マネーボイス メニュー

From Evan El-Amin / Shutterstock, Inc. | Wikimedia Commons

日本株への影響は?トランプ大統領とイエレンFRB議長「本当の相性」=E氏

今の市場には楽観と警戒が混在しています。その原因はトランプの場当たり発言だけではありません。FRBの金融政策とトランプ政権の不整合が先行きを不透明にさせているのです。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

日本株を待ち受ける悲劇。トランプはどこの国の大統領かを考えよ

右往左往するマーケット

トランプ政権が発足して1ヶ月近くが経ちましたが、依然としてトランプ大統領のTwitterや非公式会合での発言でマーケットは右往左往している有様です。

他国首脳に喧嘩を売る発言をしたかと思ったら、突如トランプ節が鳴りを潜めてナイスガイになったりする。政策発表は思いつきのようなTwitterでの発言や、業界団体との非公式会合での発言が洩れて即座に市場に織り込まれるものの、政権高官からの正式な発表や具体的な政策が付いてこないままなので、大統領による独断ばかりです。

つまり、実現性があるかどうかも不明な中で、思いつきのようなトランプ大統領の発言にマーケットが振り回されているのです。

米国民にとって耳障りの良い発言を連発していることでダウは期待先行で連日市場高値を更新していますから、一見すると昨年11月のトランプショック以降のリスクオンマーケットが続いているように見えます。

しかし、年初来でもっともリターンが良いアセットはゴールドですし、年初来で米国金利は低下、安全資産である円も上昇しているなど明らかにリスクオフ的な傾向も出ています。

このように楽観と警戒が混在するマーケットになってしまっているのは、トランプ政権の情報発信スタイルだけの問題ではありません。FRBの金融政策とトランプ政権の政策との整合性もマーケットの先行きを不透明にさせているのです。

では、このトランプ政権とFRBの金融政策の方向性に違いはあるのでしょうか?そして、それはどういった方向に変化していくか、それに伴って日本株や円相場の先行きはどうなるかについて本日は解説します。

【関連】それでも日経2万円が遠い理由と、リスクオン再開に向けた僕なりの仮説=長谷川雅一

トランプ政権とFRBの親和性と相違点

まず、両者の金融政策の方向性の確認ですが、FRBの金融政策のベースとなる米国及び世界の経済情勢に対する見方は昨年6月のBrexit後をボトムにして、緩やかに強気にシフトさせてきています。

昨年12月のFOMCにおける(メンバーそれぞれのFFレート見通しをプロットした)ドットポイントでは今年の利上げ回数のコンセンサスは2回でしたが、今年に入ってからさらにタカ派的な発言をするFOMCメンバーが増えてきており、従来ハト派と目されていたメンバーの中にも今年の利上げ回数は3回が妥当という主張するメンバーも現われてきました。

FOMCの投票権の半分を押さえている議長や理事達にハト派が多いため、今時点で年3回ペースの利上げ提案を行っても却下されるでしょうが、こういった発言が増えるにつれてマーケットに向けたメッセージは確実にタカ派色に転じています。

一方、トランプ政権から正式に金融政策に関するコメントは出ていません。中央銀行は政権から独立した機関であるので、金融政策不介入は当然ですが、トランプ政権の発信する情報でマーケットの期待値とFRBの政策の差に着目すると、政権とFRBの金融政策の親和性や相違が見えてきます。

2013年12月のテーパリング(緩和縮小)開始決定からほぼ一貫して、マーケットはFRBの金融政策の方向性より常にハト派的な見方をしていました。テーパリング(緩和縮小)終了時期も、初回利上げ開始時期も、昨年12月に決定された2回目の利上げ決定もいずれもFRBはもっと早い段階で到達すると見ていたのですが、結果的に非常にハト派的なマーケットにFRBの決定が収斂しています。

つまり、FRBは米国及び世界の経済情勢に対して常に楽観的かつ強気過ぎたのです。

尤も、FRBの見通しが市場見通しより精度が低くなってしまったのは、必ずしも分析能力が劣るからではありません。

マーケットの混乱を避けるという名目で、金融政策の決定前に十分に引き締めアナウンスをする結果、マーケットがそれを先取りする形でリスクオフになってしまったり、その結果新興国市場などからの資金引き揚げが加速するという、自らの強気見通しでマーケットがリスクオフに転じる結果、経済が見通しより後退してしまうためなのです。

バーナンキFRB元議長と違って、イエレンFRB議長が混乱を避けるために市場との対話を重視するスタンスを採っている以上、これは仕方がないことです。

このマーケットコンセンサスが常にFRBの見方より楽観的というのは昨年秋まで続いていましたが、トランプ氏が大統領選で当選してからがらりと変わってしまいました

選挙前は想像だにしていなかったトランプ氏が大統領に選ばれたショックで、マーケットはトランプ氏の選挙向けに掲げていた政策がすべて実現するという前提で動いてしまったのです。

トランプ大統領の政策は移民政策などで目立っていますが、選挙選での目玉は大型経済対策など景気浮揚の政策でした。財源の根拠がないにも関わらずの大型対策は大衆迎合的な側面が強く、具体性に乏しい実現確度が低いものでしたが、マーケットは「経済対策が実行されることで、米国経済は更に加速し、インフレ率が上昇していく」という世界を想像してしまったのです。

この結果、米国長期金利が上昇し、期待インフレ率の上昇でドル高が加速することで、日本やドイツは自国通貨安と株高の双方で恩恵を受けることになったのですが、この金融政策の方向性に関する急激なタカ派シフトの結果、マーケットとFRBとの金融政策に対する見方はイエレンFRB議長就任以降初めてといえる均衡状態になりました。

即ち、昨年12月時点でマーケットが考える2017年の利上げ回数は2~3回で、一方のFRBも同様の見方をしていたのです。

しかし、ここで注意しなければいけないのは、FRBの金融政策の方向性は一貫しているものの、マーケットが考えるトランプ政権後の金融方向性は一貫性に欠けているという事です。

Next: ドル高とドル安、実現するのはどちらか?トランプの政策を全て実行は不可能



トランプの経済金融政策は矛盾だらけ

実は、トランプ政権の経済金融政策は、それ自体が整合性に欠けています。

彼は通商政策や雇用政策では米国内での雇用回帰を重視しているのでドル安を指向しているといえますが、大盤振る舞いとも言える経済対策期待を市場に過度に植えつけることは(選挙後のマーケットの反応のように)ドル高政策に繋がりますから、彼が公約に掲げている政策が全て実現する可能性は低いのです。

経済対策で景気が上向きインフレ率が上昇することでドル高になる米国に、米企業は雇用維持のために(他国に作るはずだった)工場を米国に作るはずがありません。世界的に展開する多国籍企業の収益ウエイトが高いこともあり、米国株のバリュエーションを決定する企業収益にドル高は多大な開く影響を及ぼします。

このため、ドル高政策である経済対策とドル安政策である国内雇用重視、米国企業の国際競争力上昇が同時に実現すことはありえません。おそらくは、大型経済対策を実行しても財源の裏づけが乏しいので、ドルの信認が低下するということになるので、大型減税などの経済対策を行ってもドル安に向かうというのが正しい方向と私は考えていますが、今のマーケットはこの矛盾しているトランプの政策発信で右往左往しているのです。

つまり、対外圧力の情報発信が相対的に多いときはドル安/他通貨高につながり、先週木曜に突如出てきた減税策のような財源なき経済対策の情報発信が先行した場合はドル高に向かうのです。

年初来、世界のマーケットがドル安リスクオフ的になった理由は、昨年11月以降の過剰とも言えるインフレ期待が落ち着き、政権が実際に発足してからの彼の政策優先順位がドル高政策でなかったからです。

トランプ大統領は就任後外交面でタカ派的な政策を打ち出していますし、孤立主義ともいえる米国の産業保護に重きを置いた外交、通商政策を展開していましたので、マーケットはドル安に反応していたのです。

では、この動きが一貫性を持っているかというと全く違います。先週木曜に業界団体との会合で突如出てきた「目を見張るような減税が今後数週間程度で出てくる」という発表で先週木曜の米国株及び、金曜の日本株は急伸しましたが、この補足が政権高官から一切出てきません。

つまり、相変わらず、経済対策は大衆迎合的で財源の裏づけも議会への根回しも一切されていない実現性に乏しいものなのです。

そもそも、トランプ大統領がどういう順序で思いつき発言をするかなんて誰も知りえませんし、おそらく本人も理解していないでしょう。思いついたらTwitterやその場に居合わせたメンバーにしゃべっているだけで、きちんとした段取りで公式な発表をしていません。

だから、たまたま米国景気に期待が持てるような発言が続くと米国株はリスクオンになりますが、移民政策など強硬な姿勢が目に付くと先行き懸念でリスクオフ的になってしまうだけです。これは一貫性も方向性もなく、場当たりでしかありません。

つまり、FRBは緩やかにタカ派的な見方にシフトしていますが、トランプ政権は、公約の優先順位上位の政策自体に矛盾を抱えているので、どの政策が話題になっているかで、ドルや米国金利の方向性が一喜一憂しているだけで明確な方向性はありません。たまたま、現時点ではFRBの見方とトランプ政権の政策による今年期待される金融政策の見方が均衡しているというだけなのです。

Next: 約束された市場の破綻。目先のリスクオンムードは本物か?



目先のリスクオンムードは本物か?

ただ、はっきりしていことは、大衆迎合的なリップサービスを言い続けることで、消費者のセンチメントを上向かせるのは事実なので、トランプ政権の情報発信がマーケットの期待を裏切らないで出続ける限りにおいては、FRBは緩やかなタカ派シフトを続けるでしょうから、その場合は、金融政策とトランプ政権の政策に大きな相違は見られないと思われます。

しかし、あまりに非現実だとか、思いつきの政策がことごとくお蔵入りするなど、市場の信認を一旦失ってしまったら、現在の期待先行のマーケットはあっという間にしぼんでしまうでしょう。

この場合、マーケットの期待値がリスクオフになるスピードより、FRBの政策方向性の変化のスピードのほうが遅いと思われるため、FRBよりマーケットがハト派にならざるを得ない事態、即ち、大幅な株価調整によるリスクオフ的な世界になるでしょう。

これがいつ具現化するかは不明ですが、トランプ大統領が掲げた基本的な公約が矛盾を抱えている以上、いつかは政策の不整合が表面化しますので、いつまでも期待先行のブルマーケットが続くことは無いでしょう。

ただ、目先は、先週木曜に口走った減税期待もあって、リスクオン&ドル高が続き易い状況です。

これは数週間程度で目を見張る内容の減税プランが出てこないと失望に変わる性質のものですが、期待通りに素晴らしい減税プランを財源の根拠を明示した上で市場にアピール出来た場合、マーケットの米国経済に対する高い信認が数ヶ月は続くかもしれません。

しかし、それでも、ドル高政策と米国内の雇用維持政策によるドル安が相容れない政策である以上、彼のリップサービスはどこかで破綻します。

ドル安政策は企業や他国に対する恫喝で実行できる要素が多いですが、経済対策は財源の根拠が乏しいと信認低下による通貨安に繋がりかねないので、どちらかに収斂するとしたら収斂する先はドル安でしょう。

しかし、FRBは株価が大幅調整するまでは緩やかなタカ派シフトを続けるため、減税期待が剥げたあとは(米国株に期待が残ったとしても)、ドル安と金融引き締めが基本的な方向性になる以上、世界的にはドル安によるリスクオフという年初来のトレンドに戻り易いと思われます。

Next: 梯子を外されるリスクが高い?日本株への影響を予測するヒント



日本株への影響を予測するヒント

最後に、こうしたFRBの見方とトランプ政権の政策が、短期的に日本株及び円相場にどういった影響を与えるかですが、ごく短期的には根拠なき期待感でリスクオンが続き易いと思われますが、FRBの金融政策の方向性やトランプ政権の公約を考えると、基本的に円高に推移する可能性の方が高いので、突然梯子を外されるような下げに対する注意が必要でしょう。

先週金曜の日本株があれほど上げたのは、本邦投資家による買いが原因です。これは米国の減税に対する期待と週末の日米首脳会談期待がメインと言われていますが、ダウが2万ドルに乗せているのだから、日経平均も2万円になって然るべきという根拠なき相場観も少なからずあると思われます。

週末の日米首脳会談はポジティブに捉えられましたが、当然ですが、トランプ大統領は米国の大統領であって、日本の大統領ではありません。なので、本来日本の国益なんか考える必要はないし、実際そのようにするはずですが、今は懸念していた割には脅されなかったという安心感が、過度な日本株期待/円安に結びついています。

本来日本株には関係がない米国の減税で米国株が期待先行で強いのは頷けますが、本邦投資家はダウが更に上がると、置かれたファンダメンタルズが全く違うのに、日経平均も2万円に乗せるべしという見方で買い進む動きが継続するかもしれません。

しかし、トランプの政策が日本向けでない以上、先週金曜以降の株価上昇はファンダメンタルズの裏づけに乏しいものなので、目標到達後は独歩安を覚悟すべきでしょう。

実は、年初来のドル安円高基調は、トランプ政権の政策優先順位がドル安的なものが続いただけではなく、昨年11月のトランプショック以降の動きがあまりに行き過ぎだった反動による投機筋の買戻しによるマーケットインパクトも大きいです。

過剰ともいえるインフレ期待が是正され、トランプ政権の政策優先順位の高さが「ドル高政策より雇用維持というドル安政策」だと見え始めたことで、昨年末にかけて投機筋によって作られた過大な円ショートポジションが巻き返されているのです。年初来一貫して、投機筋の円ショートは買い戻されていますが、依然としてピークの半分程度しかショートの解消が進んでいません

トランプ大統領が次にどんな政策をつぶやくかは誰にも知りえませんが、彼が日本重視の政策をする可能性よりは、上で見たようにドル安政策をする可能性の方が高い以上、投機筋のショートスクイズはまだ続きやすいです。

従って、少なくとも今年前半は円高基調が続き易いといえる中で、万が一、日本株が日経平均2万円乗せというファンダメンタルズのサポートなき目標で突き進んだ場合、本邦投資家以上にマーケットインパクトを持つ投資家によって梯子を外されるリスクが高くなるでしょう。

米国人以外で、米国人向けに大衆迎合政策を行うトランプ政権を、日本人ほど日本にとってポジティブだと考える人種は他にいないでしょう。

赤信号もみんなで渡れば怖くないないので、こんな根拠なき信念でも日本株がファンダメンタルズと乖離して独歩の動きをし続ける可能性はありますが、みんなが考えていた目標に到達するか、為替政策や通商政策などで対日圧力が出てきた場合、当然悲劇的な末路が待っているといえます。

それは、本邦投資家による円買い戻し圧力と日本株叩き売りです。つまり、日本人自らで買い上げて、自らで叩き売る独演会が始まったのです。

いくら場当たり的な政策発表で一貫性がないと言っても、トランプ大統領は米国の大統領なので、日本の国益に合致した政策をするよりは日本にとって不利な政策発表をする可能性の方が高いのです。

昨年の米国の貿易赤字で中国に次いで2番目の赤字を計上させたのは他でもない日本なのですから、ゴルフをして長い時間ハグをしたからといって、いつまでも日本株に都合が良いトランプ大統領でいるはずはありません

トランプ大統領がどこの国の大統領か、今一度思い起こしておく必要があるでしょう。

【関連】安倍総理の「成果」は本物か?日米首脳会談で日本が得たもの失ったもの=斎藤満

【関連】日経平均は新たな上昇局面、一気の「21000円超え」を目指しはじめた=伊藤智洋

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年2月14日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

元ヘッジファンドE氏の投資情報

[無料 ほぼ 週刊]
日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。