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総理のご意向と裏腹に「安倍内閣が目指す日本」を疑いはじめた国民=近藤駿介

安倍内閣は、加計学園疑惑で告発者の前川前文部事務次官を貶めようと必死になり、逆にみずからの信用を貶めた。直近の世論調査で注目されるのは、内閣不支持の理由として「人柄が信頼できないから」が大きく上昇している点だ。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は得にお得です。

「人柄が信頼できない」で不支持率急上昇、安倍内閣の驕りと誤算

加計疑惑から逃げまわる官邸

国会会期末が6月18日に迫る中、国会では与野党の攻防が激しさを増してきている。その主役となっているのが「総理のご意向」「官邸最高レベルの話」と記された加計学園に関する文書の存在である。

「文部科学省において検討した結果、出所や入手経緯が明らかにされていない文書については、その存否や内容などの確認の調査を行う必要がないと判断した」

文書の存在が指摘され始めた当初から「怪文書」と断じて歯牙にもかけなかった官邸側は、野党やメディアから文書に関する追及が強まってもこうしたぶれない答弁を繰り返すことで問題を「怪文書の存否」に矮小化し、事態の鎮静化を図ろうとする姿勢を頑なに示してきた。

しかし、文部科学省の複数の現役官僚の中から文書の存在を認める証言が出てきたり、8日に行われた官房長官の定例記者会見で、東京新聞の社会部記者が野党を上回る厳しい追及を見せたりしたことで潮目が変わり、翌9日に文部科学省は前言を翻し文書の追加調査を行う方針を示した。

【関連】世論は無視できても…中曽根大勲位と米国を敵に回した安倍官邸の誤算=斎藤満

「国民の声を重く受け止めて」という大嘘

松野文部科学大臣は、文部科学省が方針転換して追加調査を実施するに至った経緯について、「追加調査を行う必要があるとの国民の声が多く寄せられている」ことを踏まえ、9日の閣議後に安倍晋三首相に「追加調査をしたい」と伝え、首相から徹底した調査を速やかに実施するよう指示を受けたと説明している。

簡潔に言えば、「国民の声」を重く受け止めた文部科学相が総理に追加調査を直訴し、総理の英断で実施することになった、というように見せたということである。

しかし、官邸側は一貫して「追加調査を行わないのは、文部科学省が必要ないという判断をしたからであり、官邸はそれを了としただけだ」という立場をとってきている。さらに、官邸がリーダーシップをとって再調査を指示することはない、という姿勢も見せていた。

つまり、本来ならば、追加調査は官邸にお伺いを立てなくても、文部科学省の判断で行うことはできる状況だったということである。

にもかかわらず、官邸にお伺いを立てる必要のない事案についてわざわざ総理にお伺いを立て、追加調査の実施が「総理のご意向」であるかのような演出をしてしまったために、閣僚、官僚のなかに「総理のご意向」を尊重、忖度する文化が根強く存在することを内外に明らかにする格好になった。これは皮肉なことである。

Next: 「総理のご意向」ではじまった“怪文書”追加調査の致命的な矛盾



「追加調査」の致命的な矛盾

「総理のご意向」で始まった追加調査の結果は、15日にも公表される見通しだと報じられているが、もともと文部科学相と官邸は「徹底的に調査し、結果がまとまり次第可能な限り速やかに発表する」としている。

しかも、萩生田官房副長官は会見で「文書が存在するかどうかと、その中身が本当かどうかは別である」という見解を示しており、追加調査の目的はあくまで「総理のご意向」があったと記されている「怪文書」の存否確認であり、「総理のご意向」の存否確認ではないことを強調している。

仮にそうだとしたら結果はイエス、ノーの二者択一であり、「結果をまとめる」必要はないはずだ。

それにもかかわらず、わざわざ「結果がまとまり次第可能な限り速やかに」というのは、追加調査で容易に存在が確認されるはずの「出所も入手経緯も明らかな文書」が、なぜ最初の調査で見つからなかったのか?なぜこれまで「怪文書」と切り捨て存在を認めようとしなかったのか?の言い訳づくり、口裏合わせに時間が必要だからだと勘繰られてもしかたがない。

筋が通らない「犯人捜し」

またここに来て、文部科学省が行う追加調査の本当の目的が、「怪文書」を野党やマスコミにリークした犯人捜しであるという指摘も持ち上がってきている。

この疑惑に関して国会で追及された文部科学副大臣の口からは、「一般論」と断りを入れながらも、「非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可なく外部に流出させることは、国家公務員法(違反)になる可能性がある」という発言も出てきている。

確かに、一般論として「業務上知ることのできた秘密」を許可なく外部に漏洩することは、守秘義務に違反しているといえる。

しかし「怪文書」を野党やメディアにリークした官僚を、文部科学省が国家公務員法違反に問う時点で、「総理のご意向」「官邸最高レベルの話」など一連の疑惑は「非公知ではあっても行政運営上のプロセス」であり「業務上知ることのできた秘密」、ひいては事実だったということになる。

そうなれば、文部科学省みずから「怪文書」の内容が事実であることを認める、というおかしな構図になってしまう。

そもそも国家公務員法では「行政は国民に対して公開で行われることが原則」だと謳っており、「総理のご意向」や「官邸最高レベルの話」が非公開であること自体が法の精神に反することになる。

「怪文書」に記載された「総理のご意向」や「官邸最高レベルの話」がまったくのデタラメであるというのであれば、「怪文書」を外部にリークした官僚が問われるのは国家公務員法違反ではなく、名誉棄損や威力業務妨害でなければ筋が通らないはずである。

Next: 国民も気づきはじめた「怪文書問題の本質」と安倍官邸の誤算



国民も気づきはじめた「問題の本質」

また、この「怪文書」が持つ本質的な問題は、その存否ではなく、「総理のご意向」や「官邸最高レベルの話」といった疑惑が真実かどうかということである。

獣医学部の新設が「総理のご意向」によって、加計学園ありきで進められたのか?という根本的な疑惑の解明は、文部科学省だけではなく内閣府、さらには総理本人を徹底的に調査しなければ明らかにならないもののはずである。

官邸の加計学園に関する「怪文書」への対応は非常に不誠実で、拙いものになっている。今回官邸が加計学園問題の対応を誤ったのは、一部で「政権の1つや2つが飛んでもおかしくない」とまで言われた森友学園問題をうやむやにして葬れたという「成功体験」に味をしめたからかもしれない。

人格攻撃による「印象操作」に失敗

森友学園問題では、どんなに状況証拠を突きつけられても、事実確認にも証人喚問にも応じず、国会では「記憶にない」をはじめとしたぶれない答弁を繰り返し、ひたすら嵐が通り過ぎるのを待つ作戦で世間の追及を乗り切ることができた。

こうした森友学園問題での成功体験を踏襲したのか、加計学園に関する「怪文書」の存在を前川前事務次官がメディアに出て認めた際、官邸は森友学園の籠池前理事長のときと同様にまず「事務次官という地位に連綿としがみついていた人物」「出会い系バーに通うなど教育者としてあるまじき行為を行う人物」など、前川前事務次官への人格攻撃を行った。

告発者の人格を貶めることで、その人の発言自体信用に値しないという印象を与えるこの「印象操作作戦」は、森友学園問題でも功を奏したからである。

しかし、森友学園問題で功を奏したこの作戦は、加計学園問題では功を奏するどころか逆効果になってしまった。こうした作戦ミスは、官邸側が森友学園問題と加計学園問題の根本的な違いを軽視したことによって起きたといえる。

官邸の誤算

森本学園問題では、財務省も国土交通省も、そして森友学園の籠池前理事長も、それぞれが事実を隠していた。これに対して、今回の加計学園問題で真実を隠そうとしているのは文部科学省と内閣府を含めた官邸側であり、攻撃の対象が文部科学省の前事務次官という身内だった。

さらには、疑惑の舞台となっている加計学園の理事長など関係者は一切表舞台に登場しておらず、仮想敵は身内にしか存在していない。この点が森友学園問題と加計問題の最大の相違点である。

それにもかかわらず、官邸側はこうした認識をほとんど持たずに、加計学園と森友学園を同質の問題として扱おうとした、このことが初期対応を間違えた大きな原因だったといえる。

理屈上は相手を貶めることに成功したとしても、攻撃側の立ち位置が向上するわけではないが、お互いに事実を隠しているのであれば、相手を貶めることで一時的であれ攻撃を無力化し有利な立場に立つことは可能だ。

しかし、事実を隠しているのが自軍である場合には、いくら相手を貶めたとしてもその効果は限定的でしかない。貶める対象がもともと身内であった事務次官となればなおさらである。

Next: 「高支持率」にあぐらをかく安倍内閣を疑いはじめた日本国民



不支持理由で「人柄が信頼できないから」が急上昇

官邸が告発者の前川前事務次官を貶めようと必死になったことで、みずからの信用も貶めてしまう結果を招いたことは、世論調査にも表れ始めている。

文部科学相が「総理のご意向」を受けて再調査を決めた9日から3日間に行われたNHKの6月の世論調査では、安倍内閣の支持率は5月の51%から48%へ3%低下すると同時に、不支持率は5月の30%から36%へと6%上昇した。

安倍内閣の支持理由の鉄板である「他の内閣よりよさそうだから」は、5月の45%から50%へと上昇し、依然として安倍内閣は信頼の失墜した野党に助けられて高い支持率を維持しており、支持率の絶対水準自体は低いわけではない。

だが注目されるのは支持率自体よりも、不支持の理由として4月時点では27%しかなかった「人柄が信頼できないから」が5月には32%へ、そして6月には43%へと、「総理のご意向」に反して大きく上昇してきているところである。

「自衛隊の明文化」と「高等教育の無償化」を柱に、2020年の憲法改正を目指すことを明言した安倍総理の思惑とは裏腹に、国民は「総理のご意向」によって、総理のお友達による「学校新設の無償化」が横行する異常事態に厳しい監視の目を向けはじめた。総理はこのことをもっと自覚する必要がありそうだ。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年6月15日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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