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アメリカ離れに舵を切るIMF。彼らは「格差」の何を恐れているのか?=矢口新

行き過ぎた格差の行く末に恐れをなしたIMFが、ついに米国政府離れを始めたようだ。そんな中でも、格差拡大が止まりそうにない国がある。他でもない日本だ。(矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』2017年10月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

「富裕層の利益にもならぬ」IMFが米国にノー。日本はどうだ?

「トランプ減税」で得をする人たち

トランプ減税が実現すると、多くの企業の税負担が減り資産を増やすので、資産の多くをバークシャー・ハサウェイ社に連動させているウォレン・バフェット氏などは、100億ドル以上資産を増やすことになると見込まれている

一方、9月27日に発行された米連銀の報告書では、米国で2016年に富裕層1%が全米の富をコントロールしている割合は過去最大で、38.6%に達していた。下位90%は、22.8%しか所有しておらず、米連銀が統計を取り始めた1989年以降3割以上比率を下げた。

トランプ減税では、こうした格差がさらに拡大することになる。

これでは行き過ぎだというので、とうとうIMFが米国政府離れを始めたようだ。以下に、ブルームバーグの記事を引用する。

国際通貨基金(IMF)は数十年にわたり、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる米国製の経済処方箋を各国政府に薦めてきた。

だがIMFが最近公表した新たな報告書には、米政府との見解の一致はほとんど見られない。この報告書でIMFは、先進国は富裕層の税負担を増やすことにより、成長を犠牲にせずにより公平な富の再分配が可能になると主張。「不公平が行き過ぎると社会の団結が揺らぎ、政治の二極化を生む。最終的には経済成長の低下をもたらす」と論じた。

出典:「富裕層の増税で富分配を」、IMFがトランプ税改革に異例のけん制 – Bloomberg

これは、トランプ大統領就任後に顕著になってきた「米国社会の分断」に警鐘を鳴らしたものだ。

カリフォルニア州チャップマン大学の調査では、米国人が最も恐れているのは「政治の腐敗」で、環境汚染や経済問題、地政学的リスクを大きく上回った

上記ブルームバーグの記事に「ワシントン・コンセンサス」とあるように、消費税導入による「財政健全化を唱える」一方で、法人税率の引き下げを世界的に提言してきたのは米国主導の政策だ。

法人税率の引き下げは税引き後利益を比率に応じて引き上げるので、企業と株主に恩恵を与える。大株主は富裕層なので、格差の拡大につながってきた。

ところが、法人税率引き下げの財源としての消費税導入は、所得税収減に繋がったために、各国共に「財政赤字は減らなかった」。それで、さらに消費税率を引き上げ、法人税率を更に引き下げたのだが、当然ながら財政健全化は一向に進まず、「格差だけが拡大」した。

そして、そうした不公平政策を推し進めてきたIMF自らが、「不公平が行き過ぎる」と認めるところまで拡大した。

つまり、富裕層はIMF主導の税制改革により富を劇的に増やしたものの、格差拡大の行き過ぎが治安の悪化や地政学的リスクの高まりに繋がったために、自分たちの安全な生活を脅かされるようになったのだ。

同じようなことは、ロシア革命前夜の帝政ロシアでも起きていた。当時は、農奴による地主へ襲撃が相次ぎ、ひいてはソビエト連邦の誕生に繋がった。

Next: それでも日本の「格差拡大」が止まりそうにない理由



日本の「格差拡大」が止まりそうにない理由

IMFの突然の寝返り提言は、富裕層に背を向けたのではなく、これ以上の格差の拡大は社会の分断、最悪の場合には革命にまで繋がりかねず、かえって富裕層の利益にならないとの危機感からのものだとも言える。

にもかかわらず、日米政府は、こうした格差拡大政策を20数年続け、財政を悪化させ続けていながら、引き返す方向ではなく、さらに推し進める方向だ。

つまり、現状の消費税率引き上げの目的も、当初から財政健全化を意図したものではなく、格差拡大を推し進めるためものだったと思われても仕方がない。

財政面では、ドイツだけが黒字化したが、これはドイツがユーロ圏の経済政策を事実上支配したためで、ユーロ圏全体での財政は悪化した。

カタルーニャ自治州に対するスペイン政府やEUの態度を見ても分かるように、政治は理念や主義ではなく、「力」だというのが、世界の常識なのだ。スペイン政府自身が、EUやドイツに対して感じ続けてきた理不尽な不公平を、下位の自治州に押し付けている。何やら、米政府、日本政府、沖縄県の関係に似ていなくもない。

足元では、世界的に景気拡大が見られているが、これは世界的な未曽有の資金供給と、超低金利政策のためで、最近ではその弊害も目立つようになった。

例えば、ユーロ圏の主要銀行で健全なのは60行だけで、残る51行が要注意とされていることだ。これ以上の金融緩和はもはやほぼ不可能で、そのために、日本を除く世界の主要中央銀行は、金融政策の「正常化」を模索し始めている。

IMFは、「不公平が行き過ぎると社会の団結が揺らぎ、政治の二極化を生む。最終的には経済成長の低下をもたらす」とする。とはいえ、格差拡大の悪影響は社会の分断や革命の恐れだけではない

1%に世の中の富が集中すること自体が、金融引き締め効果を持つためだ。1%に消費させるより、99%に消費させる方が、経済効果が大きいことは言うまでもない――

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相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2017年10月16日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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