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微笑み外交で時間を稼ぐ北朝鮮、米国の振り上げた拳は中東へ=斎藤満

平昌五輪を利用して朝鮮半島では南北融和ムードが高まっていますが、その裏で中東情勢は緊迫化しています。その勢力図と背後にある米露対立について解説します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年2月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

さすがに「二正面作戦」はできない米国。狙いは中東に向けられた

半島リスクは後退か

平和の祭典「オリンピック」を利用して朝鮮半島では南北対話のムードが高まっています。

オリンピック後に米韓合同軍事演習が行われるかどうかも微妙になっています。表向き韓国のムン・ジェイン大統領が働きかけたように見られていますが、一部には北の方から働きかけがあったと言われています。

そうであれば、北は「未知数」ではなくなり、むしろ米国がカードを握ることになります。

その米国では、イヴァンカ女史が閉会式に参加するかどうかが取りざたされています。閉会式に出なければ「米国が軍事介入に出る可能性を示唆するもの」との見方もありますが、韓国は軍事演習には消極的で、米国もあまり強引には出られないと思われます。

ひところに比べ、朝鮮半島での「戦争リスク」はかなり後退したように見えます。

思い通りに動けない米国

米国が朝鮮半島で動かないと見られる1つの理由が、中東情勢の緊迫化です。ピョンチャン・オリンピックに世界の目が向いている間に、中東では様々な「火種」が生じています。

まず10日には、シリアを飛び立ったイランのドローン(無人機)がイスラエルの領空に入ったとして、イスラエルが戦闘用ヘリでこれを撃墜しました。

同じ日、イスラエル軍はシリア領内にあるイランの軍事施設などを空爆したと発表しています。シリアの首都ダマスカス周辺や中部のホムスにあるイランの軍事関連施設にも空爆しています。その際、空爆に参加したイスラエルのF16戦闘機が、シリア側に撃墜された模様で、同機はイスラエル北部に墜落したと言います。イスラエルの戦闘機が撃墜されたのは初めてだと言います。

これに先立って、2月3日にはアサド政権を支持するロシアのスホイ25戦闘機が、シリア北西部で撃墜されました。後に国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力がロケット砲で撃墜したと犯行声明を出しています。

この地域にはシリアの反体制派武装勢力が多数いて、ロシアはこの地域の空爆を続けていました。ロシア機が撃墜された報復で、ロシアの空爆が強化されています。

このうち、イスラエルによるシリアのイラン軍事施設の空爆には、ネタニヤフ首相の賄賂疑惑から目をそらす狙いもあった模様です。以前から首相の収賄疑惑はあったのですが、ここへきてイスラエルの左派勢力が、ネタニヤフ首相を逮捕するよう動き始めました。

これはトランプ政権にとっても誤算で打撃となりますが、イスラエル左派のうしろには、米国のある勢力も絡んでいるといいます。

Next: なぜ米国は北朝鮮を放っておくのか? 根底にある中東情勢の危機



トルコが鍵を握る? 中東の勢力図は

中東での勢力図は、シリアのアサド政権にイラン、ロシアがつき、これに対峙する形でイスラエル、米国がいて、さらにスンニ派のサウジがこのイスラエル、米国連合に協力しようとしています。

米国としては、このサウジに中東のスンニ派を中心に勢力を集めさせ、イランに対抗させようとしています。その際に、ムハンマド皇太子が利用されています。

さらに、かつての軍事大国トルコが米露とともにシリアで軍事作戦を展開しています。このトルコの存在が両勢力のバランスに微妙な影響を与えるので、米露両国がともにトルコを取り込もうとしています

トルコはかつてロシアの民間航空機を撃墜してしまい、ロシアとの関係が悪化したのですが、エルドアン大統領がプーチン大統領に謝罪し、関係改善を図りました。

そのトルコは、米国が支援するクルド人民兵勢力と闘い、その点で米国と対峙する形になっていました。そこへ米国のティラーソン国務長官が15日、トルコのアンカラを訪問、エルドアン大統領と3時間以上にわたる会談を行いました。米国政府高官によると「率直で生産的」な会合だったと言います。その後、CNNは、トルコとシリアとの間に緊張が高まったと報じています。

「中東」を優先する米国

米国はさすがに「二正面作戦」は厳しく、北朝鮮かイランかどちらかを選ぶ必要があります。もともと北よりもイラン攻撃を優先していたのですが、北朝鮮の核ミサイル開発が急ピッチで、米国にも近いうちに本土を狙われる脅威となると考えられるようになったことから、にわかに北が焦点となっていました。

しかし、北が韓国に融和姿勢を見せているだけに、当面はイランに注力できる形となりました。

もっとも、米国が直接イランに攻撃を仕掛ければ、ロシアとの戦争にもなりかねません。米国もロシアも互いに戦うつもりはないはずです。

最後はイスラエルにアラブの米国支援勢力を携えて、彼らにイランを攻撃させる形になると見られます。今はその前哨戦とも言うべく、シリア領内のイラン軍事施設をイスラエルが攻撃する形になっています。

Next: 中東情勢は一触即発。世界大戦の引き金になる可能性も



小さな事件が世界大戦の引き金になる

またトランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と認め、米国大使館をそこへ移すと言ったために、中東内の反米勢力を刺激し、パレスチナもイスラエルと戦闘を繰り返しています。

これらにヒズボラ、さらにトルコが加わると、中東の戦火は一気に広がります。米国は軍事予算を拡大し、武器の増産を図っています。

米国のネオコン勢が背後から刺激し、イスラエルの肩入れをすると、イスラエル、イランの直接戦争になりかねません。

中東は朝鮮半島での「プロレス・ショー」のようにはいきません。ちょっとした事件が世界大戦の引き金になることもあります。

北朝鮮よりも中東に火の手が回るリスクが高まってきました。

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image by:Wikimedia Commons

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年2月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2018年2月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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