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なぜ今、賢人バフェットはキャッシュポジションを増やしているのか?=東条雅彦

バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの決算を見ると、現金比率が同社のリーマンショック直前の水準にまで上昇しています。これが意味するものとは?(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

株式市場は過熱している? バフェットの売買動向からわかること

長期投資家が常に注目

11月4日、バフェットの経営するバークシャー・ハサウェイの第3四半期決算が発表されました。

前年同期比で売上高が2.9%増純利益が43.5%減という結果になりました。ハリケーン「ハービー」「イルマ」など相次ぐ自然災害を受けて純利益が大幅に削られてしまいました。

バークシャーはたまに保険事業の方で、自然災害絡みで利益が減ってしまう時があります。ただ、このような一時的な要因で利益が減る場合、翌年には復活してくる可能性が高いので、ホルダーの人はそれ程、気にする必要はないでしょう。なにしろ、過去のデータ上、バークシャー・ハサウェイへの投資はS&P500に投資するよりも遥かに安全性が高く、大きなリターンが期待できます。

現在、バークシャーのPBRは1.5倍です。過去のPBRの推移を追っていくと、バークシャー株は概ね1.2倍から2倍の間をウロウロする傾向にあります。PBR1.5倍という値はちょうど真ん中ぐらい(割高でも割安でもない水準)です。今回の決算を受けて大幅に株価が下がることはないことはないとは思いますが、一応、注視しておいた方が良いと思います(直近1ヵ月の株価は下落傾向です)。

バークシャーをポートフォリオに組み込むと、とても運用成績が安定するため、長期投資家にとってバークシャーは常に監視の対象です。

バークシャーの現金比率に注目すべき理由

株主でない人も一応、バークシャーの決算書には目を通しておくべきと私は考えています。特に最も注目すべきは、バランスシートの現金比率です。

なぜなら、バフェットはとても保守的な投資家で、「不況期に投資を拡大して、好況期には投資を控える」傾向があるためです。バフェットは金融危機などで暴落した株式を大量に拾って、好況期が来て株価が急騰するまで待つという戦略を採用しています。

バフェットの売買動向をチェックすることで、今、景気サイクルがどのぐらいの位置にあるのかを概ね把握することができるというわけです。

現金はバランスシートの上の方に記載されている

バランスシートは上の項目に行けば行く程、換金性の高い資産を記入するルールになっています。

例えば、直近の2017年3Q(7~9月期)のバランスシートには「Cash and cash equivalents(現金及び現金同等物)」が352.47億ドルと書かれています。その次に換金性の高い「Short-term investments in U.S. Treasury Bills(米国財務省短期証券)」が613.52億ドルと記載されています。

本稿ではこの2つの項目を現金と見なして、バークシャーの総資産に対する割合(現金比率)を求めていきます。

<バランスシート 2017年9月末/2016年12月末>


(単位:百万ドル)

<2016年12月末の現金比率>

(23,581+47,338) ÷ 620,854 = 11.4%

<2017年9月末の現金比率>

(35,247+61,352) ÷ 681,554 = 14.2%

現金比率は直近9ヵ月間で11.4%(2016年12月末)から14.2%(2017年9月末)に上昇しています。おそらくバフェットは、投資対象を見つけられずに困っている状況だと推測します。

Next: 悩める賢人バフェットの「過去の投資行動」からわかること



リーマンショックの直前はどうだったのか?

2008年9月15日、米国のリーマン・ブラザーズが経営破綻したことで、連鎖的に世界的な金融危機が発生しました。バフェットはリーマンショック前の2006年と2007年は、高い現金比率を維持していました。

<バランスシート 2007年12月末/2006年12月末>


(単位:百万ドル)

※補足事項:当時のバランスシートには米国財務省短期証券を意味する「Short-term investments in U.S. Treasury Bills」の項目はありません。昔は米国財務省短期証券の金額を現金及び現金同等物(Cash and cash equivalents)に含めていました。米国財務省短期証券の金額を現金及び現金同等物の金額から独立させたのは2016年度のバランスシートからになります。

リーマンショック前の2006年12月末と2007年12月末の現金比率は、次のようになっています。

<2006年12月末の現金比率>

37,922 ÷ 248,437 = 15.3%

<2007年12月末の現金比率>

37,703 ÷ 273,160 = 13.8%

先程の2017年9月末の14.2%という現金比率は、リーマンショック直前の水準とほとんど同じになっていることがわかると思います。

リーマンショック直後は大勝負に出る

2007年10月のリーマンショック以降、バフェットは買い出動に向かって現金比率が低くなっています。こちらの2008年12月末と2009年12月末のバランスシートをご覧ください。

<バランスシート 2009年12月末/2008年12月末>


(単位:百万ドル)

次の通り、現金比率が急落しています。

<2008年12月末>

24,302 ÷ 267,399 = 9.0%

<2009年12月末>

27,917 ÷ 297,119 = 9.4%

バフェット自身は、別にマクロ経済の動きを予想して売買しているわけではありません。株価が上昇してくると、株式の安全域が小さくなるため、自然に購入を控えるようになります。現金比率の推移を追っていくと、バフェットがベンジャミン・グレアムの「安全域」の概念をとても重視していることが伺えます。

Next: バフェットが見据えるのは金融危機か?それともAI革命か?



バークシャーの現金比率(2006年~現在)

バークシャーの現金比率は次のように推移しています。

<バークシャーの現金比率(2006年~現在)>

現在の現金比率は、ほぼリーマンショック直前と同じ状況になっています。バフェットが投資対象を探すのに困っていることは確かだと思います。

金融危機か? AI革命か?

現金を積み増す一方で、バフェットは去年からアップル株を買い進めています。アップルは現在、バークシャーの第2位の投資先になっています。

<バークシャーのポートフォリオ(2017年6月末)>

そして、11月15日に、バークシャーの2017年9月末の投資状況が明らかになります(※編注:11月14日本稿執筆時点)。一体、どのように変化するのか、要注目です。

バフェットがアップルの保有比率を高めているのは、ITの重要度が増してきているからに他なりません。近年、FAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)等のハイテク企業はオールドエコノミーの事業を奪いながら、成長を加速させています。

そして、2020年代中盤から本格的に立ち上がる第4次産業革命(AI革命)では、ハイテク企業が中心的な役割りを果たすと見られています。そのような背景がある一方で、現金比率を前回の金融危機の直前レベルまで高めています。

ただ単に今までの手法では投資対象が見つからないのか? それとも、株式市場が加熱してきているのか?

その答えを探るべく、バフェット本人の見解に耳を傾けてみましょう。

Next: 今の株式市場は過熱状態? バフェット自身が述べた見解



マクロ経済アナリストではなく、ビジネス・アナリストになろう

バフェットは次のように述べています。

投資を行うときは、市場アナリストでも、マクロ経済アナリストでも、証券アナリストでもなく、ビジネス・アナリストでなければならない

バークシャーの現金比率は株式市場の加熱具合を確認するのに参考になるかもしれませんが、現金比率だけにフォーカスするのは本末転倒です。

バフェットの主張に従って、私たちはマクロ経済や株式市場全体ではなく、投資しようとしている「株式の本質的な価値」にもっと目を向けた方が良いと言えます。

最後に、バフェットの次の言葉で本稿を締めくくりたいと思います。

投資してみたいと思う企業が見つかったら、株式市場全体の水準はあまり問題になりません。あくまでその企業の状況を見て、投資すべきかどうかを判断します。

基本的には、マクロ経済の状況は考慮しません。たとえ誰かが、マクロ経済予測の権威の手による向こう2年間の失業率や金利の予想を教えてくれたとしても、私達は見向きもしないでしょう。

自分たちにも理解できる企業に的を絞り、価格が適正か、経営陣を好きになれるかという点だけを考慮します。連邦議会の動きにも関心はありません。そういう話題に目を向けても得るところは少ないと考えています。

(続きは無料メルマガをご購読ください。最新号「起動するAI革命!バフェットのIBMとウォルマートの売却を結ぶ点と線」もすぐ読めます)

image by:Wikimedia Commons

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年11月14日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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