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米利上げ3回に暗雲。海外投資家は「改ざん国家」をどう見るか?=近藤駿介

多くの投資家が「ゴルディロックス相場の再来」を夢見ているが、終焉を迎えつつあると言えるだろう。3回の利上げ実施も怪しく、地政学リスクも再熱している。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

ゴルディロックス相場は終焉へ。森友事件が招く投資家の日本離れ

平均時給の伸びは「経済統計の綾」だった

コーンNEC委員長辞任に続いて先週はティラーソン国務長官解任という衝撃のニュースが報じられたが、金融市場は総じて小動きの展開となった。米国株式市場を中心に、市場が上昇し過ぎたボラティリティの調整局面にあったという「市場の綾」が政治的悪材料の緩衝材になった格好。

その中で目に付いたのは長期金利がやや低下する形でイールドカーブがフラットニング化したことと、円高が進んだこと。

2月の雇用統計で、1月の前年比2.9%上昇(2月雇用統計発表時に2.8%に下方修正)という平均時給の急激な伸びが「統計の綾」であったことが明らかになったことで、金融市場で高まったインフレ懸念が払拭され、一時的に2.9%台半ばまで上昇した米国10年国債利回りは2.83%まで低下してきた。

その一方、20日、21日に開催されるFOMCでの利上げは確実視されており、金融政策の影響をより強く反映する2年国債利回りは2.295%と高止まりしている。それに伴い、1月の雇用統計発表直後には0.8%に近付いた10年国債と2年国債の利回り格差(イールドスプレッド)も、再び1月の雇用統計発表前の水準である0.53%台まで縮まって来た。

年内3回の利上げを正当化できるか?

市場のコンセンサス通りに今年中にあと3回の利上げが実施されるとしたら、年末のFFレートの誘導目標が2.00%~2.25%になることを考えると、2年国債の2.295%という利回りには今後も上昇圧力がかかり続ける可能性が高いといえる。

これに対して10年国債利回りは、平均時給の伸びが「経済統計の綾」であったことが示されたうえに、消費者物価指コア指数の伸びが市場予想通りだったこと、さらには小売売上高が市場予想より若干低かったことが加わり、インフレ期待が高まるきっかけを見失った状況に陥っており、上昇圧力がかかるか定かでない状況にある。

今週のFOMCでの利上げはほぼ確実な状況だが、焦点は今後経済指標によって年内3回の利上げを正当化できるかになってくる。

Next: 揺らぐパウエル議長の信認。「利上げできないかも」がリスクになる



FRB内にもある「利上げ慎重論」

昨年末に決まった税制改革によって雇用増や賃金増を表明する企業が増えてきている中で、それが統計として賃金増、そして物価上昇に繋がってくるかが問題だ。

税制改革という財政面からの追い風が吹き始めており、完全雇用状態の中でインフレ率が上昇してこないことをFRBがいつまでも「謎」として片付けることは難しくなって来ている。

特にパウエルFRB議長が就任時に今年の物価上昇に強い自信を示しただけに、物価上昇が確認できない状況が続けば説明責任を求める声が高まってくるはずである、FRB内には現時点でも利上げに慎重になるべきであるという「ハト派」の人間もいるので、納得いく説明ができなければ、エコノミストではないパウエル議長に対する信認がFRB内外から揺らいでくる事態も否定できない。

それは年内に後3回の利上げという利上げシナリオにも疑問符が投げかけられるということでもある。

「利上げできないかも」がリスクになる

金融市場は経済が堅調に推移していることもあり、リスクシナリオとして描いているのは今後の利上げペースが上がることになっている。しかし、平均時給の伸びが「経済統計の綾」だったことが確認された今、物価上昇がFRBの目標に近付かない状況が続けば、描くべきリスクシナリオが「今年中にあと3回の利上げできない」というものに変わってくる可能性も否定できない。

物価の安定」と「雇用の最大化」という「Dual Mandate(2つの責務)」を負っているFRBは、これまで雇用と物価上昇は正の相関関係にあることを前提に、「雇用の最大化」がほぼ実現したことで「物価の安定」も早い時期に実現するという論理で利上げを行ってきたし、市場もそれを受け入れて来た。

しかし、今後も賃金上昇率が緩慢で物価上昇率もFRBの目標を下回り続けるなど「雇用の最大化」と「物価の安定」の間に強い相関性が見られなくなってくるとしたら、FRBは「物価の安定」が実現しないのは、失業率4.1%の状況がまだ「完全雇用状態にない」からなのか、「雇用」と「物価」の間には想定したほどの強い相関がないからなのか、の説明を求められることになる。

FRBがどちらを選択したとしてもそれは論理の変更であり「利上げペースが加速する」という結論を導き出すのは難しくなる

1月の平均時給の大幅な伸びが「経済統計の綾」だったことを、市場は「ゴルディロックス相場(適温相場)の継続」と受け止め歓迎する姿勢を見せた。しかし、「経済統計の綾」だったことが明らかになったことで新しいリスクを意識せざるを得なくなって来ている。パウエルFRB議長の本音は「経済統計の綾」であって欲しくなかった、というところかもしれない。

Next: 「改ざん国家」の日本を海外投資家はどう見る?



「季節の綾」が招く円高

「株価急落を抜けたら、そこはまた『ゴルディロックス相場』が待っていた」という情景を描いていた日本の投資家の期待に水を差したのは円高である。週末のNY市場で円は一時105円の半ば近くまで上昇する局面もあった。

円がここに来てじり高傾向を見せているのは、3月末という年度末を控えていることが影響しているものと思われる。これまで「利上げを続けるFRB vs 出口論も封印して緩和路線を突き進む日銀」という構図がドル高・円安を招くという見方が支配的であり、為替ヘッジを急ぐ必要がないと思われていたことが裏目に出た格好。

こうした決算に向けての円高は「季節の綾」であり、この面での円高圧力はFOMCで利上げが実施されることが確実視されている今週でピークを付ける可能性は高い。

「改ざん国家」の日本を海外投資家はどう見る?

しかし、一難去ってまた一難。ここに来て明らかになって来たことは政治の不安定化である。それは、日米欧の先進国の政治が不安定化してきたのと同時に、中国とロシアでは政権基盤が強固になるというねじれ現象が起きていることである。

昨年の総選挙で圧勝し、秋の自民党総裁選挙での3選が確実視されていた安倍政権も、昨年来くすぶり続けていた森友問題が公文書偽造問題に発展し、対応を間違えたら政権が維持できなくなる窮地に追い込まれている。

安倍政権の不安定化は、安倍政権が後ろ盾になっている日銀の金融緩和継続という方針にも影を投げかけるものである。安倍政権が高い支持率を維持して「一強体制」を維持している間は「出口論」も「批判」も封印できるが、「一強体制」が崩れてくればそれらを封印し続けることは難しくなる。何しろ、5年間効果を発揮しなかった政策を継続するのだから。

さらに、公文書が改ざんされていたことが明らかになり、わずかな期間に日本は企業の財務諸表から実験データ、そして重要政策を決める際の経済統計、さらには公文書まで平気で改ざんする「改ざん国家」であることを露呈してしまった。

「季節の綾」である円高圧力は今週でピークを付けるかもしれないが、海外の投資家の目に安倍一強体制が崩れて政治的安定が消えた「改ざん国家」が魅力的に映るかは疑わしい限りである。

3月末は投資家のアセットアロケーションに微調整が加えられる時期でもあるが、「海外投資家」が1月第2週から3月第1週まで9週連続で日本株を売り越していることや政治の不安定さが高まっていることから考えると、第2四半期に「海外投資家」が日本株の投資比率を引上げる決定をするとは考え難い状況にある。

Next: 地政学リスクが再熱か。「ちょうど良い」具合の相場はもう来ない



「米朝協議」もリスクの1つ

対話重視路線であったティラーソン国務長官が解任され、トランプ大統領に近く「タカ派」のポンペオCIA長官が新たに国務長官に就く。このことも、米朝協議開催の不確実さを増すと共に、実現した場合に後戻りできない決裂を招く可能性も秘めている。つまり、「地政学リスク」の再燃を警戒させるものでもある。

投資家が念頭に置いておくべきことは、多くの投資家が「ゴルディロックス相場の再来」を夢見る中、日米欧の先進国で政治的リスクが増す一方で、欧米の中央銀行は金融緩和の出口に向かっており、政治と経済の「ゴルディロックス」は終焉を迎えつつあるということだ。

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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年3月19日号)より抜粋
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