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米9月利上げに確信持てず、アンワインドの円高・株安に要注意=ジャクソンホール会合

FRBが9月に利上げを始めるとすれば、何らかのメッセージを市場に伝えるのではとみられたジャクソンホールでのシンポジウム(カンザスシティ連銀主催)でしたが、注目のスタンレイ・フィッシャー副議長の講演内容は、市場に9月利上げを織り込ませるような内容ではありませんでした。(『マンさんの経済あらかると』)

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景気面、インフレ面ともにやや残念な結果。中国不安に言及も

9月FOMCでの利上げに自信なし

フィッシャー副議長の話自体は、年内の利上げに対する意欲を示したものでした。つまり、インフレ率が上昇すると信じるに足る理由があること、利上げが実物経済に影響を及ぼすまでには時間がかかるので、インフレ目標が達成される前に引き締めを始めなければならない、などの発言に現れています。

ただし、これは半月後に迫った9月のFOMCで利上げを決断するほどの確信ではありません

例えば、「インフレ率が上昇すると信じるに足る理由」との表現には、FRBが条件としてあげた「十分な」がありません。

実際、副議長が挙げた理由の中には、ドル高や原油安の影響が解消、とありますが、またドル高になり、原油価格は一段と下落しました。

WTI原油先物 日足(SBI証券提供)

しかも講演の前日に発表された7月の個人消費、デフレーターの動きは、この自信を揺るがすものでした。FRBがインフレ指標として重視する消費デフレーターは、食料、エネルギーを除いた「コア」で前月比は4ヶ月連続で0.1%の低い上昇に留まり、前年比も6月の1.3%から7月は1.2%に低下しています。

同時に、7月の個人消費は実質で前月比0.2%の増加となったのですが、この指標を織り込んだアトランタ連銀のGDPナウは、7-9月の消費の伸びを3.1%から2.6%に引き下げ、このため、7-9月のGDP予想を、1.4%から1.2%に引き下げました。

景気面、インフレ面ともに、「十分な自信」を与えるものではなく、むしろやや残念な結果となりました。

そして中国不安については、一部にFRBの利上げ予想が中国株を下落させたとの説に対し、株価下落の前からそれは織り込んでいたはずで、利上げ予想だけではないはず、としながらも、責任の一端は感じている言いかたでした。

Next: 中国を「注視する」と明言したFRB、利上げ期待の巻き戻しに要注意


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中国を「注視する」と明言したFRB、利上げ期待の巻き戻しに要注意

そして、これまで以上に中国経済の動きを注意深く見ていくとしました。その中国がすぐに安定するめどは立っていません。

このフィッシャー副議長の講演や、FRB幹部の一連のコメントは、「9月の利上げも排除しないが、いま一つ自信がない」というもので、米国の短期金融市場(翌日物金利スワップ)では、9月の利上げ可能性を35%、12月の可能性を77%と、市場混乱時にそれぞれ25%、50%まで低下したところからはやや高まりましたが、9月はまだ十分に織り込んでいません。

つまり、数週間前に比べると、米国や世界経済には新たな不安があらわれたわけで、それだけ為替にはドル安、株式市場には株安、債券市場には金利低下要因となります。

まず為替ですが、ドル円が121円台まで円安に戻ってきましたが、ここから先はどちらに転んでも円安にはなりにくく、むしろ円高になる可能性が高まります。9月の利上げは無いと思っているところへ、FRBがまさかの利上げに出れば、新興市場、とりわけ中国にショックを与え、世界市場にリスク・オフが広がり、円高が進むと見られます。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

逆に9月に利上げを見送れば12月もわかりません。中国経済が落ち着かなければ、中国株や人民元の動きを含めて、いつどんな波風が立つかわからないからです。

これまで中国の動きは意図的に無視してきたFRBが、今回は「注視する」と明言してしまったので、市場もこれを意識するためです。

中国不安の再燃は、利上げ期待の巻き戻しを起こす可能性があります。

どちらに転んでも為替は円高に向かいやすくなります。シカゴIMMの通貨先物では、円のネット売り越しが依然として9万枚以上あります。9月、10月は、中国経済の動きや米国の利上げ判断で、市場の期待が大きく動く余地があります。

これで大きな円ショートが短期間で巻き戻されると、それだけでもドル円は110円ないしはそれ以下に下げる可能性もあります。

為替が円高になれば、その面から日本株には下げ圧力がかかります。日本政府は株価の動きに一喜一憂しないと言いますが、株安、円高が進めば、日銀が追加緩和に動く可能性が高まります。

それでも、まさかの追加緩和は株高、円安に効きますが、追い込まれた緩和では効果が限られます。ここからの円売り、株買いはくれぐれも慎重に。

マンさんの経済あらかると』(2015年8月31日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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