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「いざなぎ景気超え」の日本で、黒田日銀が見落とした2つの変化=田中徹郎

「いざなぎ景気超え」の日本で、なぜ物価が上がらないのか?日銀の2%インフレ目標は存在意義を失いつつあるばかりか、新たなバブルの種にもなりえます。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)

プロフィール:田中徹郎(たなか てつろう)
(株)銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。

「好況」でも上がらない物価。2%目標にこだわる日銀の誤算とは

経済学や経験則が役に立たない状況

アメリカの景気拡大はすでに10年目に入り、どうやらわが国も「いざなぎ景気超え」です。ヨーロッパの景気も回復中ですし、中国、インド、アセアンなど新興国経済も決して悪くはありません

にもかかわらず、世界の物価はあいかわらず低迷したままです。経済が拡大しますと、通常はモノの価格は上がるものですが、どうやら今回は様子が違います。経済学の教科書や過去の経験則は、すでに役にたたなくなってしまったのかもしれません。

では、なぜこんな不思議なことが起きているのでしょう?

【関連】安倍内閣がひた隠す景気後退「いざなぎ詐欺」の忖度と不正を暴く=斎藤満

なぜ日本の物価は上がらないのか

残念ながら、この分野で日本は先頭ランナーですから、過去いろんな説明がされてきたものです。例えばこうです。

財政悪化への懸念
  ↓
増税の可能性
  ↓
国民の将来への備え
  ↓
消費の停滞
  ↓
物価の低迷

つまり日本経済は決して悪くはないが、上記のように国民が財政悪化の先を読んだ結果、物価が上がらないという解釈です。

ただしこの説はちょっと怪しくなってきたようです。もし上記の通りなら、なぜ物価の停滞が世界的な現象になるのでしょうか。このことから、財政悪化が物価低迷の犯人であるという説に説得力はありません。もちろん日本においても…。

Next: 「いざなぎ景気超え」の日本で物価が上がらない本当の理由



物価が上がらない2つの理由

では、本当の理由はいったい何なのでしょう。僕は2つあると思います。

<理由1. ロボットの大量導入によるコストの削減>

すでに先進国ではロボットの大量導入によってずいぶんと省力化が進みましたが、ここ数年は中国でもロボットの爆買いがみられます。いずれアジアやほかの新興国でも同様の動きが出てくるに違いありません。その結果、すでに製造業は人件費の削減を目指し、拠点をアチコチ移すといった面倒な作業から解放されつつあるといえるでしょう。

もちろんこれはコストの低下を伴います。コストが下がった分、企業は製品の販売価格を引き下げ、その結果として物価が上がりにくくなっているのではないでしょうか。

<理由2. IT化による販売価格の低下>

もう1つの物価抑制の要因は、IT化だと思います。IT化の進展により、消費者は、世界中で最も有利なルートで商品を買うことができるようになりつつあります。

僕は最近、海外から並行輸入された腕時計をネットで買いました。近所のショッピングセンターの正札の7掛けで買えたのですが、先週そのショップに行ったところ、僕の買値とほぼ同額まで値引き販売していました。

IT化物流の高度化が進んだ結果、消費者はさまざまな方法で安値販売ルートを探せるようになり、その結果、モノの価格全体が安値に収れんするという現象がみられるようになりました。

これも物価の低下要因として大きいのではないかと思います。

日銀の2%インフレ目標は存在意義を失いつつある

物価の上昇が緩慢にしか進まない一方で、世界的に見て経済はまずまず拡大するという傾向…。

おそらくこれは構造的な変化であり、ロボット化やIT化のますますの進展により、世界的に見てモノの値段は今後も上がりにくい状態が続くのではないかと思います。

仮にこの見方が正しければ、すでに日銀の2%インフレ目標は存在意義を失いつつあるのではないでしょうか。そればかりではなく、この路線の軌道修正を柔軟に行わなかった場合、将来のわが国の経済にとって新たな問題の種、つまりバブルの火元になる可能性があると思います。

日銀の政策の目的の1つは「物価の安定」ですが、日銀がみずからの政策により、物価が不安定になるという皮肉な結果を招かないとも限りません。

【関連】米国の手のひらで「平成のインパール作戦」へと突き進む黒田日銀の勝算=斎藤満

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一緒に歩もう!小富豪への道』(2017年9月26日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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