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内閣改造はなぜ愚策なのか? 安倍総理が「こんな人たち」に負ける理由=近藤駿介

小手先の内閣改造で、地に落ちた安倍政権の支持率を浮揚させるのは極めて困難だ。日本の社会と経済は、いよいよ「その時」に備えるべき時期にきている。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

安倍総理に教えたい 8/3内閣改造で支持率が回復しない最大の理由

安倍内閣、最大の危機

「盛者必衰の理をあらわす」を地で行くかのように、つい数か月前まで「安倍一強」と言われていた安倍内閣の支持率が急落している。一部メディアの調査では危険水域と言われる20%台まで低下し、安倍政権は第2次安倍内閣が発足してから最大の危機を迎えている。

23日に行われた仙台市長選挙では、もともと野党が強いという地域特性があるものの、民進党が支持する候補に敗北。「民進党には負けるはずがない」という「岩盤神話」までもがあえなく崩壊し、安倍総理離れが進んでいること示した世論調査結果を裏付ける結果となってしまった。

こうした急落する政権支持率に歯止めをかけ、回復させる機会として安倍総理が期待をかけているのは24日、25日の両日衆参両院で開催される閉会中審査と、8月3日に予定されている内閣改造である。

しかし、国会の閉会中審査と内閣改造で安倍政権の支持率を浮揚させることは極めて困難だと言わざるを得ない状況である。

「総理の人柄が信頼できない」の致命的な意味

この2カ月の内閣支持率急落が深刻なのは、危険水域と言われる30%を下回る水準まで下落したことに加え、安倍内閣を支持しない理由として「総理の人柄が信頼できない」が急増していることである。

安倍政権の支持率が急落した要因としては、森友学園問題加計学園問題金田法務大臣問題豊田議員パワハラ問題稲田防衛大臣問題等々が挙げられている。

しかし、豊田議員のパワハラや稲田防衛大臣の問題は議員、閣僚としての資質の問題であり、「総理の人柄」とは直接的には関係がない問題である。

したがって、有権者が「総理の人柄」を信頼できないと思われるようになったのは、国会運営の強引さや総理自身の言動そのものに原因があったとみるべきである。

個人的には都議選最終日の秋葉原の演説中に沸き上がった批判に対して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という発言が「総理の人柄」に対する不信感を高める決定打になったと考えている。

閉会中審査で安倍総理は、この「総理の人柄」について挽回を計ろうとするだろう。しかし、「他の内閣よりはよさそう」という消極的理由で安倍内閣を支持して来た有権者が、「総理の人柄」に失望して「あんな人たち」側に回ったことで支持率が急落したわけであるから、閉会中審査で「総理の人柄」に対する信頼を回復するのは困難だと言わざるを得ない。

今や「あんな人たち」が過半数を占めるようになってしまったのだから。

Next: 地に落ちた「安倍総理の人柄」 もう信頼を取り戻す方法は存在しない



安倍総理は圧倒的に不利

偽証罪に問われることがない閉会中審査では、「加計学園問題」に関しては、与党側は獣医学部新設の手続きが法に則って適正に行われ、総理の意向が入り込む余地はなかったという印象を築こうとし、一方野党側は総理の関与があったという印象を与えようとする印象付け合戦になることが予想される。

その結果、議論は水掛け論になり、国民が納得できる説明を得られる可能性は低いと思わざるを得ない。

また、閉会中審査の印象付け合戦では、安倍総理側は最初から不利な立場に立たされている。内容の正確さは担保されていないとはいえ、実際に存在する議事録等の文書に基づいて総理の関与があったことを追及する野党に対して、都合の悪いことは「記憶も記録もない」と追及をかわし、都合のいいところは「絶対にない」と「記憶」に基づいて断言する与党の反論の印象が悪く映ることは避けられないからである。

都合の悪い分部に関する記憶を失う人達が、都合のいい部分でいくら自分の「記憶」に基づいた主張を展開してもまったく説得力がないからだ。

「証拠」はなくとも

常識問題として、安倍総理が個別に加計学園に便宜を図るような指示を出すことはあり得ない。また、仮にそれを示唆するような発言があったとしてもそれが明らかになることはあり得ない。原則、組織は親分の首を取られたら終わりである。それゆえ組織は様々な段階で「トカゲの尻尾切り」を行うことで責任が親分に及ぶことのないように構築されるものである。

したがって、安倍総理が加計学園問題に関与した証拠が得られることも、その責任が取られる可能性も限りなくゼロに近い。閉会中審査で野党側の追及によって総理の加計学園問題への関与が明らかになることはないはずである。

しかし、それが明らかになることがなくても、与党側が苦しい戦いを強いられることは間違いない。

何故ならば、野党側は安倍総理の関与を明らかにすることができなくても、「総理の人柄」に対する信頼を回復させなければ十分目的を達成することになるからだ。

加計学園に対する獣医学部新設を認める政策プロセスについて「一点の曇りもない」と強調する安倍総理だが、昭恵夫人を始め野党側が要求する証人喚問に一切応じない時点で発言に疑問を抱かれてしまう不利な戦いを迫られることになる。

閉会中審査で「総理の人柄」に対する信頼を回復させることは極めて難しい状況であることを考えると、安倍総理は8月3日に予定している内閣改造に支持率回復を賭けることになる。

Next: 「内閣改造」での支持率回復が難しいシンプルな理由



「内閣改造」での支持率回復は困難

これまで安倍総理は内閣改造で支持率回復をさせた実績を持っているので、今回も内閣改造で支持率低下に歯止めを掛けることを狙っているはずである。しかし、今回の内閣改造で支持率を回復させることはこれまで以上に難しい

ここ数カ月安倍内閣の支持率が急落してきたのは「総理の人柄」に対する不信感が強まったからである。もし、金田法務大臣稲田防衛大臣の閣僚の資質が内閣支持率急落の原因であれば、その患部を切り落とすことで体制を立て直すことが可能かもしれない。

しかし、今回の内閣支持率の元凶は「総理の人柄」にある。元凶を取り除く最も有効な手段は「総理を変える」ことだが、それはあり得ない話。また忘れてならないのは森友学園問題と加計学園問題の両方で顔を出している昭恵夫人の存在が内閣支持率低下に影響していることである。そしてこの元凶も内閣改造では取り除くことのできないものである。

安倍総理は閣僚の「布陣」を変えることはできても、「夫人」を変えることはできない。

ここが8月3日に予定されている内閣改造の大きな問題点であり、これまでの内閣改造との大きな相違点である。これでは内閣支持率の回復を期待することは期待薄であると言わざるを得ない。

自国経済への影響はアメリカよりも深刻

海の向こうの米国でもトランプ大統領の低支持率が問題になっている。大統領就任半年後のトランプ大統領の支持率は36%と戦後最低となった。そのトランプ大統領の支持率を、つい数か月前まで「安倍一強」を謳歌していた安倍総理が下回るというのも衝撃的な出来事である。

考えておかなければならないことは、自国経済に対する影響という点で、トランプ大統領の支持率低下と比較して、安倍政権の支持率低下の方が深刻である可能性が高いことだ。

Next: 安倍内閣の支持率急落が、日本経済に負のスパイラルをもたらす?



日本社会は「その時」に備えよ

米国株式市場はトランプ大統領の支持率が低空飛行を続ける中でも主要3指数ともに史上最高値を更新してきた。株価の上昇に大きく貢献してきたのは、政府から独立した中央銀行FRBが慎重な金融政策をとってきたことである。

一方、日本では安倍政権と黒田日銀が一体となって「アベノミクス」を推進してきている。黒田日銀は7月20日に2年で達成すると豪語してきた「2%の物価安定目標」の達成時期を「2018年度中」に先延ばし、金融緩和を継続することを表明した。目標達成時期の先送りは既に6回目であり、任期が来年4月に迫っている黒田総裁の下での目標達成を諦めた形となっている。

一般社会の常識に従えば、6度も目標達成時期を先送りしなければならない状況になれば、目標設定に問題がないのか、あるいは設定した目標に対して手段が適切でないのかを検証し、修正していくのが普通である。

しかし、「2%の物価安定目標」を達成するために「異次元の金融緩和」を実施するためだけに誕生した黒田日銀には、目標設定の是非や手段の適正性を検討する権限は実質的に与えられていない

5年間という時間を掛けて実現できなかった目標と手段をこのまま続けていくためには、安倍政権が高い支持率を維持し、「安倍一強」体制を保つことが必要条件である。

安倍総理の支持率が今後も低迷するとしたら、「2%の物価安定目標」の達成時期を6回も先送りした「異次元の金融緩和」の推進役である黒田総裁の続投は望み薄となってくる。つまり、安倍総理の支持率急落の影響はアベノミクスの推進に大きな逆風となる。

安倍総理の支持率急落は「アベノミクスは黒田日銀総裁の任期と共に去りぬ」という状況を招くことになる。

閉会中審査と内閣改造で「総理の人柄」に対する信頼を回復できなければアベノミクスも行き詰まることになる。市場がそのような認識を抱けば、安倍政権の高支持率の原動力であった「円安・株高」にも転機が訪れる可能性がある。その時には安倍総理を支持しない理由として「政策に期待を持てない」が急上昇することになるはずである。

「総理の人柄」と「政策に期待を持てない」というダブルパンチを食らって安倍政権は持ちこたえることはできるのだろうか。安倍内閣の支持率急落は、日本経済に負のスパイラルをもたらす危険性を秘めている。日本社会は「その時」に備え始める時期にきている。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年7月25日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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