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逆説の日本復活論。「トランプの関税」は我が国を再びバブルに導くか=児島康孝

トランプの保護主義で日本は大変だ!という見方が広がっています。しかし対米輸出関税で国内販売が伸び、内需が拡大する可能性も。かつてのバブル景気がこのパターンでした。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

トランプは正しい。日本は今こそ自国の消費市場を拡大すべきだ

対米輸出で儲けているのはグローバル企業

対米輸出で儲けているのは、グローバル企業。内部留保を拡大しています。メディアの相次ぐ報道では、トランプ政権の保護主義で「日本は大変だ」という印象ですね。

しかし、よく考えてみて下さい。これまでの日本は良かったのかというと、良いことはなく、デフレ貧困化で大変だったわけです。例えば、仮に対米輸出の関税が増えたとして困るのは、グローバル企業の経営陣の報酬の不安、グローバル企業の内部留保の拡大ペースの鈍化です。

逆に、関税がかけられると、対米輸出よりも自国(日本)で販売する必要性が高くなり、日本の内需拡大の機運が高まります。1980年代の日本が好況からバブルへと進んだのが、こうしたパターンです。

トランプ政権、驚異の新政策

トランプ政権の新政策は、非常によく考えられています。

つまり、こういうことです。今後の米国民の雇用回復所得向上で、景気が上昇する。これはよくあるパターンですね。しかし、これまでのアメリカでは、この次の段階から経常赤字貿易赤字の拡大に悩まされます。好景気で米国民が商品を大量に購入すると…貿易赤字が拡大する。米国の購買力が強く、国際的に自由な市場であるためです。

しかし、トランプ政権の政策は、この問題にも対応しています。アメリカで販売する企業には、アメリカで雇用し、アメリカで生産してもらうということです。

つまり、外国の企業がアメリカで生産すれば輸入の必要性はなく、アメリカでつくられたものを購入すれば良いのです。こうすれば、景気が回復して需要が拡大しても、アメリカ「国産品」を購入することになり、貿易赤字は抑制されます。さらに、雇用面でもプラスですから、好循環は驚異的です。例えば、トヨタにしても、アメリカでつくってアメリカで売っていれば「ウエルカム」というわけです。

【関連】「日本第一主義」時代の幕開け。なぜグローバリズムは死んだのか?=児島康孝

トランプ大統領は、メラニア夫人スロベニア出身ですし、大統領の戦略政策フォーラムに加わることになったテスラCEOのイーロン・マスク氏南アフリカ出身。最近の不法移民対策で多くの批判ニュースが流れていますが、トランプ大統領にとって出身地は関係ない=能力重視という考えです。
※アメリカの不法移民の数(人口)は現状でも1000万人以上といわれ、主にメキシコ国境から、中米各国からの越境が大量に続いていました。

Next: 1980年代の日本と「バブル前夜」を想起させるトランプ政権の主張



内需拡大を促した前川リポート

さて、日本の話に戻りましょう。1986年、前川リポートは、当時の日銀総裁「前川春雄氏」を座長としてまとめられました。中曽根政権のもとで、対米輸出問題(経常黒字問題)への対応が必要となり、まとめられたものです。

この前川リポートの評価には賛否両論があり、バブルの原因をつくったとか、いいや内需に注目した良いリポートだとか、評価は様々です。内容的には、内需拡大(経常収支の均衡)を目的として、日本の住宅建設の促進、国民の所得の増加、輸入の拡大、金融市場の自由化などを提言しています。この前川リポートの内容および内需重視の考え方は、現在でも十分通用するでしょう。

反面、当時「ウサギ小屋」と世界から嘲笑されていた「日本の住宅問題」に過度に対応して、住宅建設に大きな配分を置いている印象です。考え方は評価できる一方、住宅・不動産投資への偏重は「問題あり」と思います。

その後の日本のバブルは、おそらく対米配慮的な「数合わせ」の必要から住宅・不動産投資に拍車がかかり、不動産バブルへと向かうことになったのでしょう。

ブラザ合意の時代背景と似ているトランプ政権の主張

前川リポートの前年の1985年には、プラザ合意(9月)で1ドル=240円付近から、1985年末には200円付近へと大幅に円高ドル安に誘導されました。

会場となったニューヨークのプラザホテルは、セントラルパークのすぐ南側(東南側)にあり、ホワイト系の色の外壁にエメラルドグリーンの屋根が美しい歴史的な建造物です。セントラルパークをめぐる馬車が、このあたりから出ています。また、5番街のトランプタワーへも、南側に歩けば数分。

前川リポートは、そのプラザ合意でもなかなか減らない日本の経常黒字の是正と、それぞれの先進国の内需拡大への努力を反映したものです。おそらく、トランプ政権の言い分は当時と似ていて、「アメリカの景気が回復しても“タダ乗り”しないでいただきたい」「商品を売りたければ、アメリカでつくるか、自国の内需を拡大して自国で売ってください」ということです。

一言でいえば、トランプ政権の経済政策は、アメリカの内需拡大策。雇用が回復すれば、それがさらに国民の消費を呼び、驚異的な景気の上昇もあり得ます。中間層の回復や国民の消費拡大は、景気効果が強いのです。

ところが、アメリカがそうしても、他の先進国が内需拡大努力をせずにアメリカ市場が良いからと対米輸出をすると、その国にアメリカの努力を吸い上げられてしまいます。自国の内需拡大をせずにアメリカ市場で安易に儲けようとする、こういう国は許されない。こういうことです。ですから日本も、アメリカが作り出したアメリカ市場に安易に頼ることがないよう、自国の内需拡大を求められるでしょう。

保護主義が話題になると、日本製品の方がいいから売れるのはあたり前、という話になりがちです。しかし、ではその消費市場は誰が(どの国が)どういう努力で作り上げたものでしょうか? これは、重要な問いかけです。

日本は、「自国の消費市場を拡大すべきだ」とアメリカに言われても、それはそのとおりとしか言いようがありません。

Next: 人件費の「ピンハネ」を許さないトランプ大統領の政策



トランプ大統領の政策

トランプ大統領の政策は、雇用創出+減税+申請などの手続き簡素化。オーソドックスな、共和党の伝統的な景気浮揚策です。

雇用創出の側面は一見すると保護主義的に思えますが、減税や申請事務の簡素化などはオープン化です。減税し、めんどうな手続きを簡素化し、アメリカの景気浮揚と活性化を図る。こういう考え方です。

閣僚の布陣は重厚で、本格政権。正統派側のユダヤ人脈、米英協調など、安定政権の要素を兼ね備えています。

人件費の「ピンハネ」は許さない

これまでのアメリカでは、グローバル化や人権を大義名分にした、「人件費のピンハネ」が横行していました。例えば、NAFTAを「悪用」して、国境すぐのメキシコで安い人件費で雇い、輸出はアメリカ。

何も、メキシコが単に悪いというわけではありません。メキシコでアメリカ人と同等の人件費を払い、しっかり雇えば、まっとうな企業活動での国際化です。しかし、現実はどうかというと、アメリカ人より安いメキシコ人で雇用を代替するもので、実際は「人件費のピンハネ」というわけです。

また、不法移民の問題。これも不法移民をアメリカ人と同等の給与で雇えば、問題は拡大しなかったでしょう。現実は、不法移民という立場につけこみ、安く雇う。アメリカ人にとっては、賃金デフレと雇用の喪失です。「人権」を大義名分にして、アメリカ人の正規雇用が直接・間接的に置き代わり、人件費をピンハネしていたというわけです。

トランプ大統領は、こうした人件費のピンハネは許さないという政策です。対外的には、自国民を保護。

これまでは「グローバル化」「人権」という大義名分のもとで、実際は人件費のピンハネが横行し、オバマ政権はこれを放置していました。難しい経済理論を言っても、実際は「人件費のピンハネ」が横行していたわけです。

人件費のピンハネは、当初は企業収益の拡大を生みます。しかし、ゆくゆくは所得低下による消費の低迷で、国力の衰退につながります。いわゆる亡国政策です。アメリカの繁栄には、国民所得の向上、中間層の回復が不可欠なわけです。

国民所得の向上による消費拡大は、GDPにも好影響です。そして、GDPのパイが大きくなれば、それは軍事力、研究開発力、技術力にも余力が生まれ、軍事面で世界をリードする力を持つことになります。

大手メディアによる異常なトランプ・バッシングが続いていますが、NYダウが2万ドルを超えたのは、まだ序章に過ぎないでしょう。

超長期のコンドラチェフサイクルが上昇へと転換していることもあり、これまではリーマンショックで見たことがない安い株価が出現しましたが、今後は逆に、見たことがない高い株価が出現する可能性があります。

Next: トランプ大統領は時代に選ばれた「適任者」とも言える



トランプ大統領は時代に選ばれた「適任者」とも言える

トランプ大統領は、大手メディアの異常なバッシングの中で、大統領選挙を勝ち抜きました。もちろん本人のタフさもありますが、一方で、時代の大きな変化の中で「適任者」として時代に選ばれたという側面もあります。

そういえば、大統領就任式のパレ─ドを歩いた、メラニア夫人(46歳)のファッションも、好況の1980年代風。その1980年ごろには、スウェーデンの男女4人組、ABBA(アバ)のダンシング・クイーン(1976年リリース)が流行していました。YOU CAN DANCE~♪という歌詞が印象的ですが、まさにメラニア夫人は、スロベニア(当時:ユーゴスラビア)出身で1970年生まれ、ミラノ・パリ・NYでモデル活動をして米国籍を取得。ABBAのダンシング・クイーンの歌詞の「体現者」でもあるのです。

現状の各国の動きをみますと、大半はまだトランプ大統領を理解できないようですが、時代は大きく変化しています。さすがに英国は、常に戦勝国側にいた過去の歴史のとおり、変化への対応が早い。常勝であり、情報収集力が強いのを実感します。英国は諜報活動が強いので、はずさないということなのでしょう。

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ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2017年1月28日、30日)より抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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