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現役世代「生き残り」のマイホーム戦略~銀行住宅ローンに潜む罠とは?=東条雅彦

ネット銀行を中心に、「フラット35」よりもさらに低い固定金利の住宅ローンを取り扱っている金融機関があります。この銀行独自の住宅ローンは、将来的な金利上昇にどこまで耐えられるかご存じですか?一口に「固定金利」と言っても、「フラット35」とは大きな違いがあるのです。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

住宅ローン利用者の3人に2人が抱える「金利上昇リスク」とは?

「フラット35よりお得」な銀行独自ローンの実際

前回の記事(日本財政破綻!その時あなたが返済中の「住宅ローン」はどうなる?)では、住宅ローンを固定金利の「フラット35」で契約(借り換え)しておけば、市場金利が急上昇する局面でもローン金利は固定され、日本の財政破綻が疑われるような有事にも安心できる、ということをご紹介しました。

多額の資金を25年以上にわたって、1.1%という固定・低金利で貸してくれる「フラット35」は、ほとんど奇跡のような金融商品です。世界中を探しても、これに勝てるローン商品はそう多くはないでしょう。

しかしながら、調べると分かりますが、ネット銀行を中心に、「フラット35」よりもさらに低い「固定金利」を提示している金融機関もあります。

万一の有事の際、私たちは、この民間銀行の固定金利型住宅ローン(以下、銀行独自ローン)を契約していても、「フラット35」と同じような固定金利の安心を享受できるものなのでしょうか?

「フラット35」と銀行独自ローンの両方を取り扱っている金融機関に問い合わせると、確実に「フラット35」をオススメされてしまい話が前に進まないので、今回はあえて、銀行独自ローンしか扱っていない金融機関に質問してみました。

銀行独自ローンだけを取り扱う金融機関の相談窓口に質問してみた

東条:
25年の住宅ローンで残高があと2,000万円あった場合、もし御行に借り換えすると、適用金利はいくらになりますでしょうか?全期間、固定金利で考えています。

担当者:
えー、今ですと年1.09%になります。

東条:
「フラット35」と比較・検討しているのですが…フラット35の最低金利1.10%よりも、御行の方が安いですね。この金利は、全期間固定で間違いないでしょうか?

担当者:
はい、間違いありません。25年間、金利1.09%が適用されます。

東条:
この全期間固定金利は、絶対に変動しないのですか?

担当者:
はい、変動しません。固定です。

東条:
今から話すことはほぼあり得ない話になるのですが(※)、日本政府の財政破綻や、天変地異による大規模な自然災害などが起きても大丈夫なのでしょうか?市場金利が5%、10%、20%と上がった場合でも、ローンの金利は固定のまま維持されるかどうかが気になっています。
(※)繰り返しになりますが、筆者は政府の財政持続を強く疑っており、破綻はあり得る話だと思っています。日銀の国債保有率は、今のペースだと2018年には50%を超えてしまいます。そういう状況においても、リスクプレミアムがずっと0%で張り付くという光景がどうしても想像しにくいのです

担当者:
お客様のその想定は、あまりにも極端ですね…。一応、契約書上は「金融情勢の大幅な変動によって、適用金利が見直される場合があります」という文言は入っています。

東条:
え?それはつまり、25年固定金利契約であっても、適用金利が変わる可能性があり得るということでしょうか?

担当者:
契約書上という話であれば、固定金利でも、金利が変わることはあり得ます

東条:
固定金利の契約でも、金利が変わることもあり得るんですね。それはビックリしました。他の銀行の固定金利タイプの住宅ローンや「フラット35」でも同じなのでしょうか?

担当者:
すみません、私共の方ではフラット35を取り扱っていませんし、他の銀行さんの契約書の細かいところまでは分かりません。直接、お客様の方でご確認していただくしかないかと思います。

東条:
わかりました。変なことを聞いてしまい、申し訳ございません。

固定金利でも、銀行独自の住宅ローンでは安心できない!

本当に驚きました。後からその銀行の契約書を確認すると、確かに、次のような文言が入っていました。

第5条 適用金利
5. 本条1項から4項にかかわらず、金融情勢の変化その他相当の事由が発生した場合、適用金利が見直される場合があります。

私が調べた範囲では、多くの民間金融機関の契約書には、上記の文言が入っていました。ただ、一部の銀行においては入っていない場合もあったので、すべての銀行に共通ということではありません。

Next: フラット35なら本当に大丈夫?総本山の住宅金融支援機構に聞いてみる



フラット35なら本当に大丈夫?総本山の住宅金融支援機構に聞いてみる

銀行独自ローンは、固定金利タイプであっても、適用金利が見直される場合があるというのは驚きです。しかし「フラット35」であれば、財政破綻を含む有事の際でも、固定金利が維持されるのでしょうか?気になったので、住宅金融支援機構に直接、電話で聞いてみました。

東条:
25年ローンで2,000万円の借り入れを検討しているのですが、金利はいくらになりますか?

担当者:
それは取り次ぐ金融機関によって異なります。25年ローンですと、一番安い所で1.1%、一番高い所で1.9%です。住宅金融支援機構のホームページの方で検索して、各金融機関の金利をわかるようにしていますので、もしネット環境がありましたらご確認願います。

東条:
わかりました。ありがとうございます。後で確認します。ところで、申し込む金融機関によって金利が異なるのはなぜなのでしょうか?

担当者:
「フラット35」を取り扱っている金融機関ごとに、手数料の設定が異なっているためです。

東条:
そうなんですね。わかりました。あと、電話をする前に住宅金融支援機構のホームページで確認して、「フラット35」は住宅ローンを証券化して投資家に売る仕組みになっているという説明を読みました。実際にフラット35を申し込みたい場合は、住宅金融支援機構ではなく各金融機関に申し込むという理解でよろしいでしょうか?

担当者:
左様でございます。私共(住宅金融支援機構)では直接、ローンの申し込みを受け付けしておりません。

東条:
どの金融機関から申し込んでも、住宅ローンを証券化して投資家に販売するという一連の流れや仕組みは同じなのでしょうか?

担当者:
はい、同じ仕組みになります。

東条:
住宅ローンの審査に関してなんですが、例えば、A銀行に申し込んで審査に落ちたのに、B銀行に申し込んだら、審査が通るということもあるのでしょうか?

担当者:
可能性としてはあります。「フラット35」の審査は、窓口の金融機関さんと私共の2カ所で行っています。私共の審査基準は同じなのですが、金融機関の審査基準はそれぞれで異なります。

東条:
わかりました。ありがとうございます。最後にもう1点。実は「フラット35」の契約の件で、少し気になっていることがあります。民間金融機関の住宅ローンでは、固定金利契約でも有事の際には金利が変動しうる、という文言が契約書に入っていました。「フラット35」でも、途中で金利が変動してしまうという文言が契約書に含まれていますでしょうか?

担当者:
いえ、含まれていません。「フラット35」では、最初に決めた契約の金利が途中で変わることはありません

東条:
日本政府の財政破綻、天変地異による大規模な自然災害の発生、地政学上のリスクの顕在化など、様々な理由で市場金利が10%、20%とあり得ないレベルで上昇しても、大丈夫なのでしょうか?

担当者:
はい、大丈夫です。契約書にも、そういう文言はありません。

東条:
それは、どの金融機関から申し込んでも共通でしょうか?

担当者:
はい、共通です。「フラット35」の契約の中身については、すべての金融機関で同じものとなっています。

東条:
わかりました。ありがとうございます。

なぜ「フラット35」は完璧な固定金利を実現できるのか?

実際に電話して確認を取った結果、「フラット35」は何があっても途中で金利が変わらない契約になっていることが判明しました。

「フラット35」は、住宅ローンを証券化して投資家に販売する仕組みなので、住宅金融支援機構も各金融機関も、債務不履行のリスクを負っているわけではありません。しかし、銀行独自ローンは金融機関の自己資金で行うため、債務不履行のリスクを銀行が自分で被る格好になっています。

この仕組みの違いにより、銀行独自ローンでは固定金利であっても、有事の際に金利を動かせる文言を契約書に入れていることが多いのです。

Next: 金利変動型の住宅ローンは、自賠責なしの自動車運転と同じだ



金利変動型の住宅ローンは、自賠責なしの自動車運転と同じ

ここからは、変動金利型の住宅ローンに話題を移します。前回の記事で、住宅ローン相談窓口の担当者から、「固定金利と変動金利の申し込み割合は半々」だと教えていただきました。このことが本当なのかどうか、確かめてみました。

住宅金融支援機構の調査によると、民間住宅ローン利用者の調査実態では、住宅ローンの金利タイプ別に、正確には次の割合になっています。

<住宅ローン タイプ別利用者割合>

・全期間固定型:36.0%、
・変動型:38.7%
・固定期間選択型:25.3%
※出典:住宅金融支援機構 調査部 2016年6月

固定期間選択型」は、名称の頭に「固定」とついてはいますが、契約上は「変動型」の商品となっています。固定期間の終了後に適用金利と返済額の見直しが行われ、返済金額の上限も特にありません。固定期間終了後の返済額が大きく増加することもあるので、注意が必要です。

<固定金利契約と変動金利契約の違い>

・固定金利:返済総額が一定である(全期間固定金型)
・変動金利:返済総額が際限なく上昇する可能性がある(変動型/固定期間選択型)

返済総額が変動する契約は、実質的には「変動金利」なので、全体の64%の人(約3人に2人)が「金利上昇のリスク」に晒されている状況になっています。

ところで、自動車を運転する人には、自賠責保険の加入が義務付けられていますが、それはなぜでしょうか?それは、万一、交通事故を起こしてしまった場合、損害賠償の金額が高額になる場合があるためですね。

50年間に1度でも人身事故を起こす確率は、52.07%(約2人に1人)だそうです。
※出典:警察庁 余暇開発センター

つまり自賠責保険に入っていても、この保険が大活躍するのは、一生に一回あるかないかの確率なのです。自賠責保険の保険料は普通車で2年27,840円ですから、50年間では696,000円になります。

自動車の自賠責保険への加入を選択制にした場合、「約70万円を節約するために自賠責保険には入らない」という人も、おそらく出てくるでしょう。

しかし万が一、無保険の状態で人身事故を起こしてしまったら、損賠請求が高額に及ぶため、自動車を運転する者は全員必須とされているわけです。

いっぽう、政府が財政破綻するのは、過去800年間の統計では「100年に1回あるかないか」の確率です。日本では1946年に一度、実質的なデフォルトを起こしていて、今、70歳以上の日本人はこのイベントに遭遇しています。

変動金利型の住宅ローンは、金利が上昇する局面ではローンの総額が際限なく跳ね上がる仕組みになっています。変動金利型の住宅ローンを組むのは、いわば自賠責保険にすら入らずに自動車を運転しているような状態です。

少しシミュレーションしてみれば、その危険性が身に染みてわかります。

Next: 日本が財政破綻しなくても、変動金利型ローンには危険がいっぱい



日本が財政破綻しなくても、変動金利型ローンには危険がいっぱい

金利0.5%、25年の返済計画で2000万円を借り入れた場合、返済総額利子総額は次のようになります。

<金利0.5%>

・毎月返済額:70,933円
・返済総額:21,280,056円(利子総額:1,280,056円)

もし金利が0.5%上昇して、1%に到達した場合、次のようになります。

<金利1%>

・毎月返済額:75,374円
・返済総額:22,612,189円(利子総額:2,612,189円)

金利がたった0.5%上昇するだけで、利子総額が2倍(約128万円→約261万円)に跳ね上がります。さらに0.5%上がると、こうなります。

<金利1.5%>

・毎月返済額:79,987円
・返済総額:23,996,020円(利子総額:3,996,020円)

利子総額は400万円近くまで跳ね上がります。変動金利の問題は契約上、「利子総額の上限がなく、返済総額がどんどん膨らんでいく」点にあります。さらに金利が0.5%上がって、2%になった場合はこのようになります。

<金利2%>

・毎月返済額:84,770円
・返済総額:25,431,142円(利子総額:5,431,142円)

利子総額が540万円を超えて、毎月返済額が当初の計画よりも約1万4千円(84,770円-70,933円=13,837円)も上がってしまいました。

ちなみにこの金利2%というのは、2013年4月から開始した「アベノミクス」で、政府と日銀が目指していた水準です。当時、2年で2%の物価安定(2%のインフレ)目標を掲げていました。

物価が毎年2%上がる経済環境では、通貨の価値は1年で2%下落します。そのため、銀行は例えば100万円を貸し出すと、1年後には実質的な価値が約98万円になるため、最低でも2%の金利を要求しないと赤字になります。

銀行から見ると、貸出金100万円に対して1年後に102万円を返済してもらって、ようやくプラスマイナスゼロというのが、「インフレ率2%」の経済環境です。

もしアベノミクスが成功していたら、住宅ローン金利は、銀行が利益を出せる水準である2.5~3%程度の水準を目指す展開になっていたと推測できます。仮に金利が2.5%になった場合の試算結果がコチラです。

<金利2.5%>

・毎月返済額:89,723円
・返済総額:26,916,835円 (利子総額:6,916,835円)

利子総額が700万円近くまで膨れ上がってしまいました。

アベノミクスの成功ケースでは、賃金も2%程度の上昇を期待していたと思われますので、それを考慮するとどうなるでしょうか?

<賃金が2%上昇した場合>

・月収25万円の人→25万5,000円
・月収30万円の人→30万6,000円
・月収40万円の人→40万8,000円

賃金が上記のように2%上昇して、同じように金利も2%分上昇して0.5%から2.5%になった場合、実質的な毎月返済額が70,933円から89,723円に上昇し(18,790円の上昇)、賃金上昇額(5,000~8,000円)よりも大きく上がっています。

ローン返済総額は、21,280,056円から26,916,835円に上昇しました。当初の予定より、約560万円も返済総額が膨れ上がるのです。

金利も賃金も平等に2%上昇させたのにもかかわらず、変動金利型の住宅ローンでは
毎月返済額の上昇額(18,790円)>賃金の上昇額(5,000~8,000円)
となってしまいます。

前回の記事では、変動金利のリスクについて政府の財政破綻を想定して話していたので、一部の方に誤解を生じさせてしまい、申し訳ございませんでした。専門のファイナンシャルプランナーの方からも「極論を振りかざして変動金利のリスクを必要以上に煽っているだけ」というお叱りを受けました。

そのため、本稿では財政破綻ケースではなく、アベノミクス成功ケース(景気回復ケース)で検証してみましたが、どうでしょうか?

金利がほんの少し(2%程度)動いただけでも、変動金利の契約では「当初の返済計画から比べると利子総額が大きく膨らんでしまう」ということは、上記のシミュレーションを通じてご理解いただけると思います。

今となっては、リフレ政策の間違いが判明してアベノミクスが失敗したため、変動金利を選択していても「運よくダメージがなかった」だけです。ただ、今後どう動くかはわかりません。

景気回復であれ、政府の財政破綻であれ、金利が上昇する局面に遭遇すれば、「これだったらフラット35(固定金利1.1%)に借り換えしておけばよかった」と、多くの人が後悔することになるでしょう。

借金における金利は、「複利マジック」が反対方向に作用してしまうため、私たちの想像を超えた動きをするのです。

上記のシミュレーションでは、「5年ルール」や「125%ルール」を考慮せずに計算しています。しかしながら、これらのルールを適用させても、返済総額は膨れ上がる方向にしか向かいません(この点は次回の記事で詳しく検証していきます)。

Next: 今回の結論:やっぱり有事には「フラット35」が圧倒的に有利である



やっぱり有事には「フラット35」が圧倒的に有利である

100年に1回しかないイベントとどう向き合うかは、人それぞれの投資判断だと思います。変動金利と固定金利の両者には、それぞれメリットとデメリットがあります。

ただ、金利が上昇する局面では、(仮に1~2%の上昇であっても)固定金利の方が変動金利よりも有利です。有事を想定するなら、構造上、金利が変動しないフラット35(固定金利)はさらに有利になるしょう。

今、変動の優遇金利0.5%を適用されていても、金利がわずか0.6%上昇するだけで、固定金利の最低金利1.1%(25年ローンの場合)に届いてしまいます。

反対に、変動金利が固定金利に勝つのは、「今後、金利がまったく上昇しない状態が25年以上続く」というレアなケースでしかありません。もちろん、未来のことは誰にもわからないため、変動金利が固定金利に勝つケースもあるかもしれませんが、リスクとリターンが見合っていないことは確かなのです。

次回

次回の記事では、変動金利と固定金利のリスクとリターンの関係を示しつつ、多くのファイナンシャルプランナーや住宅ローン販売に関わる専門家の人たちが持っていない視点で、さらに詳しく解説していきます。

端的に言えば、株式等のオプション取引とよく似た構造になっていることに気付くでしょう。次回もお楽しみに!

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年12月25日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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