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誰がメイド・イン・ジャパンを殺すのか? 日本が取り戻すべき経営の心=斎藤満

東芝に始まり、日産自動車、神戸製鋼、スバルと続く偽装問題が「モノづくり日本」の評価を揺るがしています。これは労働者ではなく経営者の責任です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年11月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

日本人はなぜ「日本的経営」という宝を捨ててしまったのだろうか

海外から「白い目」で見られはじめた日本企業

東芝に始まり、日産自動車、神戸製鋼、スバルと続いた偽装問題は、「モノづくり日本」の評価を揺るがすことになりました。

内容こそ、決算の偽装、検査の手抜き、品質偽装と様々ですが、少なくとも海外からの日本を見る目が変わりつつあることを否定しがたくなりました。日本製だから大丈夫、との信頼が揺らいだとの指摘が海外ユーザーから聞こえます。

かつて銀行の不良債権問題が金融危機を招いた時期に、ある破たんした銀行の問題について、「あの銀行がやっていることは、他の銀行でもある」との指摘があり、実際、銀行界全般に多かれ少なかれ共通の問題があることが分かり、大規模な公的資金投入と金融再編で何とか危機を乗り切りました。今回も、一部メーカーの問題ではなく、これが氷山の一角である可能性も否定できません。

「うちの会社」と「今の会社」の決定的な違い

世界に誇る「メイド・イン・ジャパン」に一体何が起きているのでしょうか。1つ考えられるのが、低成長、グローバル競争激化の中で、「日本的経営」を放棄し、日本企業の、そして日本経済の強みを手放してしまった企業が多いことです。

これを象徴するような事象があります。それは、かつてよく聞かれた「うちの会社」、あるいは「わが社」という言葉が、最近では「今の会社」に変わったことです。

以前は、経営者でもない若い社員が、外部の人に自分が勤める会社を「うちの会社」と言っていました。これが大きく変わったのです。結果として労働者のロイヤリティ(企業への忠誠心)が低下している可能性があります。

会社への忠誠を誓う理由などもはやない

そして、これには経営者の側の問題が少なからず見受けられます。

日本経済が低成長に移行し、グローバルな競争が激化する中、為替が円高になったことで、いわゆる「日本的経営」、つまり終身雇用、年功序列賃金制度の維持が困難になり、「雇われ社長」が長期計画よりも短期の利益に執着するようになり、より安価で柔軟な雇用形態をとるようになりました。かつては固定費だった人件費の変動費化です。

特にこの20年くらいについて見ると、竹中平蔵氏を筆頭とする新自由主義の考え方が広がり、これが政策にも取り入れられ、日本的経営は大きく後退し、欧米型合理主義、市場主義の考えが広がり、雇用も弾力化が進みました。

20年、30年スパンの投資と考えて新卒をとるよりも、即戦力の中途採用や派遣社員、非正規雇用を増やす流れが、この10年くらいの間に急速に拡大したのです。

Next: 経営者のいきすぎた自己保身で、中国や韓国に追い抜かれた日本



中国や韓国の後塵を拝する「守りの経営」の問題点

このようにして、人件費の節約が短期の企業収益を支援する一方、技術の蓄積、新規開発、設備投資が停滞し、守りの経営に傾く企業経営者が増えました。

しかも、外部から経営トップを招聘するケースも増え、「現場を知らないトップ」も増えました。かつては社員任せでも「わが社」という意識を持つ社員が経営層の信頼に応えていましたが、即戦力として外から中途採用され、あるいは派遣されてきた社員に同じ忠誠心を期待することはできません。

確かに、非正規雇用が4割にもなって、企業が負担する社会保険料も減り、企業が支払う人件費は、5年前も今もほとんど変わらず、つまりコストは抑制され、それが企業の経常利益8割増(法人企業統計)につながっています。同時に、その利益を技術開発、設備投資に回さずに、利益準備金という「内部留保」(つまり貯蓄)に積み上げてきました。

その結果、いつの間にかエレクトロニクス業界は韓国台湾に追い越され、技術供与した中国に脅かされ、自動車業界も、もはや中国が世界一の生産国に取って代わりました。電気自動車化が進むと、中国の優位性はさらに進み、日本国内のエンジン自動車向けの巨大ピラミッド構造が瓦解します。

「下請け」の日本にできるのはコストカットだけ

かつての本田宗一郎、松下幸之助、井深大氏など、現場を知る経営者なら時代の変化に対応できたでしょうが、現場から離れた経営者が、目先の利益優先の経営をしている間に、「ジャバン・アズ・ナンバー1」が、いつしか世界の企業に越され、1周遅れ、2周遅れとなるところも出てきました。

かつてのウォークマンや液晶といった、技術に裏付けられた独占的商品の創出が続かなくなり、最近ではもっぱら、アップル、アマゾン、グーグルなど米国企業に席巻され、日本はただの下請け製造部門になり下がるようになりました。利益の源泉は、スマイル・カーブの両脇、つまり新製品の開発か、独占的販売にあり、途中の下請け生産部門は薄利で儲かりません。

スマイル・カーブの両端で儲けるのが方やアップルやグーグル、かたやローレックス、ベンツ、シャネルなどで、日本や中国企業は下請け生産部門を担う形になっているものが多くなりました。そこでは徹底的にコストカットして大量生産で効率化するしかありません。反面、カーブの両端企業は独占的利益で大きなマージンをとれます。

Next: 日本人は「宝」を自ら捨てたのか、捨てさせられたのか



日本人は「宝」を自ら捨てたのか、捨てさせられたのか

日本では、トヨタレクサス部門をベンツに対抗するラグジュアリー部門として分離しましたが、まだ中途半端の感が否めません。そこへ一部企業の検査偽装が、日本車の信頼を揺るがすとなれば、高級車路線も苦しくなります。

一旦信頼を失うと、その再構築には10年、20年とかかります。人件費を抑え、短期の利益を拡大しても、市場から信用を失えば、長期の利益に響くのです。

一頃、新自由主義が市場を席巻するころ、海外から「日本的経営」の再評価の声が聞かれました。日本経済の強さの源泉はこの「日本的経営」にある、との分析もありました。

これは海外の企業からすれば、一朝一夕になしえないもので、彼らには大きな脅威でした。それを、国際競争が厳しくなったとはいえ、この「お宝」を手放し、欧米型の短期志向経営に変える企業が増えました。これでは経営者の立場に立って考える労働者の輩出も期待できません。

【関連】なぜ今、欲しいモノもお金もない「消費しない日本人」が増えているのか?=斎藤満

雇用を変動費(使い捨て)と考えるか、長期投資の固定費と考えるか、それぞれに一長一短はあります。日本的経営を再評価し、あるいは経営、労働者、株主の三位一体化を進めることで、企業のモラルを高めることも、メイド・イン・ジャパンの評価回復のためには有効ではないかと思います。社長を裸の王様にしてはいけません。

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マンさんの経済あらかると』(2017年11月2日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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