株主騒動で揉めていたクックパッドがかなり割安で放置されていますね。1年前は2,500円だった株価が、なんと985円まで値を下げています。2015年は大きくEPSを伸ばしていますし、業績は全く悪くありません。しかし、この騒動のおかげで、株価は半値以下に大暴落しています。
ただし、個人的にはユーザーはそれほど気にしていないように思います。利用者は自分のお気に入り登録したレシピもありますから。そう考えた時に、クックパッドは本当に買ってはいけない泥株なのでしょうか?(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)
会社名:クックパッド<2193>
現在株価:974円(2016年10月12日終値)
※『バフェットの眼(有料版)』では、読者からのリクエストも踏まえ、毎号さまざまな企業を詳しく分析しています。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
お家騒動で暴落、クックパッドをバフェット流12の視点で分析する
「クックパッド」のビジネスモデル
クックパッドのビジネスモデルは結構簡単で、無料版で使えるものに、有料機能が加わるだけですね。2014年の有価証券報告書を読んで、そこから重要のことだけ箇条書きしていきます(少し古い分析で申し訳ありません)。
・スマートフォンからの利用者数は4,245万人
・投稿、蓄積されたレシピ数は272万品超え
・すべての利用者は「レシピ検索」が可能
メニュー名や特徴となるキーワード「運動会」などから該当するレシピを検索できるほか、食材(複数の組み合わせを含む)から当該食材を使用したレシピを検索することができます。
・ID登録利用者は、以下の機能を利用可能
【1】「MYキッチン」
「クックパッド」内に「MYキッチン」を開設することにより、以下の機能の利用が可能となります。
- 「レシピ投稿」
自分が作成したレシピを写真付きで投稿することができます。また、自分が投稿したレシピへのアクセス数を確認したり、他のID登録利用者から投稿された写真付きのコメントを閲覧することができます。 - 「つくれぽ」
レシピ作者にレシピの感想を写真付きで投稿することができます。 - 「ごはん日記」
日々の食事や料理の結果を日記として投稿することができます。
【2】「MYフォルダ」
他の利用者が作成したお気に入りのレシピを登録して保存することができます。
【3】「MYニュース」
お気に入りのレシピ作者を登録することにより当該作者の新着情報等を閲覧することができます。
・「クックパッド」及び「モバれぴ」の有料ID登録利用者特典
有料ID登録利用者に対しては、さらに人気レシピ検索機能、レシピ保存容量の増加機能などを月額302円(税込)で提供しております。ただし、iPhoneアプリから有料ID登録された場合にのみ、月額300円(税込)で提供しております。
・2015年12月末時点で有料会員510万人を突破
つまり、300円×510万=約5億円が毎月入ってきます。5億円×12カ月=60億円です。
・広告事業部門(売上:4,666百万円)
これは、レシピ機能を使った広告ですね。例えば、食品会社がめちゃくちゃおいしい和牛を手に入れたとします。それを使ったレシピを紹介することで、普段料理を作る人にめちゃくちゃおいしい牛肉を販売するような広告ができるというシステムですね。
だいたい事業概要が頭に入ったでしょうか?
売り上げのほとんどが会員事業(有料会員の月額料金)と広告事業から成り立っています。
会員事業:6,606百万円
広告事業:4,666百万円
これだけで、100億円突破です。その他ECやら買い物情報やらがあるのですが、おまけみたいなものです。一番増加しているのは、会員事業部門です。何より安定した収益につながるところが、一番の伸びを示しているというところは素晴らしいですね。
有料となると、レシピの保存容量を増やしているわけですから、かなりハマっています。そして、もし退会となると、今まで自分が集めたものが全てパーになるわけですから、なかなか会員を辞めにくいですよね。そこが素晴らしいところです。
ちなみに、アメリカ、スペインなどへの海外展開を始めています。ただし、単純にcookpadを持ち込むのではなく、すでに海外で成功しているレシピサイトを買収する形で進めているようです。これは、いいことだと思います。ある意味、お金で成功を買えているわけですから。あとは、収益モデルを作るだけです。さて、日本と同じことができるかが、見ものです。
本当は来週に持ち越そうと思っていたのですが、「あれ? この会社ヤバくない?」と思い、興奮してきたので、分析を続けます。
Next: 「クックパッド」は消費者独占力を持っているか?悪評を疑え
Q1:その企業は消費者独占力を持っているか
明らかに会員事業から収益を得ているうえ、会員を継続的に増加させ続けています。レシピサイトは、クックパッドが独占していると言っても過言ではありません。私も料理をするのですが、登録したくて仕方ありません(まだしてないのですが…)。
Q2:その企業を理解しているか
理解しています。有料会員を増加させていくことで、継続的に成長し続けています。まさにバフェットの概念に合致する企業です。
Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐化していないか
料理は全て自動化されるでしょうか? 車の自動運転技術で四苦八苦している状態ですので、多種多様な動きを必要とする料理はまだまだなくならなさそうです。また、料理を楽しむという概念も根強くありますので、陳腐化していないと予想します。
Q4:その企業はコングロマリットか
コングロマリットではありません。インターネット事業に注力していますね。
Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか
先に分かりにくい部分を述べておきます。
- 2014年4月から連結財務諸表です。
- 2014年度は、決算時期変更により2014年4月から2014年12月までの8カ月です。
- 株式分割は1株がEPSが同じ状態を表すように補正。
以上を考慮したEPSが以下のものです。素晴らしい業績です。まず成長が直線状に伸びていて、相関係数が0.9389です。会員を集めるビジネスという、蓄積できる仕組みがあるからこそ実現できる直線性でしょう。波がある企業ではこの芸当はできません。
決算年 EPS(円/株)
2015 23.72
2014 15.19
2013 18.87
2012 16.46
2011 11.39
2010 8.8
2009 6.1
2008 2.9
2007 2.1
2006 0.4
年平均EPS成長率:48.7%
Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか
いや、これはちょっと伸びすぎですね。純資産額が爆発的に伸びるに従い、確かにROEは下がっていますが、素晴らしい業績だと言っておきましょう。
純資産額が大きく伸びているため、2014年に新株発行を行い、資産が大きく増加しているため、ROEも大きく低下しました。個人的には増資の必要性には疑問符が残りますが、それでもROEは捨てたものじゃないほどの高さを保っています。
決算年 ROE
2015 13.4%
2014 11.8%
2013 23.6%
2012 29.9%
2011 27.5%
2010 27.8%
2009 35.2%
2008 50.4%
2007 72.3%
2006 69.8%
平均ROE:36.2%
Next: 気になる「クックパッド」の財務基盤をチェックする
Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか
財務基盤を見る際は、自己資本率が良く使われますが、それはバフェット的にはNGです。長期債務に対して、どれだけ稼ぐ力を持っているかが重要と考えています。
今期の長期負債(千円):7,896
今期の税引き後利益(千円):1,523,774
長期負債/税引後利益(年):0.01
長期負債はほぼありません。素晴らしいですね。
Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か
自社保有株式は、発行していないとみなしています。
今期発行済み株数:106,906,800
10年前の発行済み株数:81,360,000
過去10年間に減少した株数:-25546800.00
減少した割合:-23.90
20%ほど増加していますね。2014年の発行がでかいと言えるでしょうね。この時期、海外に乗り出すことが話題となり、資本増強したんですがね…。どうもそんなに海外はうまく行っていない様子が伺えます。もちろん、頑張ってほしいわけですが、自社株買いもしてほしいですね。安定した収益源を持った企業ですので。
Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか
上げていないですし、下げていないですね。うーん。サービスの値上げはどうなんでしょうね。ある程度許容できると思いますが、日本では不要な気もします。
Q10:その企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか
PER:19.9倍
PERだけ見るとあまり割安とは言えませんが、過去の状態を見ると、株価は2013年の状態です。会員ビジネスであるという安定した事業性を考えると、私は十分割安に感じます。
ちなみに、天井を付けた後下落局面に入った時に、底の水準を判断する目安とされる相場の格言に、半値八掛け二割引というものがあります。単純に1/3になったら買いであるということです。もちろん、特に根拠はありません(笑)。
しかし、一時株価が3,000円に近かったことを考えれば、今はちょうど1/3です。チャンスなのかもしれません。
Next: 高い成長性が魅力。積み上がった資本を活かしきれるか
Q11:株式の利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ
以下は計算です。まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。
【1.予想成長率を求める】
(必要な値)
10年平均ROE:36.2%
配当性向:30%
(式)
株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)
(答え)
株主資本の予想成長率:25.3%
【2.予想BPSを求める】
さらに、今求めた、株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。
(必要な値)
直近のBPS:203.46
株主資本の予想成長率:25.3%
(式)
10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10
(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 ¥1,943.8
【3.予想EPSを求める】
この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。
(必要な値)
10年後の予想BPS:¥1,943.8
10年平均ROE:36.2%
(式)
10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE
(答え)
10年後の予想EPS:¥703.07
【4. 10年後予想株価を求める】
さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。
(必要な値)
10年平均PER:61.4
10年後の予想EPS:¥703.07
(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS
(答え)
10年後予想株価:¥43,184.49
【5.年間期待収益率を求める】
10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。
(必要な値)
10年後の予想株価:¥43,184.49
現在の株価:¥985
(式)
年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
年間期待収益率:45.9%
【結果】
高いですね。もちろんこれは、積み上がった資本をしっかりと活かしきれた場合の話です。個人的には、広告宣伝費に使うことでかなりの売り上げを増やせると思います。インターネットのなかった時代は、店舗を増やすことで実現していたのですが、今は広告宣伝費でそれを行うことができます。
Next: 結論:クックパッドへの投資はあり?なし?
Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ
【1. 10年後BPSを求める】
まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して、10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。
(必要な値)
年平均EPS成長率:48.7%
現在BPS:203.46
(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS
(答え)
*10年後BPS(円/株):10790.1
【2. 10年後EPSを求める】
今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。
(必要な値)
過去10年平均ROE:36%
10年後BPS(円/株):10790.1
(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE
(答え)
*10年後EPS(円/株):3902.8
【3. 10年後予想株価を求める】
さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。
(必要な値)
過去10年平均PER(倍):61.4
10年後EPS(円/株):3902.8
(式)
・10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)
(答え)
*10年後予想株価:239,719.8
【4. 年間期待収益率】
この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。
(必要な値)
10年後予想株価(円/株):239,719.8
(式)
年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
*期待収益率(%/年):73.2%
【結果】
コチラも文句なし。超高水準です。ROEが下落するのはしょうがないので、さすがにここまでの成長は望めないでしょうが、好業績であり、安定していることは間違いありません。
結論:クックパッドへの投資はあり?なし?
個人的には初めてバフェットの理に適うネット企業を見つけたような気分です。そして今は割安と言えそうです。PER19倍ですが、孫さんが、ARM社を買ったように、いい企業であれば多少高くても買ってよいと考えています。多分買います(笑)。
※『バフェットの眼(有料版)』では、読者からのリクエストも踏まえ、毎号さまざまな企業を詳しく分析しています。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『バフェットの眼(有料版)』2016年10月11日号より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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