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哀しき兄・金正男はなぜ異国の地で殺害されなければならなかったのか?

殺害された金正男氏は、北朝鮮トップの世襲体制を批判していて、遠く母国を離れた先で、「自分が北朝鮮のトップだったらもっとよい国になっている」と主張していました。(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2017年2月20日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

金正男氏殺害と中国共産党、そしてトランプ米大統領の関係とは?

殺人の「新手法」

世紀の兄弟ゲンカ?そんな単純な話ではないようですね。今回、マレーシアのクアラルンプール国際空港のLCCターミナルで起きた金正男(キム・ジョンナム)氏暗殺事件では、VXガスが使われたと言われています。これは最強の神経剤と呼ばれ、かつてのオウム真理教も使用したものです。

北朝鮮が、金正男氏を殺害した犯人の引渡しよりも遺体の引渡しを急いでいることから、北朝鮮側の犯行が疑われています。

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殺害方法は、いろいろなところで検証、報道されていますが、もともと共産圏では毒針等での暗殺が伝統的な手法のようです。ちなみに、同じ諜報機関としてアメリカにはCIAがありますが、そこでの女性採用面接ではハニートラップのロールプレイという実技試験があるそうですよ。

さて、今回の事件では、まったくの第三者に本当の意図を伝えないまま、「イタズラ動画撮影」に協力させるという体で金正男氏の殺害が実行されました。実行犯を捕まえても事件の全容はまったくわからない状況で、肝心の首謀者はすでに逃亡しているという、まさに新手の殺人と言えそうです。

金正男が疎まれた理由

この金正男氏死亡のニュース、第一報は韓国メディアでした。第一報を知らせた『News Digest』は、金正男氏死亡を北朝鮮の暗殺によるものと報じた直後、サイトがアクセス不能に。その瞬間、これはただごとではないと感じると同時に、いま流行の偽ニュースかとも思いました。NHKが金正男氏死亡を報じたのは、かなり時間が経ってからでしたね。日本のメディアは遅い…。

金正男氏は、北朝鮮トップの金正恩(キム・ジョンウン)委員長とは異母兄弟。いまの母親の実子としては金正恩委員長のがいますが、兄のほうは政治には無関心で音楽に興じていて、また妹は側近として可愛がっているようです。金正恩委員長は、兄と妹を手元において監視しているわけです。

いっぽう殺害された金正男氏は、国家トップの世襲体制を批判していて、北朝鮮を離れた先で、自分が北朝鮮のトップだったらもっとよい国になっていると主張していました。一説には、この金正男氏を通じて、北朝鮮の機密情報が外部に漏れていたとも言われています。

金正恩委員長は、かねてから「思想は遺伝しない」と言っていたようで、金正男氏の考え方を危険視していたのかもしれません。

金正男と北朝鮮クーデター計画

殺害された金正男氏がこういった思想の持ち主で、さらに金正日(キム・ジョンイル)前委員長の息子となれば、当然、彼という御輿を担ぎ上げようという動きも出てきます。イギリスの脱北団体が、反北朝鮮体制の旗印として金正男氏を担ぎ上げる動きをしていたとの話もあります。

事の真相はともかく、こういう話が出てくること自体が問題であり、それに金一族が関わっていることが事の重大さを高めたのでしょう。北朝鮮にとっては、金正男氏はまさに「目の上のこぶ」だったに違いありません。

北朝鮮内ではかつて、政権転覆のクーデター計画があったとされます。2013年当時、北朝鮮ナンバー2と言われた張成沢(チャン・ソンテク)氏が「セクト行為」で処刑されました。北朝鮮において「セクト行為」とは、金氏一家の支配に反対する行為を意味する言葉です。

張成沢氏は金正恩委員長の叔父にあたる人で、いまは亡き父親の金正日前委員長にも長く仕えた人でしたから、まさに血の粛清と言えます。

張成沢氏は、中国の大物幹部である周永康氏とともに、金正恩体制に対するクーデターを画策し、金正男氏を新政権内に送りこもうとしたようです。ところが周永康氏が北朝鮮を訪問した際に、金正恩委員長にクーデター計画を密告したことで、張成沢氏の処刑に至ったとされています。その周永康氏は、習近平政権の反腐敗運動により無期懲役に処せられました。

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トランプ関与も?誰が金正男氏を「殺す」と決めたのか

さらに、金正男氏が韓国に亡命するといった報道もありました。北朝鮮トップの異母兄が韓国亡命となればシャレにならないでしょう。はたまた、金正男氏が付き合っている彼女が韓国人だという噂も…。

その金正男氏は、金正恩委員長に助命嘆願をしていたようで、家族には手を出すなと言っていたようです。金正男氏の長男はフランスに留学中、ちょうど親子でマレーシアで落ち合う予定だったとか。

中国国内では、金正男氏は厳重に守られていました。常に中国当局の身辺警護があったようです。中国で金正男氏を殺させるわけにはいかないですからね、ところが国外まではそのような警護の手が及びません。

いみじくもトランプ新政権が誕生し、アメリカではアジア外交についての見直しが行われ、北朝鮮への態度もオバマ前政権とは異なる方向に動きつつありました。その間隙を縫って、今回の殺害に至ったのではないかとの見方もあります。

また韓国では近々、大統領選挙がありそうで、その前に「片をつけたい」という事情があったという見方もあります。

先日、トランプ大統領経営のレストランでトランプ氏と安倍総理が会食中、北朝鮮がミサイルを発射する事件がありましたね。その知らせを聞いた直後の両首脳の様子がネットに流れて(ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にその写真が載っています)、トップシークレットも何もあったもんじゃないとか、自分のレストランぐらい貸し切れよ、トランプは意外とケチだな…などの意見が飛び交いましたが、その後、両首脳の北朝鮮への声明の温度差が露呈すると、新しいアメリカの対北朝鮮戦略はやる気がないのでは?とも報じられているのです。

殺害された金正男氏は中国と近しく、北朝鮮の世襲体制を批判し、解放路線を支持していましたから、担ぎ上げられる御輿は今のうちに処分しておこう…と考える向きがあってもおかしくありません。もしそこに、金正恩政権維持という方針があるとするならば、血縁ほど厄介な存在はない…という何かしらの「深謀遠慮」があったとも考えられそうです。
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・「イエレンvsトランプ、マーケットは政権運営発表待ち…」(2/20)
目次
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  ・イエレンvsトランプ、マーケットは政権運営発表待ち…
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らぽーる・マガジン』(2017年2月20日号)より一部抜粋
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