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未曾有の危機から丸8年。リーマン・ショックの真相(前編)=矢口新

米証券の当時の最大手リーマン・ブラザーズが破綻したのは、2008年9月15日のことだった。その後の金融危機は未曾有の規模と呼ばれ、今に至るも、次の危機は「リーマン並み」などと、大規模金融危機の例えに使われている。では代名詞に使われるほどの、リーマン・ショックの真相とは、どういったものだったのだろうか?(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

次の危機を考えるには「リーマン再検証」が必要不可欠だ

2008年9月15日の教訓

真相と言うからには、何か特別な秘密があると思う人がいるかもしれない。

とはいえ、個人が引き起こした破綻につながるスキャンダル――例えばハント兄弟、ソロモン・ブラザーズ、LTCM、ベアリング、オレンジカウンティ、ミルケン、また日本の金融機関などで起きたもの――では、その組織が破綻しても、大規模金融危機につながることはなかった。

その意味では、「リーマン並み」になると一括りにされている次の危機が、本当にその規模になる可能性があるのか、あるいは、その組織だけに留まる程度のものなのか、リーマン・ショックの真相が分からなければ、予想もつかないことになる。

そこで、リーマン・ショックとはどういうものだったのか、世間であまり触れられていない事実も含めて、ここで改めて検証したい。

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ここに当時からの米株のチャートがある。

米株はリーマン・ショック後に急落したものの、その後は急騰、上記の2007年1月から2016年8月までのS&P500株指数チャートでは、史上最高値を更新中だ。

しかし、チャートを見ると、リーマン・ショック以前から、米株はすでに下落トレンドに入っていたらしいことが分かる。これは日本株でも同じで、違うのは、日本株は最高値更新どころか、基本的にまだ低迷していることだけだ。

では、ペンギンが矢印で示している辺りで、何か大きな変化が起きたのだろうか?次のチャートを見れば、リーマン・ショックは転換点ではなかったことがよく分かる。

Next: リーマン・ショックは単なる結果に過ぎず。株高を終わらせた真の原因とは?



リーマン・ショックは結果であり、原因ではない

S&P500株指数とダウ工業株30種平均とはよく似た動きをする。そこで、2002年4月から2016年8月のダウ平均のチャートを見れば、2007年8月に起きたサブプライム・ショックこそが、5年ほど続いた株高ムードの終わりにつながっていたことが分かる。

リーマン・ショックの真相とは、「サブプライム・ショックがリーマン・ショックを引き起こした」ということだ。

つまり、リーマン・ショックは結果であり、原因ではない。このことは、次のリーマン並みショックに備えたければ、サブプライム・ショックを学ばねば何も分からない、ということだ。

そこで、ここではリーマン・ショックの真相として、サブプライム・ショックを検証することになる。

Next: 2007年8月、サブプライム・ショックを前に米連銀は何をしたか?



サブプライム・ショックを前に米連銀は何をしたか?

未曽有の金融危機の始まりは、リーマン・ショックが起きた2008年9月ではなく、サブプライム・ショックが起きた2007年8月だ。これは、米連銀のWebサイトに、はっきりと明記されている。

このチャートは、2007年8月から2016年8月までの米連銀のバランスシートの規模の推移を示したものだ。資金供給量の推移と言い直してもいい。

チャートで見ると、2008年11月からの量的緩和により、資金供給量が急増する。そのペースが未曽有のものだったので、それ以前のものは目立たないが、連銀が資金供給量を意図的に増やし始めたのは、2007年8月に始まった金融市場危機以降であると、上記の矢印が示すアンダーラインの部分に明記している。

ここでは、2007年8月のサブプライム・ショック以降に資金供給量を増やし始めたものの、2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻を防げなかったので、2カ月後の11月に未曽有の量的緩和を開始したことが見て取れる。

そして、2014年末に量的緩和は終了するが、バランスシートの規模は現在も2008年当時の5倍の高水準を維持していることが分かる。つまり、まだカネ余り政策を継続している。

では、米連銀がサブプライム・ショックを甘くみていたために、リーマン・ショックにつながったのだろうか?結果的に見れば、そうかもしれない。しかし、本来の質的緩和を意味する政策金利の推移を見れば、米連銀の危機感は相当のものだったことが分かる。

米連銀はサブプライム・ショックが起きた次の理事会で政策金利を0.50%引き下げた。そして、2008年12月にはFFレートの誘導金利をほぼ0%にまで引き下げる。このほぼゼロ金利政策は、2015年12月に0.25%引き上げるまで続く。

それなりにコストがかかり、相応のリスクもある銀行間での短期資金のやり取りの金利をゼロとするのは、金融市場の常識からすれば異常事態だ。

Next: むしろ危機感がないのは日銀のほうだった



むしろ危機感がないのは日銀のほうだった

日本では前掲のチャートに見られるように、超緩和政策がそれ以上に長く続いているので、異常とは感じない人が多いかもしれない。

例えば、戒厳令や戦時下の灯火統制などというのは異常事態なのだが、常態化するとそれが日常となるのに似ているかもしれない。人は何にでも慣れるが、正常な物差しは失わないようにしたいものだ。

米連銀はサブプライム・ショック後、リーマン・ショック後に、米金融市場初めて、ほぼゼロ金利政策を導入した。量的緩和こそ遅れたが、危機感がなかった兆候は見られない。

むしろ危機感がないのは日銀のほうだ。米政策金利の急低下、それに伴う円高、株安にも関わらず、日銀が政策金利を引き下げたのはリーマン・ブラザーズ破綻後だ。欧州中銀は逆に引き上げるが、そのことでドイツ経済が結果的に立ち直るので、別の意図があったと見なすことができる。

米連銀のバランスシートに明記されている事実、また政策金利の推移を見ても、サブプライム・ショックを抜きにして、リーマン・ショックを語るのは無意味だと断言しておく。

そこで、次回の後編では「サブプライム・ショックの真相」を深堀りしてみよう。
この記事の後編が公開されました。続きはこちらからどうぞ

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年9月15日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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