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ドル円相場は想定内、「円高=株安」の思い込みを捨てる準備を始めよ=江守哲

ドル円相場の分析のほか、今年に入って予想外の復活を遂げた著名ヘッジファンドの運用成績や、ヘッジファンドによるビットコイン運用などについて解説します。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年11月20日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

112円10銭ないし111円50銭を守れるか?それでも株には強気でOK

「米国の望まないドル安」どう見る

ドル円は週末に急速にドル安になりました。

17日は、東京時間でモラー特別検察官がトランプ選挙陣営に召喚状との報道が流れ、これをきっかけに売りが出始めました。113円を割り込み、一時112円まで下げました。これまでの膠着状態から、少し円高の圧力がかかり始めています。

いまの市場は、米国にネガティブだと、やはりドル売りになります。しかし、これは米国が望む形でのドル安ではないですね。少し警戒が必要かもしれません。

もっとも、株価の方はそれでも堅調ですし、特に日本株はまだ割安です。ドル円の下落への影響も限られるのではないかと考えています。

チャートの話を先にすると、112.10円にポイントがあります。週末時点ではほぼ同水準で引けています。今週はこれを下回るかどうかを見ていくことになります。

米ドル/円 日足(SBI証券)

割り込むと、次は111.50円がポイントです。これを割り込んでしまうと、大崩れは不可避になります。かなり注意が必要な水準になってきたことを理解しておきたいところです。

しばらく無理は禁物。とはいえ

一方、10月の米CPIが前年同月比2.0%となり、前月の2.2%上昇から鈍化したため、これがドル円に影響を与えています。

10月末時点の日米実質金利差から見た推計理論値は110.70円にまで上昇しています。

これは日本の10月のCPIが変わらない前提であり、日本のCPIがさらに上昇すると、円安方向にさらに引き上げることになります。この意味では、方向性としては円安圧力が掛かりやすい状況にあるといえます。

米CPIの伸び悩みは意外でしたが、原油価格の上昇の勢いが弱いということでもあります。

私が考える長期的なドル円のサポートは110.60円から110円ちょうどです。この点からも110.70円の推計理論値はきわめてリーズナブルといえるでしょう。これ以上の水準は、できればロングで攻めたいところですが、その方向性もまだはっきりしていません。

いまはまだ無理をする局面ではないといえます。まずは112円を維持できるかを確認したいと考えています。そのうえで、113.60円を超えた場合には、ドル上昇の可能性が高まると考えています。

米税制改革の方向性も見えません。下院で承認されても、問題は上院です。相違が多すぎて、すんなりとはいかないとみられています。このような状況ですし、無理は禁物です。材料で判断はしたくありませんが、今は無理をしないほうがよいでしょう。

【ドル円:2017年の想定レンジ】

強気シナリオ115.25円~129.85円(17年末128.35円)/弱気シナリオ103.60円~118.75円(17年末104.70円)

【ドル円:11月の想定レンジ】

強気シナリオ123.30円~129.00円/弱気シナリオ103.65円~108.25円

Next: 予想外の好成績。著名ヘッジファンドの復活はどこまで本物か?



著名ヘッジファンドの“復活”はどこまで本物か?

著名ヘッジファンドの一部は、今年に入ってから予想外の復活を遂げています。

少なくとも過去4年で最高の運用実績を上げているとみられています。それも堅調な金融市場のおかげといえます。

大手のヘッジファンドの中には、年初から10月末までの運用成績が20%以上に達したものも出てきているといいます。

例えば、ジャフリー・ウッドリフ氏の旗艦ファンド「クオンティテーティブ・インベストメント・マネジメント」は短期の株式投資で68.3%の成績を上げています。このファンドの規模は40億ドルですので、かなり大きいのですが、相当高いパフォーマンスといえます。

また117億ドルを運用するロビンス氏の「グレンビュー・キャピタル・マネジメント」のリターンも21%と高率です。このファンドは、15年と16年にはいずれも損失を出していたといいます。

やはり、この数年間はヘッジファンドにとって、非常に難しい相場だったのですね。

一方、200億ドルを運用するコールマン氏の「タイガー・グローバル・マネジメント」は、中国のハイテク企業への投資が奏功し、10月末までのリターンは34.5%といいます。

また、120億ドルを運用するラフォン氏の旗艦ファンド「コートゥー・マネジメント」は、米国のハイテク関連株への投資で成功し、29.3%のリターンを稼いでいます。

市場平均からみれば不満なリターン

比較対象となるS&P500の年初から10月末までの上昇率は15%です。これに対して、ヘッジファンドの指数であるHFRI指数は7.2%の上昇で、リターンはS&P500の半分以下です。これでも13年以降で最も高いといいます。しかし、投資家からすれば、普通に株式指数に投資していた方がよかったということになりますね。

上記のように、一部のファンドの成績は改善していますが、市場平均からみれば、かなり不満であると言わざるを得ません。好成績を上げているファンドは限定的ですし、ヘッジファンド業界全体が復活したとは言えないでしょう。

ヘッジファンドは手数料が高いですし、運用の不透明さもあります。機関投資家が手を引くのも当然でしょう。しかし、ヘッジファンドサイドは、手数料が指数連動型ファンドに比べて高いのは、市場の急落に耐えられるようにポートフォリオを分散しているためと反論しています。

これは確かに正しいと言えます。

今後、経済状況が悪化し、金融市場が軟調に転じれば、復活するヘッジファンドが増える可能性があります。しかし、その場合には、まず投資家が痛手を受けますので、資金を既存のファンドから引き上げます。これが下げを加速させます。そうなると、ヘッジファンドへの投資を行う余裕はなくなります。

リーマンショック時には私も、運用していたファンドの成績が抜群に良かったのですが、投資家の方が疲弊してしまい、誰も投資してくれる状況にはありませんでした。

このように考えると、ヘッジファンド投資が増えていくのはかなり難しいと感じます。

確かに、ヘッジファンドの存在には理由があります。その価値もあると思います。市場の好調さがいつまでも続くとは限りません。ヘッジしながら投資を行っているヘッジファンドの存在は、今後もことあるごとに注目されるでしょう。

しかし、そのためには、安定的なリターンを上げ続ける必要があります。昔も今も、ヘッジファンドへの要求は厳しいですね。

Next: ビットコイン運用に続々参入? ヘッジファンド業界の注目点



ヘッジファンドがビットコイン運用に続々参入?

ところで、ヘッジファンドのマン・グループが、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が予定通りに仮想通貨ビットコインの先物を立ち上げれば、運用対象にビットコインを追加する方針を表明しました。

同社のルーク・エリス最高経営責任者(CEO)は、「仮想通貨にはいくつかの課題があるものの、投資が不可能というわけではない」と言っています。

また、「考え方としてデジタル通貨は興味深い。われわれの投資対象には今のところ属していないが、今後含まれる可能性がある。もしCMEの先物が始動すれば、実際に投資対象となるだろう」としています。

以前にもここで書きましたが、CMEは10月31日に、第4四半期中にビットコイン先物を上場すると発表しています。

これが実現すれば、ビットコインの投資家にヘッジツールが提供されることになります。上手く機能すれば、非常に面白いことになります。このようなヘッジファンドが増えてくるのかどうか、今後の動向に注目しましょう――

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年11月20日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した日米株式市場に対する強気の分析や、ユーロ、金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

2017年11月20日号の目次

・マーケット・ヴューポイント~「調整しても一時的、大局に影響なし」
・株式市場~米国株はやや調整気味だが、基調は変わらず、日本株はまだ不安定だが下げない
・為替市場~ドル円は円高リスクに直面、ドル安基調は継続
・コモディティ市場~金は急伸、原油も再度上向きに
・今週の「ポジショントーク」~不安定ながらも立て直しの時期
・ヘッジファンド投資戦略~「ヘッジファンドは復活したか」-投資戦略構築のポイント
・ベースボール・パーク~「土曜日は野球の練習、日曜日は3年生の最終戦」
・セミナー・メディア出演のお知らせ

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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