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確実に外れる「10月金融危機説」と、遅れて訪れる真のブラックスワン=高島康司

ドイツ銀行の破綻が引き金になるとされている10月金融危機説は、完全に外れる公算が大きい。では、何か別の危機が起こる可能性はまったくないのだろうか?いや、調べてみるとそうではないことがよく分かる。関連して、「バハマ文書」の公開がもたらす世界的な資金循環の変化についても解説する。やはりアメリカの利上げは近いようだ。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)

※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2016年10月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ドイツ銀行は破綻しない。世界経済を揺るがす本当のリスクとは

内外でささやかれる「10月金融危機説」

内外の在野のエコノミストやアナリストを中心にして、「10月金融危機説」がまことしやかにささやかれている。大手の金融機関の破綻が引き金になり、2008年のリーマンショックを上回る巨大な金融危機が起こり、これによって現在の資本主義経済は実質的にメルトダウンしてしまうのではないかという予測だ。

ドイツ銀行の破綻は本当に近いのか?

この巨大な金融危機の引き金になると考えられているのは、ドイツ最大の銀行、ドイツ銀行の破綻だ。ドイツ銀行は米司法省から140億ドル(1兆4000億円)という途方もない制裁金を課せられ、それが元で破綻するのではないかという。

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2013年ころから、すでにドイツ銀行の経営状態は悪化の一途をたどっていた。以前の記事でも書いたように、2015年に「欧州中央銀行(ECB)」が実施した銀行のストレステストではドイツ銀行は不合格だったし、同時期に発表されたIMFの報告書では、世界の巨大銀行の中で、金融システムへの潜在的なリスクがもっとも高いのはドイツ銀行だとされていた。その後には「HBSC」と「クレディスイス」が続いていた。

こうした事実を反映して、昨年の同時期と比べドイツ銀行は98%の大幅減益となり、2015年12月には68億ユーロ(7790億円)の赤字を計上した。その後、ドイツ銀行の株価は暴落し、リーマンショック前の好景気であった2007年と比べると半値の水準になった。

さらに2014年からは、「欧州中央銀行」が導入したマイナス金利の影響で銀行の利鞘は軒並み低下した。これによりドイツ銀行の経営状態は一層悪化した。

しかし、これに追い打ちをかけたのは米司法省による巨額な制裁金であった。ドイツ銀行は、LIBORという銀行間金融のための金利の不正操作、ならびにアメリカの経済制裁の対象国であったイランとシリアなどのための取引代行などのために、2億5000万ドルの制裁金が課せられていた。

のみならず、米司法省は、2007年の金融危機の発端となった金融商品「CDO」を、破綻することを知りながら販売したとし、140億ドル(1兆4000億円)の制裁金を課すとした。これは巨額の制裁金である。ただでさえ経営状態が悪化しているときに、これだけの制裁金の支払いはドイツ銀行を経営破綻へと追い込む可能性がある。

さらにドイツのメルケル首相は、ドイツ政府が同行を救済することはないと明言した。これまでドイツ政府は、ギリシャやイタリアなどのPIIGS諸国の銀行を政府が救済することを強く禁止してきた手前、救済できないのは当然であった。

このような状況のため、9月30日にはドイツ銀行の株価は10ユーロを下回る水準に暴落し、最安値となった。これはドイツ銀行の破綻が近いのではないかとの観測を強めることになった。

Next: ドイツ銀行破綻による「10月金融危機」が起こらない理由とは?



10月金融危機説は的中するか?

これはまさに、ネットで拡散している「10月金融危機説」が現実となる可能性を示唆する事態である。

それというのも、ドイツ銀行は世界最大の75兆ドル(約8000兆円)のデリバティブを保有しているからだ。これは世界のGDP、66兆ドルよりも大きく、ドイツのGDPの20倍に達する額だ。これは、2008年に金融危機拡大の発端となったリーマンブラザースの保有するデリバティブの比ではない。

また現在、イタリア第3位の銀行、モンテ・パスキが大量の不良債権を抱え経営破綻が懸念されている。モンテ・パスキは、企業の債務不履行を対象にした破綻保険のCDSというデリバティブを大量に発行している。こうしたCDSのかなりの割合をドイツ銀行が引き受けていることはよく知られている。

すると、ドイツ銀行が破綻すると、モンテ・パスキのCDSの引き受けも不可能になるので、これがモンテ・パスキの破綻の引き金となる。さらに、ドイツ銀行はギリシャの主要行が発行するCDSのメインの引き受け先でもある。

このような状況なので、ドイツ銀行の破綻は、リーマンショックをはるかに上回る世界的な金融危機を発生させる可能性があり、それが10月にも起こると予測されているのだ。

これまでほぼ毎年のように金融危機の発生が予見されてきた。今年だけでも3月、5月、6月とそのような予測がネットを駆け巡った。これらはすべて外れた。

だが、今回はドイツ銀行の破綻が近いので、世界的な金融危機は起こってしまうのではないかと真剣に懸念されている。このような見方は、大胆な予測が許される在野のエコノミストだけではなく、主要メディアでもそうした観測記事が多くなっている。やはり「10月金融危機説」は避けられないとの見方が次第に強くなっているのが現状だ。

論理的に予測できる危機は起こらない

これはかなり説得力のある予測だ。だが、このメルマガで何度も書いているように、「論理的に予測できる危機は起こらない」という原則が今回も適用できそうだ。おそらくいま世間を席巻している「10月金融危機説」は、起こらないと見て間違いないと思われる。

それというのも、危機が論理的に予測できるとき、関係機関は危機を回避するために全力を尽くすのが普通だからだ。本当の危機とは、危機の規模が想定をはるかに越えているか、または、「ブラックスワン」と呼ばれる想定外の出来事であるかのどちらかである。どちらの場合も、「想定外」の出来事が起こった場合に限られると見たほうが妥当だ。

では今回のドイツ銀行の場合はどうだろうか?対応不可能なほど想定外の出来事なのだろうか?

いや、そのように言うことはできないように思われる。ドイツ銀行の経営難は、すでに何年も前から指摘されていた。いまに始まったことではない。

今回、これが世界的な金融危機の発端となると思われたのは、米司法省による制裁金の巨額さである。140億ドル(1兆4000億円)とは多くの予想を越える金額であった。ということでは、もし制裁金が想定内の規模に減額されると、経営難破綻の懸念も遠のくことは間違いない。

事実、10月2日になると、当初の140億ドルよりも60%も低い54億ドルで米司法省が妥協する可能性があるとのニュースが流れた。市場はこれを好感し、ドイツ銀の株価が急騰した。また、ドイツ銀行の騒ぎのために世界的に下落していた株価も再上昇した。

さらにこれを受けて、ドイツ銀行のCEOは「ドイツ銀行の経営基盤は心配ない」と声明し、市場に安心感をあたえた。また10月3日には、ドイツ銀行は1000人規模のリストラを発表した。

もちろん銀行の経営悪化の原因のひとつはマイナス金利であるが、ドイツ銀行のあまりに高い人件費が一つの要因であることが分かっている。そのため、リストラの断行は危機回避のための重要な方策として市場では受け取られ、ドイツ銀行の株価をさらに押し上げた。

Next: ドイツ銀行の破綻を望まない米司法省、そしてEU当局の「打ち手」



ドイツ銀行の破綻を望まない米司法省

さて、このように、ドイツ銀行の経営破綻懸念は急速に消失しつつある。しかし、本当に54億ドルという制裁金の額で妥結するのだろうか?ネットでは、これは米政府が、EUを支配下におき、帝国化しつつあるドイツをたたき潰すために意図的に行った制裁なので、当初の140億ドルの制裁金は妥協しないはずだとの見解も見られる。

しかし、そうではないようだ。周知のように、2007年から2008年の金融危機の原因となったのは、破綻が確実な低所得者用の住宅ローン、「サブプライムローン」を組み込んだ金融商品、CDOが大量に出回り、それが「サブプライムローン」とともに破綻したからだ。

米司法省は、このような金融商品を販売した大手金融機関の責任を徹底的に追求し、随時巨額の制裁金を課している。制裁の対象になっている金融機関に国籍の区別はない。アメリカの大手の金融機関も制裁対象だ。以下がそのリストだ。

アメリカの金融機関にも、巨額の制裁金が課せられていることが分かる。たしかに、いまドイツ銀行に課せられる可能性のある54億ドルという金額は高い。しかし、ゴールドマン・サックスの50億ドルとほぼ同水準の金額だ。またバンク・オブ・アメリカにいたっては、166億5000万ドルという、当初ドイツ銀行に課せられた140億ドルよりも多い。

これを見ると、米政府が帝国化するドイツを牽制するためにドイツ銀行のみをターゲットにしたとは到底言うことはできないだろう。とすれば、米司法省が140億ドルの制裁金にこだわるとは思えない。

米司法省は、当初巨額の制裁金を課すものの、最終的には交渉によって二分の一、ないしは三分の一の額まで減額するのが通例である。要するに、金融機関そのものを破綻させる意図は米司法省にはなく、高額だが支払い可能な範囲の制裁金に抑えるというのが原則のようだ。企業そのものを破綻させてしまえば、制裁金の回収も不可能になるという合理的な判断がその背景にある。

さらにEUが乗り出す

しかしそれでも、ドイツ銀行の経営が、かなり厳しい状況であることには変わりがない。近い将来、破綻の危機がないとは言い切れない状況だ。しかし、複数のシンクタンク系のレポートを読むと、EU当局による危機を回避するための対応が急ピッチで行われているのが分かる。

まず一般的な認識として、EU首脳部はドイツ銀行の破綻をドイツ一国の問題とは考えてはない。ドイツ銀行の保有するデリバティブの大きさから見て、EUを経済的に壊滅させかねない問題として捕らえており、EU総体で対応する構えだ。

これから米司法省と制裁金の減額交渉が成立し、ドイツ銀行の危機の話しもしばらくは遠のく可能性がある。しかし、それでもドイツ銀行の経営危機が進行する場合、EU当局が全面的に乗り出す準備を進めている。ギリシャを救済したような、EUを中心にECB(欧州中央銀行)とIMFを巻き込んだトロイカの体制になる可能性も指摘されている。

いずれにせよ、危機が発現していないいまの時点では、どのような対応策になるのかは分からない。しかし、強力な対応策になることは間違いないだろう。

Next: 「バハマ文書」が示唆する、今の世界経済で本当に注目すべきこと



「バハマ文書」による世界的な資金循環の変化

このように、ドイツ銀行の問題が引き金で世界的な金融危機は起こるとする「10月金融危機説」は実現しないと見た方が妥当だ。

しかし、こうした危機説だけに注目していると、いま世界経済で実際に起こっていることを見失う恐れがある。それは、バハマにある富裕層の租税回避のデータ、「バハマ文書」の公開である。

9月22日、「ICIJ(国際調査ジャーナリスト連合)」は「バハマ文書」を公開した。これは、4月に公開されて大変な衝撃を与えた「パナマ文書」に続くものだ。公開されたデータは17万件と「パナマ文書」よりも少ないものの、それなりに大きな反響を引き起こしている。日本を含め、先進国を中心に、富裕層の資産隠しの実態が明らかになった。

アメリカをタックスヘイブンにする仕組み

「バハマ文書」の公開で、世界の富裕層はバハマをはじめ既存のタックスヘイブンから急いで逃避し、安全な地域に資産を移している。この結果、世界的な規模の資金移動が起こっている。

では、そうした資金はどこに集中しているのか?それはアメリカである。第376回の記事でも指摘したように、「バハマ文書」は「パナマ文書」同様、アメリカ国内のタックスヘイブンに世界の富裕層の資金を集中する目的で、「米開発援助庁(USAID)」につながる国策機関、「ICIJ」を通して米政府が公開したと見てよい。これがどういうことか、もう一度解説しよう。

アメリカは、2013年に「外国口座税務コンプライアンス法(FACTA)」を施行した。この法律は、アメリカの市民権を持つすべての人々に保有する金融資産を「米国税庁(IRS)」への報告を厳格に義務づけるとともに、米国内のみならず海外の銀行も、米国民の口座をすべて「米国税庁」に報告しなければならないとする法律だ。もし米国民が国外のタックスヘイブンに秘密口座を持っていることがばれると、巨額の罰金が課せられる。

それに続き、OECD(経済協力開発機構)はアメリカの「外国口座税務コンプライアンス法」にならい、「共有報告基準」を成立させた。これはタックスヘイブンの出現を防止するため、各国が銀行口座、投資信託、投資などの情報をオープンにして共有するための協定である。これまで理想的なタックスヘイブンとして見られていたシンガポールや香港を含め、97カ国が調印した。もちろん日本も調印している。

ところが、アメリカ、バーレーン、ナウル、バヌアツの4カ国だけが調印しなかった。アメリカはこの協定に入っていないのである。

アメリカ国内のタックスヘイブン

これはどういうことかというと、アメリカは「外国口座税務コンプライアンス法」を楯にして、他の国々の金融機関に口座内容などの情報をすべて開示するように求めるが、アメリカ国内の金融機関の情報は他の国に対して一切公表しないということなのだ。

つまりこれは、アメリカ国内に租税回避のための秘密口座を持っていたとしても、これを他の政府に開示する義務はないことを意味している。つまり、アメリカ国内のタックスヘイブンはまったく問題ないということだ。

いま米国内では、ネバダ州、サウスダコタ州、デラウエア州、ワイオミング州の4つの州がタックスヘイブン化している。アメリカでは租税は基本的に州政府が決定しているが、これらの州では「法人地方税」と「個人住民税」がない。さらに、破産したときに州内にある財産の差し押さえをできないようにする「倒産隔離法」なるものが存在しているところも多い。また、どの州でも簡単な用紙に記入するだけで、誰でも会社が設立できてしまう。

OECDが成立させた「共有報告基準」にアメリカが調印を拒否したことは、米政府が国内のタックスヘイブンを維持し、そこに集中した世界の富裕層の資産を米政府自らが他の国の政府の追求から守ることを宣言しているようなものである。

では、アメリカに集中した富裕層の資金はどうなるだろうか?その答えは簡単だ。ドル建てのまま株式を含め米国内の市場に投資される。

Next: ダウ高、ドル高、そして利上げへ/「本当のブラックスワン」の正体



ダウ高、ドル高、そして利上げ

この結果、ダウ高、ドル高のトレンドがしばらく続くことになると見て間違いないだろう。ドイツ銀行の破綻による世界的な金融危機どころか、アメリカを中心にした相場の上昇トレンドである。

そして、「バハマ文書」の公開などという手の込んだ手段を使って、資金をアメリカに集中させた米政府の目的はほかでもない。FRBが利上げをする条件の整備である。世界の富裕層の資金をアメリカに集中させて、景気が上昇している体裁を維持する。それを根拠に利上げに踏み切るシナリオと見て間違いないだろう。

では危機はないのか?

このように、「10月金融危機説」は他の時期の崩壊予測と同じように、実現しないと見た方がよい。では、危機が起こる可能性はまったくないのだろうか?いや、調べて見るとまったくそうではないことがよく分かる。

それは、アメリカとロシアとの関係が予想以上に悪化していることだ。10月4日から7日にかけて、ロシアの「民間防衛省」は、自然災害、ならびに人為的な破壊に備え、ロシア全土で4000万人の市民と20万人の専門家による大規模な演習を実施する。これには核戦争への対応も含まれ、冷戦期以降では最大の演習になる模様だ。

何が進行しているのだろうか?こちらのほうが、「ブラックスワン」のサプライズをもたらす危機になるかもしれない。これは次回に書くことにする。


※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2016年10月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ(2016年10月7日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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