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大富豪のサウジ王子たちがホテルに監禁。死者まで出した汚職摘発の真相

サウジアラビアの宮廷革命劇の一幕であったリッツ・カールトンホテルでの監禁・拷問事件について、その内幕と背景を海外の報道を翻訳しながら解説したい。(『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』)

※本記事は、『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』2018年3月23日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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狙いは「前国王の資産」全部。犠牲になるのは相続した王子たち…

サウジアラビアで起きた宮廷革命劇

犠牲者になるのはいつも部下で、親分どもは生き残る。「それは当たり前」と親分どもは平気の平左。まさに近くでもよく見聞きする光景である。

サウジアラビアの宮廷革命劇の一幕であったリッツ・カールトンホテル監獄の内幕・背景などについて、海外の報道を翻訳しながら解説する。

監視され続けるサウジアラビアの王子たち

サウジアラビア経済界の巨頭であったビジネスマンたちは、今や足首に電子追跡装置を装着されて、日々の行動を監視される状態で暮らしている。

サウジアラビア軍を統率していた王子たち、月刊誌の表紙を飾った王子たちは、今や護衛隊によって監視されているのだ。

世界中を私用ジェットで飛び回っていた一族たちは、自分自身の銀行口座に近づくこともできず、妻や子供たちも旅行が禁止されている。

リッツ・カールトンホテルでの監禁と拷問

昨年11月、サウジアラビア政府は数百人の大物ビジネスマン(その多くはサウジアラビア王家)を首都リヤドのリッツ・カールトンホテルに「腐敗撲滅キャンペーン」という名目で監禁した。

現在ではそのほとんどが釈放されたとはいえ自由と呼べる状態ではなく、彼らは毎日を恐怖におののきながら暮らしているようだ。

複数の証言によれば、その数ヶ月にわたる拘束で「拷問」を受けたようである。少なくとも17人が拷問で病院に搬送され、目撃者によると内1人は首の骨が折れて死亡。その遺体は内出血で腫れ上がっていたとのことである。

3月11日サウジアラビア政府がNYタイムズへ送った電子メールでは、「拷問」は全くの嘘であると否定している。

Next: 釈放条件は「資産押収」。背景は政権闘争にある



政府に資産を取り上げられる王族たち

リッツカールトンホテルからの釈放条件は、拘束者たちの保有する資産、現金、所有不動産、保有する会社群の株式などを政府に渡すことだった。

しかし、サウジアラビア政府は今のところは資産押収を完了しておらず、中途半端な状態のままである。

ある釈放された人物の一人は、足首に追跡装置を装着され、所有企業は破産となり、本人は鬱状態に落ち込んでいるとのことである。

親戚の一人は「何でもかんでも署名をさせられたそうだ。自宅にいても、これが本当に自分の家なのかどうか判らないと言っている」と語っている。

私腹を肥やしてきた王族がターゲットとされているが…

多くの役人、王家の人々、親戚、顧問、友人にインタビューしたことで、拷問等の暗黒の弾圧によって「10億ドル単位の資産」が皇太子の管理下に移管されたことがわかってきた。

確かにサウジアラビアでは長い間「政治腐敗」が蔓延しており、今回拘束された経済界の大物は、以前より彼らの資産は国庫から盗んだものだと言われて来た人物たちばかりだった。

しかし、サウジアラビア政府は個人情報を盾に、個々人の罪状、また有罪だったのか無罪だったのかも明らかにしておらず、どのような判断基準で決めたのかもわからない状態である。

「腐敗を完全撲滅させる」と息巻く現国王と皇太子

2015年に死去したAbudullah前国王の3人の友人によれば、現Mohammed bin Salman皇太子とAbdullah前国王の王子たちとの間で摩擦が生じた結果、この権力闘争が起きたとのことである。

政府側は、この腐敗撲滅キャンペーンは透明性があると言っているが、実際には秘密裏に行われ、身柄解放の取引内容は公開されておらず、現在も禁足措置が続き、開放された拘束者は今なお報復を恐れ、自由に会話ができるような状態ではない。

サウジアラビア政府は「この腐敗の犯罪捜査はサウジアラビアの司法長官の指揮によってサウジアラビア法により行われ、調査対象となった被告は、法律顧問や弁護士と接見ができ、さらに治療も受けられた」と言明し、さらに司法長官の傘下に反腐敗検察局が創設され、Salman国王とMohammed皇太子は腐敗を完全撲滅させるために全力を投入すると語っている。

Next: 拘束された状況は? 世間には決して知らされない合意内容



1日で200人以上を逮捕拘束

Alwaleed bin Talal王子については、その拘束された状況がわかっている。

家族の知人の話によると11月4日未明、砂漠で寝ていたそうだ。そこへ王立裁判所から召喚命令が来て、首都リヤドに戻ったところ、彼の警護隊は武装解除され、携帯電話は押収されて、ホテルに監禁された。

その後の24時間、200人以上が逮捕拘束されたのだ。

この中には、前国王の息子であり国内治安等を担当する国家国家警備隊司令官 Mutaib bin Abdullaha王子や多くの王子たち、ビジネスマン、政府高官らが含まれている。

リッツ監獄ホテル内ではテレビは視聴でき、ルームサービスも頼むことができた。しかし、パソコンや携帯電話などは取り上げられたという。

当然、家族や親族はパニック状態となった。拘束された者たちが所有する企業の関係者は、先行きが見通せぬまま、営業を続けるための緊急計画を立てた。

拘束された者たちは、監視下の元で家族に短い電話をかけることができた。多くは弁護士との接見が許されなかったが、 有名な資産家Alwaleed王子は毎週、複数のマネージャーと会話ができたようだ。

1月までは誰とも接触ができなかったが、BBCが「牢獄のごとき狭い部屋に閉じ込められている」と報道したために、ホテル内でロイターの記者のインタビューが許された。

げっそりと痩せてヒゲが伸びたAlwaleed王子は、「丁寧な扱いで安心している。誤解があったが、今では誤解も解けた」と記者に語り、数時間後には釈放された。

しかし側近の話では、王子と政府の間にどのような合意がなされたのか、全くわからないそうだ。

眠らせずに署名を強要か

医者及び米国の役人の話によると、ホテル拘束の最初の段階では17人の拘束者が拷問による負傷で治療が必要となったようだ。

また親族の話では、拘束者は眠らせて貰えず、拷問で尋問し、無理矢理に書類に署名させたそうだ。

拷問があったという証拠はあまり多くは出てきていないが、欧米の政府二カ国は、その報告は信頼できるとしている。

拷問の例としては、サウジアラビアの軍人、Ali al-Qahtani少将が拘束中に死亡している。Ali al-Qahtani少将の遺体を見た目撃者は、遺体は首が折れて曲がっており、内出血の痣ができており、遺体は膨れ上がっていたそうで、拷問の痕があったと証言している。医者及び一般人の証言では、火傷の跡があったとも言っている。

Next: 「拷問報道は真っ赤は嘘」というサウジ政府。死者の公表もされていない…



サウジ政府「拷問報道は真っ赤は嘘」

しかしワシントンのサウジアラビア大使館の館員は、この件に関して電子メールで「腐敗撲滅キャンペーンで拷問があったとの報道はぜんぶ真っ赤な嘘だ」と反論している。

拷問によって死亡した人物はサウジアラビア国家護衛隊の隊長であり、本人は金持ちではないので、本来は腐敗撲滅キャンペーンのターゲットにはならないはずだ。

彼は前国王の息子で、首都リヤドの都知事であるTurki bin Abdullah王子の側近中の側近であったので、尋問者がTurki王子の情報を得るために拷問を加えたと考えられる。

Al-Qahtani隊長は11月に病院に搬送されて治療を受けたのだが、担当の医者は「殴られた形跡がある」と語っていた。

その後、少将は尋問のためにホテルに戻され、不思議なことに後日、陸軍病院で死亡したと報道された。

この少将の死亡に関して、サウジアラビア政府は一切発表をしていない

進まない資産押収。現金化には時間がかかる

ホテル拘束の目的は、資産没収に合意させることであったのは間違いない。

サウジアラビアの検察庁長官は、1月時点で資産総額106B$で合意に至ったと発表し、他の複数の高官は2018年末までにさらに13B$の現金を得るだろうと語っていた。

ところが、前述の2人以外の拘束者たちの資産押収は、どうもあまり上手く運んでいないようだ。

ほとんどの拘束者は、サウジアラビアの銀行に預けている現金が少なく、海外の金融機関に預けているからである。海外の資産の没収には、法的手続きに時間がかかるからである。

これまでのところ、多くの拘束者たちのサウジ国内の国際金融機関に預けている投資や、海外に置いている投資を没収した形跡は見られない。

拘束者の金融アドバイザーや知人の話では、政府が没収した資産は、サウジ国内の不動産や、国内企業の株式等だけに限られ、これを現金化するには何年もの長い時間が必要になるだろうとのことである。

Next: 現国王・皇太子が狙っている資産と真の目的とは?



狙いは「政敵の封じ込め」

結論を言えば、現国王、皇太子が狙っているのは前国王Abdullah国王の子孫が保有する資産なのだ。

前国王の王子たちは、現国王・皇太子の政敵なのだ。その影響力を削ぐには、資産をゼロにすることなのだ。

その中でもTurki王子は、2015年に首都リヤド知事の座から追われていた。Mutaib王子も2017年11月に国家防衛隊のトップから追放されている。

この2人を含め、前国王の皇太子たちはリッツ・カールトンホテル監獄に拘束されていた。

前国王の知人によると、前国王は百億ドル単位の資産をAbdullah財団に残している。その資金で数多くの経済プロジェクトに投資をし、王子たちの個人的なお小遣い的資金源にもなっていたのだ。

2015年、前国王死去後にこの財団は、遺族となった30人以上の子供たちに遺産の分配をしており、その金額は息子たちには340M$、娘たちには200M$を残している。

今回の弾圧・釈放身代金の取引に携わった関係者によると、現皇太子は、財団の資金は不法取得した資金であり、それは国家が取り戻すべきものだと考えているのだ。もちろん前国王の子供たちは、父親からの遺産であると考えているのだ。

財団の理事長はTurki王子で、側近のal-Qahtani隊長は拘束中に死亡している。そしてTurki王子は、今でも拘束されており、兄弟姉妹家族のほとんどは海外渡航禁止となっている。一部の家族は、ロンドン等の海外に居住しており、母国へ戻ることを怖れている。

本稿トップの写真は殺害されたal-Qahtani隊長である。今後も報道に注目したい。

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いつも感謝している高年の独り言(有料版)』(2018年3月23日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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