マネーボイス メニュー

金融緩和の出口戦略を担う「TPP11」で、日経平均は3万円を目指す=伊藤智洋

TPP11は金融緩和の出口戦略になり得ます。日本がグローバル市場を主導する立場で政策を実行できれば、日経平均は大きな調整を経て3万円を目指せるかもしれません。(『少額投資家のための売買戦略』伊藤智洋)

※本記事は有料メルマガ『少額投資家のための売買戦略』2018年4月8日号を一部抜粋・再構成したものです。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。今月配信済みバックナンバーや本記事で割愛した全文(ドル円、NYダウの今後のシナリオ)もすぐ読めます。

プロフィール:伊藤智洋(いとうとしひろ)
証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービス設立。株や商品先物への投資活動を通じて、テクニカル分析の有効性についての記事を執筆。MS-DOS時代からの徹底したデータ分析により、さまざまな投資対象の値動きの本質を暴く。『チャートの救急箱』(投資レーダー社)、『FX・株・先物チャートの新法則[パワートレンド編]』(東洋経済新報社)など著書多数。

来年までに1万8000円程度の調整を経て、日経平均は上昇を目指す

国益が優先されなかった日本の経済政策

本年の日経平均株価は、NYダウが上値を抑えられる動きに合わせて、下値を試す動きになると考えられます。

今回の下げは、2008年10月から始まる長期の上昇局面がいったん終了していることを示す動きだと考えられるので、日経平均が1万8,000円程度まで下げる可能性があります。今年、あるいは来年のどこかで、1万8,000円まで下げていると考えられます。

来年は、消費税が8%から10%へ引き上げられます。2020年以降、東京オリンピックへ向けた需要が一段落し、さらに、日銀が金融引き締めへ向けて模索することになります。

以前も当メールマガジンでは、米国が利上げを実施する際の政策について書きました。利上げを実施する際、市場の投機資金が収縮し、景気が落ち込むので、政策としてそれを回避するための戦略がありました。

どんなに開かれた市場だと言っても、米国の政策は、国益の優先順位が高いのです。

日本の場合、これまで、政策に国益が優先されてきませんでした。以前に紹介した通り、景気が完全に持ち直す前に、わざと景気の腰を折るかのように増税緊縮財政を実施してきました。これは、バブル崩壊後の株価の動きを見れば一目瞭然です。

今回も、国益を優先するなら、消費税の引き上げや、金融引き締めへ向けた動きへ入るのは、時間をかけるべきです。

しかし、日銀が大量の日本国債等を保有し続ける状況が不自然だからということで、早く出口戦略を市場へ提示すべきだという意見が後を絶ちません。

このままでは、日本がハイパーインフレになってしまうと考えている方も少なくなりません。

「TPP11」は金融緩和の出口戦略になる

早期の出口戦略を求めている方々は気が付いていませんが、米国抜きのTPP11は、金融緩和政策の出口戦略なのです。

TPP11により、日本は、金融緩和を継続していても強いインフレが起こらず、経済が飛躍的に拡大できる可能性を秘めています。

参照するのは、財務省と内閣府のホームページで見ることのできる『通貨の利用状況』と『対日直接投資推進に向けた取組の現状と課題』『財務省貿易統計』です。

『通貨の利用状況』の「日本の貿易取引に占める通貨別比率の推移」を見ると、円は1990年以降、輸出でも輸入でもほぼ横ばい、むしろ水準が切り下がっています。

『財務省貿易統計』を見ると、
1990年:輸出額は約41兆円、輸入額は約33兆円
2017年:輸出額は約78兆円、輸入額は約75兆円
となり、貿易額は増えています。

2000年以降、世界全体の貿易額が拡大する過程で、米国との貿易額の割合が減少しているにもかかわらず、ドル建て、円建て、その他の通貨建ての取引の割合がほとんど変わっていません

世界の外貨準備における通貨別割合を見ると、円の外貨準備高の割合は、横ばいから減少傾向となっています。

Next: 小国たちが大国に対抗できる手段がTPP。日本の立ち位置はどうなる?



TPP参加国間で起きた「自由競争」による問題点

TPPは、2005年6月3日にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドで「P4」として発足しました。小さな国が集まって戦略的に大国と交渉するために成立したものです。

その結果、関税をかけない自由競争による問題点が露呈しました。

具体的には、人口規模が小さい方、1人あたりのGDPが小さい方が、余剰生産力があり、価格競争力があるため、有利に働くということです。

その結果、人口規模が大きく、1人当たりのGDPが大きい方が、同じ分野で競争に負けてしまうという結果が明確にあらわれました。

以下は、おおまかなものなので、参考程度に見てください。

ニュージーランド:人口が多い、GDPが多い
シンガポール:人口が多い、GDPが多い
ブルネイ:人口が少ない、GDPが多い(石油がある、お金持ち)
チリ:人口が一番多い、GDPが少ない

他との比較で、チリが価格競争力の高い国になります。シンガポールとニュージーランドが食われる側ですが、シンガポールは機械組み立て、金融が中心であり、他と競合しません。

失業率      05   06   07   08   09   10   11
——————————————–
ニュージーランド 3.8  3.8  3.7  4.2  6.0  6.53  6.53
シンガポール   4.1  4.0  3.4  3.5  3.5  2.8  2.7
ブルネイ     3.7  2.7  2.2  2.2  3.0  2.8  2.0
チリ       9.3  7.9  7.0  7.8  10.8  8.2  7.1

失業率の推移を見ると、チリは、リーマンショック後の失業率の増加を「P4」での農産物の輸出拡大で抑えることができましたが、そのすべてがニュージーランドのマイナス分になっているように見えます。

おおまかにいえば、ニュージーランドとチリが農産物で食い合って、ニュージーランドの失業が増加したという結果になっています。

日本はどんな立ち位置になる?

TPP11の中では、日本の1人当たりのGDPが高く、人口も多い国です。農産物以外でも競合する品目が多く、さまざまな業種に影響を与える可能性があります。

それでも、日本が主導してTPP11を推し進めた理由は、独自のルールで身勝手な取引をしようとする中国をけん制し、将来、中国をどの国も共有できるルールの中に組み入れたいためです。

日本は、米国に変わり、他国に開かれた取引の場所を提供するのですから、当然、円建ての決済を増やしていくと考えられます。

2016年4月に作成された資料「対日直接投資推進に向けた取組の現状と課題」を見てください。

TPP関連政策として、日本は、グローバル・ハブ(貿易・投資の国際中核拠点)を目指し、対日直接投資を推進していくとしています。

最後のページには、対日直接投資の現状が出ていますが、GDP比での対日直接投資がほとんど増えていないことがわかります。

今後は、TPPを通じて日本が開かれた市場になり、直接投資を増やしていきます

Next: 競争に負けても、円建て決済が増える? 最終的には日本の利益に



日本がグローバル経済を主導する立場に

TPPでは、国内での仕事の一部が競争に負けることになりますが、円建て決済が増えると考えられます。

それに伴い、TPP関連国で、円での外貨準備を増やすことになります。また、日本への直接投資が増えることでも、円の需要が高まると考えられます。

TPPにより、日本は、米国の代役として、グローバルな経済を主導する立場になります。その分、国内の仕事が奪われますが、円建て取引を増やし、日本への直接投資を増やし、円の需要を高めることができます。

日銀はもう「100円を超える円高」を容認しない

何もしなければ、円高になってしまうので、日銀は、必然の流れとして、マネタリーベースを増やし、政府が国債を積極的に発行してゆく必要が出てくるのです(他国が外貨準備として円の保有額を増やすとするなら、国債発行額を増やす必要が出てきます)。

今までの日本なら、円のニーズが増えるにもかかわらず、通貨供給量を増やさず、円高になって景気が低迷するのを喜んで受け入れたと推測できます。企業の自主的な行動を規制して、官僚主導で経済政策を実行でき、官僚がその分のうまみを享受できるからです。

しかし、アベノミクスという政策を経験し、多くの国民が金融政策の重要性を知ってしまった以上、政府・日銀は、どんなに米国からの圧力があろうとも、官僚の抵抗があろうとも、100円を越える円高を長い期間で容認することはしないのではないかと考えられます。

うまく行けば「日経平均3万円」も夢ではない

グローバルな市場を主導する立場の国が行うべき政策さえ実行できるなら、日経平均株価は、本年または来年までの値幅の大きな調整を経過した後(数年の歳月をかけて準備を整え)、本当に3万円以上を目指す流れへ入ることができるかもしれません。

ただ、そのために乗り越えなければならない壁は、まだ高々とそびえ立っています。

日経平均は今週の動きで6月までの展開がわかる

パワー・トレンド講座:目標値がある場合、到達することを前提とした予想が中心になる

続きはご購読ください<残約2,300文字+チャート2枚>

続きをメルマガで読む

※続きを読むには、2018年4月中にご購読ください。


※本記事は有料メルマガ『少額投資家のための売買戦略』2018年4月8日号を一部抜粋・再構成したものです。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。今月配信済みバックナンバーや本記事で割愛した全文(日経平均、ドル円の今後のシナリオ)もすぐ読めます。

【関連】今後20年は日本経済が上向く。「経済の千里眼」菅下清廣氏の未来予測が的中するワケ

【関連】海外勢がドン引きする「森友スキャンダル」。さらなる日本売りも=今市太郎

【関連】4月からまた値上げ……日本の「体感」物価上昇はもうとっくに2%を超えている=斎藤満

『少額投資家のための売買戦略』』(2018年4月8日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

有料メルマガ好評配信中

『少額投資家のための売買戦略』

[月額1,078円(税込)/月 毎月第2・第4日曜日(年末年始を除く)]
値動きには理由があります。一般的に言われているような確率や、需給の変化を見るだけでは、先のことなどわかりません。確率論や、統計データ分析をやりつくし、挫折を味わった経験があるからこそ、理解できた値動きの本質を書いてゆきます。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。