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株式会社は誰のもの?「モノ言う株主」が知るべきたった1つのルール=山本潤

会社の実権を持つのは株主。ではもし、株主があなた一人ならばどうでしょうか。経営方針や利益分配の決定権があなたにある場合、会社はあなたの自由になるのでしょうか?(『億の近道』山本潤)

「持ちつ持たれつ」会社が株主の言うことを聞かない、と嘆く前に

会社は株主のものですか?

株式会社は株主だけのものではありません。それは、簡単な話で、わたしだって、わたしだけのものではないからです。

ひとつの言い方は、これ。まず、人はそもそも「モノ」ではありません。法人も擬人ですから、モノではありません。

もうひとつの言い方は、多重性です。人といっても、個人個人に多くの属性があります。わたしを例にとれば、いま、投資顧問会社の社員です。そして、理工学部の社会人大学院生でもあります。子供からみれば父親。でも、両親から見れば子供。国民でもあり、都民でもあり、江戸川区民でもある。妻からみれば、夫。社長からみれば部下。部下から見れば上司でもある。少年野球のコーチであったり、ジャズサークルのメンバーであったり。要するに、属する集団が多数ありますね。

国家のために殉職するような職業ではないため、あまり普段考えませんが、自分の命を賭して国を守る立場の人がいますね。そういう人にとって、その人はその人だけものではなく、国家のものでもあるのでしょう。

自殺を罪とする宗教がありますね。その宗派に属していれば、わたしはわたしのものではない、ということになります。なぜなら、わたしがわたしのものであるなら、わたしがわたしを殺そうがわたしの自由となるはずです。

でも、そうではない。自分でさえ、自分のものではないのだから、会社が株主のものであるはずもありませんね。

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株式会社って誰のものだろうか?

株主総会で議案が決まることを考えると、会社の実権を持つのは株主。もし、株主があなた一人ならば、どうでしょうか。これは、もっとも単純なケースです。株主としての提案で経営者を選び、配当を増やすことはできるでしょうか。

その場合、経営方針や利益分配の決定権があなたにある場合、会社はあなたの自由になるのでしょうか?

そうとも限らないんです。

Next: 持ちつ持たれつ。会社が株主だけのものではない明確な理由



給食と野菜の高騰

今年は天候不順で野菜が凶作でしたが、仮に、ある会社が給食を学校向けに提供するビジネスを営んでいるとします。あなたは、その会社のたった一人の株主とします。

給食費は年度の初めに決まっています。その会社は事業として野菜を学校に一定量を収めなければならないのです。ですが、野菜が高騰して、量が確保できません。その会社は損失覚悟で量を確保して、自己資本を減らしたとしましょう。

学校給食は極めて公共的なものです。「量が確保できないので、給食はなしです」とすることはできません。その結果、その会社の株主は損失を被るわけです。

野菜が高騰して、経営者が給食への供給責任を果たした。その損は、形を変えて、会社への社会的な信用をつくります。「損をして得をとる」ですね。

損を分け合う-対策

会社が、野菜の高騰のおかげで、損を受け持とうとしたが、損が大きすぎる場合、なんとかしてほしいと顧客に相談することもあるでしょう。

顧客たる学校側は、あなたの困り具合を見て、状況を勘案して、「それでは、食材の一部を置き換えてみましょう」とか、あるいは「給食の日数を月に1回減らしましょう」と言ってくれるかもしれませんね。

その場合、会社が負うべき損失を、社会が分かち合ったということになります。事業の損を社会と負担した、ということです。

会社が株主のものであるならば、リーマンショックでゴールドマンサックスなどのグローバル証券会社はつぶれていたはずですね。ところが、社会的な影響の大きさから公的資金が注入されて株主は損を被ることがなかった。原発事故と東電とのケースも考えてみればよいでしょう。普通なら、債務超過で即倒産です。

そうしなかったのは、法律的な判断ではなく、政治的な判断です。政治的な判断というのは、社会的なものです。民意というやつですね。社会が企業を救ったわけですね。株主は、そのことを忘れてはいけませんね。

逆に、儲かったときは、その儲けは株主だけのものではないことが、今の例から、容易にわかるでしょう。

持ちつ持たれつ。株主と会社との関係もそうですし、顧客と会社との関係もそう。あるいは、会社と会社との関係もそう。

Next: あらためて、会社は誰のものか?



あらためて、会社は誰のものか?

事業にリスクがあり、株主が損失を被る。企業がミスをすればその分、株価が下がるので、株主は損失を株価で補填することになります。

しかし、その会社は社会の中で、何らかの責任を果たしています。事業には供給責任という社会性やそれを継続することによる暖簾や信用というものがあります。

商人の世界では、当たり前のことでんがな。持ちつ持たれつ。この前は助かったよ。だから、今回は助けてねと。需要者と供給者との関係は持ちつ持たれつです。

将来のために、今、損をすることも…

事業にはリスクが伴います。そのリスクを負うことができるのは、企業に余力があるからです。

今回の給食事業のケースでは、簡単に「自己資本が減った」と書きましたが、もともと、自己資本がない場合、表面的には自己資本はありますが、現金がない場合はどうしたらよいのでしょうか。

現金がなければ、資金繰りをしなければなりません。資金繰りができなければ倒産。事業は継続できません。保有現金は、事業を継続するためのリスク・バッファのようなものですから、おいそれと配当として外部流出させることが得策とは限らない場合もあります。

会社の現金は株主のものかもしれませんが、今だけの株主のものではなくて、未来の株主のもの、未来の顧客のものとも言えるからですね。今の株主、未来の株主、顧客、社員等、ステークホルダーを同じ社会の構成員として同等に扱うのが自然な姿です。

株主が無数にいる場合、会社は誰のものでしょうか?

会社を100万人の株主で少しづつ保有する場合、もはやひとりひとりの株主は希薄な存在にすぎません。

100万人をひとつのコンセプトとして、株主として括ることは形式上はできます。ですが、100万分の1の保有に対して、「会社を保有している」という意識が持てるはずがありません。

Next: 会社と個人との類似点/国家は誰のものか



会社と個人との類似点

当たり前のことが当たり前とは限りません。個人の保有する現金はその個人のものでしょうか。当たり前と思われるかもしれませんが、そうとも言い切れないですね。法律ではそうかもしれません。しかし、実際は、そのときどきの関係者の置かれた状況によるものでしょうね。

たとえば、使い切れない現金をあなたが保有している場合を考えてみましょう。そうですね、たとえば、10兆円を保有している、と仮定しましょう(ありえませんか!?)。

その10兆円は、日本の仕組みでは、遅かれ早かれ、相続税として課税される運命です。多くのお金持ちは、慈善事業に寄付したり、パトロンとして画家や音楽家を援助したりしていますね。個人のお金であっても、それは、結局は、国家のものであったりするのです。

スケールを変えてみます。あなたが10万円を保有しているとしましょう。その10万円は、あなたが自由に使い方を決まられるお金でしょうか。

それも、人が置かれた状況によりますね。子供の学費になる。住宅ローンの返済原資になる。生活費となる。生活費となる場合、家族のために使うのですから、あなたの自由にはなりません。

お金は誰のものであるのか? その答えは、状況次第なんですね。株主会社は誰のものでしょうか? その答えは、そのときどきの社会情勢によるわけです。時代による、ということなのでしょう。

国家は誰のものでしょうか?

国家はそもそも国民が信託した体制です。主権者たる国民が選挙にて、代表を選ぶのです。それなのに、各々の国民には、国家を所有しているという実感がありません。

国家のお金は誰のものでしょうか? 国民のものでしょうね。同時に国家の借金は誰の借金でしょうか? やはり、国民のものでしょうね。

いま、国家は膨大な借金。企業が膨大な内部留保。国家がインフラを整えて、大企業がそのインフラで儲けるから、お金の流れが一方的になります。

個人も国家も企業も、実は表裏一体の存在なはずなんですがね…。わたしは、わたしのものかもしれないが、同時に、わたしだけのものではない。個人は社会の一部です。国家は個人のものであると同時に、他人のものでもある。公園がみんなのものであるのと同様に。個人の存在もみんなのためにあり、社会も個人のために存在する。

つまり、「会社は社会の公器」である。まったく、現実を表しているよい文句ですね。公器。みんなのうつわ。

まあ、会社が株主だけのものでないから、アクティビストが極端な要求をしても、会社は彼らのいうことなんか聞きませんよね。アクティビストの言う通りにしていたら、企業統治は公正さを欠くことになりかねません。

配当を増やして、現金がなくなり、事業リスクバッファが足りなくなる。事業転換や研究費や設備投資ができなくなる。

そうなったら、本末転倒でんがな。

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億の近道』(2016年11月24日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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