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日米株価の上昇持続に疑問符。「トランプ会見」への過剰な期待は危うい=馬渕治好

トランプ次期米大統領が、ツイッターで「1/11(水)に当選後初の記者会見を行なう」と公表したため、それが今週最大の注目材料になる可能性があります。ただ、それでどうなるのかは、全くわかりません。驚くような好材料が出るとは考えにくいですが、この発言によって、各市場の相場が、上に行くとも下に行くとも賭けるのは危険です。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年1月8日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

日本株の大幅高は「やり過ぎ」 米ドル相場は既に変調を示し始めた

どの銘柄もほぼ全て株価上昇。先週(1/2~1/6)の振り返り

先週の材料としては、これまでと同様に、米国経済の堅調さを示すものが多くみられました。特に1/3(火)発表の12月のISM製造業指数は、前月の53.2から54.7に大きく上昇しました。これを受けて、ニューヨークダウ工業株指数は、一時前日比で170ドル強幅の高騰を見せました。また米ドル円相場も、118.60円の高値に達しました。しかし米株も米ドルも、その後はやや勢いを失って引け、翌1/4(水)の東京株式市場の寄付きを迎えました。

その東京での大発会は、米株や米ドルが上昇したとはいえ、一時より勢いを失っていたにもかかわらず、手放しの高騰となりました。それは、全体相場として、日経平均株価が前日比で2.5%も上昇し、昨年初来の最高値を更新したことだけではなく、物色動向をみても、東証一部全体の9割強の銘柄が上昇した(値上がり銘柄数は1851)といった、全面高であったことにも表れています。企業実態が良かろうと悪かろうと、どの銘柄もほぼすべて株価が上がるというのは、余りにも行き過ぎです。

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この大発会の株価高騰に、投資家心理がひきずられてしまったのか、その後米ドル円相場が115円台前半に下押ししても、国内株価の調整は軽微でした。

米ドル安の理由は「無理の反動」

なお、この米ドルの下振れ(円高への振れ)については、一部では1/5(木)に発表された12月のISM非製造業指数について、その内訳の雇用指数だけを取り上げて、それが低下したことが米ドル安の要因だという解説がなされていました。しかし、ISM非製造業指数全体は、前月から低下すると事前に予想されていたところ、予想より強く横ばいにとどまりました。したがって、そうした解説は、米ドル安の理由が見つからないために、無理やり重箱の隅をつつくようにして理由をひねり出したという感が強いです。

実際の米ドル安の背景は、これまで「トランプ相場」として米ドルを買い上げすぎたことに無理が生じているということが最も大きな要因だと考えています。このため、対円では、何度も118円超えに相場が突入しても118円台を維持することができていません。これに加え、米ドル安・円高の一つのきっかけ(あくまでもきっかけ)として、中国元相場の波乱が挙げられます。この点は後述します。

主要国の株価指数騰落率ランキングと日本株への違和感

ここで先週の、主要国の株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)を見てみましょう。

騰落率ベスト10は、アルゼンチン、モロッコ、フィリピン、エジプト、オーストリア、シンガポール、ペルー、ハンガリー、ギリシャ、パキスタンでした。

あまり大きな市場が含まれていません。主要市場のなかでは、米国のナスダック総合指数が、ベスト11位、TOPIXが16位だったことが目立ちます。

一方、先週株価が下落した国は、2つしかありませんでした。それは、トルコとスリランカです。

ただ、株価が上昇したものの、騰落率ランキングで下位の国(株価指数)として、インド(ワースト5位)、メキシコ(9位)、英国(10位)、フランス(13位)、ニューヨークダウ工業株平均(14位)、ドイツ(15位)などが挙げられます。

欧州主要国の株価上昇が控えめであったことが目立ち、また、米国ではナスダックが強かったものの、ニューヨークダウ工業株はあまり強くなかったと言えます。それに対して、日本株の強さがやはり違和感を覚えます。

外貨相場(対円)の騰落率ランキングでは、ベスト10は、ロシアルーブル、コロンビアペソ、カナダドル、ブラジルレアル、ミャンマーチャット、韓国ウォン、ポーランドズロチ、ノルウェークローネ、ルーマニアラウ、豪ドルでした。資源国が多めです。

一方、ワースト10は、メキシコペソ、トルコリラ、チュニジアディナール、英ポンド、南アランド、アイスランドクローナ、インドルピー、アルゼンチンペソ、スリランカルピー、クロアチアクーナです。株式でも通貨でも、メキシコとトルコの不振が際立っています(メキシコは、トランプ氏の姿勢によるものでしょう)。また、資源国通貨でもランドは冴えません。実は米ドルはワースト11位で、ユーロや円などの対主要通貨では、既に米ドル独歩高の反動(独歩安)気味の動きに入っている可能性が高いと考えます。

Next: 日米株価の上昇持続に疑問符。今週(1/9〜1/13)の見通し



「トランプ会見」に賭けるのは危ない。今週(1/9~1/13)の見通し

トランプ次期米大統領が、1/3(火)にツイッターで「1/11(水)に記者会見を行なう」と述べました。大統領に当選した後、記者会見は一度も開いていませんので、この記者会見が相場の材料になるのではないかと注目されています。

おそらく、驚くような好材料は出てこないと見込みます(一部市場参加者の間では、自ら記者会見を開くということは、市場が喜ぶような隠し玉の経済政策などを発表するに違いない、との声が聞こえますが、そうした根拠のない楽観を語るということは、「トランプ相場」の浮かれ心理に毒されていると考えます)。無難にこなして無風となるか、とんでもない失言をするかの、間だと予想します。

とは言っても、自ら何を語るのか、記者からどのような質問が出るのか、それに対してどう答えるのかなどは、まったくわかりません。それどころか、1/11(水)に本当に記者会見が行われるかどうか自体が怪しいとの見解も聞かれます。したがって、この記者会見で、どの市場にせよ、市況が上に行くとか下に行くと決めつけて、それに賭けるのは極めて危険です。

日米株価の上昇持続に疑問符

日本株の動きについては、先週末1/6(金)の米雇用統計を通過したことで、米国株式市場で安心感が広がり、ニューヨークダウ工業株指数が2万ドルに肉薄したため、シカゴの日経平均先物(円建て)が19580円と、19600円近くで引けています。このため、1/9(月)の米国株価や米ドル相場が堅調であれば、連休明けの1/10(火)の日経平均株価が、1/5(木)のザラ場高値19615.40円を上抜ける可能性があります。

ただ、米ドルが先んじて変調をみせているように、この先11月初旬から続いている日米株価の上昇が持続するかどうかについては、疑問視しています。

この他の今週の材料としては、日本では2月本決算企業の9〜11月決算の発表が続きます。また米国では、10〜12月決算の発表社数が増えてきます(今週は金融大手などです)。

Next: 止まらない資金流出。中国政府の意図に反した「元安」が続いている



中国政府の意図に反した「元安」が続いている

中国元相場は、今年初まで、下落傾向が続いていました。以前の「元が安くなる局面」は、中国政府が輸出を支援し景気を支えるため、意図的に元を緩やかに安くした状況でした。ところが最近は、中国政府の意図に反した急速な元安だったと言えます。

こうした最近の元安の背景は、資本逃避思惑です。中国の家計や企業が、中国経済や政治情勢に懸念を抱いて、「海外に資産を移そう」という動きが嵩んでいるという説があります。また逆に、中国の企業などが積極的に海外に投資を行なっているという観点もあります。いずれにせよ、「中国から他国に資金が流れる」という思惑が、元を比較的自由に売買できる香港オフショア市場元売りを招き、元安を生じてきました。

そして元が安くなるほど、海外資産を持っている方が利益が出ますので、元安がさらなる資本逃避を招くとの思惑が広がり、それがまた元安を招く、といった、悪循環がとめどなく進むというリスクを生じていました。

中国政府の為替介入も効かず、止まらない中国の資金流出

また、このところビットコイン相場(対米ドル)が上昇していましたが、これは中国の家計や企業が、元から米ドルなどの主要通貨だけではなく、ビットコインにも資金を移しているとの思惑をさらに強めました。

こうした元安が、中国から本格的に資金が逃げてしまう事態を阻止するため、中国政府は元安に歯止めをかけようとしていました。具体的には、中国が保有する外貨準備を使って、外貨売り・元買いの為替介入を行なっていたわけです。

しかしそうした外貨準備を使うことにより、外貨準備高がピーク時の4兆ドルから3兆ドル強まで減少してしまいました。外貨準備がどんどん減っていくと、中国政府が外貨売り介入をしたくても、元手になる外貨が枯渇するとの懸念が広がり、ますます中国元安に歯止めがかからなくなります。

今年に入って人民元が反発した理由と米ドル/円相場

こうした事態から中国元の対米ドル相場は、1ドル7元まで軟化してしまいました。そこで中国政府は、(外貨準備をこれ以上取り崩すことも避けたいため)中国の銀行に働きかけて、投機筋が元売りを行なうために、原資となる元を借り入れるための金利を引き上げさせて、元安を阻止する動きに出ました。

このため、今年に入って元相場が反発したわけです。ここで市場参加者は、中国政府が元相場を押し上げたがったのは、元安と資本投資の悪循環を断ち切るという目的以外に、このまま元が安くなるとトランプ次期米大統領から「元安が中国からの輸出を不当に支援している」との攻撃をされるため、それを避けたかったのではないかと考えました。

ここで、自国通貨が安くなると米国から攻撃されかねないのは、元だけではなく日本円も同様ではないかとの観測が広がり、それが先週の円高・米ドル安を引き起こしたという側面があったと言えましょう。
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※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年1月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した全文(先週の相場振り返り今週の相場展望ほか)もすぐ読めます。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2017年1月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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