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バフェットの売買に学ぶ「億万長者の方程式」危機に乗じ資産倍増を狙え=東条雅彦

実はウォーレン・バフェットは、リーマン・ショックの前後でポートフォリオのリバランスを実施していました。これによりダメージを極力、少なくする努力をしていたのです。「ダメージを完全に回避する」ことは不可能ですが、最小限に抑えることに成功しています。

これはバークシャーの売買動向を見ていれば明らかなことなのですが、なぜか市販の書籍等ではあまり指摘されないバフェットの知恵の1つです。

バフェットは、保有する株式を「絶対に売らない」わけではありません。本稿では、バフェットのポートフォリオ・リバランス手法を参考に、金融危機のドサクサに乗じて「億万長者への特急券」を手に入れる知恵を学んでいきます。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

金融危機のドサクサに、賢人バフェットは何をどう売買したのか?

億万長者への特急券

本稿では、金融危機のドサクサに乗じて「億万長者への特急券」を買う方法を学ぶべく、2008年前後のバフェットの行動を追っていきます。
※前回記事『「リーマン・ショック2」を利用して、3年間で億万長者になる方法』の続きです

【関連】悲願の上場!JR九州の「東京・大阪殴り込み作戦」は成功するか?=栫井駿介

前回ご紹介した「リトマス試験」の結果のとおり、2008年のリーマン・ショックでは、代表的なバフェット銘柄(ビッグ4)すべてが激安になりました。

<公式>
リーマン・ショック最安値 ÷ 2015年度のEPS = PER

(金融株)
ウェルズ・ファーゴ:8.61ドル ÷ 4.12ドル = PER 2.08倍
アメリカン・エキスプレス:10.26 ÷ 5.05 = PER 2.03倍

(非金融株)
IBM:74.88 ÷ 13.42 = PER 5.57倍
コカ・コーラ:19.55ドル ÷ 1.67ドル = PER 11.7倍

金融株と非金融株で分けて考えると、その差は歴然です。

PERとは、1年間で稼ぐ利益に対して株価が何倍の値段で売られているかを表した指標です。通常は15倍前後が一般的です。PERが2倍になるのは、ほぼありえない水準だと言えます。

このような暴落時にこれらの銘柄を購入しておけば、「3年ぐらいで資産が7倍以上に増やせる」ことが前回の検証で判明しました。

しかしながら、「暴落後の回復力」を知って、暴落したバフェット銘柄が億万長者への特急券であることがわかっても、暴落前である現在における行動の指針にはなりません。

そこで今回は、リーマン・ショックの2年前にあたる2006年12月末を基準にして、バフェットのポートフォリオがどのように変化していったのか、その売買の神髄に迫ってみます。

リーマン・ショック前後のポートフォリオを比較する

2006年12月末を基準にして、2007年にポートフォリオがどのように変化していったのかを調べましょう。全銘柄を追っていくと大変なので、金額の変動が大きいものだけピックアップします。±4億ドル以上の売買で最大5銘柄までを取り上げます。

なお前回までに、ショック時は金融株が特に激安(億万長者への特急券)になることがわかったので、目印として金融株に「●」、非金融株に「○」の記号を、銘柄名先頭に付けています。

※取得単価はバークシャーの報告を元に、取得総額÷増減株数で算出しています
※取得単価の小数点第3位以下を切り捨てとしています
※1万ドル未満は切り捨てとしています

2007年の主な売買(リーマン・ショック前)

購入銘柄:

○バーリントン・ノーザン・サンタフェ(鉄道)
⇒83.23ドル×60,828,818株=50億6,278万ドル

○クラフトフーズ(食品)
⇒32.62ドル×132,393,800株=43億1,868万ドル

●ウェルズ・ファーゴ(金融)
⇒30.19ドル×85,237,768株=25億7,332万ドル

○ジョンソン・エンド・ジョンソン(医療関連)
⇒66.69ドル×37,165,648株=24億7,857万ドル

●US・バンコープ
⇒31.74ドル×=44,274,626株=14億527万ドル

売却銘柄:

●アメリプライズ・ファイナンシャル(金融)
⇒55.11ドル×-7,608,895株=-4億1,932万ドル

リーマン・ショック前の購入銘柄を見ると、非金融株の金額が多いことがわかります。

次に、2008年の主な売買を追っていきます。リーマン・ブラザーズが倒産したのは2008年9月15日です。よって2008年の売買動向を見ることで、リーマン・ショックを受けてバフェットがどのような銘柄を売り買いしたのかがわかります。

2008年の主な売買(リーマン・ショック後)

購入銘柄:

○コノコフィリップス(エネルギー)
⇒51.8ドル×62,387,573株=32億3,167万ドル

○バーリントン・ノーザン・サンタフェ(鉄道)
⇒75.7ドル×9,261,011株=7億105万ドル

○コンステレーション・エナジー・グループ(エネルギー)
⇒25.09ドル×19,897,322株=4億9,922万ドル

売却銘柄:

○ジョンソン・エンド・ジョンソン(医療関係)
⇒59.82ドル×33,142,857株=-19億8,260万ドル

○プロクター・アンド・ギャンブル[P&G](消費財)
⇒61.81ドル×9,530,990株=-5億8,911万ドル

リーマン・ショック直後、実際には金融株も売買されているのですが、金額が少ないため、まったく上位に上がってこなくなりました(●印が見事に消えています)。

バーリントン・ノーザン・サンタフェ(鉄道)を引き続き、購入しています。サンタフェは2009年11月にバークシャーの完全子会社になっています。元々、完全買収する予定だったので、買い増しを続けたのでしょう。

リーマン・ショック後に最も買い増ししたのは、コノコフィリップス(エネルギー)です。32億ドルを超えていて、金額が突出しています。他にもエネルギー関連銘柄を大量に買っています。

最も注目すべきは、リーマン・ショック後に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(医療関係)やプロテクター・アンド・ギャンブル(消費財)を大幅に売っている点です。

「この金融危機のドサクサに、鉄板なはずのバフェット銘柄を売る理由は何?」と思った人も多いでしょう。その理由は後でわかります。

ここまでのまとめ

リーマン・ショック前:

リーマン・ショック直後:

Next: 「大バーゲンセール中」の2009年は? バフェットの投資行動が明らかに



「大バーゲンセール中」の2009年にバフェットは何をしたか?

ダウ平均株価は次のような動きをしていました。

2007年10月12日:14,093ドル

2008年9月15日:11,388ドル(リーマン・ショックが起きた日)

2009年3月5日:6,594ドル(実際の底値は約半年後にやって来た)

2012年3月16日:13,232ドル(底値から3年程度で概ね回復した)

この2009年こそ、「億万長者への特急券」が売り出されていた時でした。その時、バフェットはどう動いたのでしょうか。それがこちらです。

2009年の主な売買(大バーゲンセールの年)

購入銘柄:

○ウォルマート(小売)
⇒53.45ドル×19,092,842株=10億2,051万ドル

●ウェルズ・ファーゴ(金融)
⇒26.98ドル×29,843,517株=8億517万ドル

○バーリントン・ノーザン・サンタフェ(鉄道)
⇒98.62ドル×6,687,200株=6億5,949万ドル

売却銘柄:

○コノコフィリップス(エネルギー)
⇒51.07ドル×-42,184,943株=-21億5,438万ドル

○プロクター・アンド・ギャンブル[P&G](消費財)
⇒60.62ドル×-534,219,751株=-5億3,421万ドル

○ムーディーズ(格付け会社)
⇒26.8ドル×-16,185,390株=-4億3,376万ドル

売り越し銘柄でコノコフィリップス(エネルギー)が21億ドルとなっていて、2008年に投入した32億ドルの大半を帳消しにしています。あれ?去年、大量にコノコ株を買っていたのに!なぜ1年も経たないうちに撤退したのか?

バフェットは、その年の株主宛ての書簡(バフェットからの手紙)で下記のように述べて、コノコ株への投資を反省していました。

「石油・ガス価格が上昇することはあっても、取得したタイミングがまずかったことでバークシャーに数十億ドルの損失を被らせた」

タイミングを間違えたとのことです(バフェットでもそういう間違いを犯すんですね)。

そして購入の方は、ウォルマートとウェルズ・ファーゴを、それぞれ10億ドル、8億ドルと大量に買い増ししています。PERが2倍になったウェルズ・ファーゴを見逃さずに購入している点は、注目すべきでしょう。

リーマン・ショック直後にジョンソン・エンド・ジョンソンの一部を売却して、20億ドル弱を調達しています(参照:2008年の主な売買)。その資金をウォルマートとウェルズ・ファーゴに充てています。

10.8億ドル + 8.5億ドル = 19.3億ドル、金額的にもほぼ一致しています。

バフェットは、リーマン・ショックが発生した際、「億万長者への特急券」を購入するために資金を作る必要がありました。1年前、ジョンソン・エンド・ジョンソンやプロテクター・アンド・ギャンブルの非金融株を売却した理由がこれでした。

ここまでのまとめ

Next: バフェット流、ポートフォリオ・リバランスの神髄が明らかに



バフェット流、ポートフォリオ・リバランスの神髄が明らかに

ここまで個別銘柄の売買を追っていたので、少し全体像が掴みにくくなったかもしれません。そこで今度は目線を変えて、バークシャーのポートフォリオ全体を見ていきましょう。

<2016年6月末時点(最新) バークシャーの業種別割合>

金融業:32% ←金融業の割合が最も大きい!
消費財:15%
情報技術:12%
サービス:4%
ヘルスケア:4%
工業製品:2%
その他:31%

過去の推移からも、金融株は概ね30%~40%になっています。

<バークシャーのポートフォリオ 金融株の割合>

2006年:41%
2007年:31%
2008年:28% ←リーマン・ショック発生、非金融株で資金作り
2009年:31% ←以降、長期にわたって、金融株を買い増し
2010年:39%
2011年:33%
2012年:38%
2013年:43%
2014年:47% ←ここまで増やす(金融株の遅い回復力をうまく利用している)
2015年:36%
2016年:32%

バフェットは元々、金融株に多く投資しています。金融株の内訳を保有比率の高い順に並べると次の通りです。

<2016年6月末時点 金融株の保有比率>

ウェルズ・ファーゴ:17.5%
アメリカン・エキスプレス:7.1%
USバンコープ:2.64%
ゴールドマン・サックス:1.25%
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン:0.62%
VISA:0.58%
M&Tバンク:0.49%
マスターカード:0.33%

バフェットは保有銘柄を頻繁に売買しますが(これは意外ですが、事実です)、これらの金融株についてはほとんど売りません。保有比率の高い金融株は売却どころか、逆に買い増していく傾向にあります。

次に、2006年12月末時点と現時点の保有数を示します。

<金融株の保有数の推移 2006年12月末⇒2016年6月末>

・ウェルズ・ファーゴ:204,022,100株 ⇒ 479,704,270株(2.35倍)
・アメリカン・エキスプレス:151,610,700株 ⇒ 151,610,700株
・USバンコープ:23,307,300株 ⇒ 85,063,167株(3.64倍)
・M&Tバンク:6,708,760株 ⇒ 5,382,040株(20%減)
☆ゴールドマン・サックス:0株 ⇒ 10,959,519株
☆バンク・オブ・ニューヨーク・メロン:0株 ⇒ 20,827,212株
☆VISA:0株 ⇒ 10,239,160株
☆マスターカード:0株 ⇒ 4,934,756株

※ ☆印はリーマン・ショック後に追加した銘柄

この10年間で金融株はほとんど売られていません。お気に入りの銘柄であるウェルズ・ファーゴ、USバンコープについては、金融危機のドサクサに紛れて、それぞれ2.35倍、3.64倍に増やしています。

ゴールドマン・サックスについては、リーマン・ショック直後に50億ドルを出資して優先株を得ました(今は普通株に転換して保有しています)。
※参考:バークシャー、ゴールドマンに50億ドル出資へ – ロイター(2008年9月24日)

VISAとマスターカードは、バークシャーの運用マネージャーであるトッド・コームズが2011年に購入しました。

バフェットのアメリカン・エキスプレスへの投資を参考に、この2銘柄を選定したのでしょう(コームズの判断はバフェットと似ています)。

バンク・オブ・ニューヨーク・メロンは、2010年に買い付けています。

2006年からの追跡では、金融株で唯一、大幅に減らしたのはM&Tバンクのみでした。

アメリカン・エキスプレスへの追加投資は見送っています。これは、株価の回復が予想外に早くて、その後、急上昇したせいかもしれません。

Next: 平時は「非金融株」、有事は「金融株」に投資せよ!



平時は「非金融株」、有事は「金融株」に投資せよ!

前回の記事では、リーマン・ショック後の回復力を強調したため、次のような意見が寄せられました。

ダメージを食らった後の回復力の話をされても…。そのダメージを回避したいのに、それは不可能なのでしょうか?

この質問に対する答えの1つが「非金融株への投資」です。実際にバフェットもそうしています。リーマン・ショックなどの有事の際には「金融株」に投資して、平常時は「非金融株」に投資しています。

参考までに、代表的なバフェット銘柄(ビッグ4)がリーマン・ショックでどのくらいダメージを受けたのかを、もう一度、確認しておきましょう。

ビッグ4 金融株と非金融株のダメージの違い(単位:ドル)

金融株 ※70~80%の下落を被る

○ウェルズ・ファーゴ 株価
2007年12月末:30.19
2008年12月末:29.48 ←リーマン・ショック
2009年3月6日:8.61 ←2007年から約70%下落(ダメージ大)
2009年12月末:26.99 ←9ヵ月で3.13倍へ
 ↓
2012年12月末:34.18 ←ゆっくりと上昇
 ↓
2016年現時点: 45.09 ←現在は最安値から5.23倍へ

○アメリカン・エキスプレス 株価
2007年12月末:52.02
2008年12月末:18.55 ←リーマン・ショック
2009年3月6日:10.26 ←2007年から約80%下落(ダメージ大)
2009年12月末:40.52 ←9ヵ月で3.94倍へ
 ↓
2012年12月末:57.48 ←ゆっくりと上昇
 ↓
2014年12月末:93.04 ←高値圏へ!最安値から9.6倍
 ↓
2016年現時点: 67.36 ←現在は最安値から6.56倍

非金融株 ※30~37%の下落を被る

○コカ・コーラ 株価
2007年12月末:30.68
2008年12月末:22.64 ←リーマン・ショック
2009年3月6日:19.55 ←2007年12月末から約37%の下落(ダメージ小)
2009年12月末:28.50 ←9ヵ月で1.45倍へ
 ↓
2012年12月末:36.25 ←横ばいながらやや上昇
 ↓
2013年12月末:41.31 ←ここから以降は横ばい
 ↓
2016年現時点: 42.13 ←現在は最安値から2.15倍

○IBM 株価
2007年12月末:108.1
2008年11月21日:74.88 ←最安値、2007年から約30%の下落(ダメージ小)
2008年12月末:84.16 ←元々、ダメージが少ないため、上昇も小幅
2009年12月末:130.9 ←2年で1.75倍へ
 ↓
2016年現時点: 149.63 ←現在は最安値から1.99倍

このように、金融株のほうが非金融株よりもダメージが大きいことは明らかです。

当時のバフェットは、「億万長者への特急券」(金融株)を手に入れるため、ジョンソン・エンド・ジョンソンやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)等の優秀なバフェット銘柄を売却してまで、資金(合計約25億ドル)を作っています。

それぐらい、有事の際の金融株は魅力的なのです。

運用マネージャーのトッド・コームズ(事実上のバフェットの後継者)も、VISAとマスターカードの取得に動きました。

Next: 危機こそチャンス。バフェット流投資の神髄を一言で言うと?



「みんなが恐怖心を抱いている時にどん欲であれ」

バフェットは次のように述べています。

Be fearful when others are greedy and greedy when others are fearful.

みんながどん欲な時に恐怖心を抱き、
みんなが恐怖心を抱いている時にどん欲であれ。

もし近い将来、リーマン・ショック級の危機が再び訪れるのなら、それは確実にチャンスとなります。

バフェットのポートフォリオ・リバランスを学んで、第2のリーマン・ショックを切り抜けましょう!

次回のメルマガでは、バークシャーの現金比率に着目して、バフェットが金融危機に備えて、どのように資産をコントロールしていのるかを学んでいきます。金融危機を切り抜けて、資産を増やしていくことは可能なのか?次回も乞うご期待です!

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年10月23日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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