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日銀のETF購入額4兆円超。2年連続で最大の買い手に=大前研一

日経新聞がまとめた集計によると、12月半ばまでの日銀のETF購入額は4兆3000億円と、信託銀行など他の部門と比べて最大となる見通しです。これは異常なことだということが理解されているでしょうか。要するに、日本の株式を年金であるGPIFが買い、さらに日銀がインデックスをETFで買う、つまりは日本の株式を買っていることなのです。これは完全に株価維持策です。GPIFと日銀が揃って株価を維持し、日経平均が1万9000円台になった、日本の景気は良いなどと主張しているわけです。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年1月11日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※1月8日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

倒れる時は、国債も株も一緒。日本は非常に危うい状況にある

非常事態

日経新聞がまとめた集計によると、12月半ばまでの日銀のETF購入額4兆3000億円と、信託銀行など他の部門と比べて最大となる見通しです。購入額は去年より4割増加し、外国人投資家の売りを吸収したもので、取得価格ベースのETF保有額は11兆円に達しています。

これは異常なことだということが理解されているでしょうか。要するに、日本の株式を年金であるGPIFが買い、さらに日銀がインデックスをETFで買う、つまりは日本の株式を買っていることなのです。これは完全に株価維持策です。GPIFと日銀が揃って株価を維持し、日経平均が1万9000円台になった、日本の景気は良いなどと主張しているわけです。

大本営発表、日本の株はますます売れて値段が高くなったなどとやっているわけですが、企業の業績がそれほど良くなっていないのに株が上がるというのはヤラセに決まっているのです。ETF購入は、その意味では禁じ手中の禁じ手だと言えるのです。日銀がインデックスを買うと言うだけでも疑問ですが、その他にGPIFの買いもあり、こうしたところがなぜ日本の株を買うのか、本当にやめていただきたいものです。これでは倒れる時は国債も株も、みんな一緒に倒れてしまいます。非常に危うい状況だと言えるのです。

この状況を見て日銀黒田総裁は、株価は1万9000円超え、トランプ景気もあって「世界全体が良い方向に行っている」と発言しています。自分の政策で良い方向に行っているとは言わないところがすごいところです。

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悲観論が完全に転換した」とも言い、ただ自分がセットした4年前の目標、2年で2%の物価目標はまだ実現しておらず、いつ実現するかと言えば自分の任期の後であり、任期中は関係ないと言っているわけです。自分で株を買って株価を上げておいて、良い方向に行っているなどとは驚きです。

小渕政権の時の、野菜のかぶを持ち上げて、株上がれなどとパフォーマンスをしたのが象徴的ですが、株が上がっていれば景気が良いと考えるチープな政治家が多すぎるのです。株は本来ならば企業の価値が上がらない限り上がるわけがないのです。今回上がっている理由は、物理的に買っている人がいるからです。しかもそれが大きな鯨2匹なのです。このようなPKO=プライスキーピングオペレーションは、極めて誤解に満ちていて、自分の足を食いながら美味いなと言っているようなものなのです。これは非常に危険な兆候だと思います。

Next: 臨界点を超えた日本国債の「複合汚染」暴落は刻一刻と迫っている



2017年国債危機は起こるのか?

ダイヤモンドオンラインは4日、「5分でわかる、今年国債危機が懸念される理由」と題した記事を伝えました。日本の長期金利が上昇していることで評価損が発生し、日銀は現在10兆円の赤字になっています。加えて日銀は、去年9月に導入した金利の誘導政策に基づき、日本国債を購入する必要があるものの、買い入れ額の目処を超えて購入することができないとし、投機筋がこの額を念頭に挑戦してくる懸念があるとしています。

ハイパーインフレ国債暴落の危機は刻一刻と迫っています。しかしそれがいつかと聞かれれば、自分で国債を刷って買うという奇特な人がいるので、今のところ、心配をし始めるまでは大丈夫だと思っています。ただこれは、エンペラーズローブ、つまり王様が服を着ずに堂々と歩いているというような状況なのです。したがって、誰かが心配し始めるとその瞬間に状況がおかしくなるのです。

トリガーとして基本的に今まで一番心配されていたのは、カイル・バス氏のような、アービトラージをして日本の国債をショートする人の存在でしたが、彼は何回かトライしたものの日本人が安心して買っているのでうまくはいきませんでした。日本の国債は、今は人気があり買う人が多くいますが、やはりどこかで国債へのニーズに変化が出てくるでしょう。

その理由は何でも良いのです。すでに臨界点は超えているのです。誰かが大掛かりな売り浴びせを仕掛けてくるなどの事態が起きた時には、昔のタイのように簡単にはやられないとは思いますが、しっかりと想定して備えておくべきだと思います。日本国債は、実際には全く返す予定のないものを1300兆円も持ち込んでいるわけで、しかもそのかなりの部分を、印刷した人たちがもう一度買っているという複合汚染ともいうべき状況にあるのです。

Next: トランプ氏の「目の敵」にされたトヨタに今必要なこととは?



【米国】製造業危機? 米フォード、メキシコ工場建設を中止など

米フォードモーターは3日、メキシコでの工場新設を取りやめ、代わりにミシガン州の工場で電気自動車と自動運転車を作ると発表しました。フォードはメキシコで小型車を作り、アメリカに逆輸入する計画でしたが、トランプ次期大統領がこれに高関税をかけると公言。同様にゼネラルモーターズトヨタにも矛先を向けています。

トランプ氏は、エアコンのキャリアを始め、今回はトヨタのメキシコ投資にも介入しています。トヨタのメキシコ投資は実際はグアナファト州ですが、バハ・カリフォルニア州などと言い、全く知識がいい加減にもかかわらず、メキシコ投資はありえないとつぶやき、トヨタ側も困っていると思います。

実は、トヨタはアメリカの自動車業界の中では最もアメリカで雇用を作った会社です。この20年に限れば、他のアメリカの大手自動車会社はリストラしましたが、新しい雇用をそれほど生んでいません。トヨタはその点をきちんと説明するべきです。

まずは今回のメキシコ工場はグローバル基地であり、アメリカにも一部を輸出するものの中南米などにも輸出するということ、また、世界中で52カ所の拠点を持ち、アメリカの自動車産業については2つの大きな貢献をしていること(1つはアメリカ自身でこれだけのものを売れるようにしたこと、そしてもう一つはトヨタ傘下の部品会社も多数、アメリカに連れてきたこと)で、この貢献を見てくださいと言うべきなのです。

そこで何百万人もの雇用を作ったと伝えたうえで、今回はグローバル戦略の一環としてメキシコに工場を作るものの、その多くはメキシコ国内や中南米に向けたもので、アメリカにも一部輸出するものの、逆にアメリカで作ったトヨタ車も中南米にも輸出するのだという説明を、落ち着いてすれば良いのです。Twitterでノーなどと言う短気な人なので、今回は慌ててフォードのように止めるとは言わずに、向き合って話せば良いと思います。トヨタはここでパニックに陥る必要は全くないのです。

この20年を見ればトヨタのアメリカにおける躍進は驚くべきものがあり、トヨタ系列の部品の会社がほとんどアメリカに来たという大変大きな貢献をしているのです。またこれはデトロイトの三社にも非常にプラスになっているのです。こうした点をきちんと理解させれば問題は無いはずです。ダメなら私が言って演説しても良いと思うほどです。私はこの問題については日米貿易戦争の頃から深く研究しているからです。

ちなみにメキシコのメーカー別新車生産台数を見ると日産が一位です。日産はメキシコでの生産を40年以上やっています。にもかかわらず日産にはまだその矛先は向かっていません。次いで二位にGMが続きますが、実はフォードはもっと下位で五位の生産台数です。さらにトヨタはその中でも最も下位なのです。今回はトランプ氏が大統領になったそのすぐ後の週にメキシコ工場の鍬入れ式というタイミングだったので、バツの悪い状況ではありました。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年1月11日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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