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ノーベル賞無視のボブ・ディランと「一流トレーダー」の意外な共通点=矢口新

ノーベル文学賞を受賞した歌手のボブ・ディラン氏が、賞を辞退するかもしれないという。権威は、権威を否定されることを最も恐れる。そして権威など全く通用しない世界もある。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

※本記事は『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年10月24日号)の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

権威は社会を固定化する。トレーダーは相場で権威に挑戦する

賛否両論、ボブ・ディラン氏の「ノーベル文学賞」受賞

2016年のノーベル文学賞に、歌手として史上初めて選ばれたボブ・ディラン氏が、騒動の種となっているようだ。

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今年のノーベル文学賞(Nobel Prize in Literature)に米歌手のボブ・ディラン(Bob Dylan)氏(75)が選ばれたことを受け、文壇には「衝撃が走った」と言っても、まだ控えめな表現になるだろう。

今年の候補としては、シリアの詩人アドニス(Adonis)氏やケニアの小説家・批評家のグギ・ワ・ジオンゴ(Ngugi Wa Thiong’o)氏が有力視されていた。ディラン氏の受賞は、戦慄(せんりつ)や当惑、歓喜といったさまざまな反応で迎えられた。

フランスの小説家、ピエール・アスリーヌ(Pierre Assouline)氏はAFPに対し、「ディラン氏の名はここ数年頻繁に取り沙汰されてはいたが、私たちは冗談だと思っていた」と語り、選考委員会に対する憤りをあらわにした

<中略>

同じくノーベル賞候補の一人と目されているインド生まれの英国人作家、サルマン・ラシュディ(Salman Rushdie)氏は、より寛大な姿勢を見せている。同氏はツイッターで「素晴らしい選択」と評し、「(ギリシャ神話の吟遊詩人)オルペウス(Orpheus)から(パキスタンの詩人)ファイズ(Faiz)まで、歌と詩は密接な関わりを持ってきた」と、選考委員会の声明と同様の見解を示し、「ディラン氏は吟遊詩人の伝統の優れた伝承者だ」とたたえた。

米国の文豪でソーシャルメディア上での発信を頻繁に行うジョイス・キャロル・オーツ氏も、選考委員会からの電話を息を詰める思いで待っていたわけではないと示唆し、「傑出した、ユニークな選択」だったとディラン氏に対する祝意を表明。「心に残る彼の音楽と歌詞は常に、最も深い意味で『文学的』に感じられた」とツイートした。

引用:ボブ・ディラン氏にノーベル賞、文学界で賛否噴出 – AFPBB News(10月14日付)

今年のノーベル文学賞に決まった米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン氏の公式サイトから「ノーベル文学賞受賞者」の表記が21日までに削除された

13日の授与発表後、ディラン氏はコメントを発しておらず、授与を受け入れるのか辞退するのかに注目が集まっているが、削除の意図は不明

公式サイトはディラン氏のコンサート日程や作品の一覧などを掲載している。「受賞者」の表記は、その中の書籍紹介コーナーの一部にあった。

引用:ディラン氏公式サイト、「ノーベル賞受賞」削除 – 共同通信 47NEWS

選考メンバーがボブ・ディラン氏を批判

以前海外で、巨額の賞金を宝くじで当てた人が、受け取りを辞退したという話があった。現状が十分に幸せなので、大金を手にすることで、家族とのバランスを狂わせたくないとのことだった。その人は全額をチャリティーに寄付した。

お金が必ずしも人を幸せにする訳ではない。必要以上の大金が人の人生を狂わせることは十分にあり得ることだ。賞金の受け取りを辞退する人がいてもおかしくはない。とはいえ、辞退するならば、買わない方が賢明だ。今後、辞退したことを自らが後悔したり、家族から責められることがないとも限らないからだ。

同様に、ノーベル賞が100%今後の人生にプラスに働くとは限らない。ノーベル賞を受け取ることで、自分や周りが変わってしまうことは十分に考えられることだ。現在の自分の状態が十分に幸せで、大きな変化を望まない人がいてもおかしくはない。応募者に与える賞ではないのだから、どんなに名誉な賞でも押し付けていいとは限らない

今年のノーベル文学賞に選ばれた米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン氏が沈黙を続けていることに対し、選考主体のスウェーデン・アカデミーのメンバーが21日、スウェーデン公共放送SVTのインタビューで「無礼かつ傲慢だ」と強く批判した。

作家らでつくる同アカデミー(定数18)の一員のペール・ウェストベリ氏で、「この事態は予測しなかった」と困惑気味に語った。

アカデミーは13日の授賞発表後、ディラン氏に再三連絡を試みてきたが、接触できないまま既に1週間が経過。12月の授賞式に来るのかどうかも不明で、権威を傷つけられたいら立ちが噴出した形だ。

引用:ディラン氏は「無礼で傲慢」文学賞選考メンバーが批判

Next: 権威なんてクソくらえ。権威に挑戦し富の分配に預かる相場の魅力とは



誰が「無礼かつ傲慢」なのか

ノーベル賞とは何という権威だろう。本人が知らない所で、本人の意向など全く顧みず、当人の人生を変えてしまうような決定を下し、それを受け入れないと、「ノーベル賞を欲しくないのだろう。自分はもっと大物だと思っているのかもしれない。あるいは反抗的なイメージのままでいたいのかもしれない」などと邪推する。

これは権威を笠に着た発言だ。もしかすると、電話にもでないことは無礼だと見なす人がいるかもしれないが、礼儀を言うならば、選出前に電話をするべきだ。今後の人生を変えるような重大なことを、当人の了承なしに行うことは、本来の礼儀ではない。好意、善意の押し付けだ。すべての人がノーベル賞を喜ぶ必要があるだろうか? 名誉の押し付けはできない。

ボブ・ディランは、ノーベル賞に値すると選考主体のスウェーデン・アカデミー自らが認めた人だ。その賞が名誉に値するものならば、アカデミーの一員は受賞者に敬意を払うべきだ。敬意があれば、電話に出てくれないことは、自らの反省の材料とすべきことで、責める筋合いはない。「無礼かつ傲慢」というのは、個人の意思、しかも自らが偉大だと認めた人の意思に対する敬意のかけらもない発言だ。権威とは恐ろしいものだ。

文学は多様性を尊ぶ。その意味では、ノーベル賞だからと無条件に有難いと受け入れる人たちから一線を引き、電話にもでないボブ・ディランは、まさに文学的だ。これらのことで、ノーベル賞の権威が傷ついたとすれば、傷つけたのはボブ・ディランではなく、ペール・ウェストベリ氏の方だろう。

権威が最も忌み嫌うもの

日本人でも、ノーベル賞の受賞者は数多いが、受賞への反応を見れば必ずしも一様ではない。権威に評価されたことを喜び、自らの権威の箔付けとした人もいれば、研究課程の一成果として淡々と受け入れた人、権威や受賞そのものにはさほど興味はないが実益や後進のために大人の対応をした人などだ。

ペール・ウェストベリ氏の発言は権威の持つ特質を端的に表している。権威は、権威を否定されることを恐れるのだ。ノーベル賞に限らず、官位、勲章、役職、その他の権威に繋がるものは、その権威を認める相手にしか効果がない。ペール・ウェストベリ氏は、ボブ・ディランと連絡を取れないだけで、パニックになったように見える。

ノーベル賞を頂点とする権威のピラミッドは、社会を固定化する。選ばれた選ばれないと一喜一憂することで、権威の存在を認めてしまう。そうなれば、選考主体が受賞者の上に君臨することになる。それを破壊できるものは比較や数値化だ。競争や数値化は権威を裸にしていく

私が最も大きな「相場の魅力」として挙げるのがその点だ。相場では、私はどんなノーベル経済学賞受賞者にも負けない自信がある。相場では、権威などは全く役立たないのだ。相場は富を分配する場所だ。一般人が自分の裁量だけで、権威に挑戦し、富の分配に預かれる場所は、世の中に多くない。


※本記事は『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年10月24日号)の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年10月24日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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