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トランプとイエレンの対立がもたらす高ボラティリティ相場に備えよ=近藤駿介

現在の市場は予想以上に長くボラティリティ(価格の変動幅)が低迷している。それに転機をもたらすのは、トランプの「驚異的な税制改革」の中身とイエレンFRBの金融政策になりそうだ。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

※本記事は有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』2017年2月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

金融・財政両面で対立を深めるトランプとFRB、今月28日に要注意

ボラティリティは反転しておかしくない低水準

トランプ大統領が就任してから約1カ月。フリン大統領補佐官の辞任や労働長官に指名されていたバクスター氏の指名辞退など、依然として政治面での混乱は続いている。また、メディアとの対立も日を追って厳しさを増していている。

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しかし、こうした政治的混乱を横目に、7日続伸したNYダウを筆頭に主要3指数が揃って史上最高値を更新するなど、経済面ではトランプ大統領に対する期待は依然として高い状況が続いている。

トランプ政権の混乱が収まる気配を見せないなか、金融市場では依然としてボラティリティ低下傾向が続いている。NYダウのボラティリティ(21日営業日ベース)は依然として6%台という極めて低い水準を保っている。NYダウのボラティリティが10%未満で推移しているのはもう55営業日に達している。政治面での不透明要因が金融市場に適当なお湿りとなり、極端なポジションの偏りを抑える構図が続いているようだ。

日経平均の先週末のボラティリティは16.7%と、過去平均(約20%)を下回っているが、世界の主要国では最も高い水準にある。先週末時点で日本のボラティリティを上回っているのはロシア(17.3%)とブラジル(16.9%)くらいで、香港では6営業日、上海では24営業日連続でボラティリティが10%未満で推移している。

常識的にはボラティリティが買われてもおかしくない状況といえるが、予想以上長期間ボラティリティが低迷していることもあり、ボラティリティのポジションも貯まりにくくなっているようだ。

緊張感が高まってきたトランプ政権とFRBの対立

こうした市場に転機ももたらす要因になりそうなのは、トランプ大統領が2、3週間以内に発表するとした「驚異的な税制改革」の中身と、FRBの金融政策になりそうだ。

2月5日にトランプ大統領が金融規制緩和の検討を命じる大統領令に署名してから、トランプ政権とFRBの間の緊張感は高まってきている。9日にはトランプ大統領の目指す金融規制緩和に反対するタルーロFRB理事が辞意を表明(実際の退任は4月5日前後の見込み)した。

その4日後の13日には上院がムニューチン財務長官を承認。トランプ大統領が進める「驚異的な税制改革」や金融規制緩和が「Plan」から「Do」の段階に入ることになった。

政治的独立を担保されているFRBだが、現在空席となっている2名にタルーロFRB理事を加えて3名の空席理事の任命権はトランプ大統領が持っており、今後FRBのパワーバランスが金融緩和方向に変わっていく可能性は十分に考えられること。

こうした情勢の中で金融規制強化を目指す現行のFRBがやれることは、パワーバランスが崩れる前に少しでも政策的に金融機関が過大なリスクを取れない状況にしておくことだ。

Next: 「トランプによるバブル醸成 vs. イエレンのバブル潰し」という戦い



トランプによるバブル醸成 vs. イエレンのバブル潰し

トランプ政権とFRBの間に微妙な空気感が漂う中で行われたイエレンFRB議長の議会証言は興味深いものだった。

まず、金融緩和の縮小を遅らせることについては「FOMCが急速な利上げを求められ、させられ、景気を後退させるリスクになる可能性があるため、待ちすぎは賢明ではない」と、これまで繰り返してきた「behind the curve」のリスクに言及し、改めて利上げを含む金融引き締め段階であることを印象付けた。

さらに、今回の議会証言で印象的だったことは、「FRBのバランスシートの規模は最終的には現時点よりもかなり小さくなる」としたほか、「段階的に償還資金の再投資を停止し、米国債が中心の構成になることが望ましい」との考えを示したところ。この点は、日本のメディアはほとんど報じていない。

現在FRBは米国債2兆4600億ドルとMBS1兆7400億ドル、計4兆ドル以上の債券を保有しており、償還分は再投資し保有残高を減らさない政策をとっている。

こうしたなかでイエレン議長が「米国債が中心の構成」が望ましいと発言したことは、MBSの再投資廃止を視野に入れていることを示唆するもの。折しもS&Pケースシラー住宅価格指数(主要20都市)はリーマン・ショック前、2007年の水準に達してきているうえ、住宅着工許可件数も市場予想を上回ってきている。

また、トランプ大統領の主要政策であるインフラ投資に対する期待が高まれば、一気に不動産価格が上昇してしまう可能性がある。さらにその過程で金融規制が緩和されればバブルを醸成する条件が揃ってしまうことになる。

それを食い止めるために、FRBがMBSの再投資の廃止に動くというのは理に適っている。利上げ一辺倒でなく、MBSの再投資廃止の方がドル高圧力を高めることがないと思われるうえ、不動産価格に直接働きかけられるからだ。さらには、こうした「behind the curve」のリスクを軽減する措置が、金融市場の混乱を招かないものだとイエレン議長自身と考えていることも、MBSの再投資廃止を後押しするものだ。

トランプから何が飛び出すか?今月28日に要注意

今月28日にはトランプ大統領による予算教書演説に代わる議会証言が行われる予定になっている。「驚異的な税制改革」発言から20日後に当たることもあり、この議会証言でその実態が少し見えてくるはずだ。

具体的な姿がどのようなものであるかが分かってくるということは、投資家が抱く漠然とした希望と不安が具体的なものに変わるのと同時に、FRBが今後どのような対応をするかの判断材料も揃ってくることでもある。

トランプ政権とFRBは「金融規制緩和」と「財政」の両面で対立する構図になっている。この対立はトランプ大統領の議会証言を境にして「Do」の段階に入ってくる可能性が高いことを投資家は念頭に置いておくべきだろう。

6%のボラティリティが一段と低下するよりも、上昇する可能性の方が高いことは間違いないのだから。
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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2017年2月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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