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中韓に周回遅れ。日本はプライドを捨てQR決済でキャッシュレス化を目指せ=岩田昭男

日本のキャッシュレス決済比率は18%と、中国の60%、韓国の89%に大きく遅れています。どうすれば現金主義から抜け出せるのか、中国でQR決済が普及した例から考えます。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2018年4月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
岩田昭男の上級カード道場:http://iwataworks.jp/

日本は何を学ぶべき?金融に疎かった中国がキャッシュレス大国へ

日本は「キャッシュレス後進国」

2020年の東京オリンピックが近づいてきましたが、日本のキャッシュレス化は未だに進んでいません。

2015年の世界のキャッシュレス決済比率(現金に対するクレジットカードや電子マネーの利用比率)では、日本は18.4%となっています。対して、アメリカは45.0%、中国は60.0%、そして韓国は89.1%と世界一のキャッシュレス大国になっています。日本は大きく引き離されました(世界銀行『Household final consumption expenditure(2015年)』、BIS『Redbook Statistics(2015年)』より)。

こうした状況に危機感を覚えた日本政府は、今年4月にそれまで計画していた「27年のキャッシュレス比率40%」という目標を2年前倒しして、25年までに実現すると改めました。

将来的には、世界トップクラスの韓国に並ぶ80%をめざすと言いますが、そのハードルはなかなか高そうです。今のままでやっていては、急激な伸びは望めないでしょう。

話題のスマホ決済をどう活用するか?

では、何をすればいいのでしょうか。やはり、今後の伸びを見込める決済ツールに絞って、その普及を国家的レベルで促進することだと思います。

その際の本命は、やはり「スマホ決済(モバイル決済)」でしょう。

スマホ決済には、大きく2種類があります。「非接触IC」を使って決済するものと、「QRコード」を使って決済するものです。

非接触ICは、電子マネーを取り込んだりクレジットカードを登録して、今のキャッシュレス文化の延長で利用できるように作られています。Apple Pay、Google Payなどがあります。

それに対してQRコード決済の方は、アリペイ(Alipay=支付宝)という中国のスマホ決済ツールから生まれ、メジャーになった規格です。

QRコード決済とは、店舗での支払いにスマホのアプリなどでQRコードを表示するか、もしくは店舗にあるQRコードをユーザーのスマホで読み取ることによって、決済を行います。こちらの方がコストパフォーマンスもよく、小回りも効くので、非接触IC決済よりもおすすめできます。

どんな機種でも使える「QRコード決済」

QRコード決済の特徴は、Apple Payなどの非接触IC決済と違い、スマホの中に電子マネーやクレジットカードを直接登録しないことです。専用アプリと、クレジットカード情報や電子マネー情報との「連携」によって、決済を実行するのです。

代表的なQRコード決済のサービスは、「楽天ペイ」や「LINE Pay」などがあります。

各サービスでの決済は、そのサービスの個人IDと紐付けられ、決済履歴が残ったり、そのサービス特有の特典が受けられることが特色です。そのために、利用者はQRコード決済に必要なアプリを自身の端末にダウンロードします。

また、QRコード決済は、非接触IC決済のGoogle Pay・Apple Pay・おサイフケータイなどとは異なり、機種に依存せずに、アプリをダウンロードすれば大半の機種で利用できるのです。どの機種でも使えるというのは、大きな利点です。

Next: セキュリティ面でも優位。QRコード決済が日本の救世主になるか?



セキュリティ面でも大きな強み

さらにセキュリティ面でも十分な対応がなされています。

QRコード決済は支払い時に「本人のデバイス」と「パスワード」の両方が必須なので、現金の盗難やクレジットカードを使用する際の暗証番号のスキミングなどを事前に防ぐことができます。

実際に使ってみると、スマホの機種を問わず、どれでもアプリをダウンロードすれば使えるというのは便利です。

また、支払い方法もプリペイドだけではなく、銀行口座引き落としクレジットカード払いも選べるのも利点です。

そうして考えると、非接触IC決済よりも小回りのきいた優れた規格ということができるのではないでしょうか。IC型の欠点をひとつひとつ潰していって作られた規格のようにも思えます。

もっともトクをするのは「お店」側

しかし、本当の凄さは、利用者に対してというより、店舗の担当者が実感するのではないでしょうか。

QRコード決済は、市販のタブレットなどで簡単に導入が可能なため、導入コストがあまりかかりません。

さらに、加盟店の手数料も非接触IC決済では2~3%かかりますが、こちらは加盟店手数料はもっと低いかゼロです。

こうした経済的利点があるために、小規模な事業者等ではQRコード決済への関心が急速に高まっています。一部では、この決済の方式は初めて「手数料なし」を打ち出した画期的なビジネスモデルだと言われています。

楽天、LINE、Appleほか次々と参入している

そのためか、今や Origami Pay(オリガミペイ)、LlNE Payをはじめ、楽天ペイ、ドコモ、Appleなど、すでに非接触IC型の決済事業を展開しているところも含めてこぞって参加を始めました。

その背景として、「費用をかけずに自前の経済圏を簡単に作れる」と大手業者が考えたからと言われています。店側にとって、これは思いもかけない追い風でしょう。

これまでの非接触IC決済では、初期費用10万円くらいはかかりました。手数料も3%かかります。

それらのものがすべていらなくなる可能性もあり、そうなればいくらでも導入ができるのです。

これはもう利用しない手はないというので、いろいろな店舗が加入を考え始めています。キャッシュレス化の促進には、QR方式が断然有効なのかもしれません。

Next: 日本がぜひ手本にしたい、中国「アリペイ」の消費者第一主義



5億2千万人が利用する「アリペイ」

日本企業の手本になっているQRコード決済の雄、「アリペイ」を少しみてみましょう。

アリペイは、中国の巨大IT企業のアリババグループの子会社が開発した決済ツールです。グループ内のネットショッピングモール「タオバオワン(淘宝网)」での決済に利用してもらう目的で作られました。

その原型になったのが、Googleが作ったPayPalです。これは、基本的には送金のためのツールです。

しかし今や、アリペイがPayPalをきれいに抜き去りました。2004年12月にアリペイがスタートしてから13年が経過し、加入者数は5億2千万人とケタ外れの数になっています。

名実ともに、中国を代表する決済ツールに育ったと言えるでしょう。

徹底した「消費者第一主義」

この人気の秘密は何かというと、ズバリ消費者第一主義を掲げたことにあります。

中国では、国家がQRコード決済を強力に推進し、QRコード決済を軸にエコシステムが作られています。そしてアリペイには、ユーザー特典が数多く用意されており、まさに「消費者のため」というサービスがずらりと並んでいます。

アリペイのアプリは「生活アプリ」と呼ばれ、いろいろなシーンで使えるようになっています。タクシーやホテル予約、映画チケットの購入、公共料金の支払い、病院の予約、振込みや資産運用商品の購入まで、1つのアプリから直接行うことが可能となっています。

特に評判なのが、金融部門です。アリペイが提供する預金サービスは高金利で有名で、申込者が殺到したために最近は抽選になったといわれています。逆にローンを利用しようとすると、市中金利よりかなり低くてこちらも使いやすい。さらに投資信託も有利に使えるようになっています。

もともとネットショッピングのために開発されたツールですから、消費者保護も徹底しています。

ネットでの買い物でのトラブルはお金を払ったのに商品が届かないというケースが多いのですが、アリペイの場合は商品が届いてから確認をした後で引き落としが行われるので、トラブルは少ないといいます。

その他にも、都市部で乗り捨てが可能な自転車シェアサービスmobikeやofoを活用の際、アリペイかそのライバルであるWeChat PayでQRコードを読み込むことによって解錠し、近くにある自転車を検索することも容易にできます。まさに生活のためのツールとなっています。

信用力を計る「独自スコア」を提供

もう1つの特徴は、「芝麻(ごま)信用」です。これはアリペイの利用履歴を参考にして作られる信用偏差値のことです。

利用金額の支払いがスムーズだったかどうか、毎月一定以上のお金を使っているかどうかなどで、点数が決まります。さらにタオバオワンでの取引マナーが良かったかどうか、シェアサイクルをきちんと返却しているかどうかなどを基準にスコアリングされ、毎月の偏差値に反映されます。

政府も公の信用数値を提供しており、アリペイではそれらも加味されますから、年々偏差値の精度は上がり、今ではかなり信頼性の高いものになっているようです。

公共料金の支払い実績などで利用者の信用スコアを蓄積し、一定基準を超えると金利優遇などの特典を受け取ることができます。

Next: 最初はキャッシュレス化に難航した? 金融知識が乏しかった中国



金融知識が乏しかった中国

それにしても、なぜ急にビザの認定もない、アリペイといったものが出てきたのでしょうか。これには中国の国内事情が関係しています。

私が中国の決済サービス会社・銀聯(ぎんれん)の招待で、中国に行ったのは2008年のことでした。銀聯ジャパンができて数年が経っていましたが、万博の前だったので、銀聯本社のある上海の街はすごくほこりっぽかったことを覚えています。

銀聯は、当時の中国では数少ないカード会社でした。そのため、日本のカードビジネスを話す私は大歓迎を受け、社員たちとは気持ちよく歓談しました。

しかし、その中で不思議に思ったことがありました。社員はみな金融業界の人たちなのに、専門の知識が少ないことでした。私が中国の消費者金融の話をしても、ニヤニヤして聞くだけでした。なぜかなぁと思っていたのですが、その答えはすぐにわかりました。

銀聯カードができるまで中国ではリテール産業がほとんど育たなかったのです。50年間、闇の中にいたといってもいいでしょう。だから誰も詳しいことを当時は知らなかったのです。

つまり、こういうことだったのです。第二次世界大戦が終わって、中国共産党が権力を握りました。1949年には中華人民共和国ができて、やっと国作りを始めようという時に、今度は朝鮮戦争が勃発。そして、おびただしい数の戦死者を出すなどして、中国は大打撃を受けました。その後も政治的混乱がつづき、毛沢東による文化大革命の波に飲み込まれていきました。その間、鄧小平が出てくるまでは、経済に対する関心はほとんどなかったといいます。

小さく始まった中国のキャッシュレス決済

一方、欧米や日本では、同じくこの時期にクレジットカードが急速に普及を始め、それに伴ってビザ・マスターといった国際ブランドを中心としたクレジットカードネットワークが整備されていきました。

そして国際ブランドの掛け声によって、先進国を中心とした世界がクレジットカードのネットワークで結ばれ、キャッシュレス化が急速に進んでいったのです。

世界が金融を中心として回り始めようとしていた時に、ひとり中国だけが蚊帳の外に置かれていました。一般国民も、お金が足りない時でも公的機関から借りるという発想はなく、いつも家族や親戚からお金を回してもらい、それでなんとか凌いでいたという状況だったそうです。前近代的な金融環境でした。

しかし15億人以上の人口を抱える国ですから、ビザやJCBなどの国際ブランドは、中国でクレジットカードを普及させてひと儲けしたいと考えるようになりました。

そこでChina UnionPay(銀聯)という名称で、ビザがクレジットカードのセンターのような組織を立ち上げ、カードの発行に必要な信用情報を集めたり、カード発行の下地作りなどを始めたのです。

ところが、途中から中国政府の横槍が入り、結局ビザはプロジェクトを放り出して撤退しました。その後を継いでビザのノウハウやその仕組みを再利用する形で生まれたのが、銀聯でした。

ただし、クレジットカードをやろうとしたのですが、自前では信用情報をまとめることができなかったために、とりあえず審査のいらないデビットカードで行くことにしたといいます。

銀行口座とカードを直接結びつけてお金のやり取りをするというもので、クレジットカードにつきものの与信のリスクがなくなるので、安心してカード事業に精を出せました。

Next: 日本は何を学ぶべきか。出遅れたアリペイの挽回策が「スマホ決済」だった



周回遅れのアリペイの挽回策は「スマホ仕様」

アリペイは、2004年12月に生まれています。消費者第一主義を掲げて躍進しましたが、最初は目立った動きはしていません。世界から注目されるようになったのは、スマホが登場して、中国本土で爆発的に普及しはじめてからです。

アリペイはカードベースの時には大きな動きはありませんでした。しかし、スマホ搭載を機に大きくブレイクします。

それはなぜかというと、ビザ・マスターといった国際ブランドのルールやレギュレーションにこだわる必要がなかったからです。

日本や米国はレギュレーションがあるので、勝手なことはできません。そのため、ビザが発表するルールを丸飲みするしかありませんでした。

一方、中国は周回遅れで走っており、しかも国際ブランドの目が届かない地域ですから、もっとも最適な解決方法を取ることができたのです。そして、QRコードを採用して、アプリで動かすようにしました。

この自由さが、今のアリペイの発展を約束したと言っていいでしょう。急がば回れの格言通りのことが起こったのです。

日本は彼らから何を学ぶべきか?

アリペイの動きは、今後の日本のカード業界にも大きな影響を投げかけています。

アリペイ日本版を2018年春にも開始する予定がありましたが、延期になりました。これは、豊富なサービスの点検を行っていたということでしょうか。日本でどのようなサービスを実施するか、大いに悩んでいるのでしょう。

さらに「芝麻(ごま)信用」による個人情報の取得をどう位置づけるかで、悩みが深いのではないでしょうか(私見ですが、これは国際問題に発展する恐れがあるので、やめた方が良いかもしれません)。そうした細かなところで、調整が続いているのではないでしょうか。

日本のキャッシュレス化を進めるには、やはりQRコード決済の導入が早道でしょう。またそのコンテンツとしては、庶民にアピールする消費者第一主義を掲げるのが大事でしょう。

マイナンバーカードのような管制の匂いのするものでは、普及はしないと思います。

いずれにしろ、今後アリペイが切り拓いた手数料なしの時代が来ることは予想できます。各カード会社は、「手数料なし」で生き抜くビジネスモデルの確立を急ぐべきではないでしょうか。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年5月29日)

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