ。あえて不得手なことをする必要はないのである。得意な分野で得意なことをすればよいのだ。

運用には、学歴も、年も、男女の差もない。テキパキと動ける人は、生産的な側面で貢献すればよい。感受性が豊かな人は感じたままを述べればよい。技術が詳しい人はそれを武器に製品や理論の評価をすればよい。優しい人は、他人を認めてあげればよい。理屈っぽい人は理屈の通ったレポートを書けばよい。度量がある人は、他人のミスをそっとカバーしてくれればよい。人を育てることができる人は、人を育てればよいのだ。

基本原則~他者への尊敬。他人を評価しない

そのために、チームの運営においては「まず、他人を敬うこと」が最低限のマナーであるといってよい。他者を尊敬すること。それができないのは、マイナス思考であり、マイナス思考は他人に伝染する。

だから、チームにいる限り、マイナス思考に成る傾向のある人は、その思考から脱却してほしい。

わたしがよく思うことがある。この世が誕生して137億年だかの年月であり、いま、一緒にこの時代を共にメンバーと生きていることは、奇跡である。ほんの一瞬の人生なのだ。そのほんの一瞬の人生をプラス思考で生きるか、マイナス思考で生きるか、の問題なのだ。

Next: 成績が悪いメンバーの「居心地の悪さ」とチーム内の軋轢を解消するには?



最も難しいのが「チームの和」を保つこと

人間はとても愚かである。チームには、成績が個人に付きまとうので、成績が悪いメンバーは居心地が悪くなる。

そんなとき、自己アピールすることが、成績の悪い他のメンバーへの批判に至ることもある。人間は愚かだから、自分の価値観で他人を評価して、他人より自分を守ろうとする。組織は、リストラするとき、一番、成績が悪いものを切ろうとする。もしくは、一番、チームの和を乱すものを切ろうとする。あるいは、年齢や給料が高いものを切ろうとする場合もあるだろう。年配は、和を乱す若輩が嫌いであり、若輩はフットワークの鈍った年配が我慢できない。

他人のことは語らない。自分のことを語ろう」。他人を評価しない。自分を評価する。それを何回言い続けても、チームには必ず不協和音が生じる。そのときは、同じことを言い続けるしかない。チーム運営は我慢の連続である。

チームを運営するなら、「他人のことをとやかくいうのは愚かで卑しいことである」という認識をチームに定着させたい。だが、会社組織というものは、毎日のように、他人をとやかくいう人が出てくる(ため息)。人は言われたら言い返すから、争いとなる。結果として、チームは大きなダメージを負うことになる。

原則は、チームメンバー同士を比べることは愚かであるということだ。リーダーは、チームメンバーを批評してはいけない。比べてもいけない。

基本原則~今だけを見ずに、その人の過去や将来を評価する

人事の評価で、世間一般では通ることも、わたしには、おかしいと思うことがある。組織を管理しようとする人は、ほぼ全員「今」だけしか見てない。今日、遅刻すれば、今日遅刻したことを問題視する。

例がある。わたしは、経歴や学歴にこだわらないから、比較的、低い賃金でアナリストを新人で採用した。新卒で、年収は◯◯◯万円程度で採用した。証券アナリストとしては、安い部類だ。その安い給料が3年続き、その後は、毎年のように、給料を上げていったが、会社が厳しいときに、安く働いてくれたことを感謝している。安い給料で3年働いた人が、有給を3ヶ月とったとしても、十分におつりがくる。だが、いまその人が3ヶ月間休んだら、必ず文句をいう人が出てくる。文句をいう人は、過去の事情が見えていないのだ。

あるアナリストが体調不良になり、週に3日の勤務となったが、年収は下げなかった。「いままで十分に安い給料で働いてくれたから、この1年、働かなくても、会社にはおつりがくるよ」と会社は社員に伝えるのがよい。

会社が「今」しか見なければ、いつも全力で働くことを強いることになる。うちのチームはよく勉強するから、土日や夜間の大学へ行ったり、語学を勉強したりしているが、意味のある仕事をなすためには、どれも必要なことだ。

「今」しか見なければ、毎日、夕方から大学へ行くメンバーは、深夜まで働くメンバーと比べて、「サボっている」と見なされてしまう。しかし、その人の将来まで含めて考えれば、大学で身につけた専門性は、将来の会社の利益に還元されるはずである。

運用業務でいえば、いつも理解できるような文書ばかり読んでいるなら、意味のある仕事ができるはずがない。素人が全く理解できない論文を「なるほど、面白い」と感動する専門性を身につけてほしい。そして、そのアナリストが書いたレポートが素人に全く理解できないものであっても、わたしは構わない。理解できないのは、個人の学力や知識量の差であり、猿でもわかるようには物事は説明できるものではない。だから、一般人が読んでもさっぱり意味がわからないようなレポートでいいとわたしは思っている。

「今」しか見ない管理者は、いつからいつまで働いたとか、何時に会社に来たとか、他人を一律に「その日を基準に」評価しようとする。その人の過去と将来を評価し、今、その人が苦境にあるなら、寛容さを持って、接しよう。

いま、たとえ、サボっている人がいても、それは将来への栄養であると、ドンと構えよう。

Next: 叱ったり、注意したりは「費用対効果」で割に合わないという事実



意味のあることを成す

わたしは、いつかアナリストが引退するときのために、アナリストにはこう伝えている。「自身が書いた作品(レポート)が、すべてつながり、ひとつの大きな歴史的な作品となるように、日々の仕事をしよう」と。

引退するときをイメージして、毎日、作品を書く。特許を読んでわからないならば、わかるように毎日、努力する。わかるようになったら、企業の特許を評価する。その評価手法を日々、深堀りしていく。企業の歴史を丹念に調べる。過去の製品についてネットにない資料を集める努力をする。

アナリストは、歴史家のようにレポートを社会のために残す。世の中の弱者に寄り添って、哲学者のように思考する。事業を科学者やエンジニアのような専門性を通して評価する。アーティストのように世の中に共感する。

我がチームは、そんなアナリストの集団であってほしいといつも願ってきた。意味のないことは最小限に止めて、意味のあることだけを成す人生を送ってほしい。

叱ったり注意したりすることは、費用対効果で割に合わない

リーダーは、メンバーを批評してはいけない。比べてもいけない。さらに、リーダーは、メンバーを怒る効果はない。叱る効果もない。諭す効果もなければ、教える効果もない。そのことをリーダーは悟るべきだ。諭したり叱ったりする技術は、一般的に難しいし、費用対効果が低い。叱る方は疲れる。叱られた方もつらい。叱るばかりのリーダーも、精神的にきついだろう。

叱る効果はあるのか。叱られることで、反発してしまう人もいる。反感や怒りをむしろ灯してしまう。丁寧に諭しているつもりでも、言われる当人は、それを好まない。特に、ちょっとした注意であっても、恨みを買うこともある。単なるジョークが言われた当人には我慢し難い侮辱となることもある。

叱らない職場はどうか。叱らないことで、「あれ、この会社、緩すぎない?ここまでサボっても、大丈夫なんだ!ルルルン。遅刻しても大丈夫なんだ。ルルルン」。そう思ってくれればシメタものである。こちらの思うツボだ。ああ、楽だなあ、自分はついているなあ、と「自然に」思ってくれるようになる。

そうなると、人間の内部からやる気が出てくる。誰からも言われないで湧き出てくるような、やる気。実は、そんな自発的意思が、創造的な仕事を可能にするからだ。ノルマでアートは生まれない。特に、運用は、発想の柔軟さ・自由さ・質が大切であり、何かを社会から感じとる作業である。疲れていては、感受性により起動するセンサーが作動しない。疲れていては、「社会を診る医者(=運用者)」にはなれない、ということだ。

ゆるい組織では、大体の人間は悪人ではないから、あまりサボってばかりじゃ申し訳ないな、少しは仕事しようかな、と思ってくれるのだ。最悪、人間が腐っている場合、組織の緩さに感謝せず、当人は、全く、反省せず、サボるばかりかもしれない。そういう人は言ってもわからない。サボってばかりのハズレを引いてしまったら、潔く、諦める

だが、対策もある。サボらないように、ハズレ社員でもできるような雑用をやって貰えば良いのだ。他のメンバーが喜ぶような雑用がいくらでもあるだろう。雑用であっても、組織にはプラスをもたらす。(わたしの経験上、サボる人は、頭がいい人が多く、株価もよく当てる。上手にサボれない人は、頭が固く、株が当てられるようには思えない)

兎に角、叱らないから、リーダーの負担はゼロだ。そして、叱らないことで得られる効果はプラスである。叱らない場合の費用対効果はとても大きい。叱るのは、「投資効率(組織運営効率)」が悪すぎるのだ。

会社としてやるべきことは、給料をしっかり払って、「社員の成長や利益貢献に応じた」昇級を実現すること。それ以外、会社は、何もいわずに、社員を放っておくのが一番だと思う。伸びる人は勝手に伸びるし、伸びない人はどんなに教えても伸びないのだから。

また、一流の仕事は「教えられない」。自分なりに学んでいくしか道はない。各人、ツボが違うので、自学自習以外に人は育たない。だから、教えてどうにかなるなどとリーダーは思い上がってはいけない。コーチングも不要だ。リーダーがメンバーを教えるのは、メンバーが自らの意思で「教えてください」と頼んできた時だけだ。

Next: ガミガミ言うのは禁物。少人数組織の運営は「子育て」に近い



あらゆる少人数の組織運営で当てはまる原則~他人を評価しない、責めない

ここまで書いたことは、あらゆる少人数組織の運営に当てはまる。我が子4人の子育てにも当てはまる。子育てとチーム育成は通じるものがあるのだ、と感じている。

規則正しい生活と食事は親の義務だが、子どもはたくさん遊ぶことが彼らの仕事といってよい。それが、ゲーム三昧の毎日であっても、全く構わない。ゲームに限らず、何かに没頭することは必要なことだからである。だから、親が「子どもが勉強しない」などと気をもむのは、甚だ、原則違反であり、子育てが上手くいかないのは当たり前だ。

親がガミガミいわなければ、親自身が気疲れしない。子どもに注意しないだけで、親の毎日が楽になる。子どもの将来が心配なのはわかるが、親が心配すれば、それが子どもに伝わる。むしろ、悪影響だ。「わたしの子どもなんだから、子の将来は絶対に大丈夫だ」とドンと構えておけば、子どもは安心して、すくすく育つ。

怒る親、注意する親。その費用は高くつく。効果もないのだ。子が悪いことをしたときも、「お前がそんなことをするはずがない」と子にいってやればよい。親が絶対的な信頼を自分においているんだと子どもが思ってくれれば、子育ては成功したといってよい。

この原則は、夫婦間でも同じだ。妻に完璧に家事を期待する夫は、原則がわかっていない。他人を評価してはいけないのだから。家事を期待する時点で、家事をしない妻を悪く評価してしまうだろう。それでは、評価される妻は、たまったものではない。

妻も夫が給料が足りないとか、失業したら困るとか、そういうことは夫にいうべきではない。お金がなければ、食べるものを節約できる。結果、ダイエットになる。健康になる。仕事がなければ、お金はないが、余暇が増えるから、イーブンだ。将来が心配なら、ウォーキングやジョギングをしたり、早寝早起きして、近所でボランティアでもして、世の中の深さを学べば良い。

組織運営の原則の話であった。さて、余裕を与え、社員が成長すれば、会社は儲けもの。社員が成長しなければ、給料を上げる必要がないので、会社は損ではない。

我がチームの話を少し。結果として、長期の固定されたチームで戦ってきた。ある同僚とは25年来、一緒に働いている。長い付き合いだ。こういうことが自分にとって、嬉しいと思えるのだから、もう、わたしも年ですな。

※今回の主張は、大組織運営や会社経営一般には当てはまりません。

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億の近道』(2016年9月1・8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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