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米朝首脳会談「開催」濃厚へ。なぜトランプは世界を揺さぶり続けるのか?=江守哲

中止報道がされていた米朝首脳会談について、トランプ大統領は予定通り開催する予定であると発言しました。なぜ米国はこのような揺さぶりを続けるのでしょうか?(江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2018年5月25日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

拉致問題進展に期待。日本もようやく半島問題に関与できる体制へ

態度がころころ変わるトランプ

トランプ米大統領は24日にホワイトハウスで、6月12日にシンガポールで予定していた米朝首脳会談を中止すると表明しました(※編注:原稿執筆時点2018年5月25日。トランプ大統領は26日夜、「我々は6月12日のシンガポールでの開催を見据えている。その予定は変えていない」と発言。米朝首脳会談の開催へ向けて順調に進んでいることを明らかにしました)。

トランプ大統領は、いったんは会談中止を決めた理由について「容認した米韓合同軍事演習の批判など北朝鮮が多くの約束を破ったこと」を挙げました。米国が先遣隊を先週シンガポールに派遣した際、北朝鮮側は姿を現さなかったことも明らかにしています。

また米国高官は、北朝鮮が24日に実施した北東部・豊渓里の核実験場廃棄についても、検証するための外部専門家を受け入れなかったと批判しました。

米国からすれば、やることをやってきたのに、金委員長の対応が悪かったので、会談は止めますよ、ということです。きわめてリーズナブルです。

むしろ、これまでのトランプ政権の対応から見れば、かなり柔軟で相手に合わせていたといえます。それを北朝鮮が態度を変えたので、仕方がないですねというスタンスです。

振り回されるのはいつも一般人

さて、なぜこのようなことになるのでしょうか。

答えを言ってしまうと、いまのトランプ政権の政策は、国際金融筋が為替と株式を動かして現金を稼ぐための道具ですから、その動きに一喜一憂しても仕方がないということです。

本当に解決に向かいたいのであれば、このまま平穏に進めるという選択肢もありました。しかし、そうはしないわけです。引っ張って引っ張って、なかなか結論を出しません。そのほうが「稼げる」からです。

市場は国際金融筋に動かされ、それに惑わされているのが一般人です。

中止発言の裏で、米朝会談に向けた準備を継続していた

さて、本質的なところを見ていきましょう。

これまでトランプ大統領が、米朝首脳会談が開催されない可能性があることを示唆していますが、まさに「演出」としてきました。その可能性はまだ残ります。それを冷静かつ楽しんでみることができるようになれば本物です。

今回の米朝首脳会談に関するドタバタですが、伏線がありました。

トランプ大統領は先の韓国の文在寅大統領との会談の冒頭で、「開催にはいくつか条件があり、満たさなければ会談はない」とし、非核化が明確でなければ延期や中止もありうるとの姿勢を示していました。

米朝首脳会談の日程が近づく中、駆け引きが激しさを増していたわけです。

トランプ大統領はこれまで、金委員長との会談について「成功する」と楽観的な見通しを繰り返してきました。しかし、米韓首脳会談の冒頭では記者団の質問に答える形で「米朝首脳会談は6月12日に開かれないかもしれない」とし、これまでの姿勢を修正していました。

この時点では、開催にはかなり懐疑的だったということです。ただし、その時点でもなお、北朝鮮が完全かつ検証可能な核放棄に応じるなら、米国が金正恩政権の安全を保証し、「日中韓の3カ国が投資をして、北朝鮮を偉大な国にするだろう」ともしていました。

しかし、米朝間の駆け引きは、16日に北朝鮮が突然、その日に予定されていた韓国との南北閣僚級会談を一方的に中止したことで表面化しました。

その時点で北朝鮮は米国に対して「一方的な核放棄だけを強要するなら、朝米首脳会談に応じるかどうかをあらためて考慮せざるを得ない」と主張しました。

北朝鮮は会談に応じない可能性をちらつかせ、トランプ政権から譲歩を引きだす狙いがあったということです。

これに対して、トランプ大統領も中止の可能性をちらつかせ、交渉の主導権を引き戻そうとしたわけです。

ただし、トランプ政権は米朝会談に向けた準備を継続していました

Next: 演出に次ぐ演出。米国が目指しているゴールは変わっていない



演出に次ぐ演出

22日には米朝首脳会談に向けた北朝鮮当局者との事前協議のため、ホワイトハウスのヘイギン次席補佐官や国家安全保障チームが今週末にシンガポール入りするとされていました。

一方、米朝首脳会談の開催について、両国の「仲介役」を自任してきた韓国は難しい対応を迫られていました。

文在寅大統領は米韓首脳会談で、「米朝首脳会談は朝鮮半島と韓国の運命に大きな影響を与える」とし、「私も全力を尽くす」と強調していたようです。しかし、その努力はいったん水泡に帰した格好です。

とはいえ、「シンガポールでの会談の準備中止の命令」は出ていないようです。ということは、まだまださらなる展開がありそうです。つまり、これからさらなる「演出」がなされる可能性が高いということです。何が飛び出すか、楽しみですね(※編注:原稿執筆時点2018年5月25日。トランプ大統領は26日夜、当初の予定通り米朝首脳会談を6月12日に開催する旨を発表しています)。

米国の狙いは変わらない

いまのところでは、向かっているゴールは変わっていないように思われます。

マスコミは史上初となる米朝首脳会談の「取りやめ」が話題になった時点で、北朝鮮をめぐる緊張が再燃する可能性が出てきたと報道しましたが、どうも違うようです。

現時点で、米朝は会談の最大の焦点だった非核化の方式や期間について、意見の隔たりを埋められていません。

米国は、北朝鮮が非核化と引き換えに米国による「体制の保証」や経済協力が得られると提案してきましたが、北朝鮮は米国の方式を「先に核放棄、後で補償だ」と批判していました。

また、北朝鮮の崔善姫外務次官は、ペンス米副大統領が米メディアに「北朝鮮がリビアの轍を踏むことになる」と語り、合意に応じなければ体制転換もあり得ると示唆したと批判していました。

これに対してポンペオ国務長官は上院外交委員会の公聴会で、北朝鮮の最近の発言を「残念に思う」と強調する一方、北朝鮮側から返事もなく、首脳会談の準備ができなかったとしています。

そして、今回の会談中止騒動は、北朝鮮によるペンス氏批判が判断の決定打になったようです。確かに、北朝鮮の対応は無礼ですね。特に米国から見れば、顔をつぶされたと感じるのも当然でしょう。

北朝鮮は対等の交渉をしているつもりかもしれませんが、それは到底無理な話です。自分たちが置かれている立場を正しく理解していないともいえますね。

Next: 米国は、黒幕が「中国」だと知っている? 仲介役「韓国」の苦悩とは



仲介する「韓国」の苦悩

さて、これに困ったのが韓国の文在寅大統領です。

脱北者の子どもである文在寅大統領は、これまで韓国統一に向けて努力を続けてきました。しかし、今回の米朝首脳会談取りやめ騒動を受けて、外交・安保担当閣僚らを緊急招集しました。

また、北朝鮮は24日、北東部・豊渓里の核実験場の坑道や観測施設を爆破し、廃棄作業を実施しました。朝鮮中央通信によると、北朝鮮の核兵器研究所は「核実験の中止を、透明性をもって保証するため、核実験場を完全に廃棄する式典を行った」と発表しました。

しかし、この実験後にトランプ大統領が会談を取りやめたことで、朝鮮半島情勢をめぐる融和ムードが消え、北朝鮮はトランプ政権による「最大限の圧力」が再び高まることに警戒を強めるとみられています。

したがって、再び文在寅大統領は仲介役となるでしょう。

後ろで「中国」が糸を操っている?

米国は、北朝鮮が「ほほ笑み外交」から一転して強硬姿勢に転じた背景には、中国の存在があるとみています。

専門家は「北朝鮮が中国という後ろ盾を得たことで、交渉のパワーバランスが変化した」と分析し、中国の介入で北朝鮮情勢が一層複雑になったとの見方を示しています。

さらに、トランプ政権も「金委員長が2度目の訪中を終えた後、態度に変化があった」とし、トランプ大統領も中国の習近平国家主席を「友人」と呼びつつも、「北朝鮮を裏で操っているのではないか」と疑いの目を向けていました。

金委員長は今月7・8日に中国遼寧省大連を訪問し、習主席と2度目の会談を行いました。16日には朝鮮中央通信が米韓による合同軍事演習を「軍事的挑発」と非難し、米朝首脳会談の取りやめを示唆しました。

トランプ大統領が中国の関与を疑う理由は、金委員長が姿勢を転換したタイミングだけではありません。

中国はこれまでにも在韓米軍や米韓軍事演習に対する警戒感を示しており、北朝鮮を通じて演習中止を求めた可能性は否定できないというわけです。

一方、文在寅大統領は「朝鮮半島の非核化や恒久的な平和は、断念も先送りもできない歴史的な課題だ。問題の解決に向けて努力してきた当事者の真意に変わりはない」と強調しました。

さらに、「今の意思疎通のやり方では、敏感で難しい外交問題を解決するのは難しい」と指摘し、「米朝の首脳間のより直接的で緊密な対話で解決していくことを期待する」として、首脳会談の必要性を訴えています。

いずれにしても、まだシンガポールでの中止は準備自体が中止になったとの報告は来ていません。ぎりぎりまで、北朝鮮が心変わりをするのを待つのかも知れません。北朝鮮の出方次第では、開催の可能性と話し合いの進展が進む可能性があります(※編注:原稿執筆時点:2018年5月26日)。

そのように米国が仕掛けています

表面上は米国が主導権を握っているようにみえますが、最終的な判断はすべて北朝鮮次第です。まだまだ揺さぶりがありそうです。まだまだ混乱は続くことになりそうです。

Next: 日本もようやく半島問題に関与できる体制へ



トランプはとにかく「米国主導の世界」を維持したい

揺さぶるという意味では、経済面でも同様です。トランプ政権は自動車・同部品の輸入増加が「安全保障上の脅威」になっているか調査を開始すると発表しました。

また、トランプ政権は輸入車に最大25%の関税を課すことを検討していると報じられています。調査は、安全保障を理由とする輸入制限を定めた米通商拡大法232条(国防条項)に基づくものです。

トランプ政権は3月に同法に沿って鉄鋼とアルミに追加関税を適用しました。追加関税の「適用除外」をちらつかせて貿易交渉で相手国に譲歩を迫り、一連の貿易摩擦を引き起こしました。韓国には鉄鋼で除外を認める代わりに、自動車の対米輸出抑制を確約させました。

米国は現在、乗用車輸入に2.5%の関税を適用しています。関税を大幅に引き上げる輸入制限措置が取られた場合、ブランド力の高い日本車や欧州車に比べ、米自動車メーカーが価格競争で有利になるとみられます。

鉄鋼・アルミに続いて、米製造業の中核を担う自動車産業の活性化を実現すると訴えれば、大統領選で支持を集めた「ラストベルト」の支持者にアピールできるでしょう。

本当にわかりやすい政策といえます。

トランプ政権は自動車業界の関心が高い北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で、5月半ばの合意目標を断念したばかりです。また、中国との貿易協議では、習近平国家主席の要請を受けて通信機器大手の中興通訊(ZTE)に対する制裁を唐突に見直し、議会の猛反発を招いたこともあります。

いろんな意味で、仕掛けながら、米国主導の世界を維持したいわけです。そのための戦略なのです。このような米国の「修正主義」は今回も様々なところで確認できます。そう簡単には変わりそうにありませんね。

日本もようやく半島問題に関与できる体制へ

さて、米朝首脳会談をめぐる動きは二転三転していますが、朝鮮半島の統一に向けた動きは変わっていないといえます。少なくとも、いまのところ、それ以上の情報はありません。

ここまでの過程で、今回の北朝鮮問題に首を突っ込むことができずに困っていた安倍首相は、資金提供に関する大枠を決めたことで、かなり深く関与できる体制ができていました。ですので、今回の米朝会談中止騒動が何を意味するかは、容易に理解できるでしょう。

今回は、北朝鮮の核放棄後の経済体制の立て直しについて、日本が資金を出すことになったようです。

日本は北朝鮮への戦後補償をしていません。そこで、今後の北朝鮮の経済復興費用、戦後補償、さらに拉致問題の解決をパッケージで進めることで合意されたもようです。

これらは、米国だけでなく、中国・韓国も強く要望したようです。特に米国の要望は相当強かったようですね。韓国だけでは北朝鮮の復興は不可能です。日本に頼ってくるのは当然でしょう。

まず、日本は戦後補償として数兆円を支払い、この資金を使って北朝鮮は復興を進めていくことになりそうです。

Next: 拉致問題「進展」が期待できる? 「国際金融筋」のシナリオとは



拉致問題「進展」に期待

拉致問題も意外に進展するかもしれません。これまでは、話し合いの俎上にも乗っていなかったのが、資金が絡んでくると、否が応でも話し合いの対象に入ってきます。

しかし、すべてが解決することはありません。それは、北朝鮮の指揮を執っている人物に関係します。この人物は、実質的に最重要ポストにいます。今回の会談中止にもっていくように仕掛けたのも――

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image by:Wikimedia Commons | Nicole S Glass / Shutterstock.com

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