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転換点に気づかない2018年株式市場の死角。本当に明日も今日は続くのか=近藤駿介

現在の金融市場は、この1年間続いたトランプラリーが2018年も続く前提で動いている。だが「2018年は2017年までの延長線上にある」という思い込みは危険だ。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

安心しきった市場自体がリスク、米国は大転換点を迎えつつある

NYダウ、24,000ドル超えで史上最高値を更新

感謝祭が終わり、様々なものが動き出した。

米国では上院でも税制改革法案が成立し、週明けから両院協議会において上下両院で異なる法案の一本化作業が行われることになる。上下両院の案は減税実施時期の違いがあるが、法人税率を20%に引き下げることにおいては一致しており、株式市場はこれを好感し、NYダウは一気に24,000ドル台に乗せて史上最高値を更新した。

米国株を大きく押し上げた要因の1つは、今回の税制改革案での注目点である米企業の海外子会社からの配当課税を原則廃止する「レパトリ減税」である。これによって米国企業が海外にため込んだ2.5兆ドル(約280兆円)の資金が米国に還流し、「米企業のM&A(合併・買収)や設備投資が活発になりそうだ」という期待が膨らんだことである。

しかし、こうした見方は楽観的すぎるかもしれない。

ブッシュ政権下の「レパトリ減税」とは異なる事情

株式市場が「レパトリ減税」を歓迎する要因の1つになっているのは、2005年にブッシュ大統領時代に実施された「レパトリ減税」が「ドル高、株高」をもたらした前例があることである。

確かに「レパトリ減税」は資金の米国回帰を促す政策になる。しかし、ブッシュ政権下の「レパトリ減税」は2005年1年間の時限立法として実施されたものであるのに対して、今回は恒久減税になることには注意が必要である。「レパトリ減税」が1年間の時限立法であればその年に資金を還流させるインセンティブは高まるが、恒久減税となれば企業にとって都合のいい時期に還流させればいいことになる。

米国企業の海外に貯めこんだ資金は2005年当時の1兆ドルから2.5倍の2.5兆ドルに増えていると見られているが、為替市場の規模も拡大しており、2005年の再来が起きるかは定かではない

問題は、米国内に戻ってきた海外資金の投資先

基本的な問題は、米国に資金を還流させてまで投資すべき有望な投資先が存在するのかということである。米国企業が海外に貯めこんだ資金が2005年当時の約1兆ドルから2.5兆ドルにまで膨れ上がったのは、海外に収益機会が多かったことの証左でもある。

実際に2005年に「レパトリ減税」が実施された際には、留保されていた約1兆ドルの資金の3分の1に相当する3,600億ドルが米国に還流したとされている。しかし、米国に還流した資金の多くは増配自社株買いに利用され、米国内での投資や雇用拡大にはあまり影響を及ぼさなかったと言われている。

2005年当時の米国株式市場のPERは、FRBが利上げに動く中で15倍前後まで低下傾向を示していた局面であったのに対して、足元の予想PERは18倍と25年間の平均16倍を上回る水準まで上昇して来ている。こうしたPERの傾向が正反対だといえる中で、米国企業経営者の多くが自社株は割安であるという判断し、一斉に「レパトリ減税」を利用して自社株買いを実施に動くだろうか。

株価が割安とは言えない状況にあるということは、M&Aにおいても同様である。従って、「レパトリ減税」が期待する効果を生むためには、米国内でのビジネス機会が増えることが重要であり、その点において「1兆ドルのインフラ投資」の行方が鍵となってくるといえる。

Next: 「2018年は2017年までの延長線上にある」という危険な思い込み



トランプの命取りに?動き出した「政治問題」

感謝祭明けと共に動き出したのは税制改革法案だけではない。ロシアゲート事件北朝鮮問題やそれに伴うティラーソン国務長官の問題など政治問題も動き出した。

ロシアゲート事件はフリン前大統領補佐官が司法取引に応じて偽証を認めたことで新たな次元に突入し、娘婿であるクシュナー上級顧問など大統領の身内に捜査の手が及びかねない状況になっている。

また、北朝鮮問題を巡ってティラーソン国務長官の進退問題が取りざたされるようになってきているが、ティラーソン国務長官は就任当初からロシアとの関係が問題視されてきた人物でもある。トランプ大統領が推し進める北朝鮮への圧力が思うような効果を挙げていない1つの原因がロシアの存在だということを考えると、「ロシア」がこの先のキーワードになるのかもしれない。

税制改革法案という政権の目玉政策が実現に向けての最終段階に入るのと同時に、政権そのものがロシアゲート事件等で揺さぶられ始めている。この数か月はFRBの次期議長人事や税制改革法案の行方などが市場の大きなテーマになってきたが、感謝祭を過ぎて政治が大きなテーマになりつつある変化にも注意が必要だ。

「イエレン路線継続」を信じて疑わない市場の危うさ

また、トランプ米大統領は空席になっているFRB理事にイエレン議長率いる米金融当局に批判的な意見を持っていたとされる人物でもある著名エコノミストのマービン・グッドフレンド氏を指名した。

メディアは同氏が「タカ派」であるのか「ハト派」であるのかについて決めあぐねているようだ。それは、イエレンFRB議長の低金利政策を批判する「タカ派」的発言をする一方で、マイナス金利政策の効果を認めるなど「ハト派」の顔ものぞかせるからである

しかし、重要なことはグッドフレンド理事候補が「タカ派」か「ハト派」であるかということではなく、グッドフレンド氏は金融当局が「テーラー・ルール」などの金融政策ルールを用いて政策決定を公に評価すべきだという主張をするなど、「イエレンFRB議長とは異なった考え方を持っている」ということである。

市場ではパウエル理事が次期議長に就任することが決まったことで「金融政策はイエレンFRBから変わらない」と安心しきっており、FOMCの構成は2018年から大きく変わることを軽視し過ぎている感は否めない。金融政策に関しての最大のリスクは、「2018年のFRBは2017年までのFRBの延長線上にある」ことだといえる状況になっている。

Next: まもなくトランプ政権誕生1周年、大転換点が近づいている



まもなくトランプ政権誕生1周年

感謝祭を過ぎ、トランプ政権誕生1年に向けて、政治的にも経済的にも大きな転換点を迎えそうな気配が漂ってきている。

【関連】中国が恐れるトランプの経済侵略と北朝鮮「北京核テロ」の脅威=斎藤満

それにも関わらず、金融市場、特に日本の株式市場は、この1年間続いたトランプラリーが2018年も続く前提で動いている。NY株式市場のヒストリカルボラティリティとVix指数は、北朝鮮リスクが高まった9月上旬の水準まで上昇してきている。しかし、日本株式市場のボラティリティもVix指数も依然として低いままであり、米国市場よりも起こり得る変化に対して、備えが不十分な状況にある。

この先のリスクは、「2018年は2017年の延長線上にある」という思い込みとなる可能性が高い。

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・2018年は2017年の延長線上にある?(12/4)

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11月配信分
・狭まる「長短金利差」と広がる「日米政策格差」(11/27)
・変化した海外投資家動向と、変化しないイールドカーブフラットニング化(11/20)
・トランプラリー1年 ~「期待」から「現実」へ(11/13)
・転換点を迎えた金融政策 ~「出口論」を強いられる異次元の金融緩和(11/9)
・パウエル新FRB議長決定 ~ 消えた不透明感と湧き出た不透明感(11/6)

10月配信分
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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2017年12月4日)より
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