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「自公大勝予想」が示唆する衆院選後の日本、ヘリコプターマネーへの道=斎藤満

米国の意向が随所に見られる今回の選挙。ただ安倍政権がそれを実行するのは困難と見ていました。しかし足元は、まんまと米国の狙い通りになりそうな情勢です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年10月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「本田悦朗新日銀総裁」誕生で、日本はヘリマネ街道を突き進む?

各紙報道は自公優勢

選挙戦が始まって最初の予想が、各紙から発表されました。

各紙に躍る見出しは「自公で300議席の大勝」「希望伸びず」という点で共通しています。中には自民党が改選議席を上回るとの予想もありました。

まだ選挙まで1週間以上ありますが、私は読み違いをしました。小池新党がもう少し安倍総理を脅かすのではと見ていたのが大外れです。

その理由の1つにトップの危機感の差がありました。安倍総理官邸は、半ば「追い込まれ解散」を迫られ、しかも消費税増税憲法改正を前面に出さざるを得ない「苦しい選挙」に危機感を強め、顔色を変えて死に物狂いでした。

一方の「希望」小池代表は、自らの政治生命をかけた出馬は見送り、首班指名もあいまいにした姿勢が「本気度」を問われてしまいました。

「希望」は何を間違えたのか?

与党は戦略的にも、早い段階で「希望」を叩き、“”が吹かないよう、首都圏中心に「希望は議席をとりたいために名前を変えた無責任な党」「ポピュリズム」と批判、徹底したネガティブ・キャンペーンを展開しました。

「希望」は与党がおののくような公約を用意しながら、これらを使って反撃することもできませんでした。

都議会「都民ファースト」から2人が離党した裏にも、自民党の影が伺えます。加えて、野党がこぞって「安倍一強政権を打倒せよ」でまとまりながら、選挙協力ができず、野党が希望、立憲、共産で潰しあうケースも多く、最後に与党を利する結果となりました。

では、こうした与党大勝予想となったことが示唆する日本の今後とは、どのようなものでしょうか?政治面でも、経済・金融面でも、大きな影響が考えられます。

Next: 政治面では改憲翼賛、経済面ではリフレ政策がどこまでも加速する



「改憲翼賛」体制が確立される

第1は、米国の狙い通り、これで憲法改正への発議が容易になり、安全保障関連で米国が日本を利用しやすくなったことです。

これまでも自公で改憲発議に必要な3分の2の議席は持っていましたが、公明党は憲法改正に消極的で、特に第9条についてはまだ機が熟していない、との考えです。公明党の穴埋めがどうしても必要でした。

その点、旧民進党には改憲派も少なくなく、これを引き付けるために、あえて民進党を分裂させるべく、裏で動いたといいます。

前原代表はその点ネオコンとも近く、使いやすい人物で、実際見事に党を分裂させ、改憲派を「希望」に吸収しました。

もちろん、「希望」は改憲に賛成の立場です。この「希望」と「維新」を合わせれば、3分の2は優にクリアし、改憲については大政翼賛の形ができました。米国はほくそ笑んでいるはずです。

これまでは与党が3分の2を占め、発議はできるとしても、国民世論に憲法改正が盛り上がらず、国民投票で過半数をとることは難しいと見られていました。

しかし、国会が改憲派で圧倒的多数となると、議論を広めやすくなり、国民世論を改憲に向けて誘導しやすくなる、との期待もあったようです。

リフレ政策がさらに加速する

第2は、アベノミクスの継続が事実上承認されたことになり、これまでの金融財政面からのリフレ策が強化され、「特区」を利用した規制改革が各方面で進むと見られます。

金融政策では、すでに黒田総裁による「異次元緩和」が行き詰まったとの見方が広まっていますが、この選挙をうけて、黒田総裁の再任も可能になり、必要ならもっと過激なリフレ派を総裁に充てる人事も考えられます。

その最有力候補が駐スイス大使に転身した本田悦朗元内閣官房参与です。

Next: 日銀新総裁がたどり着く先は「ヘリコプター・マネー」



たどり着く先は「ヘリコプター・マネー」

黒田総裁の再任であれば、今の「金利操作付き量的質的緩和」を継続する「現状維持」が予想されますが、本田総裁となると、一段と金融緩和が強化される可能性があります。

そのたどり着く先は、「ヘリコプター・マネー」となる可能性があります。

本田氏から見ると、今の政策ではインフレ目標の2%達成には不十分と映り、斬新なメンバーのもとで、一段とリフレ的な金融政策をとることになりそうです。

その場合、ゼロクーポンの永久国債を発行して日銀が買いとる究極の「ヘリ・マネ」を採用する可能性があり、その前段として40年国債の発行、日銀買取が浮上する可能性もあります。

結局、日銀は国債を買い続け、出口を封印して実質的な日銀による国債引き受け、つまり「ヘリ・マネ」によるインフレの実現を図る可能性が考えられます。

おりしも、財政でもプライマリー・バランスの黒字化を当面ギブアップし、拡張型財政がとられようとしています。財政金融が一体となったリフレ策に戻りそうです。

法的問題はクリア可能

黒田総裁は「ヘリコプター・マネーは法的にできないことになっている」、との認識を示していますが、リフレ派には財政法に抵触しない形の「ヘリ・マネ」を想定している節があります。

所得を伴わないインフレは消費の抑制から景気にも負担となる面があるのですが、日銀マネーを直接公共投資などに使えば所得も増える、との論法です。そしてインフレになれば、これを抑える手段はいくらでもある、と言います。

また有権者が「もり・かけ」をも承認したととられると、「カジノ」に続いて教育分野や育児面で「特区」が設けられる可能性もあります。政府による資源配分の裁量余地が大きくなります。

Next: アメリカの狙い通りに進む「日米合作シナリオ」



米国の狙い通りに進むシナリオ

今回の選挙では米国の意向が随所に見られ、それを安倍政権が実行するには、かなり厳しい選挙になると見られていたのが、あに図らんや、まんまと米国の狙い通りになりそうです。

前原氏の動きも、小池氏の動きもあらかじめ計画されたもので、その通りに事が運んだとの見方があります。北のミサイル発射もピタッと止まりました。安倍総理の「選挙手腕」を超えた大きな力が背後で働いていた可能性があります。

その結果、自衛隊を米軍とともに活用できる法体制がつくられ、軍事費をいずれGDPの2%に引き上げ、その追加財源5兆円は消費税増税で賄うことになります。米国からすれば、窓口が安倍総理でも小池氏でも良いのですが、安倍総理の方が使いやすいということのようです。これからしばらく日米合作シナリオが行き着くところまで展開されます。

国内の矛盾は「臨界点」へ

しかし米国の力が強ければ強いほど、国内でのギャップ、矛盾が露呈する可能性があります。憲法改正に賛成する国民は半分以下のようですが、国会では改憲派が圧倒的多数となります。内閣支持率は低下し、自民党の支持率も30%あるかないかですが、自民党が6割もの議席をとりそうです。1位がすべてをとる小選挙区制の歪みもあります。

アベノミクスの支持率は不支持率を下回り、金融緩和策にも金融機関や国民から悲鳴の声が聞かれます。その声も反映されずに、一段のリフレ策がとられそうです。この世論と政策の歪み、ギャップが選挙を受けて一段と拡大しそうです。

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ただ、今回の選挙ではこの「歪み」が爆発しないで済みそうで、それだけ選挙のプロ、参謀が与党周辺にいたようです。

しかし行き着くところまで行ってしまうと、カリフォルニアの山火事のように、収拾がつかなくなります。そこまで行かないと尻に火がついたことに気づかない日本人が多いのか、日本人は「もり・かけ」クラスの権力私物化には寛容なのか、よくわからない国民性です。

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マンさんの経済あらかると』(2017年10月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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