FOMC会合では金利は予想通りの据え置きでしたが、物価上昇率2%を達成したFRBの自信が伺えました。いつまでも達成できない日銀との差はどこに在るのでしょうか?(『『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』連動メルマガ』児島康孝)
※本記事は有料メルマガ『『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』連動メルマガ』2018年2月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ノーマルな経済に戻った米国と欧州。なぜ日本は取り残されるのか
中期的に2%付近で推移
アメリカの金融政策を決めるFOMC会合(米連邦公開市場委員会)が開かれ、日本時間の5月3日未明に結果が発表されました。
金利は予想通りの据え置きでしたが、今回の声明文では、アメリカが物価上昇率2%を達成したことへの自信が伺えました。
「インフレ率は、中期的に、目標の2%付近で推移すると見込まれる」。インフレ率=物価上昇率です。アメリカは2%の目標を達成し、正常な経済状態へと戻りつつあります。
また、「中期的」としている意味は大きいです。これは、瞬間的に物価上昇率が2%になるということではなくて、常に2%を維持するという意味です。
世界経済は「インフレ率が消滅する」という異常事態が続いていましたが、アメリカは、ここから脱出しました。
ついに、元の、インフレ率(物価上昇率)があるノーマルな経済の世界に戻ってきている、ということです。
※(参考)当メルマガ4月26日配信記事:ドル全面高。アメリカは金利3%で、デフレ脱却の優等生
日米の差は「中央銀行のレベル」の差
日本では、物価上昇率(インフレ率)が上がらずに、デフレ基調が続いています。
日本国民にとっては大変な事態が続いて続いているわけですが、この日米の違いは、中央銀行の金融政策のレベル・実力の差です。
アメリカは、リーマンショック当時のFRB議長であったバーナンキ氏の手腕が大きいです。バーナンキ氏は「デフレ研究」の専門家で、第二次世界大戦の前の大恐慌やデフレについて詳しかったのです。このため、どのような金融政策が正しく、何が正しくないか、よくわかっていました。
とにかく、需要が増え、雇用が増えることが第一で、実質金利を下げる必要性についての考え方にブレがなく、そのまま実行したのです。
デフレや恐慌についてよくわかっていなかった人からは、「ヘリコプターマネー」と揶揄されましたが、それは金融政策として必要不可欠だったのです。
一方、日銀の金融政策は…
一方、日本は、日銀・黒田総裁の金融政策「黒田バズーカ」で一定の効果は上げたものの、いまだにデフレにあえいでいます。
多くの日本国民の生活は改善せず、デフレの長期化でむしろ悪化しています。
上記記事の「朝マック」の値下げにみられるように、国民の懐事情に対応する形で、明らかにデフレが続いているわけです。
Next: 日米の金融政策は何が違うのか? 途中で腰が引けた日銀の罪
「実質金利」の理解の違い
さて、日米の金融政策の、何が違うのでしょうか?
それは、「実質金利」に対する認識です。
アメリカは、景気が悪くなったり、経済恐慌が起きると、すぐに実質金利をマイナスにします。実質金利のマイナス政策です。
読者の皆さんがここで疑問を持つのは、「アメリカはマイナス金利はしていないですよね?」ということだと思います。いえ、これは、名目金利の話で、実質マイナス金利は、アメリカのFRBは機動的に行うのです。
日本は金融緩和になっていなかった
アメリカの名目の物価上昇率(インフレ率)は、日本より高めです。なので、実質金利がマイナスになっても、名目の金利はマイナスにはならないのです。
例えば、金利5%として、これは金融緩和的でしょうか? それとも金融引き締めでしょうか?
「ゼロ金利よりも金利は高い。つまり、金融引き締めだね」と考えがちですが、これは、そうとは限らないのです。
同じ金利5%でも、物価上昇率(インフレ率)が7%の場合、金融緩和です。経済の刺激効果は強いです。一方、物価上昇率が3%の場合は、金利5%は金融引き締め傾向です。経済の過熱を抑制します。
つまり、名目の数字が高いか低いかは大きな問題ではなくて、その「差」である実質金利が問題なのです。
ここまでの話でお分かりのように、「日本は金融緩和ではなかった」のです。
「微マイナス」で躊躇した日銀
日銀がマイナス金利に踏み切ったことは評価できるのですが、その後がよくなかったのです。
つまり、名目金利(表面的な金利の数字)にとらわれてしまい、微マイナスで止まってしまったからです。日本の物価上昇率では、もっとマイナス幅を拡大しなければ、金融緩和にならないのです。
Next: 日本が陥った悪循環のスパイラルとは?
日本が陥った悪循環のスパイラル
マイナス金利は、大きな「発明」です。それまでは、金利はゼロより下げることができませんでした。
つまり、物価上昇率(インフレ率)がマイナスになると、金利がゼロで、物価上昇率は、どんどん下がります。いわゆるデフレの局面ですが、するとますますその「差」である実質金利が上昇することになります。
利上げしなくても、強力な金融引き締めになるという、悪循環のスパイラルに陥るのです。金融緩和すべきところが、金融引き締めとなって、ますます恐慌が激しくなるというわけです。
これが、まさに日本で起きたことです。
デフレに合わせて「金利のマイナス幅を拡大」する必要があった
ですから、日本の物価上昇率がゼロより上であればマイナス金利は必要ないのですが、物価上昇率がゼロより下になってデフレ基調の場合は、それに合わせて金利のマイナス幅を拡大する必要があるということです。
日銀は、実質金利について国民に説明してマイナス幅を拡大する必要があったのですが、名目の金利がマイナスになることへの批判を恐れ、微マイナスでやめてしまった。これが、失敗の原因です。
このあたりが、ヘリコプターマネーと批判されても実行するバーナンキ氏の「果敢さ」と、微マイナスで躊躇する日銀の違いです。
「インフレ率の低さ」は言い訳にならない
日本は、アメリカよりも物価が低迷したのだから、仕方がないのではないかという見方もあるでしょう。
しかし、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁をみれば、その言い訳も通用しないことがわかります。
欧州も、日本に似て、インフレ率(物価上昇率)はアメリカよりも低めです。しかし、マイナス金利の導入に躊躇がありませんでした。そして、ECBも、アメリカに続いて、物価の上昇へと歩みを進めています。つまり、欧州も、元のノーマルなインフレ率のある経済へと、少しずつ歩んでいるのです。
Next: このままではデフレが続く…。日銀が取るべき対応とは?
日銀は「実質金利」をよく知るべき
欧州では、インフレ率(物価上昇率)にあわせてマイナス金利幅を拡大する国も、相次いでいます。これは、実質金利についての認識がしっかりしているということです。
デフレ基調の場合(=物価上昇率がマイナス)は、マイナス金利の幅を躊躇なく拡大しています。
このように、いつまでも物価上昇率2%を達成できない日銀は、実質金利を軽く見ているか、国民への説明を避けて立ち止まっている。よって、デフレは続き、日本国民の生活は苦境が続いているということです。
あまり難しいことはしなくても、実質金利を見合った水準にして、短期金利を低めに誘導すれば、デフレは解消に向かいます。しかし、これができないわけです。
『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2018年5月3日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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