いま、価格の安さから「サバ缶」がよく売れています。しかし、「いざなぎ景気超え」の好景気とも言われるなか、なぜ低価格の商品が人気なのでしょうか。
庶民のための好景気はいつ来たる?消費増税が固くする財布のヒモ
サバ缶「好調」の謎
今、サバの缶詰の売上が好調です。しかも売れ筋は特別な缶詰ではなく、スーパーやコンビニで普通に売られている100~200円前後の価格帯が中心。どこにでもある庶民の定番、あの安い「サバ缶」だそうです。
「いざなぎ景気超え」の好景気とも言われる現在の日本では、サバ缶ではなく高価格帯のカニ缶や、缶詰以外の高級な食材などの売上が上がってもよいはず。それなのになぜ、「安さ」が魅力のサバ缶が人気化しているのでしょうか。
サバの缶詰が売れている。高い栄養価に加え、原料が水揚げ、価格ともに安定しているのが背景だ。日本水産をはじめ大手の売上高は前年を3~5割上回る。年内には売上高がカツオ缶を抜き、魚介系缶詰で2位に浮上しそうな勢いだ。
極洋は味噌煮などサバ缶の4~10月の売上高が前年同期に比べて5割伸びた。日本水産も1~10月のサバ缶の売上高は前年を3割上回った。10月のサバ缶の市場規模は前年に比べて6割増えた。
なぜいま、安いサバ缶がウケるのか
サバの缶詰というと水煮やみそ煮を思い浮かべる方は多いと思いますが、中にはオイル漬けのタイプも売られています。スーパーやコンビニの缶詰売り場には、ほぼ365日、定番商品として陳列されている食品です。缶詰は開ければそのまますぐに食べられるので、ほとんど手間がかかりません。保存も効いて、いくつか買っておくといつでも食べられます。
また最近は、サバ缶を使ったレシピがインターネットで広まり、いろいろなアレンジが話題になっています。缶詰をそのまま食べるのではなく、煮物や炒め物に食材として加えたり、パスタやリゾットに添えたりと、「ツナ缶」のように利用の幅が広がっているのです。さらに、ダイエット食品としても注目されているようです。
このように家庭での出番が増えたことも人気の要因ではありますが、しかし何と言っても、サバ缶の特筆すべき一番の特徴は「価格の安さ」ではないでしょうか? 実はいま識者の間では、低価格の食事が人気を集めている背景に「日本の貧困化」が絡んでいる可能性が指摘されています。
たとえば先頃大きく報道された、ラーメンチェーン「幸楽苑」の大量閉店問題。一般の報道では、人件費の高騰や材料高が原因とされていますが、その本当の原因は、日本のデフレ化がさらに進み、庶民が食事に使える金額がさらに低くなっていることにあるのではないかという見方です。
ラーメンチェーンの「幸楽苑」が52店舗の大量閉店を発表しました。これまではデフレ下で出店を加速させてきた幸楽苑。メニューは400円台から500円台が中心です。
メディアでの解説は、人件費の上昇や原料高による採算の悪化というものがほとんどです。が、果たして本当にそうでしょうか?
今回の大量閉店は、幸楽苑の低価格帯ですら売上を確保できないことを意味します。人件費が少々上昇しても、原料費が高くなっても、売上が伴えば問題はないはずです。これは、日本におけるデフレのゾーンがさらに低価格へと移行した可能性を示しています。
低価格を売りにしていた幸楽苑でさえも、いまの日本社会では相対的に値段が高く、お客さんが離れているとしています。
これが事実だとすれば、安いサバ缶がよく売れていることと、幸楽苑が大量閉店に追い込まれた原因には、共通の背景があるのかもしれません。
Next: サバ缶人気と「いざなぎ景気超え」どちらが本当の日本なのか?
「いざなぎ超え」は大本営発表なのか?
ところがいま、政府や大手メディアは「景気拡大」「いざなぎ景気超え」という言葉で好況をアピールしています。「いざなぎ景気」といえば、カラーテレビや自動車で消費ブームが起きた、1960年代の高度経済成長期に4年以上に渡って続いた好景気のこと。いざなぎ景気超えで好況に沸く日本と、幸楽苑が潰れてサバに殺到する日本。果たして、本当の日本はどちらなのでしょうか。
評論家で国士舘大学客員教授の小浜逸郎さんは、政府による「好景気」の発表は見せかけであるとして「大本営発表も真っ青」と発言しています。
驚くべきことがあるものです。6月15日、内閣府が、景気の拡大や後退を判断する「景気動向指数研究会」なるものを、約2年ぶりに開きました。座長はあの悪名高き吉川洋・東大名誉教授です。
その報告によりますと、安倍政権が発足した2012年12月から今年4月までの拡大期間が53カ月で、バブル景気の51か月を抜き、このまま9月まで続けば昭和40年代の「いざなぎ景気」を抜いて、戦後2番目の好景気となるそうです!(産経新聞6月16日付)
なかでもビックリなのは、この研究会の記者会見で、消費増税を行った2014年でも景気が後退しなかったと発表していることです。このいけしゃあしゃあぶりは、かの「大本営発表」も真っ青です。
そう考えると、「好景気が実感できない」「インフレどころか、むしろデフレが進んでいる」という声が少なくないのも、仕方のないことでしょう。そして、さらに気になる動きがあります。
Next: 確実に景気を冷やす10%消費税。アベノミクス大増税が追い打ちをかける
確実に景気を冷やす10%消費税
とくに気になるのは、庶民の生活がなかなか改善しないなか、確実に景気を冷やすであろう消費増税が行われること。さらに、配偶者控除の見直しやタバコ税、酒税、出国税なども計画されていて、庶民の生活はさらに苦しくなることが予想されていることです。
内閣官房参与で京都大学大学院工学研究科教授の藤井聡さんは、次に予定されている10%への消費増引き上げについて、今までとは比較にならないほどの消費低迷効果が出ると警告しています。
「心理学」を規準に考えれば、今回の10%増税の方が、遙かに大きなインパクトを持つことが理論的に予想されるのです。
なぜなら、「10%」になれば消費税分の計算が著しく簡単になり、消費税の「心理的負担感」が格段に大きくなることが危惧されるからです。
まず、3%や8%等の場合には、消費税の金額の計算は少々「ヤヤコシイ」ため、面倒くさいから「消費税分は切り捨ててゼロだ」と見なして買い物をしていた人が少なからず居られたはずです。そういうケースにおいては当然、消費税が課せられていても、買い控え効果はあまり生じません(注:心理学では認知的負荷が多い場合は、情報処理の合理性が低下することが知られています)。
ところが10%になればそういうケースはほとんど考えられなくなります。「価格の1割」という計算は、著しく簡単だからです。そうなれば、計算のヤヤコシサゆえに今まで消費税分を十分に考えてこなかった消費者たちも皆一斉に、消費税分の計算を始めることになります(つまり、認知的負荷が激減するので、消費者行動の合理性が跳ね上がるのです)。
結果、「10%増税」は、これまでとは比較にならないくらい大きなインパクトを消費者に与え、消費が激しく縮退してしまうことが危惧されるのです。
2017年は、株高や雇用状況の改善など、一見明るいニュースが飛び交った1年でした。しかし、生活が改善している実感がある人とない人で、さらにその差が広がったようにも見受けられます。来る2018年は、庶民の実感を伴った「好景気」が日本にいつ訪れるのか、ますます注目されることになるのは間違いないでしょう。
本記事はMONEY VOICE編集部による書き下ろしです(2017年12月26日)
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