よく「家族が危篤なら、生きている間にお金を引き出せ」とか「死亡したら口座凍結前にお金を引き出せ」と言われます。この通りに行動して大丈夫なのでしょうか?(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)
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よく言われる「家族の死」と「お金」のこと
よく、「家族が危篤であると告げられたら、生きている間にお金を引き出しておいた方がよい」とか、もしくは「死亡後、口座が凍結されるまでの間にお金を引き出しておいた方がよい」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、このような選択を取ると、相続時にどのような影響があるのかを解説いたします。
本人が生きているうちに、本人のためにお金を使うなら問題ない
まずは、死亡直前に引き出したお金について説明していきましょう。
よく見受けられるのは、当事者の入院・介護費用に使ったケース。
この場合は、入院・介護の必要がある当事者が自分に必要なお金として使っているだけなので、相続財産に計上されることはありません。当事者のご家族が口座を管理していた場合も同様です。
入院・介護費用に限らずとも、当事者のための生活費や娯楽費に使用した場合でも同様に、相続時に何の影響はありません。
それでは、最期が近いと悟ったことによって、まとまったお金をご家族が引き出したとしても何の問題もないのでしょうか。
これについては、その引き出したお金を何に使ったのかによって、相続時に受ける影響が変わってきます。
例えば、引き出したお金を死亡した方の葬儀費用や入院費用に充てるのであれば、問題ありません。
もっとも、死亡した方にかかった葬儀費用や入院費用は、元から相続税が課税されず、借金などと同様、債務控除によって差し引くことができます。
ただし、相続開始直前・直後に引き出したお金については、税務署が敏感に反応します。
Next: 税務署に疑われるケースとは? 死亡直前・直後に注意すべきこと
死亡直前にお金を下ろした時の注意点
相続開始直前・直後に引き出したお金については、税務署が敏感に反応します。
本当に死亡した方のために使ったのか、本当は自分の懐に入れているのではないかなど、さまざまな疑いをかけられます。ですので、そのことを証明するためにも、領収書はしっかりと保管しておくようにしましょう。
そして、引き出したお金が使い切れずに余った場合には、相続財産として計上することを忘れないようにしましょう。
死ぬ前に急いで贈与するなら、相続権がない「嫁」や「孫」を対象に
また、自分の死期を悟った当事者が急いで家族に贈与し、相続税を減らそうと考える方も多いのですが、相続開始3年以内に行われた贈与は相続財産に計上され、相続税が課税されます。
ただし、この3年縛りが適用されるのは、相続や遺贈によって財産を取得した方のみですので、相続権がない嫁や婿・孫などに相続開始3年以内に贈与したところで相続財産に計上されることはありません。
しかし、相続権が発生しない方へ贈与したとしても、その方を受取人とする生命保険に加入している場合には、3年縛りが適用されます。
なぜなら、受取人へと支払われる保険金は相続財産とみなされる「みなし相続財産」だからです。
従って、相続によって一銭の財産も手に入れることがない方に贈与をするのであれば、立派な相続税対策につながるかもしれません。
死亡直後でも取り扱いに差はない?
次に、死亡直後に引き出したお金について解説いたします。
基本的には、死亡直前・直後であっても、死亡した方の口座から引き出したお金の取り扱いに差はありません。
つまり、債務控除によって差し引くことができる、借金や葬儀費用、入院費用、死亡後に支払う税金、存命中にかかった公共料金などの支払いに充てたことを証明できれば、何も恐れることはありません。
しかし、死亡直後に引き出すお金については、いくつか気を付けなければならないことがあります。
Next: 速やかに口座凍結するのがベスト? 死亡直後にお金を引き出すときの注意点
速やかに口座凍結するのがベスト
死亡直後に引き出すお金については、いくつか気を付けなければならないことがあります。
それは、相続によって引き落とさなくても良かった生活費などが引き落とされる可能性があるということです。
このようなケースでは、請求先から返金してもらうのが一般的ですが、何かと忙しい相続手続きの最中に、このような手間を増やすのは面倒です。
それに加えて、共同相続人の不正使用からくる相続トラブルに発展することも珍しくありません。
こういったリスクがありますので、相続が開始されたら速やかに金融機関へ凍結してもらうように申し出た方が身のためです。
ちなみに口座の凍結は、そもそも法律で定められている規定ではなく、トラブルを防止するために金融機関が独自の判断で行うものです。
口座凍結後にお金が必要になったらどうするの?
それでは、口座を凍結してしまえば、相続開始後に必要となる出費は自分たちで工面しなければならないのでしょうか。
従来の考えでは、預貯金は遺産分割協議の対象外となり、半ば自動的に法定相続分に応じた金額を相続できるとされていましたが、2016年の最高裁判決では、相続された預貯金債権は、特別受益に該当する可能性を考慮し、遺産分割の対象となるとされたのです。
つまり、遺産分割協議が終了するまでは、原則凍結した口座を解除することはできないとされていたのですが、相続法改正によりこの取り扱いが変化します。
今期の通常国会で承認された相続法改正では、遺産分割協議が終了していなくても、家庭裁判所の許可を得れば、自由に預貯金を引き出せることができるようになったのです。
さらに、家庭裁判所の許可を得ずとも、預貯金残高の1/3を法定相続分で掛けた金額までは、それぞれの相続人が自由に引き出せるようになりました。
ただし、国会で相続法改正が承認されたとはいえ、施行されるまでに1年はかかりますので、贈与や生命保険の加入など、納税資金対策を講じておくことをおすすめします。
ポイントは「故人のため」に使ったお金かどうか
さて、死亡直前・直後に引き出したお金が相続時に受ける影響について解説しましたが、どちらであっても基本的に死亡した方のために使ったものと証明できれば問題ありません。
ただし、使い切れなかった残高については、相続財産として計上しなければ後の税務調査で追徴課税の対象になってしまう可能性がありますので、その点については気を付けましょう。
『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2018年10月19日・22日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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