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ZOZOTOWNとユニクロの全面戦争勃発!アパレル業界の覇権を握るのはどっちだ?=栫井駿介

アパレル業界で成長を続けるZOZOTOWNとユニクロ。両者はこれからどのようにして熾烈な競争を勝ち抜いていくのでしょうか。投資家目線で分析します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

個性的な社長が手綱を引く両社が、SPA(製造小売業)で激突する

避けられないシェア争い

女優との交際や世界初の月旅行など、私生活が何かと話題のスタートトゥデイ(ZOZO)<3092>の前澤友作氏ですが、事業面でも手綱を緩める気配はありません。着用してスマホで撮影するだけで体型が測れる「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」の無料配布により、本格的にSPA(製造小売業)への参入を試みています。

アパレルのSPAと言えば、ファーストリテイリング(ユニクロ)<9983>が先行しています。そのユニクロはと言えば、逆にEコマースを強化し「情報製造小売業」になることを宣言しています。

オンラインSPAを舞台とした両社の衝突は避けられそうにありません。それぞれは、これからどのようにして熾烈な競争を勝ち抜いていくのでしょうか。

アパレルのEコマースで圧倒的な地位を築くZOZO

まず、ZOZOについて見ていきましょう。

設立が1998年で、ZOZOTOWNが開設されたのが2004年です。Eコマースが難しいと言われていたアパレル分野でしたが、有名ブランドを囲い込むことで急成長を遂げました。売上高は直近の10年で約10倍となっています。

これまでのビジネスモデルは、外部の販売者がアパレルを販売する「場」の提供です。各ブランドがZOZOTOWNのページに商品を掲載し、売れたら販売者から手数料を得ます。在庫リスクを負わない上、手数料率は約35%と推定され、旨味の大きいビジネスです。

オンラインで「場」を提供するビジネスモデルでは、プラットフォームとなる1社が市場を独占する場合があります。Amazonももちろんライバルですが、アパレル分野の開拓はまだ進んでいないようです。

競合には「SHOPLIST」や「MAGASEEK」などがありますが、ZOZOは商品取扱高でそれらに10倍以上の差をつけて圧倒しています。これだけ差が開いてしまっては。2位以下が追いつくにことは容易ではありません。
※参考:【2018年版】アパレルECの市場規模と3つの課題をプロが徹底解説 – ebisumart Media(2018年7月25日配信)

アパレルのEコマースにおける最大の課題は、服のサイズ感の問題です。リアル店舗とは異なり試着ができないため、届いてみてから「やっぱり違う」ということになってしまうことも少なくありません。返品もできますが、それなりの手間がかかります。

その課題を克服すべく開発されたのが「ZOZOSUIT」です。着用してスマートフォンで撮影すればサイズが測れるため、最初から自分に合ったサイズの商品を注文できます。サイズ感は服をおしゃれに着こなすために欠かせないことからも、注目すべき商品と言えます。
ただし、これで注文できるのはZOZOオリジナルブランド(PB)に限られ、ラインナップも現在のところシャツやジーンズなどのベーシック商品のみです。

会社の計画では、今後商品ラインナップを拡大させ、将来的にはPB比率80%を目指すとのことです。一度データを捕捉してしまえば繰り返し注文が期待できるので、期待値が非常に高い試みと言えます。

Next: 「ZOZOSUIT」には弱点がある? 迎え撃つユニクロの秘策とは



「ZOZOSUIT」の弱点とは?

一方で、懸念も少なくありません。

ZOZOTOWNはこれまで、有名ブランドを囲い込むことで成功してきました。しかし、10年後にはPB比率を80%にするとのことですから、逆に言えば自社以外のブランドは残りの20%に押し込められてしまうことになります。

ZOZOはあくまでPBをベーシックな商品に限るとしいていますが、PB比率を80%に引き上げるとすればベーシック商品だけでは収まらないでしょう。そうなると、出店するブランドと直接バッティングしてしまうのです。

優先順位を下げられたブランドは、反旗を翻して他のオンラインモールに出店することもあるでしょう。他のモールにとってはつけ入るチャンスとなるかもしれません。

もう一つの問題は、PBの品質をどこまで上げられるかということです。

いくらサイズ感がぴったりでも、商品の質が悪ければ顧客は離れてしまいます。ここは、長年SPAとして改善を重ねてきたユニクロとは雲泥の差があります。

ベーシックという商品性を考えても、ユニクロと完全に競合することになります。商品性で追いつくまでにはまだまだ何年もかかることが懸念されるのです。ここがオンラインで「場」だけを提供するビジネスと、実際に商品を作るビジネスとの最大の違いと言えるでしょう。

覇者ユニクロは「情報製造小売業」へ

ZOZOの野望を迎え撃つ形になるのがユニクロです。長期間にわたって、アパレル業界の覇者として拡大を続けています。

国内だけに飽き足らず、海外へも積極的に進出し、成功を収めています。2018年8月期の第3四半期では、海外ユニクロ事業の売上収益が国内ユニクロ事業を上回りました

国内では消費者をがっちり掴んで安定し、海外でもグレーターチャイナ(中国・台湾・香港)を中心に右肩上がりです。ジーユーなどのサブブランドの浸透も進んでおり、現在のところ死角はないように見えます

唯一の弱点を探すとしたら、Eコマースでしょう。ショッピングサイトはお世辞にも使いやすいとは言えず、店舗の補完的な要素を強く感じます。売上高も2017年8月期に487億円と、商品取扱高2,705億円を誇るZOZOに大きく後れを取ります。

この部分を強化すべく、柳井社長は「情報製造小売業」を掲げ、Eコマースの強化を宣言しました。アパレル界の巨人が、いよいよ未開拓の分野に本腰を入れるというわけです。

Next: 本気を出せばユニクロが有利だが…。投資するならどっちがいい?



ユニクロの勝機と障壁

本気を出してしまえば、ユニクロに有利と思われる部分が多くあります。

まず、ユニクロの知名度です。ベーシックな商品に関しては、いいものをそれなりに安く買える場所として多くの人に認知されています。どんな商品が届くかだいたい見当がつくため、ネットで注文することにも抵抗がないでしょう。

いざとなったら全国に店舗網があることも大きな強みになります。ネットで迷ったら、すぐにお店に行って手に取り確認できます。サイズに関しても、試着できるので特に問題は起きないでしょう。店舗への配送網を使えば、配達のコストも削減できます。

ZOZOとの最大の違いは、ユニクロの製造能力です。いい製品を安く作るためには、今や世界中の最適な場所で製造するサプライチェーンの構築が欠かせません。ユニクロは、すでに世界トップレベルのサプライチェーンを築いています。ZOZOのPBと比べると、大人と生まれたての赤ちゃんほどの違いがあるでしょう。

一方で、これまでの成功体験がイノベーションの妨げとなることもあります。硬派に商品の品質を磨き続けてきたユニクロでは、ZOZOSUITのような商品の発想は生まれにくいかもしれません。日々進化を遂げるインターネットの世界では、最初からオンライン販売に特化していたZOZOに一日の長があります。

柳井社長は、ZOZOSUITを「おもちゃ」と言ってこき下ろしています。一方、ZOZOの前澤社長は、「競争は嫌い」と言って、ユニクロとの比較を避けたがります。お互いがお互いを遠ざける姿勢は、もしかすると強く意識していることの裏返しなのかもしれません。

割高な指標は成長性への期待のあらわれ

それでは、株式への投資についてはどうでしょうか。投資指標を比較してみましょう。

出典:Yahoo!ファイナンス(株価指標は2018年9月22日時点)

PERやPBRの数字を見ると、いずれも東証平均の15.2倍、1.3倍(2018年8月時点)と比べてかなり割高な水準になっていることがわかります。裏を返せば、両社ともにそれだけ高い成長が期待されているということです。

実際に、それを期待させるだけの成長を遂げてきたことから、単に割高だと切り捨てることもできないでしょう。成長が続くのであれば、多少数値が高くてもやがて利益が追いついてきます。

共通して言えるのは、どちらもキャラクターの強い社長が会社を引っ張っているということです。良くも悪くも、社長の判断が会社の方向性を決めると言って差し支えないでしょう。これからも彼らの言動から目が離せません。


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※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

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image by:Sharaf Maksumov | TY Lim / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年9月25日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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