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根拠なき楽観が招く「日米首脳ゴルフ会談」悪夢のトリプルボギー=斎藤満

2/10の日米首脳会談について、「安倍総理は大変歓迎されている」との楽観論が出ています。しかしそれとは裏腹に、実際はかなり厳しいやり取りになる可能性も否定できません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年2月6日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

日本と市場の命運を左右する、2/10日米首脳会談の重要ポイント

危うい楽観ムード

安倍総理が2月10日より、トランプ大統領との首脳会談に臨みます。この会談は、今後の日米関係、経済に大きな影響を及ぼす重要な意味合いを持ちます。

成功すれば、為替円高の懸念が後退し、失敗すれば自動車を中心に日本の生産が大きく減少します。政府もこの重要性を認識して、持参する「手土産」を含め、最大限の準備を始めたようです。

今回の会談について、米国の受け入れ態勢から、「安倍総理は大変歓迎されている」と、楽観的な見方も出始めました。

その根拠として、安倍総理は公式の会談の他、トランプ大統領の私邸にも招かれ、さらに大統領専用機の「エアフォースワン」でフロリダのゴルフ場に飛び、そこでロスチャイルド、D.ロックフェラー・ジュニア、モルガン家らも交えてゴルフをするためです。

しかし、これとは裏腹に、実際はかなり厳しいやり取りになる、との危機感が周辺にあります。

米国への「手土産」検討

当初、安倍総理とは会わないから麻生副総理を派遣しろ、との声があり、自動車業界への攻勢でも日本が名指しされています。このため、今回は麻生氏の他に世耕経済産業相岸田外相も同行します。

そして3日夜には、安倍、菅氏とトヨタの社長との会談が持たれました。

日本側としてはTPPが頓挫し、米国が日米2国間貿易協定(FTA)交渉を急いでいる状況を強く警戒しています。

2国間協定となれば、声の大きな米国の要望を強く押し付けられるリスクがあり、特に農産物自動車の分野でTPPよりはるかに厳しい米国の要請が予想され、為替条項が盛り込まれると、日本側に大きな負担が予想されるからです。

そこでこの圧力を何とか回避するために、事前に米国への「手土産」が検討され、そのうえで、いざという際の自動車業界の個別対応をトヨタの社長と相談したと見られます。

Next: GPIFに否定されても諦めない、安倍総理渾身の「手土産」とは?



公的年金がダメなら外為特会など活用も

まず「手土産」については一部に報道され、日本の公的年金マネーを米国のインフラボンド購入に充てる話が出ましたが、GPIFのトップに否定され、国会でも問われて後退しました。

しかし、もともと米国からは日銀に米国債購入をさせるアイディアがあり、その伏線として、米国がインフラ投資を進めるうえで、その資金調達に日本が協力しよう、という形で話が進んでいます。

公的年金がだめなら、外為特会などの活用も検討されています。その資金を使ってもらい、米国の生産雇用拡大に貢献し、併せて円安につなげようというものです。

日本が米国に資金支援(ドル債購入)することで円安になっても、これにはトランプ大統領も反対はできないだろう、というものです。

この案を提示し、米国から日本の円安誘導批判が出なければ、為替市場は一旦安心してドル買い円売りを再開、日本株も改めて上昇に向かう可能性もあります。

ドル債購入でも安心できない日米関係のウィークポイント

しかし、日本が資金面で米国のインフラ投資を支援しても、農業、自動車では個別業界の利益が絡んでいるので、米国が総論とは別に「公正公平」を求めてくるリスクは依然として排除できません。

TPPではぎりぎりコメなどで特別に関税を確保しましたが、日米2国間協定となると、この確保が難しくなります。肉類でも同様です。

さらに厳しいのが自動車です。昨年の対米黒字6兆8千億円のうち5兆円余りが自動車によりますが、米国は日本車に2.5%の関税をかけているのに対し、日本は米国車に関税をかけていません

それでも米国車が日本で広がらないのは、流通の問題もありますが、基本は車の性能、信頼度によるところが大きいと思います。

私もかつてニューヨーク郊外で4年暮らしましたが、冬に米国車で事故や故障に合うと、命が脅かされるので、どうしても信頼性の高い日本車を選んだことを覚えています。

制度的に完全に「公平」にしても、日米の自動車不均衡は是正が困難で、最終的にバランスが求められるとなると、かつてのように日本側が輸出の自主規制に出るしかありません。

日本の自動車・農業に厳しい逆風

その点、自動車だけで5兆円余り日本が輸出超過であることは、これをどこまで抑えるかによって、日本の自動車やその下請け企業には甚大な縮小圧力になります。

若者の自動車離れで国内市場が縮小するうえに、対米輸出の自主規制に出れば、逃げ道がなくなります。自動車業界は下請けのすそ野が広いだけに、広範な影響が出ます。

自動車を中心に輸出抑制、減産が広がると、日本の生産自体が大きく落ち込み、GDPも1%近く縮小する懸念があります。株価も押し下げます。

米国のインフラボンドを日本が購入しても、トランプ氏を取り囲む国際金融資本の利益になるだけで、自動車、農業への防波堤にならない可能性があります。

Next: ドル債購入、円安批判継続、日本市場開放の“トリプルボギー”も



ドル債購入、為替誘導批判、日本市場開放の“トリプルボギー”も

ロスチャイルド、ロックフェラー氏らとのゴルフは、金融面で日本がいろいろ注文される場でしかないかもしれず、大腸炎の難病を抱える安倍総理にとっては、何時間も「人質」にとられ、休むこともできない環境は、かなりハードなものになります。

首脳会談だけなら2時間の辛抱で済みますが、私邸訪問や大統領専用機で移動し、ゴルフで何時間も付きあえば、休む時間もとれません。

最悪の場合、ドル債を買う羽目になるうえに、円安誘導批判が消えず、自動車の自主規制、農業解放を迫られる事態も念頭に置く必要があります。その場合ドル円は112円のチャートポイントを下に抜け、円高が進んで株価が大きく売られる懸念があります。

逆に米国が日本の提案を歓迎し、円安や自動車不均衡を不問に付せば、改めて円安が進み、株価は2万円越えとなります。

それ如何で市場は天と地の差がありますが、何しろ米国を含め、既存の秩序を破壊しようとしているトランプ大統領には、これまでの手法、常識が通じません。最悪の事態にも対応できる柔軟さが必要です。
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・トランプ大統領で黒田緩和は継続可能か(2/3)
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年2月6日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年1月27日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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