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シンゾウ・ドナルドの仲とは何だったのか。対米貿易摩擦が日本経済にとどめを刺す=斎藤満

永田町は「日米間での通商摩擦は回避できる」との期待がありますが、これは日本の勝手な思い込みです。トランプ政権は日米通商協議に厳しく当たってきています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年8月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「日米蜜月」はただの幻想。民間企業が自主的に輸出削減に動く…

進まない日米通商協議

茂木大臣と米国のライトハイザーUSTR代表との閣僚会議も、結局は双方の主張をぶつけ合うだけに終わり、合意の道筋は依然として見えません

最初のペンス・麻生の「NO.2会談」でも物別れに終わっていて、最後はトランプ・安倍による首脳会談を待たないと、何も決まらない雰囲気になっています。

その点、トランプ大統領の就任直後からトランプ詣でを積極的に進め、「シンゾウ・ドナルド」の関係を築いたからには、少なくとも日米間での通商摩擦は回避できる、との期待が永田町にはあるようです。

ところが、「日米蜜月」は日本の勝手な思い込みのようで、トランプ政権では、日米通商協議には厳しく当たる雰囲気になっています

トランプ大統領はG7会議の場では「シンゾウに任せる」とまとめ役を安倍総理に託す一方で、「通商交渉は別」と言います。

ライトハイザーUSTR代表は、日本の農業に大きなターゲットを設定し、攻め入る姿勢です。総理の「農業を守る」姿勢は表面的で、内心は農業改革を進めるうえで、米国の圧力を利用しようとしている節も見られます。

日本の産業界が自主対応か

政府のこうした姿勢をうすうす感じてか、産業界が自らすでに対応を進めているように見えます。

その一例が、財務省の「貿易統計」に見られます。7月の貿易統計をみると、日本の自動車産業が米国向けの輸出を抑え、米国からの批判をかわそうとの努力の跡が見られます。

7月の日本の輸出は、金額ベースで前年比3.9%の増にとどまり、一方で輸入金額は14.6%増えたため、貿易収支は2312億円の赤字となりました。この時期の赤字は珍しく、季節調整後でも456億円の赤字となっています。

これを地域別にみると、米国向けの輸出抑制が効いています。金額ベースでみると、対米輸出は6月に前年比0.9%のマイナスとなったのですが、7月にはマイナス幅が5.2%に拡大しています。その主因が自動車輸出の減少で、米国向けは12.1%の減少となっています。この他、半導体製造装置の輸出も大きく減少していますが、対米輸出減の最大の寄与は自動車の減少です。

米国の圧力は避けられない

一方、米国からの輸入は促進し、7月も前年比11.0%の増加となっています。特に、米国からの原粗油が前年比8.6倍に急増しています。

如何せんまだ規模が小さく、対米黒字の縮小に大きく寄与するには至っていません。自動車輸出の「自主規制」と半導体の減少、米国産原油の輸入大幅増のなかでも、7月の対米黒字は5027億円と、前年から22%縮小したに留まっています。

このペースではまだ年間6兆円前後の対米黒字が残り、2国間の協議で、日本の農業開放と自動車の問題は避けられそうにありません。

米国産原油の輸入増は今後も見込まれ、さらに兵器の輸入で目に見えた黒字縮小が示されないと、日本の輸出には引き続き圧力がかかります

Next: アメリカの顔色を伺っている間に、国内景気が圧迫されていく…



日本の景気圧迫にも

この日米貿易摩擦は、日本の景気にも負担となります。今度は数量ベースの数字をチェックしてみましょう。

7月の輸出数量は前年比0.8%増に減速し、輸入数量は4.1%増に回復しています。前年比で見た「外需」は成長にマイナス寄与となります。

次に限界的な景気への影響を見るうえで、これを日銀の実質輸出入で見てみます。

7月の実質輸出は前月比0.3%と、わずかながら増加となりましたが、実質輸入が前月比4.1%の大幅増となったので、前月比でも外需は成長にネガティブとなりました。

さらに、7月の水準を4-6月の水準と対比してみると、実質輸出は4-6月に比べて1.5%低く、実質輸入は1.3%上回っています。このままでは7-9月の外需は成長に明らかなマイナス寄与となります。

日本も米中貿易戦争の余波を避けられない

自動車業界は米国との摩擦を事前に察知し、対米輸出を春に前倒しで行っていたので、今回の調整は織り込み済みの面もあります。

しかし、自動車の自主規制努力に米国産原油の輸入を加味してもなお、月に5000億円、年間6兆円レベルの対米黒字が残り、さらなる対応を求められます

しかも、米国は中国とも貿易戦争を進めていて、いずれ中国経済も減速を余儀なくされ、それがまた日本やアジア諸国の輸出を冷やすことになります。

当初より懸念された米国の保護貿易主義、通商摩擦が、いよいよ具体的な形で経済に影響し始めようとしています。少なくともここまでは「日米蜜月」は摩擦回避には役立っていません。

Next: 日米通商交渉はかなり難航する? トランプは何に焦っているのか



米国の焦り

通商相手の米国は、11月に中間選挙を控えています。トランプ陣営にとって、その前哨戦となる補選や予備選で苦戦し、焦りも見られます。

しかも、中間選挙を意識して成果を上げようとした北朝鮮問題も行き詰まっています。その原因の1つが拉致問題です。

北朝鮮は一刻も早く終戦協定に持って行き、経済支援を得て経済戦略を展開する予定です。一方、米国は、北への経済支援と非核化を同時進行させ、終戦協定に持ち込む構えで、経済支援は日本と韓国が金を出すと言い切りました。

そのためにも拉致問題を何とかしろと口添えしたようです。

しかし、北は「拉致問題は解決済み」の立場で、特に横田めぐみさんを含めた被害者の返還は困難と見られています。日本は拉致問題の解決なしには金を出せません

これがネックになって米朝交渉が進まない、との思いがあり、北は安倍総理の下では拉致問題を解決し、日朝首脳会談に持ち込むことは不可能とみています。

米国の焦りが、今後の日米通商交渉にどう跳ねるのか、日米交渉はかなり「タフ」なものになりそうです。

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・貿易を救えない日米蜜月(8/17)
・FRBの利上げが新興国通貨不安に(8/15)
・好調米国株の死角(8/13)
・日本経済、単発エンジンの限界(8/10)
・日本の消費を圧迫する恒常所得仮説の重し(8/8)
・円安期待ははげ落ちるリスク大(8/6)
・中央銀行を揺さぶる新しい勢力(8/3)
・物価目標未達でも日銀は政策修正(8/1)
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年8月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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7月配信分
・物価下振れ下の日銀政策微修正とは(7/30)
・中国経済の実態は苦しい?(7/27)
・「トランプ」プラス「日銀」は円高(7/25)
・トランプの金利高、ドル高けん制発言が示唆するもの(7/23)
・トランプ外交の見えない部分(7/20)
・中国カードにもなるFRBの利上げ(7/18)
・見えてきた価格戦略の勝敗(7/13)
・列島豪雨、多くの死を無駄にしないために(7/11)
・トランプ「米国第一」の功罪(7/9)
・日銀の物価見直しとリスク(7/6)
・トランプの影響、相場にもくっきり(7/4)
・原油高に見る各国の思惑(7/2)

6月配信分
・所得分配をゆがめる日銀の金利調節(6/29)
・ドル高、終わりの始まり?(6/27)
・貿易戦争に隠されたトランプの狙い(6/25)
・景気の陰りが広がった(6/22)
・なぜ日本で消費者物価が上がらないのか(6/20)
・無視できない米イールドカーブのフラット化(6/18)
・綱渡りのパウエルFRB(6/15)
・歴史的米朝会談と日本の困惑(6/13)
・日銀は物価見通しの引き下げ準備(6/11)
・日銀は密かに金利高め誘導か(6/8)
・個人消費の弱さは重症(6/6)
・FOMC前後の為替の動きに要注意(6/4)
・日銀に追い打ちをかけた弱い鉱工業生産(6/1)
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5月配信分
・収まらない米中貿易戦争(5/30)
・FRBが直面するジレンマ(5/28)
・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)
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4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)
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3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)
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2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)
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1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)
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12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)
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11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)
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10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)
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9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)
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8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
・経常黒字20兆円強のデフレ圧力(8/9)
・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
・内閣改造効果に過大な期待は禁物(8/4)
・ユーロ悲観論が後退、なお先高観(8/2)
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マンさんの経済あらかると』(2018年8月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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