トランプ氏の大統領就任式を見ました。僕は今後の相場について、やはり「円高・株安」になるだろうと予想します。ただし、ここで言う「株」とは「日本株」です。僕の予想は「円高・(日本)株安」であり、米国の株式市場は上がるかもしれないと考えています。(『長谷川雅一のハッピーライフマガジン』2017/1/23号より)
プロフィール:長谷川雅一(はせがわまさかず)
1959年、岐阜県生まれ。株式会社プレコオンライン(金融商品取引業)代表取締役社長。2000年より株式投資の研究を始め、日本で初めて「株の自動売買」という言葉を使った著書を出版。株式投資の世界では、「株の自動売買」ブームの火付け役として知られている。現在は、自動売買ソフトの開発、投資教室、メルマガの執筆など、多忙な日々を送っている。
間もなくマーケットは「アメリカファースト」の真の意味を理解する
嵐の前の静けさ
トランプ氏がアメリカ大統領に就任しました。マーケット関係者が注目した就任演説に、相場はどう反応したのでしょうか?
週末の米ドル/円は114.60円ほどで引けており、これは「やや円高かな」というレベルです。
週末のNYダウは94ドルほどの上昇ですから、アメリカの株式市場は、とりあえずトランプ大統領の就任を「歓迎」した形です。
日経225先物は19,125円付近と、やや上値の重い動き。米国の10年債利回りは2.467%と、やや失速気味でした。
要するに、トランプ大統領就任を受けてのマーケットは「強弱まちまち」で、まだハッキリした方向感が出ていません。トランプ大統領就任後のマーケット、週末の段階では「静か」だったわけです。しかし僕は、これは「嵐の前の静けさ」だと思っています。
「トランポノミクス」という幻想
トランプ氏の掲げる政策には、マーケットにとってプラスのものもあれば、マイナスのものもあります。また、その解釈しだいで、相場の先行きについての予想は大きく変わります。
たとえば、「トランポノミクスで、アメリカの景気はよくなる。アメリカの金利も上昇傾向になるだろう。となれば、アメリカ株高、ドル高だ。したがって日本株は買い。ドル円も買いだ」というポジティブな解釈も成り立つでしょう。
投資家の頭の中に、昨年11月9日以降の「トランプラリー」の記憶がまだ鮮明に残っている今、なんとなく「トランプ=ドル高・株高」というイメージができあがってしまっている感もあります。
週刊誌にも、「さあ、トランプ相場だ。乗り遅れるな。日経平均は4万円を目指す」といった、景気のいい見出しが躍っていたりします。
では、今日(1月23日)から、相場は上がるのでしょうか?僕はといえば、相場の先行きについて、まったく楽観していません。「ドル円も株も、もう買えない」と考えています。
今後は「円高・(日本)株安」になる
1月12日深夜のトランプ会見を見て、僕のトランプ新大統領に対する楽観が吹っ飛び、同時に相場への楽観論も消えた、ということは前回の記事に書いた通りです。
さらに、あの会見から僕は、トランプ氏の就任演説は、彼が選挙中にアピールしていた公約の内容を、堂々とくり返すものになるだろうと予想していましたが、はたして、その通りになりました。
就任演説を聞きながら、僕は「ああ、やっぱり、やっちまったか」とつぶやきました。
就任式を見ながら、僕は今後の相場について、やはり「円高・株安」になるだろうと予想したのです。
なお、ここで言う「株」は「日本株」です。僕の予想は「円高・(日本)株安」であり、アメリカの株式市場は上がるかもしれないと考えています。
今までは、アメリカは「国際協調」を掲げてきましたから、「アメリカ株高=日本株高」という「公式」が成り立ちました。
しかし、これからは「アメリカファースト」です。となれば公式は逆転しますから、今後は「アメリカ株高=日本株安」になっても、おかしくありません。
Next: 日経2万円、1ドル120円はもう無理。恐怖のアメリカファースト時代が始まった
日経平均2万円、1ドル120円はもう無理
2016年の年末に僕は、日経平均は夏までに22,000円を目指すだろうし、ドル円は一時的に1ドル=128円までオーバーシュートする可能性がある、と予想しました。それはトランプ氏が「うまくやってくれる」ことを前提とした予想でした。
しかし、現段階では、今後日経平均は20,000円はおろか、19,500円をも上抜けないまま、下値をさぐる展開になりやすいと予想しています。
また、ドル円については、120円を抜くことなく、今後110円、100円と水準を切り下げていくだろう、と予想しています。
ちなみに、前回にも書きましたが、僕がドル円相場の反転を予想したのは1月12日の深夜です。あのトランプ氏の記者会見を見ながら、僕はドル円相場の反転を予想し、21日深夜の就任演説を聞いて、その流れを再確認しました。
もちろんトランプ氏は、金融業界の規制を緩和する方向で動くわけですから、市場にとってはプラスの面もあり、その影響で、今後一時的に「ドル高・株高」に動く場面があるかもしれません。しかし、結局は「円高・株安」に行き着くだろうと、僕は予想しています。
恐怖の「アメリカファースト」時代が始まった
なぜ、行き着くところは「円高・株安」なのか?それは、アメリカが明確に「アメリカファースト」というスローガンを掲げて動き始めたからです。
アメリカは、「これからは俺たちが儲ける。おまえ達には儲けさせない」と、「利益の独占」を宣言しました。
これまでも、アメリカは自国が儲かるように、あらゆる手段を講じて現在の富を築いてきました。
どれほど汚いことをやろうが、間違ったことをやろうが、戦争で罪もない民間人を星の数ほども殺そうが、そんなことはかまわない。ただ自国が繁栄すればいい。儲かればいい。アメリカとは、もともと、そういう国です。
しかし、正義だったり博愛だったりという「モラル」や「美徳」(のようなもの)も掲げてきたために、その暴走には、ある程度、歯止めがかけられていました。
ところがトランプ大統領は、そういった「モラル」や「美徳」をすべて捨て、「カネ儲けだけに突っ走るぞ」と宣言したのです。
今のところ、アメリカが「ファースト」で、どうやらロシアが「セカンド」のようですが、日本は、いったい何番目の国なのでしょうか?10番目ぐらいには、入れてもらえるのかどうか。
ともかく、これから日本はアメリカに「たかられ続ける」のです。「アメリカファースト」が日本株(日本企業)にとって、プラスに作用する道理がありません。
Next: 安倍政権を潰すのは、民進党ではなくトランプ大統領になる
安倍政権も危なくなる
トランプ氏は就任直後にTPPからの「離脱」を宣言しました。これは、このあと「TPPより、もっと自国に有利な貿易協定を結ぶため」でしょう。
TPPのレベルでも、日本の農業は「大打撃を受ける」と戦々恐々だったのに、それ以上のもの、つまり、アメリカにもっと有利で、日本にもっと不利な貿易協定を押しつけてくるに違いありません。
それが、どの分野にどう影響するか、今の段階では、わかりませんが、総じて日本企業の利益は圧迫されるでしょう。
日本企業は、トランプという「予測不可能」な大統領の存在のために、先行きが見通せなくなり、うかつに動けなくなります。結局、日本企業は利益を上げることが難しくなります。
また、アメリカから無理な要求が出るたびに、日本国内も「もめる」し「混乱」するでしょう。
今は「政権安泰」で、ニタニタしながら民進党を「いじめ」て楽しんでいる安倍総理も、さすがに危なくなるでしょう。安倍政権を潰すのは、民進党ではなくトランプかもしれません。
トランプ就任に際して、安倍総理は無防備にラブコールを送っていますが、それはもう完全な「片思い」。今後は、アメリカ大統領に「会うこと」すら、簡単には実現しなくなるでしょう。
トランプの政策の多くは実現しない
「いや、でも長谷川さん、トランプの政策はマーケットフレンドリーでしょう?株式市場にはプラスじゃないの?」と言われるかもしれません。
確かに、トランプの掲げている政策が着実に実行されれば、それはアメリカ経済や、アメリカの株式市場に好影響を与えるかもしれませんし、アメリカの繁栄によって日本も「おこぼれ」を頂戴できるかもしれません。
しかし、あの独裁的な大統領の政策が、今後きちんと実行されるでしょうか?閣僚人事すら、ままならないまま、すでにアメリカの政治は混乱状態に陥っています。
いくら、議会が共和党多数で占められているとはいえ、あの大統領では、党内分裂もありえますから、そう簡単にコトは進まないでしょう。
僕は、彼の政策の多くが、実現しないか方向転換を迫られるだろう、と予想しています。
トランプは「やる」と言う。だから、市場は「やるんだろう」と受け止める。しかし、その政策は、なかなか実行されない。そこで市場が混乱する。リスクオフになる。そんな混乱の連鎖が予想されます。
今後もトランプは、いろいろな「ムチャ」を言い続けるでしょう。しかし、その「ムチャ」は簡単には通らないし実現しない。それにイライラして、またトランプが「ムチャ」を言い、ムチャをする。
やがて、スキャンダルまみれとなり、支持率が10%を割ったトランプが「弾劾裁判」にかけられるなどして、政治的な混乱は極限に達するのではないか、と予想しています。
Next: 「いつ戦争が起こっても不思議ではない」高まる地政学的リスク
アメリカは「内乱状態」に陥る
トランプ氏の政治は、簡単に言えば「メチャクチャ」です。彼はロジカル(論理的)ではなく、エモーショナル(感情的)な人です。
根拠もなくメチャクチャな主張をし、それを押し通そうとしますし、邪魔者は消そうとします。
自分の言っていることが正しいかどうか、主張に裏付けがあるかどうかなんて関係ありません。彼にとっては、「オレ(トランプ)が正しいと思うことが正しいし、真実だ」なのです。
今後、アメリカは「内乱状態」に陥る可能性が高いでしょう…すでにその兆候が出ていますよね。
彼の言う「アメリカファースト」は、「オールアメリカン(すべてのアメリカ人)ファースト(第一)」ではなく「ホワイトアメリカン(白人のアメリカ人)ファースト(第一)」ですから、国内の分断は深まるばかりです。
ひょっとしたら、今後、アメリカのどこかの州が「わが州は、アメリカから離れて独立する」などと言い始めるかもしれません。
彼の就任演説の原稿を見てください。中学校の英語の教科書に、そのまま載せられるような平易な英語で語られています。
つまり、彼は、知的で論理的な層に語りかけているのではなく、無学で感情的な層に語りかけているのです。アメリカ国内では、これから国民の感情と感情がぶつかり合って、争いが絶えなくなるでしょう。
これまた、マーケットにとってはリスクオフの要因です。
地政学的リスクが高まる
トランプ大統領は「環境保全など、クソクラエ」です。化石燃料でも何でも、どんどん掘り出して燃やせばいい。どんどん売れ、儲けろ、です。
軍備に関しても、「他国がアメリカ以上の軍備を持つことは絶対に許さない。世界最強の軍備を持つ。そのために軍事費の上限を撤廃する」と高らかに宣言しています。
また、「イスラム過激主義を地球上から完全に根絶する」とも宣言しました。
「やれやれ」ですね。これでは、世界中のリーダーが「エゴ」で暴走します。今後、もういつ戦争が起こっても不思議はない、というレベルにまで地政学的リスクが高まる恐れがあります。
ドル円相場に関しても僕は、先行き「円高」を予想していますが、それは、「アメリカファーストなら円高でしょう」という単純な理由に加えて、今後、地政学的リスクが高まる可能性が高いからです。
もちろん、本当に戦争が始まってしまったら「有事のドル買い」でしょうけれど。
こんな状況で、まだ「トランポノミクスで、ドル円は買いだ。株も買いだ」と言えるでしょうか?僕は、ドル円についても日本株についても、まったく買いたいとは思いません。
また、これほどの混乱相場は前代未聞で、ヘタに投資をやっていたらひどい目にあう可能性があるわけですから、いっそのこと、しばらくの間「投資を休む」のも一案か、とさえ思っています。
『長谷川雅一のハッピーライフマガジン』2017/1/23号より一部抜粋
※記事タイトル・太字はMONEY VOICE編集部による
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