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【展望】トランプリスクと国内好決算の綱引き。日本市場は底固めの展開に=馬渕治好

今週も、為替市場は不安心理が残りそうです。特に2/10の日米首脳会談に、市場が神経質になることはありえます。一方で、日本企業の10~12月期決算は、国内株価を支える材料となるでしょう。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年2月5日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

為替市場中心に不安心理は残るものの、実態の良さが支え役に

過ぎし花~先週(1/30~2/3)の世界経済・市場を振り返って

<週初からトランプ大統領のパイプ椅子が飛び、市場に波乱が生じたが、日米における経済・企業収益実態が底支え>

(まとめ)
先週は、引き続きはた迷惑な「トランププロレス」に、市場がかき乱されました。具体的には、イスラム圏7か国からの入国制限が波紋を広げ、米国市場に悪影響を及ぼしました。加えて、米ドル高・円安をけん制する発言もなされ、これが米ドル安・円高圧力を生じたのみならず、全般的な円高傾向を引き起こし、日本株の重石ともなりました。

ただし、米国の経済統計が好調で、週末にかけて米株を押し上げ、日本でも企業収益の好調さが、国内株価の下支え要因となりました。ただし、円高が日本の株価の上値を抑えたことと、米雇用統計の発表が東京市場の引け後であったことから、日本株の騰落率は、世界全体で最低レベルでした。

(詳細)
先週は、はた迷惑な「トランププロレス」の興業が続き、パイプ椅子やビール瓶が飛び交って、市場がかき乱されました。

まず、前週末に、大統領がイスラム圏7か国(イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメン)からの渡航者に対し、入国を制限する大統領令を発しました。これが米国や他国の空港での混乱を招いただけではなく、米国内で反発のデモを引き起こしました。

こうした社会面の混乱にとどまらず、経済面でも、米企業は当該国出身の自社社員が米国に戻れないとの懸念を抱き始め、反発の声があがっています。さらにこうした社会的混乱が、経済政策の策定を遅らせるとの不安を生じ、米株価を週前半押し下げることとなりました。

現実に、政策の策定は、この件を別にしても遅れ始めています。通常、1月末に行なわれる一般教書演説(大統領が政策全般について語る)は、2月28日の開催と決まりました。

1月下旬~2月上旬が通例のスケジュールである、予算教書(予算の策定は、予算案も含めすべて議会の権限だが、大統領側の予算の希望について示し、そこで経済政策についても触れる)の発表は、3月になるとの観測が有力となっています。

また、トランプ大統領は、1/31(火)の製薬会社との会合で、「中国や日本が市場で何年も通貨安誘導を繰り広げ、米国はばかをみている」と述べたと報じられました。米ドル円相場については「他国は資金供給と通貨安誘導で有利な立場にある」とも語ったそうですが、おそらく日銀の量的緩和(大量の資金供給)と為替相場の関係は、全く理解していないでしょう。取り巻きの誰かが指摘したことを、ただ言っているだけだと思います。

この発言を受けて、為替市場では特に米ドル安・円高が進みました。円は他の主要通貨に対しても円高気味となり、米ドルや他の主要通貨に対しても米ドル安気味の推移となりました。

しかし週末にかけては、内外市場はやや落ち着きを取り戻しました。米国では、経済指標に堅調なものが目立ちました。それはたとえば、次のようなものでした(日付は発表日、全て1月分の統計、数値は、12月実績(修正があれば修正後)→1月市場事前予想<1月実績)。

2/1(水)ADP雇用統計 雇用者数前月比 15.1万人増→16.8万人増<24.6万人増
同日 ISM製造業指数 54.5→55.0<56.0
2/3(金)雇用統計 非農業部門雇用者数前月比 15.7万人増→18.0万人増<22.7万人増

もちろん、全ての経済統計が強かったわけではありませんが、こうした諸統計、特に週末の雇用統計を受けて、米国株価は上伸し、ニューヨークダウ工業株指数は、再度2万ドルの大台を回復しました。

しかし為替市場においては、前述のトランプ発言が尾を引いて、雇用統計の強さにもかかわらず、米ドルが軟化気味で週を終えています。

日本では、10~12月期の企業収益発表が真っ盛りですが、内容は当初想定以上に好調です(詳しくは、この後の「盛りの花」をご覧ください)。こうした収益の好調さが、国内株価の下支え役として働き、円高気味の推移の割には株価の下値は限定的でした。ただそれでも、円高が株価の上値を抑制した面は否めません。

ここで、先週の主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)をみてみましょう。
騰落率ベスト10は、トルコ、インド、スウェーデン、インドネシア、ペルー、チェコ、イスラエル、ハンガリー、S&P500、ナスダック総合でした。米国株から2つの指数がベスト10に入ったのは、週末の米雇用統計の寄与が大きいです。

ワースト10は、日経平均、モロッコ、TOPIX、エジプト、フィンランド、ブラジル、豪州、フィリピン、ドイツ、南アでした。日本株の不調は、米国株価などを持ち上げた米雇用統計の発表が、東京市場が終わってからであったことと、円高気味の推移が株価上値を抑えたことによります。

外貨相場(対円)の騰落率ランキングをみると、先週対円で上昇した(円安になった)主要通貨は4つしかなく、全面的な円高に近かったと言えます。その4通貨とは、トルコリラ、メキシコペソ、アイスランドクローナ、コロンビアペソで、先週はトルコの株価と通貨の反発が目立ちました。

騰落率ワースト10は、ミャンマーチャット、英ポンド、ベトナムドン、スリランカルピー、米ドル、中国元、マレーシアリンギット、インドネシアルピア、フィリピンペソ、アルジェリアディナールで、英ポンドと並んで、米ドルが円以外の通貨に対しても、下落率が高かったことがわかります。これは、前述のトランプ大統領の発言に加え、国際通商会議(新設の組織)のナバロ氏が、「ドイツは過小評価が著しいユーロを利用している」とファイナンシャルタイムズ紙に語ったと、1/31(火)に報じられたためでしょう。

この他の材料としては、日銀金融政策決定会合、米FOMCともに、予想通り、金融政策の変更はありませんでした。

ただ、日銀については、国債の買いオペが、債券市場で話題となり、一時それで円相場が振れることもありました。この点は、「理解の種」で解説します。

Next: 今週(2/6~2/10)の世界経済・市場の動き「底固めの展開か」



来たる花~今週(2/6~2/10)の世界経済・市場の動きについて

<不安心理は為替市場中心に残ろうが、実態の良さが支え役となり、底固めの展開か>

(まとめ)
今週は、引き続き為替市場では、米国の為替に対する姿勢を巡って、不安心理が残りそうです。特に2/10(金)から日米首脳会談が行なわれる予定ですので、そこで円相場や日米間の貿易収支について、何らかのやり取りがあるのかどうか、市場が神経質になることはありえます。

一方で、今週も盛んに行なわれる日本企業の10~12月期の決算発表は、引き続き国内株価を支える材料となりそうです。短期的に市場の波乱が残っても、中長期的な好転へ向けた、底固めの展開だと見なすべきでしょう。

(詳細)
先週のトランプ大統領の発言などが材料となった、為替市場、特に米ドル円相場の波乱については、まだすぐに落ち着くかどうか、わかりません。2/10(金)から、安倍首相とトランプ大統領の日米首脳会談が行なわれる予定で、そこで円相場、あるいは日米間の貿易収支について、何らかのやり取りがなされ、それが報じられる可能性があります。そのため、首脳会談前の市場は、神経質に市況が上下に振れる恐れが残ります。

やっかいなのは、トランプ大統領が、正しい経済理論などを、全く理解していないと推察されることです。そのため、「結果を出せ」の一点張りになる恐れが強いです。

2/3(金)に、安倍首相は菅官房長官とともに、トヨタの豊田社長と会食し、おそらく日本の自動車企業に対する強い風当たりについて、どういう策を打ち出すかを話し合ったと思われますが、残念ながらどんな対策を練っても無駄でしょう。

トランプ大統領は、「円が安すぎる」「日本が対米で貿易黒字となっているのは問題だ」という主張だけですから、日本がいかに円安誘導をしていないか、貿易収支の日本側の黒字縮小に努力するか、トヨタがいかに米国の経済や雇用に貢献するか、といった点を、誠意を持って正しい理論で説明しても、「早く結果を出せ」「何でもいいから米ドル円相場を100円にしろ」「何でもいいから日米の貿易収支をトントンにせよ」と言いかねないと懸念されます(まるでどこかのブラック企業の経営者のようです)。

こうしたトランプ大統領の主張に対しては、何を言っても無駄なので何もしないか(その場合、日本からの輸入に対して関税を引き上げる、などを言いかねないので、そうした「報復」は覚悟する必要があります)、あるいは「お土産」を渡すか、しかないと考えます。

そのお土産は、実際に米国経済に貢献するものより、トランプ大統領と同レベルに経済に理解がない支持者たちが、「おぉ~、我々の大統領は、あの日本からこんなスゴイ譲歩を勝ち取った!」「俺たちの大統領はヤベエ! なんだかよくわからないが、とにかくグレートだ!」と拍手喝采するような、派手なものを提供するしかないでしょう(それで実際には、米国の経済も雇用も少しも良くならないとしても)。

それはさておき、為替市場にパイプ椅子やビール瓶が飛び込んで来続ける恐れがあるため、米ドル円相場は不安定な推移を続ける恐れがあるわけですが、一方では、日本株については、10~12月期の企業収益の発表が続き、前週までと同様、内容は好調だと期待されます。そうした収益実態が株価を支えると期待されるため、円相場の波乱につれて国内株価が下振れしても、その度合いは限定的にとどまると見込まれます。

このほかの材料としては、いろいろな国で金融政策を決定する会合が多い週です(2/7(火)豪州、2/8(水)インド、タイ、2/9(木)ニュージーランド、メキシコ)。

このうち豪州については、専門家の間ではいまだに利下げを見込む向きがいます。ただ、10年国債利回りをみると、先週末(2/3、金)は2.79%で、これは2015年後半から2016年前半頃の水準とほぼ同じです。

当時は短期政策金利が2.0%(現在は1.5%)でしたので、長期債市場は、長い目で見ると、むしろ短期金利がこれから上がってくる、と予想していることになります。今週の豪州準備銀行理事会では、利下げはなく、政策金利の据え置きが決定されると見込みます。

世界的な景気の緩やかな回復に伴う、銅などの価格の堅調さや、豪州から中国向けの輸出額の持ち直しなどを踏まえると、豪州長期債券市場の利上げ期待が正しく、今後の豪ドルは基調として上値をうかがっていく、と予想しています。

Next: 世界経済・市場の注目点「現時点で、国内企業の決算内容は良好」



盛りの花~世界経済・市場の注目点

<現時点で、国内企業の決算内容は良好>

このところ、日本では10~12月期の決算発表が盛んです。

ファクトセットの集計によれば、東証一部全上場企業のうち、876社(全体の44%)が10~12月期(ただし2月本決算企業などの9~11月期や、1月本決算企業などの8~10月期を含む)の決算発表を終えており、それらの企業全体の一株当たり利益は、前年比で33%増えています。

まだ決算発表を終えていない企業の分は、アナリストの予想平均値を使って、発表済み分と混ぜて集計すると、一株当たり利益は34%増益となり、3割程度の増益はほぼ確定でしょう。

事前のアナリスト予想の平均値では、1桁パーセントの増益が見込まれていましたので、想定以上の上振れです。また、自社の収益見通しを上方修正した企業は、発表済み企業のうち7割程度と報じられています。

2016年度を通じても、現在のアナリスト予想では、年度上期の減益を埋めて、3.5%程度の増益になると予想されています。

円相場が不安定なため、円高になった場合を懸念する声がありますが、多くの企業が極めて保守的な(円高水準の)円相場の前提を置いており、よほどの円高にならない限り、過度の懸念は不要でしょう。

また、為替と企業収益の関係については、米ドル建て日経平均の動きも注目されます。

実は米ドル建て日経平均株価は、昨年7月末から今年1月下旬にかけては、おおむね160ドルと167ドルの間のボックス圏での推移でした。

つまり、おおざっぱには、横ばいトレンドだったと言え、たとえば日経平均が5%上がった局面では、円相場が対米ドルで5%下落し、両者が打ち消し合っていた、ということです。

別の言い方をすれば、日経平均が5%上がったのは、円相場が5%安くなったためであり、円安以外には日本株(およびその背景となる企業収益)には何も良いことはなかった、という市場参加者の解釈だったわけです。

ところが米ドル建て日経平均は、直近では一時170ドルを上回る動きをみせ、先週末でも168ドルと、これまでのレンジ上限であった167ドルを超えたままです。この動きは、日本株にとって、円安以外に好材料が出てきた、と市場が判断していることを示しています。

今後も、日本企業の収益とそれに基づく国内株価の動向は、徐々に円相場離れをしていくと見込んでいます。
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※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年2月5日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した「☆理解の種~世界経済・市場の用語などの解説<日銀の指値オペ>」もすぐ読めます。

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2017年2月5日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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