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トレーダーは、そのポジションで自らの人生を切りひらく=矢口新

あなたがトレードをするのはどうしてでしょう?相場から何を得たいと思っていますか?『生き残りのディーリング』著者の矢口新氏はこんなふうに考えています、「誰かに期待してもダメだ。自分の人生に責任を持てるのは自分だけだ」と。

自分ができることにチャレンジする

この世は理不尽ばかりなり

相場は世界を見る鏡です。全世界で起きているあらゆることが、人々の事情や意欲によって、市場価格に反映されているからです。

そんな相場という鏡を通して、世界の政治経済をみていると、数え切れないほどの理不尽なことが、いま現在の世の中で起きていることを痛感します。

他国の政治や経済運営に憤りを感じてもどうすることもできませんが、日本の政治や経済運営についても、納得できないことは多いのです。

一例を挙げると、インフレ政策と、消費税率の引き上げを同時に行ったことです。

良いインフレとは、所得増がモノやサービスの価格を押し上げるインフレです。一方、悪いインフレとは、所得増を伴わないインフレです。収入が増えないのにモノやサービスの価格が上がれば、生活の質が低下します。

それでも、インフレ政策が景気拡大につながり、所得増に結び付けば結果オーライだと言えるのですが、そこに消費増税を行ったために、すべてが台無しとなりました。

日本経済の最大のエンジンは個人消費です。個人消費が増えると、企業の売り上げや利益が増え、税収も増えます。税収が増えれば、財政問題は改善します。

ところが、景気拡大が税収増をもたらすことを待てずに、税率を引き上げてしまうと、個人消費は減退します。つまり、100%がフルパワーだとすれば、消費税率5%だと95%のパワーが上限となり、8%だと92%が上限となるのです。

簡単に説明するなら、消費者は同じ金額100兆円をつかっているのですが、これまで95兆円だった売上が、92兆円に減ってしまったのです。

同じことが平成9年度の消費税3%から5%への引き上げでも起こりました。この引き上げにより、これまで97兆円だった売り上げが95兆円となり、この時の税収を26年度まで超えることができませんでした。

ちなみに平成9年度の税収は53.9兆円で、円安、異次元緩和で達成した26年度の税収は54.0兆円です。21年度などは38.7兆円にまで落ち込んでいました。この間、政府支出の方は平成9年度の78.5兆円から21年度の101兆円の間で推移しましたので、財政問題は悪化の一途を辿りました。

ここで、26年度の税収のうち約5兆円が消費増税によるものですので、増税しなければ49兆円に留まったのでしょうか?増税したからこそ、平成9年度の税収を0.1兆円でも超えられたのでしょうか?

私はそうは見ていません。金融緩和による景気拡大期だった平成2年度の税収は60.1兆円です。この時の消費税率は3%でした。つまり、97%のパワーが出せれば税収は増えるのです。当時と今と、消費税率の差は5%あります。消費税率を5%引き下げれば、その分が実質的な消費増、売上増につながります。経済には波及効果がありますので、収益増、税収増が達成されるのです。

50%を超える円安、異次元緩和、消費増税分5兆円というトリプルメリットの追い風で達成した税収が、前回の消費増税時の税収を0.1兆円上回っただけ。ピーク時の90%でしかありません。私は、仮に消費税率が3%であったならば、60兆円を超えることも可能だったと見ています。

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他人任せでなく、自分の裁量が振るえる場所――それが相場だ

それにしても、インフレ政策と、消費税率の引き上げを同時に行ったことで、100兆円の消費でも、インフレで99兆円分のモノやサービスしか買えず、さらに8%の消費税で、91兆円分のモノやサービスしか手に入らなくなりました。消費者は大損です。

ここで、消費税率10%、インフレ率2%にでもなれば、100兆円の消費でも売上は90兆円、実質的に手に入るのは88兆円分となります。破滅的ですね。

財務省庁舎(出典:Wikimedia Commons

では、誰が得をしたのでしょう?インフレはカネの価値を下げますので、借金している人が得します。借りた時より、返す時の価値が低いからです。

日本で一番多くの借金をしているのは誰か、ご存じですよね。増税分を手にするところです。

また、インフレ政策では金利が上がり、利払いが苦しくなる恐れがありますが、量的緩和で国債を買っているので、金利水準は低いままです。つまり、政府・財務省にとっては、一見、完璧な政策だったのです。

本当は、税率を下げて、景気拡大、消費増による税収増の方が大きいと思うのですが、待てなかったのですね。こんな例は、世界の歴史、日本の藩政などでも枚挙に暇がないほど見つかります。世の中は理不尽なのです。

相場という鏡を通して、世界の政治経済をみていると、数え切れないほどの理不尽なことが、いま現在の世の中で起きていることを痛感します。

そんな時、あなたならどうしますか?日本を出ても同じですよ。どの国の政府も似たようなものです。歴史を学べば、理不尽でないところ、理不尽でない時代を見つけることの方がはるかに難しい。私は歴史上仮にどこかにあったとしても、短期間だけだったと見ています。

では、反政府運動をしますか?歴史を学べば、これも同じですよ。少なくとも、私が知る限り、ユートピアなどありません。

こう言うと、夢のない奴。前向きでない奴だと思う人もいるでしょう。

では、与党や野党、自国、他国の政治家に期待することが、夢なのですか?前向きなことですか?私も選挙投票こそ続けていますが、誰かに期待してもダメです。自分の人生に責任を持てるのは自分だけです。

インフレが苦しい、税金が重い、生活費が足りない。

誰かに期待してもダメです。自分で何とかするのです。

相場があって良かった。相場は世の中で数少ない、自分で何とかできる場所です。普通の人でも、他人任せではない、自分の裁量が振るえるところです。

簡単ではありませんが、自分でやれることを、きっちりやり通すこと、私はそれが前向きな生き方だと理解しています。チャレンジするのです。

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相場を知る・より安定した将来設計のために』(2015年8月24日号)より一部抜粋

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