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それでも日本株は上昇する~外国人売り、自社株買い、年金買いの果てに=矢口新

2016年1-9月には、海外投資家が1987年以降最大となる6兆1900億円の日本株を売った。一方で上場企業はネットで3兆6300億円買った。日銀は年間6兆円を買い続ける。年金も買う。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

※本記事は『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年10月20日号)の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

矢口新氏「私は、日本株は上がると見ている」強気の理由とは?

自社株買いが過去最大水準に

上場企業1-9月の自社株買いが前年比4割増の4兆3500億円と、過去最大を記録した。2016年はまだ3カ月残しているので、年間でも最大だった2015年の約4兆8000億円を上回る公算が高まった。

一方、新株発行による資金調達(公募増資と転換社債の合計)は7200億円と4年ぶりの低い水準にとどまった。

自社株買いの増加と新株発行による資金調達の減少について、設備投資などの資金需要が少ないためとする解説がある。

実際、4兆3500億円を買い入れ、7200億円を売り出せば、3兆6300億円の手元資金が減少する。上場企業は100兆円超と過去最高水準の手元資金を抱えているで、資金の使い道がないという解説だ。

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しかし一方で、1-9月の国内社債発行額は前年比6割増の約8兆5000億円と急拡大した。上場企業はマイナス金利政策による低金利の恩恵を享受し、債券での資金調達を増やしている。

先週、トヨタファイナンスが発行した3年債の利回りは過去最低の年0.0003%まで低下した。250億円の調達で、3年間の利払い総額は僅か22万5000円に留まる。

株式では3兆6300億円の手元資金が減少しているが、債券による資金調達が8兆5000億円に急増しているので、差し引きの手元資金は4兆8700億円増加している。主な資金の使い道はM&Aなどだ。

これを見れば、企業が消極姿勢に転じているわけではなく、資金調達の手段を株式から債券にシフトしていることが分かる。この操作により、企業の自己資本(純資産)が減少し、有利子負債(1年超なら固定負債)が増加する。財務内容は悪化し、自己資本比率は低下する。

どうして、あえて財務内容を悪化させるのだろうか? ROEを高めるためだと言っていい。ROE(Return On Equity)とは、当期純利益(Return)を自己資本(Equity)で割ったものだからだ。分母が小さくなれば、利益が増えなくても、ROEの数値は上がる。

営業利益から、金融・財務・為替などに関する損益を引いたものが経常利益だ。そこに特別損益を加減し、税金を支払って、当期純利益となる。つまり、有利子負債の利子は税引き前にコストとして計上できる。

もっとも、現状の利子は無視できるほどに小さいが、それでも納税額を減らすことができる。バランスシート上の財務内容は悪化するが、実際のキャッシュフローは増える。

純資産を意味する株式と、負債を合わせたものを総資産と呼ぶ。株式が3兆6300億円減少し、債券負債が8兆5000億円増加すると、差し引きの総資産は4兆8700億円増加する。

利益が同じでも、この操作により、総資産利益率(ROA)は悪化し、純資産利益率(ROE)は改善する。ROEを高めるためには、意味のある操作だと言える。

Next: 外国人投資家は1-9月に6兆円の売り越し、それでも日本株は上がる

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