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鳥貴族、値上げで業績悪化へ。値上げ組の企業が軒並み苦戦、遠のく脱デフレ=斎藤満

企業の価格戦略の勝敗が見えてきました。鳥貴族ほか値上げに踏み切った企業は業績を落とし、イオンなど値下げ戦略を取った企業は伸びています。理由は明確です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年7月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

価格戦略の勝敗が見えてきた。そのしわ寄せは「国民の賃金」へ…

値上げ組の苦戦続々

企業の価格戦略の勝敗が見えてきました。

政府日銀の後押しもあって、価格引き上げ戦略に出る企業が出てきた一方で、旧来のスーパー・コンビニではむしろ価格引き下げ戦略に出ました。

どちらが功を奏すのか注目されましたが、ここへきて「値上げ組」の苦戦情報が続々と伝わってきます。

居酒屋チェーンの「鳥貴族」が値上げ戦略に出て市場の注目を集めましたが、決算の不振を受けて、株価が大きく下げました。値上げ当初は、客の減少は限定的で、採算の改善が収益改善に寄与すると見られ、期待の下に株価は大きく上昇しました。しかし、次第に値上げが客離れを引き起こし、業績はむしろ悪化する事態となり、株価は値上げ前の水準に戻ってしまいました。

また、政府が安売りを規制したビールですが、今年1-6月の出荷量は、前年比3.6%減の1億8337万ケースと、6年連続の減少となり、過去最低を更新しました。2001年の水準と比べると3割以上も縮小しています。自らの判断ではなく、政府の規制で安売りができなくなり、結果として値上げが需要を冷やした形となりました。

一方で、イオンやセブン・イレブンなど、値下げに出たスーパー・コンビニでは客を確保し、業績面でも安定を維持しています。一時は値下げ戦略を「消極的」と言い、積極的に値上げに出た企業を持ち上げる風潮がありましたが、ここまでは値上げ企業の敗色が濃厚となっています。

値上げよりコスト削減

スーパー業界には、値上げは経営危機に追い込むリスクがある、との認識が浸透していて、よほどのことがない限り、値上げ策は回避する傾向があります。

人手不足で賃上げをしても、そのコストを価格転嫁できないことが分かっているので、賃上げをしてまで無理に人を採らず、むしろレジの機械化などでコストの抑制を進めています。

米国に比べると遅れていたレジの機械化、セルフ・レジ化もここへきて急速に広がり、スーパーの他、ブック・チェーン、チケット販売など、広い範囲に拡大しています。その分、レジでの人員を減らせるようになりました。

同時に、比較的人件費の安い外国人労働や高齢者がレジやレストランなどでの接客に多く利用されるようになっています。外国人労働者はすでに100万人を大きく超え、政府は規制緩和をして、外国人労働の拡大に道を開きました。

また、店舗コストや人件費で優位なネット通販が拡大し、その低価格が周辺業界にも脅威となり始めています。同じような製品がネットで安く手に入るなら、わざわざ小売店に足を運ぶ必要はなくなります。当然、これが一般小売店の価格戦略にも大きな影響を持つようになりました。

Next: お金がないのにどう買えと? 政府が問題にする「消費者の買い控え」



企業が稼いでも、国民の賃金は上がらない

日銀も物価が上がらない要因として、「生産性効果」と「ネット通販」の影響に注目しています。しかし、これらは表面的、技術的な側面で、値上げがなかなか通らない要因の本質は、消費者の購買力低下にあります。

安倍政権になってからの5年間で、企業の経常利益は5割以上拡大しましたが、企業が支払った人件費はこの間5%強しか増えていません。つまり、この間、労働分配率(生産された付加価値のうち、労働者が賃金として受け取る割合)が大きく低下しました。

企業の論理としては、自身は賃金を抑えるなかでまわりの企業が賃上げして需要を増やしてくれるのがベストで、間違っても他社が賃金を抑える中で自社だけが賃金を引き上げてはならないと考えています。

結局、ほとんどの企業が利益を拡大しても人件費は抑制したまま、ということが何年も続いています。

人件費抑制のブーメラン

人件費が5年で5%強増えても、この間に雇用が増え、消費税が引き上げられた分だけ物価も上がっているので、1人当たりの実質賃金は税込みでも減っています

さらに、そこから健康保険料、介護保険料、国民年金保険など、社会保険料が毎年引き上げられ、可処分所得ではさらに減少しています。年金もマクロ・スライドで実質減少となります。

そればかりか、原油価格の上昇でガソリンや電気ガス料金が上がり、これが税金と同じように消費者の購買力を奪い、診療費などの医療費も上がっています。さらに昨今の天候不順で生鮮食料品の価格が高騰し、一段と購買力を奪う結果となりました。

このため、一般消費財に回せるお金がその分減少し、需要が減るとともに、家計は少しでも安いものを手に入れようとします。

つまり、企業が人件費を抑制し続けるあまり、消費需要が減退し、それだけ企業の価格引き上げが困難になったということで、企業のコスト削減策が自分で自分の首を絞める結果となっています

とはいえ、他社に先んじて賃金を引き上げれば、経営上大きな負担となるため、引き続き固定費抑制の姿勢は変わらないと見られます。

Next: はるか遠い物価目標。どうすれば高い商品でも売れるのか?



「価格引き上げ」は受け入れられるか?

そこで価格を引き上げるためには、他社との製品差別化を進め、価格引き上げを消費者が納得して受け入れるような状況にするしかありません。

典型例が、スイスの時計ロレックスであり、フランスのエルメスとなります。しかし、このブランド戦略は容易でありません。あのアップルでさえ、高額スマホの販売不振に陥り、日本でも「日本一高い、しかし日本一旨い」をうたった老舗の花園饅頭が経営破綻しました。

消費者が高価格を受け入れるだけの商品を開発するか、他社製品と変わらず、コモディティ化するならコストを下げ、他社より安く売って顧客をつかむしかありません。

日本企業の姿勢が変わらず、日本のロレックス、日本のエルメスが出てこないと、日銀の物価目標は何年たっても到達できそうにありません。

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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年7月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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・見えてきた価格戦略の勝敗(7/13)
・列島豪雨、多くの死を無駄にしないために(7/11)
・トランプ「米国第一」の功罪(7/9)
・日銀の物価見直しとリスク(7/6)
・トランプの影響、相場にもくっきり(7/4)
・原油高に見る各国の思惑(7/2)
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6月配信分
・所得分配をゆがめる日銀の金利調節(6/29)
・ドル高、終わりの始まり?(6/27)
・貿易戦争に隠されたトランプの狙い(6/25)
・景気の陰りが広がった(6/22)
・なぜ日本で消費者物価が上がらないのか(6/20)
・無視できない米イールドカーブのフラット化(6/18)
・綱渡りのパウエルFRB(6/15)
・歴史的米朝会談と日本の困惑(6/13)
・日銀は物価見通しの引き下げ準備(6/11)
・日銀は密かに金利高め誘導か(6/8)
・個人消費の弱さは重症(6/6)
・FOMC前後の為替の動きに要注意(6/4)
・日銀に追い打ちをかけた弱い鉱工業生産(6/1)
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5月配信分
・収まらない米中貿易戦争(5/30)
・FRBが直面するジレンマ(5/28)
・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)
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4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)
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3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)
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2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)
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1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)
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12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)
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11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)
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10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)
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9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)
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8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
・経常黒字20兆円強のデフレ圧力(8/9)
・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
・内閣改造効果に過大な期待は禁物(8/4)
・ユーロ悲観論が後退、なお先高観(8/2)
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マンさんの経済あらかると』(2018年7月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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