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小池氏より怖い安倍総理の「次の敵」アベノミクス再加速と株高の盲点=近藤駿介

自民大勝を受け、衆院選明けの株式市場は連騰記録を更新している。だが現実に「さらにアベノミクスを推し進める」のは、安倍総理が主張するほど容易ではない。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任し、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える切り口を得意としている。

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勝利に酔いしれる安倍総理に反アベノミクス研究会が襲いかかる?

安倍自民党の圧勝劇

超大型で非常に強い勢力の台風21号が東海、関東地方を襲った22日、多くの人たちの期待と夢を背負ったロンドンオリンピック金メダリストの村田諒太は、22年ぶりにミドル級世界王者を獲得し、全国のファンの期待に応えてみせた。

一方、同じ22日に投開票された衆院総選挙は自民が圧勝。「単独過半数を目指す」ことを掲げ台風の目になるはずだった小池代表率いる希望の党は大失速し、野党第一党の座も立憲民主党に奪われるなど、つむじ風すら起こすことができず、国民の期待を大きく裏切った。

「私自身におごりがあった。これまでは空中戦でやってきたが、小選挙区はそれだけではだめだった。私自身、都知事選、都議選と完勝させていただき、2連勝だったが、今回は完敗ということをはっきりと申し上げたい」

希望の党の小池代表は厳しい選挙結果を受け、訪問先のパリで「完敗」を認めた。しかし、「完敗」を認める敗戦の弁のなかで「私自身、都知事選、都議選と完勝させていただき、2連勝だった」と過去の勝利を持ち出す神経は普通の人間には理解しがたいものであると同時に、「私自身におごりがあった」ことを本当に反省しているのかに疑問を抱かせるものであった。

なぜ安倍総理は「希望」を一蹴できた?

希望の党失速の原因となったのは「全員を受け入れるつもりはさらさらありません」「排除いたします」など、小池代表が発した「排除の論理」だったと言われている。確かにこうした冷淡にみえる発言がメディアで繰り返し流されたことで、小池代表に対する好感度とともに、希望の党に対する期待が萎んでいったのは間違いないだろう。

しかし、様々な政治思想を持つ議員の選挙互助会のようになっていることが最大の弱点でもあった民進党の候補者全員を受け入れれば、単なる看板の架け替えであるという強い批判を受けることは間違いないことであった。

したがって、あの時点で小池代表が「排除の論理」を持ち出すのは当然のことであり、小池代表自身も批判をされる筋合いはないと考えていたとしても不思議ではない。言葉のチョイスが悪過ぎたことでネガティブキャンペーンの材料に使われるまで、自身の発言が大きな批判を招くとは考えていなかったはずだ。

それは、「保守勢力の中での政権交代」を目指していた小池代表にとって、リベラル色を排除することが必要条件だったからである。

「保守勢力の中での政権交代」を目指していた小池代表が思い描いていた戦略は、リベラル派を排除し保守色を前面に打ち出すことで、保守勢力の中で「安倍政権よりよさそう」という立ち位置を確立し、自らの高い人気を背景に「総理の人柄が信用できない」という層を取り込めば、単独過半数を獲得できる可能性があるというものだったはずである。

この戦略の前提にあったのは、民主党政権の失敗を強く記憶している国民がリベラル派を支持することはなく、排除したとしても大きな問題にはならないという認識だったと思われる。むしろ、リベラル派を排除する強い姿勢を見せることで得られるであろう保守層からの支持のほうがプラスに作用すると考えていたのではないか。

しかし、小池代表が発した「排除の論理」は、排除された民進党議員たちが立憲民主党を立ち上げるという想定外を生み、結果的に墓穴を掘ることになった。

小池代表の誤算

小池代表から「排除」発言が飛び出したのは、希望の党結成から4日後の9月29日(金)に行われた都知事の定例会見後の非公式取材(会見)の場であった。そして、この「排除」発言からわずか8日後には、小池代表から「排除」された枝野元官房長官を中心に立憲民主党が立ち上げられることになった。

安倍総理が9月25日に衆議院解散表明を行うとの報道が出た9月19日からわずか6日で立ち上げられた希望の党には及ばなかったものの、何の準備もしていなかったはずの立憲民主党がわずか8日間で立ち上がるというのは小池代表にとって想定外だったはずである。一夜城を築けるのは「羽柴秀吉」と「小池百合子」以外にいないと考えるのが普通だからだ。

もし、希望の党以外の新党が立ち上げられる可能性を感じていたら、同じ「排除」発言をするにしても、日程的に新党立ち上げが困難になる公示日の10日に近いところでしたはずである。

しかし、「排除」発言が希望の党のターゲットとしている保守層に歓迎されていると考えていたであろう小池代表は、「排除」された議員たちが新党を立ち上げることは想像していなかった、あるいは、立ち上げたとしても脅威にはならないと高を括っていたのだろう。

立憲民主党が立ち上げられることで、小池代表が目指していた「保守勢力内での政権交代」というシナリオが一気に崩れるという展開は、「小池劇場」のシナリオにはなかったはずである。

安倍総理に利した「同じ土俵」の戦い

立憲民主党が立ち上げられたことで、選挙戦の構図は「小池劇場」が描いていた「保守勢力内での政権交代」から「保守とリベラルの戦い」へと変わることになってしまった。それに伴ってメディアの報道も「改憲派vs護憲派」という構図が軸になり、希望の党は自民党を補完する「改憲政党」という括りの中に閉じ込められることになってしまった。

「穏健な保守」を掲げ、消費増税凍結など自民党とは異なる政策を訴えることで庶民に寄り添うジャンヌダルクを演じ、「安倍政権よりよさそう」という印象を植え付けることで政権奪取を目指していた「小池劇場」のシナリオはここで破綻してしまったといえる。

希望の党が排除した候補者たちが無所属で立候補するのであれば、「改憲派vs護憲派」というような構図にはならなかったはずである。希望の党を立ち上げることで、保守勢力の中での2つ目の旗印を掲げた小池代表であったが、自らが排除したリベラル勢力に立憲民主党を立ち上げさせ、リベラル派の旗印を作らせる結果になってしまったのは皮肉である。

Next: 立憲民主党の立ち上げすら、安倍自民の「追い風」になった理由



決して不可能ではなかった「たられば」シナリオ

リベラル派の旗印となる立憲民主党の立ち上げによって大きく変化したのは、比例区の投票行動である。今回の選挙で、立憲民主党は55議席を獲得して野党第一党の座を得たが、そのうち37議席は比例代表で得た議席だった。これに対して、50議席に留まり惨敗を喫した希望の党が比例代表で得た議席は32議席にとどまっている。

選挙に「たられば」は厳禁だが、比例候補を立てられるのは政党だけであるから、もし小池代表が「排除」した議員たちが立憲民主党を立ち上げずに無所属で出馬していたとしたら、少なくとも立憲民主党が獲得した37議席という比例代表枠は他党に流れたはずで、希望の党がここまで惨敗することはなかったといえる。

小池代表が発した「排除の論理」は、「小池劇場」のシナリオに書かれていた「保守勢力内での政権交代」という選挙構図を「改憲派vs護憲派」に変えると同時に、有権者に「小池代表の人柄は安倍総理と同じくらい信頼できない」という印象を植え付けるという二重苦を生み出す結果となってしまった。

これによって希望の党は、「反自民のリベラル派」の票も「保守層の反安倍」の票も取り込めない状況に追い込まれてしまったといえる。

「小池劇場」の弱点は、「小池百合子」以外に主演俳優がいなかったことに加え、「小池人気」を背景に「人柄が信用できない」という評価を受けている安倍政権に対して「印象選挙」を仕掛ける作戦であったため、具体的な政策を用意していなかったことである。

「小池劇場」のシナリオにはなかった「改憲派vs護憲派」という構図になっても、小池代表や希望の党が「愚直に」消費増税凍結とその財源を訴え続けていれば「完敗」することはなかったかもしれない。しかし、「印象選挙」で乗り切るために急ごしらえで立ち上げられた希望の党は、残念ながら政策論争をできるような組織になっておらず、「風と共に去りぬ」にならざるを得なかったのである。

現実には、立憲民主党すら安倍自民の「追い風」に

今回の総選挙で特徴的なのは、安倍総理が解散の大義として挙げた「少子化問題」や「消費増税の使い道」に対する政策論争がほとんど見られなかったことである。とってつけたような「大義」が選挙戦を通してほとんど議論の的にならなかったことが、安倍政権にとって強い追い風になったといえる。これも「立憲民主党効果」のひとつであった。

Next: 浮かれる安倍総理に釘を刺す「反アベノミクス研究会」の面々



安倍総理に釘を刺す「反アベノミクス研究会」の面々

さて、自民党が大勝したことで、11月1日に召集される特別国会で安倍自民党総裁が総理に指名され第4次安倍政権が誕生することが確実となった。

また、総選挙で閣僚全員が当選したことで、8月に組閣されて以降国会に本格お目見えしていない「仕事人内閣」は全員留任される方向だと報じられている。

自民党が大勝しアベノミクスが継続されるという見方から株式市場は史上初の15連騰を記録するなど、金融市場は歓迎ムードに沸いている。しかし、忘れてならないのは、8月に組閣された「仕事人内閣」は、自民党内で「安倍一強体制」が崩れた結果作られたものだということである。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)

それ故「仕事人内閣」には、自民党内で反アベノミクス研究会を立ち上げた野田総務相やそのメンバーである河野外務相など、安倍総理と距離を置く議員が閣僚として名を連ねている。

その野田総務相は今回の選挙の勝因として「絶対評価ではなく、相対評価。今回もいろんな政党に(野党が)分かれてしまった結果、自然と自民党の議席が守られたというところもある」と発言し、安倍総理が信認を受けたという見方が広がらぬようさっそく釘をさしている。

こうした発言は、国会内で「自民党一強体制」を維持することと、自民党内で「安倍一強体制」を維持することは別物だという宣言と取ることもできるものだ。

Next: 「さらにアベノミクスを推し進める」安倍総理に立ちはだかる壁



安倍総理に立ちはだかる壁

アベノミクスの中心政策は日銀による「異次元の金融緩和」だが、これに対して疑問を呈しているのが野田総務相や河野外相である。

黒田日銀総裁の任期を来年4月に控え、今後、黒田日銀総裁の続投や後任候補選定の過程では、「異次元の金融緩和」の効果と問題点に関してこれまで以上に厳しい議論が巻き起こるはずである。

黒田日銀は、2013年4月に導入した「異次元の金融緩和」によって金融政策の目標を「金利」から「お金の量」に変え、年間80兆円規模で「お金の量」を増やしてきた。しかし、2016年9月に「イールドカーブコントロール政策」を導入し、金融政策の目標を「お金の量」から「金利」に戻したことで、この1年間で「お金の量」はそれ以前の80兆円から60兆円ほどに減らされている。

こうした「お金の量」が減らされていることに対して、債券市場などではすでに「ステルス・テーパリング(量的緩和の規模縮小)」という指摘がなされている。自民党内で「安倍一強体制」が弱まる中、黒田日銀総裁の任期が迫ってきていることで、今後これまで以上に厳しくアベノミクスの検証が行われていくことは必至の情勢である。

その過程で、「実際には異次元の金融緩和は縮小に向かっている」「日銀が国債やETF(上場投信)を購入することで将来世代にツケを回している」という認識が広がっていくのは十分に考えられることである。

こうした中で「さらにアベノミクスを推し進める」のは、安倍総理が主張するほど簡単ではない

総選挙で自民党が大勝したことで、表面的な政治の安定は保たれた格好になった。しかし、国会での「自民党一強体制」が維持されたことと、自民党内で「安倍一強体制」が維持されることは別問題であり、金融政策の継続性が担保されたわけではないことには注意が必要だ。今回自民党が大勝したことは、しばらくの間政治の分野から暖かい風が吹き込む可能性が少なくなったことでもあるのだから。

希望の党が完敗したことで、今後は、政治的には希望の党がどのような末路を辿るのかが注目されるとともに、経済政策面では、自民党内でアベノミクスに対してどのような議論がなされていくのかが注目点になったといえる。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年10月24日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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