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Paul Hakimata Photography / Shutterstock, Inc.

あと2年。短期決戦を目論むトランプ大統領が繰り出す「10の戦術」=藤井まり子

トランプ政権の経済政策の中身が明らかになってきましたが、想像以上に優秀なのでビックリです。外交政策や支持率アップのための減税など想定される10の戦術を解説します。(『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』藤井まり子)

※本記事は有料メルマガ『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2017年1月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

経済ニュースだけではわからない、トランプ新政権「10の戦術」

投資家はトランプ大統領の暴言を真に受けてはいけない

トランプ新大統領は、人格的に問題のある人物です。ですが、頭はすこぶる良い人らしいです。デキるビジネスマンによく見られる傾向ですが、「信頼できる人の意見やアドバイス」もよく聞くらしい。「間違えた!」と思えば、意地を張らずに軌道修正ができる人でもあるようです。

ディール(=ビジネス上の取り引き)」を好み、通商政策においても安全保障や外交においても、先手必勝で相手の一番痛いところを突きながら、相手をびびらせ驚かせ、その後に「落としどろを探る」といった手法を好むようです。

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もっと具体的に分かりやすく説明すると、不動産取引などで「市場価格6,000万円」くらいの物件を、その物件をとても欲しがっている顧客に向かっては、不動産会社は最初に「1億円」くらいの高値をふっかけ、まずはその「欲しがっている顧客」をびびらせてから交渉をはじめるといった、例の「あれ」です。その後で徐々に値引きして、最終的には落としどころ「8,000万円」くらいで決着する。そうすると、顧客も2,000万円くらいは相手に譲歩してもらって得をしたような錯覚を得られるし、不動産会社の方はまるまる2,000万円は丸儲けできるわけです。

ですから、通商政策においても、トランプはTPPなどの多国間交渉を嫌います。ディールを使って、アメリカに有利には運べないからです。というわけで、彼は2国間交渉をとても好むわけです。

トランプがEUを嫌う理由は、「EUが官僚主義に陥っていて、機動性をまるっきり失っていること」が一番の理由でしょう。ですが、それとともに、EU相手だと多国間交渉をしなければならない「じれったさ」がトランプにはあるからでしょう。

今後もトランプは、彼のメイン支持層(プア・ホワイト、白人低所得者層。特徴としてプロレスファンが多い)が喜ぶような「意味不明の罵詈雑言」をツイッター上では続けることでしょう。けれども、それは彼の本心ではないでしょう。「大衆向けのリップサービス」ですから、私たち投資家はこれらの暴言を真に受けてはいけません

Next: トランプの狙いは「短期決戦」だ。これから想定される10の戦術を解説



トランプの狙いは「短期決戦」だ。これから想定される10の戦術を解説

トランプの本心は、「瓢箪(ひょうたん)から駒」で大統領になったので、目下は「短期決戦」にあります。トランプ新政権の目下の目標(=本心)は、「2年後の中間選挙でも民主党に圧勝する」こと。射程距離、以外と短いですね!彼は、この短期決戦(短期戦略)に勝つためには、どんな手(戦術)でも使ってくることでしょう。

戦術1

まず第一の戦術は、イエレンFRBに金融引き締めを思いとどまってもらって、金融緩和を継続させること。そのための、日英米の三国通貨同盟(詳細はメルマガバックナンバー)だったわけですね。

戦術2

できることならば、財源をなんとか捻出して、財政刺激的な財政出動をいくばくか行なうこと。

戦術3

(戦術1と戦術2の結果)インフレ目標を3~4%に引き上げて、株高・不動産高の中で、なんとか向こう2年くらいはアメリカの高圧経済を維持する。

高圧経済では、アメリカ経済の実質GDPの大きなトレンドは変わらないでしょうが、株高・不動産高が維持できれば、資産効果でいくばくかアメリカの実質経済成長率を高められるかもしれません。高圧経済を維持すれば、労働参加率を高めることで、労働のスラッグ(たるみ)を減らせる。そして支持率が上昇します。

高圧経済を維持して「労働参加率の上昇」「労働スラッグの解消」を「落としどころ」とすれば、イエレンFRBの協力(=金融緩和策への大転換)がとても得やすいでしょう。

戦術4

ミクロで自動車産業などに国内で超近代的な工場を造らせる。雇用創出効果はとても少ないけれども、象徴的な意味で、地方都市の人々の支持率は上がるでしょう。

戦術5

中小零細企業の設備投資を増やす。後述するように、今現在の中小零細企業は、企業減税には大歓迎で、彼らのセンチメントはすこぶる良い、彼らが設備投資意欲を高めてくれるならば、実質経済成長率の上昇は、いくばくか可能になるかもしれません。そのための企業減税所得減税

さらに走りながら、「支持率アップ」のための手段、大衆受けするような対策を次々と打ってくることでしょう。

Next: 怪物トランプ流「支持率アップ」のための戦術6~8



怪物トランプ流「支持率アップ」のための戦術6~8

戦術6

折しも、人気に陰りに見えてきた行き過ぎたグローバリゼーションの流れを、一見は保護主義的と誤解されそうな政策で、一旦は止めること。

グローバリゼーションが行き過ぎてしまって「産業の空洞化」に苦しんでいるのは、アメリカばかりではありません。あの中国でも、労働集約的な軽産業では、バングラデシュやカンボジア、ベトナムと言った国々に追い上げられて、苦しんでいるんですね。ユニクロの中国工場は、中国国内の人件費が高くなったので中国からは出て行って、これら中国周辺国に工場進出しているのは有名ですよね。

自動車・電気などの付加価値の高い産業では、超近代的な人工知能やロボットを全面導入した「異常に生産性の高い工場」を建設したならば、今は先進国のどこで生産しても、国際競争力は十分に維持できるんです。

戦術7

大衆受けするように、行き過ぎたマネーゲームの流れを止めること。すなわち、ドル高政策をしない。アンチ・ウォールストリート戦術です。

「強いドルは国益」のもとで推進してきた金融立国には、もう重点を置かない。すなわち、ウォールストリートに厳しい政策を行なう。大手投資銀行に厳しい金融政策を行なって、そのかわり、中小の地場の貯蓄銀行などが貸し付けを行ないやすいような「簡素で分かりやすい金融規制」を行なう。トランプ政権というか共和党議員たちの「金融規制緩和」の中身は、大手投資銀行にはとても厳しい内容になりそうです。大手投資銀行は従来よりマネーゲームがしにくくなるかもしれません。

その代わり、地方の弱小の貯蓄銀行(日本で言えば、信用金庫とか弱小の地銀などなど)は、今よりもっと簡単に住宅ローンを貸し付けられるようにするようです。

アメリカの「普通に人々」にとっては、持ち家(マイホーム)こそが貯蓄の柱です。オバマ政権時代には、金融規制が厳しくって、信用が低いせいで住宅ローンを借りられなかった人々が、これからは借りられるようになるようです。これは、教育ローンやオートローンにも言えることかもしれません(将来は、1980年代にアメリカで巻き起きたような不動産バブルが巻き起こって「貯蓄銀行危機」が起きることでしょう)。

戦術8

国境税を導入すること。

国境税は、共和党が長らく温めてきた保護主義と誤解されそうな政策です。今のアメリカ株式市場は、「国境税が実現するようだ!」と、マーケットがそれを保護主義的な政策と誤解して嫌って調整し始めると、すかさずトランプ新政権が「円安はけしからん!ユーロ安はけしからん!」との批判を繰り返して下落を食い止めようとしています。

国境税は、『アメリカの輸入品には20%の「国境税という関税のようなもの」をかけるけれど、アメリカからの輸出品に20%の「国境税という関税のようなもの」をかけない』とするシステムです。

「保護主義的な政策」と言うことで、この国境税をマスコミは激しく批判しています。ですが、実はアメリカ以外の国(ユーロ圏や日本)では、付加価値税消費税といった間接税を使って、すでに国境税と同じようなことをしています。EUや日本でも行なっていることなのです。ですから、国境税を導入することで「アメリカの輸出産業は、やっと他の国と同じ土俵に立った」ということになります。

Next: 中間層、富裕層に取り入るための「減税」戦術9~10



中間層、富裕層に取り入るための「減税」戦術9~10

戦術9

国境税からの税収で、中間層に優しい大型減税を行なうこと。

国境税導入では、新しくアメリカの国庫はおよそ1兆ドルの税収増しになるようです。この1兆ドルを使って、共和党議会は、企業減税・得減税などを行なうつもりのようです。大型減税の規模は、大方の予想を遙かに下回る1兆ドルちょっとではないでしょうか?

企業減税は、35%から20%へ引き下げるようです。国境をまたいでグローバルに活躍する大企業の場合は、すでにいろいろな「国際税法上の抜け穴」を使って、実行税率は20%前後に下がっています。ですから、グローバル企業にとってはこの企業減税の恩恵はほとんどありません。

一方、中小零細企業にとっては、この企業減税はすこぶる恩恵があります。その結果、今現在のアメリカでは、中小零細企業とその従業員たちのセンチメントがすこぶる良いんですね。中小零細企業の設備投資意欲が強くなっているんです。

所得減税においては、富裕層や超富裕層の場合は、減税と同時に様々な複雑怪奇な控除対象の数々がほとんど「廃止」になるようです。ですから、彼らの実効税率には、変化はなし。所得減税の一番恩恵にあずかれるのは、ここ20年近く「忘れ去られて見捨てられていた」中間所得層です。

戦術10

超富裕層や富裕層への懐柔策も念入りに行うこと。

新大統領は、収入格差は是正しても資産格差は固定します。マスメディアはあまり報道しませんが、トランプ大統領も共和党議会も、「相続税の廃止」を予定しています。

これはなにを意味しているかと言えば、超富裕層や富裕層に向けて、「資産格差は固定するから、安心してください。あなたがグローバル化時代に営々と築いた財産を国は奪いません。『ストックとしての富』の『階級社会』は、国家が固定・保証します。そのかわり『フローとしての所得』面では、これからは中間層に手厚い税制に切り替えます。ここらあたりは富裕層も協力してください」という意味です。

その他の戦術

さて、国境税は実現すると、アメリカ国内の物価を押し上げます。1~2年のタイムラグを伴って、アメリカ経済を「物価高が原因で起きる消費不振(いくばくかの経済失速)」に落とし込む可能性があります。こういった事態が起きた場合、中央銀行であるFRBが利下げを行なえば、経済は失速しません

共和党議会が打ち出す「数々の規制緩和」は、2年から3年後あたりから、アメリカ経済の生産性を上昇させてアメリカ経済の繁栄を導き出す可能性はあります。

かくして、トランプ新政権の経済政策の中身が、徐々に明らかになってきました。トラ様、想像以上に優秀なのでビックリポンよ♪
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【2017年2月3日号 臨時増刊号:意外とまともなトラ様の予算案!♪~選挙中のトラ様の大風呂敷を真に受けたマーケットこそがアホ!!~目次】

※印は本記事で割愛した項目です

1,結論(※)
~下向きの内外の株式市場。本格調整は、トラ様の「一般教書演説」が引き金。この調整は3月半ばまで続く???~
(調整幅は、5%~10%~15%)

2,解説(※)
~「物価水準の財政理論(FTPL)」のシムズ氏、来日!!!日本人に「消費税の先送り」や「所得減税」を説く!!♪♪~
(「三国通貨同盟」のだめ押し!!♪)

3,解説の解説
~想像以上の優秀でノーマルなトラ様の政策には、ビックリポンよ!!♪~
(かなりマニアックなので読まなくてもOKです。)


※本記事は有料メルマガ『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2017年2月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

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藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』(2017年2月3日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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