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「戦争前夜」の不気味な株高。割安を謳歌する東京株式市場の死角とは?=斎藤満

日米の株価が高値を更新。トランプは「株高は自分のおかげ」と豪語しますが、密かに地政学的リスクが高まるなか、市場は極限まで油断しきった状況にあります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年11月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

史上まれにみる油断っぷり。本当にいま株を買って大丈夫なのか?

お祭りムードの日米株式市場

来日したトランプ大統領が、米国株高は自分のおかげだと豪語し、ダウは61回も高値を更新したと自慢しました。「日本株もその恩恵を受けているだろう」と財界人に同意を求めるシーンもありました。

確かに米国株は高値を更新、日本株は依然として割安との見方があり、ドル円も週明けに114円台後半をつけるなど、円一段安の観測も見られます。

実物経済に特段の歪みが見られず、「ゴルディロックス(ほとよい適温)」を謳歌するなかで、投資マネーが株や債券など資産市場に流入しており、さすがにFRBも資産価格の上昇を無視できなくなってきました。

それでも市場は平静を装い、あえてリスクには無頓着の様相を見せています。往々にしてバブルの警戒感が強い時にバブルは弾けず、無警戒の時にこそバブルが膨らみ弾ける傾向があるとはいえ、いったい市場でいま何が起こっているのでしょうか?

「リスク無頓着」は歴史的水準

先の日米首脳会談では、北朝鮮への軍事介入が議論された可能性が指摘されています。実際、共同記者会見では、これに対する答えがあえて避けられました。

日米が北への圧力を強化したところで、北が核放棄をする可能性はほぼゼロとなると、テーブルの上から軍事介入を選択せざるを得なくなるはずです。

このような状況にもかかわらず、世界の政治情勢が緊張の度を高める一方で、市場の「リスク無頓着」が進んでいることのギャップの大きさが気になるところです。

なかでも、米国株式市場におけるVIX(S&P500 Volatility Index = 恐怖指数とも)の低水準は不気味です。投資家の恐怖心理を表すこの数字が、先週末には9.14という極めて低い水準を付けました。これと歩調を合わせるように米国株が高値を更新し、信用力の低いハイイールド債が買われています。

VOLATILITY S&P 500 (^VIX) 出典:Yahoo! FINANCE

これが示唆するのは、VIXがすでに歴史的低水準にあることから、たとえ政治リスクが露呈しなくても株価やドルの上昇が行き詰まる可能性があること。さらに、ひとたび政治リスクが露呈し、特に軍事行動に繋がった場合には、これを織り込んでいない分、市場で大きな混乱が生じる可能性を秘めていることです。

Next: これ以上の円安・株高は難しい? 強まるドル円とVIXの相関性



VIXに低下余地なく、株価・ドル円に天井感

まず、このVIXの数字が9を割り込んでどんどん低下する余地があればともかく、歴史的低水準ゆえに、ここからの低下余地があまりないとすると、株価・ドル円ともに天井感が出てきます。

実際、週明けにはVIXが9.40にやや上昇する中で、米国株は様子見となり、ドルも下げました。

その中で顕著な動きを見せているのがドル円です。ドル円レートを決めている要因として、これまで長期金利差、あるいは米国の長期金利が言われてきました(その前は2年国債の日米金利差でしたが)。

しかし、その金利とドル円の関係が崩れ始め、代わってVIXとドル円の相関性が意識されるようになっています。つまりVIXが低下するとドル円も買われ、円安になる状況です。

もともと金利差はインフレ格差の代弁でもあり、インフレ通貨が下落する面と高金利通貨が買われる面とがぶつかって実質金利差が意味をなすわけですが、市場は瞬時に実質金利を判断しにくいため、一時的に名目金利で動いてしまう傾向があります。しかし、インフレのない堅実な円よりもインフレ率の高い通貨を、金利だけを頼りに買い続けることもできません

強く意識されるVIXとドル円相場の関係

VIXと為替の関係では、リスク・オンの際に円をキャリー通貨として使ってリスク資産に投資し、リスク・オフになると投資を手じまって円を回収します。つまり、リスク・オンでVIXが低下するときに円安が進み、リスク・オフでVIXが上昇する際に円高となる関係が強まります。

そのため、リスクと円の関係は以前から見られましたが、最近は特にVIXとの連動性が意識されています。

米国10年国債金利がまた低下気味で、週明けには2.31%をつけるなど、ドルを買いにくくなっていますが、代わってVIXが先週末に9.14まで低下するのを見てドル円は週明けに114.5を超えて円安となり、市場には115円台は時間の問題との声も上がりました。

しかし、VIXの9.14という低さを考えると、さすがにそれ以上は突っ込めなくなります。

VIXが9を割り込むなら別ですが、低下余地が小さいとすれば、円安の余地も小さいことになります。案の定、VIXが週明けに9.4に上昇すると、ドル円は113円台後半に下落しました。

為替市場においてはVIXもファッション的な決定要素で、いつかはこれを無視する日が来るでしょうが、当面はVIXが大きな決定要因として見られ、その低さから見て、円安は進みにくくなったと見られます。

Next: 北朝鮮だけではない火種の数々、日本株はテクニカル面で不安も



日本株の「移動平均かい離率」は最高レベル

現在のVIXが底値圏で、一段の低下余地は大きくないとすれば、米国株やジャンク・ボンドなどリスク資産への投資も強まりにくくなります。

相場の上昇はあっても緩やかになり、外部からの政治リスクや地政学リスクが生じる際にはVIXが急騰してリスク資産が売られやすくなる面も潜んでいますので、警戒が必要です。

米国株の上昇エネルギーが弱まり、為替でも円安余地が低下すると、日本株の買いエンジンも弱まるでしょう。日本株は、PERからすれば必ずしも割高感はありませんが、移動平均線からのかい離率は最高レベルになっています。

日銀のETF買いもあり、当面は高止まりを維持できるとしても、このレベルからは調整が入りやすくなり、いずれにしても深追いはしにくい状況です。

北朝鮮だけではない、世界でくすぶる火種の数々

相場に過熱感はなくとも、VIXにも表れているように、市場のリスクに対する意識は異常なまでに無頓着になっています。

しかし、現実の世界では、朝鮮半島のみならず、米中関係、トランプ氏のロシア疑惑、サウジの賄賂叩きと王家内の不安定化からイスラエル、イランなど中東全般への波及…といった政治的、地政学的リスクが世界に散らばっています。

しかも、米国のトランプ大統領、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、日本の安倍総理、北の金正恩委員長、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と、各国のリーダーを独裁的な強硬派が占め、協調路線が後退しています。それだけ政治的な軋轢が大きくなり、軍事紛争のリスクは大きくなっているのです。

Next: 極限まで広がったギャップ、万一の有事には反動も大きく



極限まで広がったギャップ、有事には反動も大きく

このように、「国際的なリスク環境」と「市場のリスク感応度の低さ」とのギャップが、いつになく大きくなっているのが現在であり、その象徴がVIXの歴史的な低水準と言えます。

たとえ政治リスクが表面化しなくても、市場は高止まりから一段高を目指しにくくなっていますが、もし政治リスクが勃発すれば、それだけ調整は大きくなるでしょう。リスク・リターンのバランスが重要な局面に入ってきました。

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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年11月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初のご購読は特にお得です!

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マンさんの経済あらかると』(2017年11月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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