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もんじゅ廃炉という悪知恵。なぜ原子力村の血税タカリは許されるのか?=新恭

ようやく高速増殖炉もんじゅを廃炉とする方向で動き出したとされる政府。これまで1兆円もの血税を注ぎ込んだものの稼働のめどすら立たない「無用の長物」が処分されるのは喜ばしいようにも感じられますが―。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、お得意の「目くらまし」の可能性があると指摘、もんじゅは廃炉にしても核燃サイクルの開発は続けるという政府の真の意図を白日のもとに晒しています。

もんじゅ廃炉は「生贄」 それでも死守される核燃サイクル利権とは

もんじゅ廃炉は核燃サイクル利権死守の目くらましか

「使った以上のプルトニウムを生み出す」というふれこみで研究開発が続けられてきた高速増殖炉「もんじゅ」は、いよいよ廃炉になる方向のようだ。それでも、「核燃料サイクル」という国策は継続し、高速炉の研究を続けるという。どういうことなのか。

「もんじゅ」の廃炉で、いかにも重大な政治決断をしたように見せかけ、その実、「核燃サイクル」にかける予算や人員は減らさないということではないか。いつものように目くらましでごまかされないよう、政府の真の意図をさぐっておかねばならない。

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いまさらいうまでもなく、原子力発電の最大の矛盾は、いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料の処分方法が確立されていないことだ。

いずれ、科学技術の力で克服できると踏んで、とりあえずスタートさせたものの、最終的に地中深く埋めておく処分場が、候補地の反対でいっこうに見つからず、使用済み核燃料は各原子力発電所のプールに貯まり続けている

この状況を打開し、ウラン資源を持たない弱みを解消するための、一石二鳥プランとして浮上し、事業化したのが「核燃料サイクル」である。

使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出して再び使うというサイクル計画。そこには、自力で核兵器をつくる技術的な能力を持っていたいという政府の思惑もある。

それを承知のうえ、米国が原子力協定を結んで非核保有国である日本に再処理を認めたのは、思うがままコントロールできる、いわば「属国」という双方暗黙の前提があるからだ。

この事業計画のかなめとなるのが高速増殖炉「もんじゅ」だったが、トラブル続きで36年経っても実用化できなかった。1兆円もの巨費を垂れ流し、多くの職員やファミリー企業の雇用を維持するだけの存在となっていた。

民主党政権下の平成24年9月には、「革新的エネルギー・環境戦略」なる文書のなかで、「研究を終了する」という目標が打ち出された。「もんじゅ」廃炉のチャンスだったが、しょせん目標は目標にすぎなかった。

そして、自公に政権が移ったあと、原子力ムラの勢いが復活し、2013年12月、政府はエネルギー基本計画を作成して、民主党政権が決めた「原発ゼロ」方針を撤回、「もんじゅ」に関しては「研究終了」から「実施体制を再整備する」に転換した。だがそれには無理があった。

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もんじゅをなくして、核燃サイクルが成り立つのか

「もんじゅ」は、実施体制の再整備どころか、まったく稼働のめどが立たない。年200億円をこえる国費は人件費を中心とする維持管理費に消え、開発の進展にはつながらない。

さすがの原子力規制委員会も、運営主体を日本原子力研究開発機構から別の組織に代えるようにという、実現不可能な勧告を出し、「廃炉やむなし」の姿勢を打ち出していた。

この流れを受けて、経産省は「廃炉」に傾き、文科省は「温存」に固執、安倍官邸への働きかけ合戦が繰り広げられた。その結果、「核燃サイクル」の神話を守りつつ、トラブルメーカーの「もんじゅ」をそこから切り離す方向性が固まり、9月21日の関係閣僚会議において廃炉を含む抜本的な見直しを行うことが決まった。

だが、ここで疑問がわく。「もんじゅ」をなくして、「核燃サイクル」が成り立つのか

こういうとき官僚はしたたかだ。「もんじゅ」は廃炉にするが、「高速炉」の研究は続けるという理屈をでっち上げたのだ。それなら、「核燃サイクル」の旗を降ろさずに済むというわけだ。

もちろん新高速炉などできるわけがない。空気や水に触れると激しく反応するナトリウムを冷却材に使うかぎり、安全管理は非常に難しい。開発先進国の英独はすでに撤退、フランスも実証炉の建設にまでこぎつけながら、結局は廃止した。

なのに、この国ではまだ高速炉の研究を進め、税金を投入するという。これまでの歴史を振り返ってみれば、それがいかに虚しいことか、再確認できるはずだ。

「もんじゅ」は日本原子力研究開発機構(JAEA)という独立行政法人が開発を進めてきた。

エネルギーに関する原子力政策は経産省、科学技術に関する原子力政策は文科省と、省設置法で所管省庁が整理されている。経産省は、今後も事故やトラブルを起こす可能性が高く原発推進の阻害要因となりかねないとして「もんじゅ」の廃炉を進める方針を固めた。

だが、素直に評価できないのは、高速炉の研究を断念しないからだ。これは組織の温存にほかならないのではないか

文科省にとっても、経産省にとっても、JAEAは自分たちの老後の安泰のために大切な天下り組織である。これまで随意契約による事業発注でファミリー企業を養い、ポストを数多く確保してきた。その規模をできるだけ縮小したくないのだろう。

JAEAの職員は約3,700人。平成28年度予算額は1,370億5,400万円で、うち「もんじゅ」を含む高速炉研究開発に282億8,500万円を計上している。

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「消えた国民の血税」のカラクリ

民主党政権の頃に行われた「事業仕分け」の会議で、財務省主計官はこう指摘した。

実質的には、もんじゅの予算のすべてが維持管理費だ。そのうち人件費が大量に含まれているのではないか。これが果たして研究開発費といえるのか。

「もんじゅ」は運転開始して間もない95年にナトリウム漏れ火災を起こして停止した。2010年5月、14年半ぶりに運転を再開したが、8月にはまたしても原子炉容器内に筒型の炉内中継装置が落下する事故を起こし、さらに点検漏れ、虚偽報告などが続いて、停止したまま稼働のメドはついていない。

「もんじゅ」にこれまで1兆円を投じた無駄遣いが指摘されている。だが、核燃サイクルをめぐる損失額はそんなものではない。

もともと高速増殖炉を手がけていた核燃料サイクル開発機構と日本原子力研究所が統合して2005年10月にJAEAが誕生した際、サイクル機構にはなんと2兆5,657億円の繰越損失金があった。

政府はこれをどう処理するか頭をひねった末、政府出資金4兆円超から損失処理分を減額するやり方で帳消しにした。その結果、国民の巨額の血税は闇に消えた

研究開発を主とした、いわば交付金や補助金以外に収入源のない法人への出資金は、政府が回収できないケースがあるばかりか、追加の出資を重ねることも多い。そうなると当然、残高が蓄積してゆく。

サイクル機構の場合、出資残高が巨額になったのは電源特会(現エネルギー対策特別会計)からの支出が1980年から始まり、年々増え続けたからだ。

こうして積みあがった4兆円を超える出資金の巨額未返済を、メディアが大きく報じることもなく、いつの間にか損失処理されてJAEAという独法が誕生し、新たな天下り利権の仕組みが出来上がったのである。

国策に庇護されてきたとはいえ、この機構に流れた国家マネーの行先はあまりに不透明だ。それでも、核燃サイクルという神話を維持するために、これからも国民の血税をここに注ぎ込むつもりらしい。

「もんじゅ」の廃炉を、生贄として差し出すことによって、JAEAという利権組織を守り、原発再稼働、使用済み燃料再処理、プルトニウム利用技術の進展をはかろうという思惑がみてとれる。

これまで核燃サイクルを理論的に支えてきた日本原子力学会は9月23日、「もんじゅ」について、「無理をせずに段階的に出力を上げ、有効利用を図るべきだ」と廃炉に反対の意向を表明した。この期に及んでも、利益共同体である「原子力ムラ」の身勝手な理屈を押しつけようとするのだ。

しかし半面、原子力学会の声明は「もんじゅ」の本質をついているともいえる。

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日本はどれだけのプルトニウムを保有しているのか

「もんじゅ」の廃炉が意味することは、以下のようなまとめで差し支えないだろう。

プルトニウムを増やす「もんじゅ」が廃炉になれば、サイクル政策を続ける意味がなくなり、使用済み核燃料が「ごみ」となるおそれがある。最終処分場の見通しはなく、使用済み核燃料の行き場がなくなって、ふつうの原発の運転も立ちゆかなくなる。だからこそ、もんじゅは、成果をあげなくても約1兆円の税金を垂れ流しにして守られてきた。
引用:崖っぷちのもんじゅ 夢の高速増殖炉、風前のともしび – 朝日新聞(2015年12月3日付)

「もんじゅがなければ核燃料サイクル政策、ひいては原子力政策全体が立ちゆかなくなる」という文科省の主張もこれとほぼ同じだ。

経産省が高速炉研究継続に具体性を持たせるためにあげるフランスの高速炉アストリッド計画への協力は、いまだ海の物とも山の物ともつかないシロモノである。

このことをいちばんわかっている原子力学会が、「もんじゅ」なくして高速炉研究を継続するということはありえないと、あらためて主張したとみることもできる。

だが、政府は、使用済み核燃料の再処理で取り出したプルトニウムとウランの混合燃料(MOX燃料)を普通の原子炉で使うプルサーマル発電によって、核燃サイクルはまわり続けると強弁する。

日本が保有するプルトニウムは国内外で計約48トンもあるという。長崎原爆なら4,000発以上も生産できる量だ。プルサーマルのようなものではとても消費できない。

再処理工場というのは原子力発電所以上に危険な施設である。日本にはもともと再処理の技術などない。フランスの技術を導入して六ヶ所村の工場をつくったのだ。

しかも六ヶ所村の再処理工場はいまだ本稼働に至っていない。むしろ稼働させたら、英仏の再処理工場に委託するよりコストが数段高くつくといわれている。六ヶ所村の再処理計画もまた破綻しているのだ。

六ヶ所村で使用済み燃料を再処理し、取り出したプルトニウムを「もんじゅ」で燃やして、より多くのプルトニウムを生み出し、それを資源に原子力発電を続けていくというのは、もはや絵空事にすぎない。

つまるところ、「もんじゅ」の廃炉は、核燃サイクルの終焉であることを認識しなければならない。

核燃サイクルの終わりは、脱原発を完遂するための遠大な事業の始まりを意味する。そしてそれは同時に、再生可能エネルギーをメインエネルギーとするための技術革新をめざすスタートでもある。

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国家権力&メディア一刀両断』(2016年10月4日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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