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米朝会議が破談なら、泣くのは中国。トランプの駆け引きを市場はどう見てる?=斎藤満

米朝会談は再び開催へ向けて動き出したと報道されていますが、信じてよいのでしょうか。事の発端と小さくない中国への打撃、今後の米市場の動きを解説します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年5月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

市場の反応は様々。米朝会談のドタバタが起きた2つの要因とは?

和平ムードが突然暗転

来月12日に予定されていた米朝首脳会談の実現が、突然危うくなったとして、和平をあてに上昇を見せていた株式市場がにわかに不安定となり、ドル円も111円台から109円台に急落しました。和平ムードが一転してリスク・オフの雰囲気となり、リスク資産から安全資産にシフトする動きが広がりました。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

事の発端は次の通りです。先に北朝鮮サイドから、米国がリビア型核廃棄にこだわるなら、米朝首脳会談を回避する可能性を提示。これを受けて今度は米国サイドから、ペンス副大統領とトランプ大統領が続けざまに、「米朝会談が実現しない確率が高まった」との発言が続き、暗に裏で中国が何かを画策しているとの批判を見せました。そして北朝鮮も、無理に会談を開かなくてよいと応酬しました(※編注:原稿執筆時点2018年5月25日。トランプ大統領は26日夜、「我々は6月12日のシンガポールでの開催を見据えている。その予定は変えていない」と発言。米朝首脳会談の開催へ向けて順調に進んでいることを明らかにしました)。

市場によって異なる反応

この「米朝会談破談リスク」に対して、市場の反応は異なりました。東京株式市場は23,24と2日連続で1%以上の下げとなり、日経平均は都合500円以上の下げ。ドル円は111円台から109円台半ばまで下落しました。欧州株も23日には1%以上を下げました。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)

ところが、震源地の米国株は23日に小幅ながら上昇し、香港株も23日に下げたものの、24日には落ち着きました。米国では議事要旨でFRBが利上げ加速を考えていないと知り、安心の買いが入りました。米国と香港、中国が静かな一方で、やや離れた日本と欧州が「破談リスク」に大きく反応しています。これは一体どういうことか、少し探りを入れてみましょう。

NYダウ 日足(SBI証券提供)

米朝間に2つのリスク

米朝会談が破談になるとすれば、2つの可能性が考えられます。

1つは、米国側で、トランプ大統領の北に対する融和姿勢に批判的で、安易な譲歩をするべきでないとの考えを持つ勢力、場合によっては軍事行使も辞さずという勢力が影響力を高めている可能性です。もともとネオコン勢力が力を持っていただけに、この懸念が一部で指摘されています。

しかし、北朝鮮には米国でかつて国防長官を務めた人物が大きな影響力をもち、彼やその関連企業が北の核ミサイル開発やその実験、発射に深くかかわっていたとも言われ、米朝間では表向きの対立に反し、裏ではかなり話が進んでいた可能性があります。それだけに、核廃棄の方法などで急にもめる可能性は低く、米朝間の意見相違と考えることには無理があります

現に、ホワイトハウスではすでに米朝会談を当て込んだ記念コインが作成されています。金委員長とトランプ大統領が向かい合う構図で、金委員長には最高の指導者との肩書がついています。トランプ陣営としては、この会談を大成功させ、秋の中間選挙に弾みをつけたいはずです。

もう1つが米中協議のとばっちりです。米国内には金委員長が続けざまに訪中してから態度が変わったとして、何らかの形で中国がかかわっているとの見方がありますが、どうもこれも不自然です。中国は米朝会談が成功して半島から核の脅威がなくなることを望み、その後朝鮮戦争の終戦協定に進むことを望んでいたはずです。中国が横槍を入れる必然性がありません。

むしろ、米中間で進行中の通商協議不調が、北朝鮮問題に跳ね返った可能性があります。

Next: 米朝首脳会談「破談」なら、中国はどうなっていた?



中国に「国有企業改革」を迫る米国

米国はこれまでも日本の金融自由化を強要し、不良債権処理で利益を上げ、韓国企業を事実上米国の支配下に置きました。そして今や中国の国有企業に矢を向けています。ことあるごとに米国は中国に対して「国有企業改革」を求め、その解体、米国支配を試みています

米国はその目的を果たす手段として、巨額の貿易赤字削減、市場開放を迫っていますが、真の狙いは国有企業改革です。さすがに中国もそこまでは譲れず、それ以外の方法で米国の要求にこたえようとしています。

すでに2000億ドルの黒字削減を受け入れ、そのために米国の農産物からエネルギー、航空分野に輸入拡大の方策を提示しています。そして米国車の関税を15%に引き下げ、金融市場でも信託、自動車金融、消費者金融、リースなどに外資(米国資本)の参入を認めるなど、大幅な譲歩を見せています。

はたから見れば、米国通商団の大勝利に見えるのですが、トランプ氏にすれば、国有企業改革に手を付けていない点が不満で、ここを攻めています。中国も簡単には飲めません。

「会談中止」は中国に圧力をための手段

そこで中国に圧力をかける手段として、つまり中国が打撃を受ける問題として、米朝会談の中止をほのめかした可能性があります。つまり、真の交渉相手は北朝鮮ではなく、米国と中国の交渉にかかっている可能性があります。米国としては中国の対応を見てから米朝会談を行ってもよいわけです。

中国リスクについては、これとは別に、中国、ロシア、韓国が北朝鮮の経済開発について支援プログラムを用意しているので、無理に米国や日本の支援を求めなくても、北はやって行けるようになった、というものもあります。

ただ、米国抜きでこのシナリオを進めることは北にも中国にも大きなリスクがあり、考えにくいと見ます。

従ってこれを除くと、2つのリスクのうち可能性が高いとすれば、後者の中国との問題となります。つまり、米朝間の認識のズレは恐らくないと見ます。

Next: 今後、米国市場はどう反応する? トランプが次に優先すること



トランプが次に優先すること

そして米朝会談が中止、ないし延期となっても、米国は北朝鮮に軍事行動に出る可能性は極めて低いと考えられます。米国ではこうした認識があって、株式市場が下げなかったとも考えられます。

問題は、トランプ大統領が当面、中国国有企業の解体・支配を優先するのか、米朝会談の大成功、ノーベル賞、中間選挙への弾みをとるのかです。。

後者なら、市場は来週以降再び上昇軌道に戻り、前者だと米中間の緊張が高まり、FRBに利上げ加速を容認し、新興国も巻き込んだ中国経済叩きが起こり、市場が不安定化する懸念があります。

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・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)

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4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)

3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)

2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)

1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)

12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)

11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)

10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)

9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)

8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
・経常黒字20兆円強のデフレ圧力(8/9)
・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
・内閣改造効果に過大な期待は禁物(8/4)
・ユーロ悲観論が後退、なお先高観(8/2)
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マンさんの経済あらかると』(2018年5月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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